第十六話
クリスマスイブですねぇ……今年は、皆さんのために小説を書いて……ぼっちで過ごします。
グリードゥアの下水道は、魔力の源であるマナが大量に流れている。
その理由は、魔法使い達が研究で失敗したものを処理する時に、下水道に全て流しているためだ。魔法使い達の薬物実験などには、大量の魔力を要する。
しかし、必ずしも成功するわけではない。
失敗を繰り返し、粗悪品が増える。
その粗悪品である薬液を下水道に一気に捨てるのだ。それにより、薬液に含まれた魔力が残ってしまいただの下水道ではなく。
マナが溢れる下水道と言われるようになったのだ。
魔法使い達は、その溜まったマナを再利用している。
実験に使われそのまま捨てるなどもったいない。
じゃあ、何に利用できるのか? 考えた結果が、魔法闘技場や訓練施設などにある結界システム。それらの施設に張られている結界は、強大な魔石により展開されているのだ。
魔力がなくなれば魔法使い達が魔力を補給しなければならない。
その補給する魔力を下水に溜まっているマナから補給すればいいのではと。幸いここは魔法都市。魔法により実験は毎日のように行われている。
問題はない。
度重なる試行錯誤のおかげで、結界システムへとの魔力供給が可能となった。毎回魔力を補給する魔法使い達も助かったと大いに喜んでいたそうだ。
「へっへっへ。とはいえ、この下水に来る奴なんてそういねぇだろうな」
「まあな。だから、進入するにはここからが一番なんだ。それに今は、大会をやっているらしいからな。魔法使いたちの目はそっちに向いているだろうよ」
そんな下水道を怪しい集団が進んでいる。
十人……いや、二十人は越えているだろうか。やる気のある目つきに、顔つき。そして、抜刀状態だ。なにか獲物を捉える獣のように。
「二年前は、失敗したからなぁ。だが、今回は二年前のようにはいかねぇ。どうやら、あの賢者様は理由は知らんが、小動物になっているらしいからなぁ」
「しかも、あのちっこい魔法使いもいねぇんだろ? あいつらが二年前はやばかったからな」
「そのちっこい魔法使いっていうのはなんなんですか?」
二年前の出来事を体験している男達に、左目を包帯で隠している青年は問いかける。
「てめぇは、知らねぇんだったな。いいか? ウォルツっつー賢者は知ってるな?」
「ええ。数々の魔法使い達が憧れる存在。歴代最短でレベル100になった魔法使い」
ウォルツの伝説は魔法使い達の中でも有名だ。
二十代ですでにレベル100になった魔法使いはウォルツただ一人。その戦闘力は、後衛職とは思えないほどに接近戦も強い。
が、そんなウォルツも今では小動物に変えられている。
「そいつがやべぇのは当たり前だが、もう一人やべぇのがいたんだよ」
「それがちっこい魔法使い?」
「ああ。ガキだと思っていたら、ウォルツに迫る実力だった」
しかし、その魔法使いは今はいない。
ウォルツも小動物と化している。
こちらの戦力も二年前より増強された。
今回こそいける。二年前のようにはならない。自信しかない表情で男は、青年に告げた。
「いいか、新人? 俺達は魔法使いどもに恨みのある集まりだ。てめぇも、相手がガキや女だろうと容赦なく潰せ。あいつら魔法使いが俺達に何をしたのかを思い出してな」
「わかっています。魔法のことを考えるだけで、左目の傷が痛むんです……あんな非道、もう味わいたくない……!」
左目を押さえ、歯を食いしばる。
男たちは、その表情を見てその調子だと笑う。
「そろそろ魔法闘技場に続く地下室入り口だ。てめぇら! 構えろ!! 魔法使いどもをぶっ殺すぞぉ!!!」
『おおおお!!!』
血気多感に叫びを上げる集団。
そんな集団に近づく者達がいた。
静かに、闇の中から出てくる。
「そうはさせないよ」
「あん? んだてめぇは」
