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-第06話- 領主の在り方

 食事を終えた後は、ジェフとシビルと一緒にリビングで食後のお茶を頂くことになった。

 俺は、家族団らんの時間もこの世界がどうなっているのかを知りたくて、色々と質問をしようとおもっていたが……


「――今日のシエラは何時もより大人しいな」

「そうなのよね、お昼寝した後からすごーく丁寧な喋り方するのよ」


 両親に微妙に疑われているので、俺は取りあえず取り繕うようにシエラの物まねで返答することに。


「い…いつもの、シエラだよ!」


 もう、許してほしい。これ以上疑われるとテンパってボロが出てしまいそうだ。

 

「… …うーん、まぁそういう事ならいいんだけど… 」と、まだ少しシビルには疑われている。

「まぁ、シエラも何でもないと言うなら大丈夫だろう」と、ジェフはもう気にはしていないようだ。


 何はともあれ、俺がこれ以上ミスをしなければいいだけなので、羞恥心を捨てて幼女になりきることを決意しなければならない。


「お母様、心配かけてごめんなさい」

「大丈夫よシエラ、私はあなたが心配なだけなの―――」



 シビルはただ娘が心配なだけなので、これ以上俺が心配をかけるわけにもいかない。と、俺は謝罪することで実際のところはただ、自分が救われたいだけなんだと気づいた。

 シエラの家族を騙していることへの、罪悪感を紛らわせるための行為なんだと、自分の醜悪さに反吐がでる。


 ――――他人の善意に漬け込み、騙している。


 俺は自分の存在の歪さと、自分の心の醜悪さに嫌悪した。


 我が身可愛さで、シエラに頼って体を借りて、その体で自分の正体を出さずに人を騙す。生き意地汚く生にしがみ付く様は、我ながら酷い在り方だ。


 ――ただ、ここで俺がこのまま自分自身を封印して、シエラの最期の時までシエラの中で閉じこもっている。そんな生き方を俺にできるかと言われると、それをできるほど潔くもない。


 生き意地汚くても本音は生きていたい。

 誰かと接点を持ちたい。

 一人は嫌だ。


 それが例え借り物の体でも、薄汚い心でも、孤独に生きるなんてことは、弱い俺(・・・)にはできない。



 ――俺が黙り、肩を落としているとジェフが空気を察したのか、沈黙を破った。


「まぁシビル、シエラが大丈夫といっているのだから心配し過ぎてもしょうがないだろう。それに、シエラも私たちは家族なんだから、何でも言いなさい」

「…で、でも! 貴方…まだ、シエラは小さいのよ」

「それでも、家族を信じてあげられるのも、家族だけなんだ」


 ジェフは、実に素晴らしい父親だと思う。俺みたいな偏狭な存在からしたら、眩しすぎるほどに立派な人間だ。


「……わかったわ。シエラ!なんでも言うのよ!」と、少し泣きそうな顔のシビル。

「…ありがとうございます、お母さま」


 シビルもジェフも、本当にシエラのことを愛しているのだろう。それは俺ではなくシエラに向けられているが、それでも俺は、この家族のことが好きだし、影ながらでも役に立てたらとおもう。


――――結局のところ、この世界のことを聞きそびれてしまった。


 家族の団らんは終りを告げ、シビルはそのままリビングで編物の続きをし、ジェフは二階の書斎へと仕事をしに戻るというので、付いていくことにした。


 ジェフの書斎は、二階の一番奥の位置にあり、書斎の間取は部屋の窓際に大きな仕事机があり、書類に埋もれている。

 部屋の両サイドには本棚や、壺やら置物が乱雑に置かれ、部屋の真ん中には、応接用のソファーと机が置いてあるが、机は客人を迎え入れるには書類や本の類が、邪魔になりそうなほど積み上がっている。


 ジェフは窓際にある椅子へ座り、俺は部屋の中央にある応接用のソファーへと腰かけた。辺りを見回すが、書類まみれの纏まりがない書斎といった感じだ。


 前世の俺も、仕事上の書類の整理とかが苦手で、書類はデスクに山積みになっていたが、この量はそれを凌駕し山を成している…。

 この世界には、そもそもパソコンなどがなさそうだし、全て羊皮紙で書類を纏める必要があるなら、仕方がないのだろう。 


 周囲をざっと見終わり腰を落ち着かせた所で、質問を始めることにした。


「お父様は、なんのお仕事をしてるんですか?」

「私がしているのは、そうだなぁ…書類を書いたりする仕事だよ」


 三歳児の説明の為に、恐らくは詳しく話してもわからないと判断し書類を書く仕事とくくったが、大ざっぱすぎてわからない…。


「領主様というのは何ですか?」

「領主と言うのはだね… … 村々にいる村長さん達のまとめ役みたいなものだよ。他には、村の食べ物を管理したり、お国に送ったりするお仕事で、私もその領主をしているんだ」


