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聖夜の雪合戦

クリスマスです。特別編です。

クリスマスも、小説を投稿……いったいどれだけの方々がこれを読んでくださるのか……クリスマスですからねぇ。


やっぱり、皆さん。外に出かけているんでしょうか……ふふ。いや、まだ昼だから結構読んでくださるはずだ! 

「雪合戦をするわよ!!」

「……どうしたんだ? メアリス。いきなり」


 それは、とある雪国の街の宿に泊まっている時だった。

 暖炉で暖まっていると、出かけていたはずのメアリスが部屋に入ってくるなり、メアリスらしくないことを言い出したのだ。


「雪合戦よ。知らない? 雪で固めた玉を投げ合って、相手を倒す遊びよ」

「いや、それは知っているが……どうしていきなり雪合戦をやろうと思ったんだ?」

「雪合戦かぁ、懐かしいなぁ」

「私も、十二歳の時以来かな?」


 懐かしいなぁっと、小さく笑いながらユーカとネロは分けられたりんごを齧る。

 完全にくつろぎモードだ。

 暖炉の近くで、ソファーに腰掛け、羽毛で出来たセーターを着込んでいる。ジェイクは、なくなりそうなりんごを追加すべく小型ナイフを使い皮を剥いている。


「懐かしいなら、やりましょうよ。昔を思い出して」


 バン! とテーブルにとある広告を乱暴に置いた。


「……チーム対抗戦雪合戦大会。優勝賞品は」

「この街で、一番うまいっていう紅茶の葉が賞品のひとつなのよ」

「メアリスって紅茶好きだもんね」


 この街には、世界でも有名な紅茶がある。

 雪国だからこそ、体を温めるための食べ物や飲み物の開発に人々は日夜励んでいる。その結果、この国でしか出来ない茶葉が生まれ、その茶葉から出来る紅茶は世界から認められるほどの品物となったのだ。


