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-第05話- 意識の所在

 ――シエラと夢の中(・・・)で眠りについたあと、俺が目覚めた場所は生れ変ってからずっと過ごしている、部屋の寝台の上で目覚めた。


 体は三歳のシエラ(・・・)の肉体のようだ。


 体を起こし、窓から外の景色を望むと、ちょうど陽が沈んだばかりなのか、遠くの空と地面の境界は紅色に染まり、空に向かって群青色へと綺麗なグラデーションを描いていた。

 窓から見える景色を眺めながら、俺は先日のシエラと夢の中で、眠りに就く前にシエラから色々と情報を聞き出した事を思い出し、内容の整理を行う。


 まず、シエラが言うには、俺は三年前の高熱を出してからずっと、シエラの夢の中で眠り続けていたらしい。

 三年前のシエラは赤ん坊だったので、いつ頃から俺が寝ていたかは理解していなかったが、俺の空白の期間から考えるとそれが正解だとおもう。


 次に、俺はどうやら異世界へ転生したようだ。


 この件は、シエラが教えてくれた、『獣人族』の事について、シエラの持ち得る知識の範囲内だが、色々と教えてくれた。

 獣人族は人間の肉体の一部が、動物の耳になっていたり尻尾が付いている種族なのだとか。俺の知っている範囲内だと、メイドのポーラは獣人族に該当する種族だ。

 その他の異世界要素として、魔法が存在するとのことだが、この件に付いてはシエラも詳しくは知らないようで、あまり教えてくれなかった。

 まぁ、獣人族なんて種族がいるのだから、魔法とかあっても不思議ではないだろう。ただ、魔法がもし使えるなら俺も使ってみたいものだ。


 シエラと話した内容は他にも、俺とシエラの今後の件について話し合った。


 俺が意識を保っていられるのは夜間のみ、シエラが活動するのは昼間に限定されるが、必要ならば昼間の時間も俺に少し分けてくれるとのことだ。

 肉体の所有権は俺にはなく、シエラに各種決定権があるようなので、俺とシエラの関係は概ね、大家と居候みたいな関係だ。


 シエラに会いたい場合は、寝る前に『夢でシエラに会いたい』と、願えばその日の夢で会うことが可能なのだとか。

 意識の所有権について話し合いといったが、シエラは俺の言ったことを全て承諾するだけだったので、話し合いとしては、一方的に俺のお願いごとを聞いてもらっただけだ。

 俺はシエラの人生の邪魔にならない程度に、存在させてもらえれば現状は満足しているし、肉体の所有権を他人に委ねるなんて怖いことをしてもらっているのに、無理は言えない。


 結局のところ、俺はシエラに憑りついた幽霊みたいな存在なのだろう。


 と言うか、異世界転生やらドリフターなんてのは、最近流行りのラノベのネタで、三十歳そこそこのオッサンには無関係な物かと思っていた。

 転移じゃなくて、転生?で良かったとも思っている。だって、前世の姿でこの世界にきたって見た目が良いわけじゃないし、それにこの世界の病気とかに抵抗もないかもしれないし。


 窓に映る景色は完全に夜に代わり、気がついたら部屋の中も真っ暗になっていたので、そろそろ部屋を出てシビルやジェフに会いに行こうと思う。


 しかし、俺の存在をシビルやジェフに教えるつもりはなかった。


 そりゃ娘に違う世界の、謎の幽霊が憑りついてる何て思われたら、シエラに悪魔祓いでもされる可能性があるし、そもそもそんな話を三歳児がしたところで信じてもらえないだろう。


 会う目的は、自分が知らない空白の三年間のあいだの変化が気になったからだ。


 俺は暗い部屋を手探りで歩き、扉を開き廊下へと出た。俺にとっては半年以上暮らしている家だが、この部屋の外に出るのは初めてのことなので、少し緊張はしたが、思ったほど何ともなかった。