 まぁ、俺の無知さでも知っている領主の在り方だ。想定と合致しているし、やはりこの家系は貴族のようだ。


「お父様はとても凄いのですね!」と、シエラの真似も挟んでおく。

「いや、私はまだまだだよ、クラフト公のような立派な領主に私もなりたいものだよ」と、苦笑いで答えてくれた。

「クラフト公とは、どんな人なんですか?」

「私がお世話になった自分物で、この国で私が最も尊敬する領主だよ」


 それなりに、貴族の階級が高い人物なのだろうし、気になるがあまり詳しいことを聞いたりすると、こっちのボロが出そうなので、別の調べる手段を講じなくてはならないな…。


「お父様より、凄い人なんですね!」

「あぁ、私の領主としての在り方を教えてくれた人物だ」


 この世界の『ノブレスオブリージュ』みたいな物があるのだろう。


 この家の頭首をジェフが務めている様だが、貴族階級社会ならば男系の世襲制が普通だと思うのだが、この家は現状でシエラしか子供がいないので、シエラの将来も気になる。


「シエラも、お父様のような立派な領主になれますか?」

「ははは、頼もしいな。なれないこともないが大変だぞ」


 例外的に女性が領主になる事もできるようだが、領主という職務に女性が就くのは容易いことではないのだろう。

 差別や偏見の目に晒される恐れがあるし、シエラの将来に不安は残るが、家督を継ぐことで貴族として、生き残る事ができそうで安心した。


「少しでも、お父様のお手伝いがしたいです! 読み書きを教えてください!」

「構わないが、私は仕事が在るしなぁ… そうだ、ポーラは読書も算術も出来るから私から頼んでおこう」

「っあ… ありがとうございます!」


 ポーラと聞いて少し動揺したが、教えてくれるんだから文句も言えない、読書ができるようになれば、本を読むことができるようになり、そこから知識を得られることができる。


「ふふっ、昼間は剣術を習いたいと言い出し、夜は読書を教えて欲しいなんて、あまり無理をせずできる事を着実におこなうんだぞ」

「はい! がんばります!」


 ジェフは上機嫌そうに口元を緩めている。


 それにしても、昼間にシエラはシエラで、剣術を教えて欲しいなんてお願いをしたのか…後で直接シエラに聞いてみよう。


「読書は明日の夕食後からで、大丈夫かい?」

「おねがいします!」


 それから、ジェフの書斎で少しだけ仕事の様子を眺めてから、俺は仕事の邪魔になるといけないので、部屋を後にすることにした――。


 書斎を出て、自室に向かうために廊下を歩いていると、薄暗い廊下の正面で、自分と向き合うようにメイド服の人物が立っていた。

 薄暗い中で顔ははっきり見えないが、ポーラとマリエットではない……、ということは三人いるメイドの内で、まだ合っていないのは『エレノア』だけなので、あれはエレノアなのだろう…か?


 ――――近づくが、こちらに気付いていないのか、ボーっと立っている…薄暗い廊下でなんでで立ち尽くしているのかは全くわからないが、少し怖い…。


 目の前まできたのだが、まだ気づいていない様子で佇む彼女は、金髪のセミロングで目の焦点が定まっていない様子だ。


「あの… だいじょうぶ?」


 声をかけられたエレノアは、『ビックン』と、反応した後にこちらをジーッと見つめてきた。


「―――――… … … …っあ、お嬢様」


 反応が遅すぎて、一瞬この人まだ気付いてないんじゃないかと思った。


「こんな所で、どうしたの?」と、恐るおそる俺は聞いてみた。


「――――… …すいません …あの … …えっと」


 反応するまで間が空きすぎて、本当に大丈夫か心配になってきた。


「どこか調子が悪いの?」


「―――… … …だ… 大丈夫です… … 少し寝ていただけ… なのです」


 そのままエレノアは、すぐ隣の部屋へ一礼し消えていった。


 寝ていただけとは一体何だったのか…、立って目を開けたまま廊下で寝るような、変人に会ってしまった…見た目は非常に美人だったが、残念過ぎる美人だ。


 その後は自室に戻りシエラに会うために寝る準備をし、布団の中へ入り程なくして眠りに就いた。



「―――と… … っと… セト!!」

「――?…シエラ? ――…おはよう」


 俺が起きた?のは、先ほど寝たシエラの自室なのだが、様子が少し違っていた。部屋自体はシエラの部屋なのだが、壁に絵が掛かっていたり、俺が前世で持っていた鞄や、家具などから服まで床に散らばっていた。


「おはよう!!」

「ここは… 夢の中だよな?」

「うん! ゆめのなかだよ!」

「なんか、俺の家の家具とか、服が散らばってるのは?」

「シエラがお引越ししてあげたの!」


 そんな、ワンタッチでお引越ししました!みたいにいわれてもな…夢のなかだし、まぁ何でもありなのか?


