第十七話
《おらー!! いよいよ一回戦最後の戦いだ!! この試合が終わったら十分の休憩に入る! お客様がたぁ!! 最後まで盛り上がっていこうぜぇ!!》
いよいよ一回戦最後。
メアリス達はまだ戻ってきていない。
ジェイクは、どうしているのかと気になりつつフィールドに登場したユーカに視線を向ける。ここからでも、わかる。
やっぱり緊張しているようだ。
《最後に戦うのは、エントリーギリギリだったぴちぴちの十五歳の少女! しかも、あのユーリ=エルクラークの妹!! ユーカ=エルクラーク!!》
「ユーリ=エルクラークの妹だって?」
「マジかよ。いやでも、確かに似ているな……」
ユーカの姉、ユーリはこの魔法闘技場に伝説を残した人物。
その妹となれば、騒がれるのは当たり前だ。
「だが、妹なのに魔機使いなんだな」
「まあ、今の若い奴らは詠唱するのもめんどくださいとか言っているぐらいだからな」
後ろに座っている男二人の言うことは本当だ。
どうやら、魔機使いという職業ができてから、呪文詠唱がめんどくさいという理由で魔機使いや前衛職になる冒険者が多いと聞く。
《そしてぇ! そのユーカ選手と戦うのは、今大会最高年齢! 五十歳にして魔機使いに転職した渋い男ぉ!! タツオ=ガイドンド!!》
《若い奴に負けんぞぉ!!!》
「タツオさーん! 頑張れよぉ!!」
「応援してるぜぇ!!」
どうやら、人気のある人物のようだ。
ユーカの相手は、これまた屈強な肉体を持った戦士。
黒のズボンに白のシャツという簡易な服装だ。
しかし、五十歳で転職するとは……いや、今の時代ならば五十歳で転職してもレベルを上げるのは容易なのだろう。
そして、大会に出るということはもうそれなりのレベルになっているということ。
「すまない。あのタツオっていう男はどんな人物なんだ?」
気になったので、隣に座っている少し年上だろう赤い長髪女性に問いかけた。
「あら? あなたは、もしかしてこの街は初めてかしら」
「そうだ」
「なら、仕方ないわね。いいわ、簡単にだけど教えてあげる。タツオさんはね、元々は剣士だったの。でも、時代に残されるのはいやだ、若い者には負けんって魔機使いに転職したのよ。それまでは、新人に剣術を教える先生とかをやっていたの」
「なるほど……」
剣士からの転職。
そして、相当な負けず嫌い。
年齢的にも、経験的にもユーカより上。
(頑張れ、ユーカ)
《そんじゃ、お客さんも盛り上がっているところで、試合をさっそく開始しちゃうぜぇ!!》
試合が始まった。
互いにマジフォンを構え、睨み合う。しかし、すぐに動いたのはタツオだった。先制とばかりに《フレア》を放つ。
《嬢ちゃん! お前さんが、あのユーリ=エルクラークの妹だってんなら、容赦はしねぇぜ!!》
《私も、負けるつもりはありません!》
フレアを横に回避し、ユーカは果敢に突撃していく。
相手が、経験豊富な相手とはいえ、今のユーカであるのなら動きで相手をかく乱し、確実に魔法を当てることが出来るはず。
☆・・・・・
(相手は、見た感じでも相当な経験者。五十歳で、転職したって言っても、私の三倍は生きている人……油断なんて絶対できない!)