 廊下も部屋とおなじように、薄暗く窓から差し込む月明りだけが頼りだ。


 シエラが言っていた、父ジェフの仕事は領主の仕事をしているとのことだったので、貴族の屋敷なのだろうか、家はそれなりに広そうだ。

 廊下を少し歩いたところで、階段を見つけたので一階に降りることにする。下の階から明りが見えるので、一階に誰かいるのだろう。

 俺が階段を下りたところで、そこには栗毛色にウェーブ掛かった髪のメイドが口を開け、呆けた顔で立って居た。


「あ! お嬢様、おはようございます!」と、一礼し元気に挨拶して来たメイド。


 たしか、昨日の話でシエラにこの家にいる人間の特徴と名前は聞いていたのだが、彼女の名前は『マリエット』だったはずだ。

 言語はやはり日本語ではなかった。それに、普段のシエラが回りの人間と、どんな話をしたり、どう接しているのかは俺は知らないので、挨拶されただけでも受け答えに困る。


「あっ、えっとおはようございます」


 マリエットの挨拶を真似し、俺は一礼し返した。


 言語自体の理解はだいたいはできるのだが、発音まではできる自身はあまりなかった。しかし、三歳児のしたったらずさが助けになり、多分怪しくない程度には喋れたとおもう。


「お嬢様、何処か調子悪いっすか?」


 怪しまれた。心配そうに見つめるマリエット。


「だ……だいじょぶ」

「うーん… ほんとっすか? いつもなら元気に『おはよう!』って返してくれるのに、急にかしこまっちゃって、少し様子もおかしいっすよ?」


 そんな、いつもじゃないんだから俺は知らん!こいつ、少しアホそうだから上手く言ってやり過ごそう。


「うん! 大丈夫! 少しお腹がすいただけだよ!」と、俺は適当に言った。

「そうですよね! お腹がすいたら元気でないっすもんね!」と、二カッと笑うマリエット。


 やっぱりこいつアホだ。


 まぁ、そのお嬢様の中身が別人なんて思わないだろうし、そんな対応になるのが普通か。悪く言ってすまなかった、マリエットよ。

 俺は適当にマリエットをやり過ごし、リビングがあるほうへと向かう。

 この家の一階の内装は、半年間の赤ん坊生活中に夢の中で何度も目撃しているので、だいたいの位置は把握している。

 リビングに入ると、ソファーに腰を掛け編み物をしている母シビルの姿があった。


「あら、シエラもう起きたのね」と、シビルはニコニコと迎え入れてくれた。

「お…おはよう御座います、お母さま」多分これで大丈夫か?


 余り、言葉に自信は無かったが、思った以上にすんなりとでた。


「ん? どうしたの?こっちへいらっしゃい」と、優しくシビルは言った。

「はい」


 俺は、入口からシビルの座るソファーへと向かい隣に腰かけた。


「どうしたの? 何か怖い夢でも見たの?」

「だ…大丈夫です」


 不思議なもので、母というとどうしても前世の母を思い出してしまい、シビルは第二の母といっても過言ではないのだが、少し他人行儀になってしまう。


「んー? 熱は無いみたいね」


 シビルは編物を中断し、俺の額に手を当て熱を確認し、不思議そうな顔をしている。


「お母さま、大丈夫ですから」

「何か、辛かったらすぐお母さんに言うのよ」

「ありがとうございます」


 極力シエラの真似をして喋れば、疑われないとわかってはいるのだが、緊張しているのと慣れない異世界の言語を探りながら喋っているので、ぎこちない感じになってしまった。


「んー! やっぱり変ね!」


 急に、声をあげジーッと見つめるシビル。

 まずい、疑われたか!?意外と抜けていそうで観察眼は鋭いのかもしれない。


「いつもなら抱き付いて来るのに! お腹が減ってるのね!すぐ、用意するから待っててね!」


 シビルはマリエットと似たり寄ったりなことを言って、そのまま厨房や食堂がある部屋の方へと向かって行った。


 シビルがあまり御変わりのないようで何よりなのだが、抜けてるところも変わっていないようだ。

 少し待っていると、シビルが戻ってきた。


「もう、お食事が出来るみたいだから食堂へ行きましょうか!」


 シビルに手を引かれ食堂へと向かう途中、部屋のことで少し気になることがあった。

 それまで俺は、あまり部屋の細部を気に留めていなかったが、この部屋の照明は電気で灯っている様子は感じられないのに、蝋燭などの弱い明りでもなかったのだ。


 明りの元を見ると、前世と同じようにペンダント式の照明が天井から鎖で吊下がっているのだが、電気式の物であれば、鎖と一緒に電気のコードが付いているはずなのに、それらが見当たらない。