「確か、値段も十数万ぐらいしたやつだよね?」

「十数万もする茶葉って……なんだか想像できないな」

「でも、世界に数十万もする食材があるぐらいよ? 十数万なんて安いほうよ。しかも、そんな茶葉を雪合戦で勝てば、タダでもらえるっていうのよ? やるしかないじゃない」


 確かにそうだ。

 雪合戦で優勝すれば、十数万もする茶葉をもらえるなんて次あるかどうか……。


「だが、俺達みたいな冒険者が参加していいのか? 身体能力が違う過ぎるだろ」


 参加内容を見る限りでは、一般人も参加できるようだ。

 無論、冒険者も可となっているが……。


「心配いらないわ。ちゃんと一般人と冒険者で分かれることになっているそうよ。茶葉が賞品なのが冒険者のほうってこと」

「なるほど。ちなみにエントリー機嫌は今日までってあるんだが」

「もちろん、エントリーしてきたわ」


 そして、大会開始が今から二時間後。

 丁度昼が過ぎてからだ。

 これから昼食を取るとして、後は一時間しかない。


「メアリスも思い切ったことをするね、時々」

「雪合戦なんて、余裕よ。それに、おいしい紅茶のためなら例え地獄だろうと行ってやるわ」


 メアリスの紅茶愛はそこまでだったのか? かなり一緒に旅をしてきたが、新たなメアリスを見たとジェイクは頷く。


「よーし!! そういうことなら、私も本気出しちゃうぞー!!」

「僕も、頑張っちゃおうかな!!」

「じゃあ、俺もやるか。雪合戦……何十年ぶりだろうな……」


 良い思い出になるだろうと、ジェイクは楽しそうに笑う。

 年端もなく……いや、今は十代なために歳相応なのだろうか。


「いい返事ね。あなた達、本気で勝ちにいくわよ!!」




★・・・・・




 そして、冒険者同士の雪合戦大会が始まった。

 集まった冒険者達は、紅茶の茶葉よりも賞品目当てで参加したのがほとんどだろう。この中で、茶葉目的で雪玉を投げているのは少数。


 一般人の雪合戦は、普通と言える。

 が、冒険者同士の雪合戦はもはや雪合戦と言っていいのかわからないほどの激戦だった。


「《ブラスト》!!!」

「ナイス風の壁よ、ユーカ! そして、投げなさい! ジェイク、ネロ!!」

「了解!」

「任せろ!!」


 投げ込まれた雪玉をユーカが風属性魔法で防ぐ。

 そこから、俊敏なジェイクとネロが赤いマフラーを靡かせ雪玉を手に敵陣へと突撃。


「くっ! なんて強さだ!?」

「お前ら! 早く次の雪玉を!!」

「障壁急げ!!」


 スキルありの変則雪合戦。

 雪玉には当然のように魔法がかけられており、普通の雪の壁では防げないほどに強化されている。


「ネロ! 俺は右をやる!」

「任せて! 僕は、左を!」


 相手側から投げられる雪玉を、分かれることで回避し、左右同時の攻撃。

 障壁を張る魔法使い達は、何とか対処したものの。


「きゃあっ!?」

「ナッ!? 正面からもか……!?」

「残念ね! もう少し、障壁の範囲が広ければ防げたでしょうけど。さあ、ジェイク、ネロ! トドメよ!」


 ふふんっと、雪玉を手に笑うメアリス。

 闇を纏いし雪玉が、相手チームに直撃。


「さあ! 次に行くわよ!」


 ジェイク達のチームの勢いを止まらない。

 初戦を見事突破し、そのままの勢いで次々に雪玉により冒険者達を蹴散らしていく。


「炎の壁……でも、関係ないわ!」

「なにっ!? 突き抜けてきただと!?」


 炎の壁をもろともしない闇に覆われた雪玉を投げ。


「この雪玉の嵐! 受けきれるかな!」

「嵐というよりもこれは雨じゃ!?」


 大量の雪玉を身軽なネロが頭上から一気に投げ。


「うわああ!? お、落とし穴だと!?」

「……これってありなのか?」

「ありなのよ!」


 落とし穴を見事に使い、そのまま落ちた相手へと雪を投げるなど冒険者達の能力をフルに使った激しい戦いを見事に制し……決勝戦まで駆け上がってきた。

 決勝戦の相手も相当な実力者揃い。

 だが、ここまで来たんだ負けるわけにはいかない。


「ジェイク! 僕が相手の攻撃を誘導させるから、その隙に!」

「了解だ。決勝戦まで来たんだ。ここは一気に優勝をするぞ!」

「当然!」

「ユーカ! メアリス! 後方支援頼むぞ!」

「はい!!」

「任せない」


 雪玉の所蔵は十分だ。

 十分に固めた雪玉を、腰にぶら下げている籠に入れて突撃。それと同時に、相手チームも攻撃を仕掛けてくる。

 投げつけられた雪玉は、魔法が付与された強化型の雪玉。

 雪で出来た壁など簡単に突き抜けてしまうだろう。


「確かに、強力だけど。当たらなければ意味がないよ!」

「くっ! やっぱり、速い……!」


 足場が悪いこの雪の中でも、ネロの速度は落ちることがない。

 軽快なステップで、相手の雪玉を回避しつつ視線を釘付けにする。


「取った!」

「やらせはしない!」


 しかし、相手もさすがは決勝戦まできただけはある。

 完全に捉えたと思ったが、ギリギリのところで防がれてしまう。ちなみに、魔法は雪玉に付与するか防ぐためにしか使用できない。

 それも、初級魔法のみとなっている。魔法が使用可能とはいえ、これは命をかけた戦いではない。そこは良く考えているようだ。

 戦う者達にも、多少の魔法ならば無傷ですむように障壁が張られている。


「近づきすぎたな! 集中砲火をくらえぇ!!」


 溜め込んだ雪玉を相手は一斉にジェイクとネロに投げつけようとする。

 が、これも作戦。

 

「ぐああっ!?」

「な、なに!? 横から!?」


 実は、ジェイクも囮だったのだ。

 後方支援、というのは嘘。

 本当は、ジェイクとネロでユーカ達を隠し、横ががら空きになったところへと攻撃する作戦。

 それが見事に成功し、雪の中から現れたユーカ達によって一気に数が減る。


「くっ! まさか、雪の中を潜って近づいてくるなんて……!」

「ふっ。闇で障壁を張れば、こんなこともできるのよ。闇って、すごいでしょ?」

「よーし! ジェイクさん! ネロ! 一気に決めちゃいましょう!!」

「おう!」

「任せてよ!」


 こうして、見事な連係プレーによりジェイク達はチーム対抗雪合戦大会を優勝することができた。

 賞品である高級茶葉を手に入れ、メアリスはご満悦。

 賞金も手に入れ、今夜の夕食は豪華にレストランで食べることになった。


「はあー……今日は久しぶりに遊んだよ~」

「僕も年端もなくって感じに雪合戦を楽しんじゃったな」


 ナイフで肉を切り、フォークで肉厚のステーキを口に運ぶ。

 やりきった、そんな満足感のある表情を浮かべ、四人は笑顔で夕食を楽しんでいる。


「メアリスも、なんだか子供っぽかったな」

「あら? 私は、いつでも子供の純粋な心を忘れずに生きているわよ?」


 今日のメアリスは、いつも以上に機嫌がいい。

 戦いにも勝利し、欲しかった物をきっちりと手に入れた。なによりも、この四人で何かを達成したことを喜んでいる。


「そうだねぇ。優勝した時の、メアリスの笑顔可愛かったなぁ」

「僕も思わず、写真に収めちゃったよ」

「私の笑顔は、タダじゃないわよ?」

「え? お金取られるの?」

「ふふ、冗談よ」

「ちなみに、この写真も中々いいものだよね。大会に優勝したチームの集合写真! 私の思い出フォルダーにまたひとつ良いのが保存されたよ!」


 ナイフとフォークを置き、マジフォンを突き出す。

 そこに映っているのは、ジェイク達が雪合戦大会で優勝した後、主催者側が記念にと撮ってくれたものだ。ジェイクを中心に、四人とも眩しい笑顔をしている。

 そこで、ふと窓を見るジェイク。


「そういえば、今日は結構特別な日だったな」

「あー、そういえばそうだったね」


 外はしんしんと雪が降っている。

 今日は、特別な日。

 雪の精霊が、幸せを運んでくれるという日。家族に、恋人に特別な幸せを。雪が降ると、その効果は倍増するとも言われている。


「そんなのすっかり忘れていたわね」

「えー? それは嘘だよ! だって、今日は色んなところで色んなイベントが行われていたんだよ? 雪合戦大会もそのうちのひとつだったじゃん!」

「あら? そうだったかしら」


 ユーカの物言いに、メアリスは小さく笑い紅茶を嗜む。


「まあ、ともかくだ。今日は、最高に楽しい日だった。どうか、これからもこういう幸せが続いてくれるように」

「はい。これからももっと、このパーティーで楽しい思い出を作っていきたいです!」


 雪降る聖夜。

 ジェイク達は、これからも楽しい日々が続きますようにと願い食事を楽しんだ。

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