火の初級魔法を回避し、ユーカはタツオの真横へ移動。
魔力を込めマジフォンを構える。
「《アース》!!」
「アースか。ならば!」
ユーカが放ったアースを瞬時に中級魔法である《ストーム》で弾いた。通常ならば、初級魔法は中級魔法には勝てない。
だがそれでも、ユーカのアースは全て止まらなかった。
「なに!?」
「私の魔法は一味違いますよ! 《フレア》!!」
まだ勢いが止まっていない石つぶての背後に火球を忍ばせた。
今度は、真っ直ぐタツオへと突撃していく。
「真っ直ぐ挑んでくるか! その威勢の良さ、俺は嫌いじゃないぞ!」
「それはどうも!」
しかし、ただ真っ直ぐ飛んでくる魔法ほど簡単に回避できるものはない。タツオは、タツオは魔法を放つことなく、真横に飛んで回避してみせる。
ユーカは、ぐっと足でブレーキをかけ、タツオを追う。
ユーカに肉弾戦の経験はほとんどない。ジェイクに教えられたことがあるが、相手に接近された時のいなし方ぐらいの格闘術。
熟練の戦士に、そんな中途半端なものが通用するはずがない。
だから、ユーカは自分の得意なことで挑むことにした。
「《アクア》!!」
「ぬうっ」
タツオが魔法を放つ前に、アクアを地面に叩きつける。水の壁で視界を奪い、その隙に回りこんで……。
「―――浅はかだな」
「わっ!?」
が、そんな作戦は読まれていたようだ。
余裕の笑みで振り返り、マジフォンを構える。
「アース!!」
「まだまだ!」
髪の毛に少し掠ったが、回避できた。
「避けた!?」
あの距離から、あのタイミングで回避されるとは思っていなかったようだ。ユーカも伊達に戦ってきたわけではない。
まだまだ経験が浅いが、それでも今まで培ってきた経験がユーカを強くしている。
真っ直ぐ、真っ直ぐタツオを見詰めマジフォンから放つ。
「《フォトン》!!」
「ぐああっ!?」
光が、弾ける。
光属性の魔法使いマリエッタより授かった光属性の初級魔法フォトン。
今、ユーカが持っている初級魔法の中でも一番の威力を誇る。
「ぐっ……光属性魔法……しかも、初級なのにこの威力……さすがは、ユーリ=エルクラークの……いっもう……」
《タツオ選手ダウン! 勝者ユーカ=エルクラーク!! なんて威力だ! 初級魔法とは思えない!!》
響き渡る歓声。
湧き上がる嬉しさ。
「よっし!!」
緊張が完全になくなり、自信が溢れてきた。
《というわけで! 一回戦はこれで終わりだぁ! 最初に言ったように、十分の休憩を挟み二回戦に出場した選手達でまた熱い戦いを繰り広げるぜぇ!! また、十分後に会おう!! っと、その前に医療班のみなさーん! タツオ選手をお願いしまーす!!》
大きく観客に手を振り、気絶したタツオのことを医療班に任せてズィーは去って行く。
ユーカもふうっと一呼吸してからフィールドから出ていこうとする。
「ユーカちゃん! いい試合だったぜぇ!」
「次も頑張れよぉ!!」
「あ、ありがとうございます!! 次も、頑張ります!!」
が、突然声をかけられびっくり。
律儀に立ち止まり、頭を下げながら出場口から出て行く。
「―――はあ……び、びっくりしたぁ。声をかけられるなんて思わなかったよ……」
びっくりしたが悪い気分じゃない。
応援されるというのは、やっぱり嬉しいものだと実感できた。今、胸の高鳴りは緊張しているからではない。
きっと、試合に勝って、応援されて、嬉しいのだろう。
「にゃっほーい!! ユーちゃん初戦突破おめでとうー!!!」
「わっとと……リビエちゃん。それにフォルスくんも」
控え室に辿り着く前に、先に初戦を突破したリビエとフォルスが出迎えてくれた。勢いのある抱きつきだったが、バランスを少し崩すもリビエを抱きとめる。
何度か頬を擦りつけ、跳ねるように離れる。
「すごい威力の魔法だったね! もしかして、ユーちゃん結構レベル高い?」
「そんなに高くないよ。まだ26だから」
「えー!? タツオって人レベル35もあったのにすごいね、一撃で倒しちゃうなんて!」
「俺達も油断できないな。あたった時は、全力で倒しに行くぞ」
うん、と小さく頷き三人仲良く選手控え室に向かった。