 照明は暖色の電球っぽい明りで、発光しているのは見慣れない丸い石が光っているようだった。


 俺はいろいろときになったので、シビルに聞いてみることにした。


「お母さま、あれは何ですか?」と、俺は照明を指さしシビルに聞いてみた。

「んー? あれは、畜光魔石の照明よ?」

「畜光魔石って何ですか?」


 俺は聞き慣れない言葉だったので聞いてみた。しかし、シビルも余り原理やそういった物には詳しくはないようだが、軽く教えてくれた。


「昼間にお日様の光を集めて、夜になると光っている石よ!」と、なぜかドヤ顔で答えられた。


 まぁ、三歳児を相手にする説明だから、だいぶ噛砕いて説明しているのだろうが、シビル自体もあれがなんで光っているかは絶対わかってないだろ。

 あの光っている石は恐らく電機ではない、魔法のような物できっと光っているのだろう。と、俺は解釈しておくことにした。


 そして、ダイニングに付くとメイドのマリエットと、ポーラが給仕をおこなっていた。


 俺は、ポーラに申し訳ない気持ちがあった、それは、ポーラを見て気絶してしまった事が原因で、あれは余りにも失礼なことをしたと感じてしまう。

 しかし、それはポーラからしたら三年も前のことで、そんなことはもう忘れているかもしれないし、今更謝られたところで遅すぎるだろう。


「あ! 只今お食事をお運び致しますね!」と、マリエットが厨房の奥へ駆けて行った。


 ポーラは前回会った時と変わらず、ピシッと背筋を綺麗に伸ばし洗練された動きで一礼し、座席を引き椅子へ招いた。

 耳は見えないように頭巾を被っている。もしかしたら俺が三年前に気を失ったのが原因かもしれない…

 俺が罪悪感に苛まれていると、シビルは俺の顔を見て心配そうな顔をした。


「どうしたのシエラ? どこか調子が悪い?」

「いえ、大丈夫です…」

「奥様、私は旦那様をお呼びして参ります」と、マリエットは空気を察したのか部屋を後にした。


 ここで、俺が変に動揺したり、暗い表情をしていたら増々心配を掛けてしまう。


「だ…大丈夫!お母さま心配しないで!」


 少しシエラの真似をして喋ってみたが、思っていた以上に恥かしく赤面してしまいそうだ。


「んー…本当に? お腹が痛くなったりしてない?」


 シビルもそれ以上は追及せず、ジェフがくるのを待つ間もマリエットは、料理を厨房からダイニングへと運び込み、ダイニングテーブルへ次々と並べていく。


 料理は主に、白いパンと野菜のスープと謎の焼き魚だ。


 御世辞にも豪勢とはいえず、現代日本人の感覚からすれば、料理は非常に質素なものに感じてしまう。

 食器類は陶磁器の物ではなく、おもに木製の器やプレートに盛られ、ナイフやフォークは無く、木製の匙のみのスタイルらしい。

 今のシエラの体なら、これぐらいで十二分な気もするが、この量は成人男性が食べるには物足りなさを感じるだろう。


 おおむね、食事の見た目の感想はこんな感じだ。


「今日は、お魚なのね!シエラ好きだったわよね?」

「っあ…はい! おさかな大好き!」と、若干無理やりだが取り繕う。


 後ろの方で扉の開く音が聞こえ、ジェフが食堂へ入室した。


「先に待っていたのか、待たせてすまないね。」


 ジェフは三年前とあまり変わらず、少し髭が蓄えられ痩せた印象ではあるが、誰だかわからないという程の変化はなかった。

 俺がジェフに会うのはこれで二度目だが、なぜか『他人』とは思えなくて、親戚の優しい叔父さんみたいに感じていた。


「いいえ、私たちも今し方席に着いたところなの」と、出迎えるシビル。


 俺の前世での食事マナーは最低限、失礼にあたらない程度で、そもそも異世界の食事のマナーなんてものはしらない。

 マナーが分らなければ学べば良い!と、俺はおもいシビルの真似をして置けば問題はないだろうと考えた。


「シエラは今日は静かだな? 何かあったのかい?」


 と、ジェフもいつものシエラとは違うことに気付いたのか、気にかける言葉を投げかけた。


「大丈夫です! 何時ものシエラです!」

「…あ …ああ、大丈夫なら良いんだ… …。私の勘違いだったようだな」


 何とかやり過ごしたところで、ジェフも席につき食事の挨拶を行う。

 食事の挨拶は『頂きます!』と、手を合わせる日本スタイルなどではなく、手を前に出して指を組む、お祈りのような姿勢をし沈黙した後にジェフが一言。


「では、頂こうか」

「はい」


 一連の動作を真似したが、それにどういった意味や役割が在るかは、俺にはさっぱり分からなかったが、恐らくは宗教的な祈りなのだろう。

 食事自体は、非常に静かでジェフもシビルも一言も喋らなかったので、俺も喋ってはいけないのだと思い、特に言葉は発することなく食事を食べることにした。

 食べ物の味自体は全体的に薄味で、正直なところそんなに美味しくはなかったが、唯一パンだけは前世でも食べたものとあまり変わりがないと感じた。


 魚もスープも木の匙を使用し食べているので、魚の解体が思うように捗らない。両親の食べる姿に目をやると、二人とも手で魚の頭や皮を剥ぎ解体していたので、俺も真似ることにした。


 魚料理に手間取ったが、そんなに量も食べない内に俺はお腹がいっぱいになった。


 食事が終わった後の挨拶も、基本的には食事前と同じ格好で行うので、これはスムーズにできた。

 俺は食事が終わった後、ジェフに色々と聞いてみたいことがあるので、ジェフと一緒に書斎へ向か約束を取り付けた。


 今までで会った人物の中で、最もこの世界のことを詳しく知りえる人物はジェフだったので、情報収集するうえで最も頼りになる人物だ。


 俺がそんなことを考えていると、家族全員食事を食べ終えた。

10月16日 誤字修正致しました。

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