黒だ。薄暗い下水道に溶け込むような黒い髪と服装。
どう見ても、少女だ。
地下室方面から現れたということは……敵だろう。
「僕は、ネロ。君達が、魔法使い達を殺そうとしている【魔殺団】だね」
「だったらなんなんだ?」
魔殺団は、すでに戦闘態勢だ。
自分達の邪魔をする者は、女であろうと容赦なく殺す。
「一応言っておくね。そのまま帰ってくれないかな? 争いはあまり起したくないんだ」
「ハッ! 争いはあまり起したくねぇだぁ? おい、おめぇら! どう思うよ!」
「無理だな」
「ああ、無理に決まってる」
「俺達は、魔法使いどもにこの怒りをぶつけたくてしょうがねぇんだよ!!」
魔殺団は引かない。
その意思を聞き、先頭に立っている男がネロに対し笑った。
「そういうこったぁ! 俺達は一歩も引かねぇ。てめぇも、邪魔するなら容赦なくぶっ殺す!!」
「……しょうがない、か」
ふうっと、一呼吸をいれネロは武器を構える。
「君達は、魔法使いに対してかなり強いらしいけど」
一歩踏み出した刹那。
「なっ!? 消えただと!?」
「いったいどこに……」
突然姿を消したネロを探すが、その必要はなかった。
すでに、集団の中央に居たからだ。
「なっ!? 上から……」
「てめぇ!!」
攻撃をされる前にと武器を振り上げるも、遅かった。
目にも止まらぬ剣撃により、次々に倒れていく仲間達。
いったい何が起こっているのか理解が追いつかないでいる。
「大丈夫だよ、殺してはいないから。僕、今は冒険者だからね」
「な、なんなんだてめぇは」
「僕? 冒険者だよ。元殺し屋の、ね」
「元殺し屋だと? ちぃ! ウォルツの野郎こんな奴を仲間に引き入れていたとは! だがなぁ、魔殺団をなめんなよ! 俺達以外の別部隊が―――」
と、言いかけたところでネロが笑う。
「僕達も馬鹿じゃないよ。何部隊もあるのは、知っている。だから、そっちには僕の仲間が対処しているはずだよ」
「仲間だぁ? まさか、そいつも殺し屋……!」
ネロから距離を取りつつ、会話を進める。
彼女ほどの実力を持っているとすれば、別部隊もやばいかもしれない。
「違うよ。魔法使い」
「魔法使い? ……ハッ! だったら、余裕だな。俺達が魔法使いに強いってことは知ってるんだろ?」
「もちろん知ってる。でも、ただの魔法使いだと思ったら……この程度じゃすまないかもね」
☆・・・・・
「ふふふ。あなた達、全然進歩がないわねぇ。それで終わりなのかしら?」
「な、なんだこいつがいるんだ……! 情報と違うじゃねぇか!!」
メアリスは笑う。
闇の炎を纏いて、下水道の中で嘲笑っている。
目の前で、膝を突いている男達。
彼等は、二年前戦った魔殺団。
戦力を増強しているようだが、メアリス自身も強くなっている。彼らは、どういう方法で作ったのかはわからないが魔法を打ち消す武器を持っている。
しかし、打ち消すと言っても武器に触れなければ問題はない。
彼らとの戦い方を熟知しているメアリスにとっては、脅威ではなかった。
「おー、メアリスやっているようだな。急いで来たんだが、加勢はしなくていいようだな」
そこへ現れたウォルツとエレナ。
急いできた、というわりにはゆったりとした足取りだ。
「もちろんよ。私は一人で十分。それよりも、こいつらはこれで終わり? ネロのほうは大丈夫でしょうけど」
「まだ居るようだ。そっちにはハージェが向かっている。この勢いなら、制圧は二年前よりは簡単にやれるだろうな」
勝ち誇ったように腕組をするウォルツ。
しかし、そんなウォルツに対し魔殺団の一人が意味深な笑みを浮かべる。
「なにがおかしいのかしら?」
「俺達を制圧しても、無駄だ。俺達なんて、あいつらに比べれば豆粒みたいな存在なんだからな……」
「あいつら?」
意味深な言葉に、メアリスとウォルツは目を合わせあった。