「よく、こんなに運べたなー」

「うん! ぴゅーんってはこんだの!」


 夢のなかでの俺の姿は前世の姿になっており、服装は先日の夢のなかで寝た時と同じ服装だった。


「とりあえず、部屋が散らかってるしお片付けするかー」

「ぇー…、しぇーらお片付けにがてぇー、めんどっちぃー」

「あー…あれだ!シエラの力がどうしても必要なんだ!」


 と、俺は若干、演技染みた動きで、シエラのやる気に発破をかける。


「セトはしょうがないこねぇー…」


 シエラは腰に手を当て、そっぽを向きながらチラチラこちらの様子を窺っているので、俺は後一押しなシエラを褒めちぎることにした。


「流石シエラだ! シエラは凄い! シエラがいなければこの惨状を打破することはできない!」

「えへへぇ~、ほめてほめて~!」


 やっぱり、三歳児はチョロイな、煽てればすぐいうことを聞いてくれるから、そこまで手を煩わせる必要がなさそうだ。

 シエラは俺に頭をヨシヨシと撫でられると、にへら~とだらしない笑顔を作っていた。


「よし、じゃあ取り合ずこの荷物を俺のとシエラので分けようか」

「わかったー!」


 シエラと俺は、手際よく二人の物がグチャグチャに混ざった部屋で、それぞれの私物を仕分けしながらテキパキと作業を進めていった。


「この、人形は…シエラのだよな?」

「セトォ~この薄い本はしぇーらのじゃないの」

「ああ、その本はすぐこっちに寄越すんだ」


 情操教育に良すぎるような、刺激が強い男の私物までありやがった。前世の俺の部屋の記憶から、物を持ってきているのだろうが、持ってきてる物は統一性はない。


 この部屋のシエラの私物自体は少なかったため、散らかっているのは大半は俺の私物が部屋を汚していた。


 ――それを一通り整理し終え、二人で寝台に腰かけ一息ついた。


「大体こんなもんで良いだろう」

「しぇーら、がんばった!!ほめてぇー!」

「あぁありがとな、シエラ」

「えへぇへ~」


 シエラの頭をまた撫でてやり、俺は昼間にシエラがジェフにお願いした、剣術を習いたい理由を聞くことにした。


「そういえば、シエラ剣術習いたいのか?」

「うん! けんじゅつで、しゅぱーんってしてセトとね、お父さんとね、お母さんとね…みんなを『守る』の!」

「何で急に守りたいと思ったんだ?」

「んー… 昨日のね… あの薔薇がね…」

「けど、あれは夢のなかの話だしな。まぁ、シエラがしたいなら止めないよ」

「うん!」


 三歳児でも思った以上に気が強いシエラはきっと、昨日の夢の中で襲われた事がそれなりに悔しかったのかもしれない。


「そういえば、俺も小さい頃に剣道やってたな」

「セトも、けんじゅつできるの!?」

「まぁ、俺は剣道の才能なんてなかったし、全然弱かったけど十五歳までは続けたな」

「しゅごーーい!おしえておしえて!」

「え?けど、竹刀も木刀もないしなぁー」

「ちょっと待ってて!!」


 シエラはおもむろに、昨日この部屋へ帰ってきた時に使った鍵を、ワンピースのポケットから取り出し、空間に突き刺すと、扉が出現したが昨日の扉とは違う扉だ。

 開けた扉の先は、俺も知らない倉庫のような場所で、壁には何本か木剣が立てかけてあったので、シエラはそれを手に取り戻ってきた。


「その鍵どうなってんだ?」

「んー… 良くわかんない!」

「なんだそりゃ? ドコデモなんちゃらみたいだな…」


 その後は、シエラにせがまれるように剣術では無く『剣道』を、シエラに教える事になった。ただ、この夢の中での練習が現実に反映されるかは良く分からないが、シエラが教えて欲しいと言うので、断る理由もない。


 シエラは物覚えが非常に良く、剣道の基本的な構え方や、足の運び方を直ぐに理解して動けるようになった。

 一通り練習し少し休憩を取ろうと、寝台に腰かけ窓の方を見たら、もうすでに外が白みだし夜明けが近づいて来てるのが分かった。


「もう、そんなに時間が経ってたのか…」

「終わっちゃうのさみしい…」

「まぁ、また明日練習するか?」

「うん!」


 こうして、シエラとの共同生活の初日は終わった――――。

10月16日 誤字修正致しました。

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