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-第23話- クロノメーター


 宮廷魔導士長であり、裏がありそうな胡散臭さを感じるプロドリック卿から『マナリミッター』を受け取り、一通り道具の取り使いの説明を受け終え、今後の予定を三人で話し合うこととなった。


「それじゃあ……今後の予定なんだけれども、昼食後から日没の前までの時間でやりくりしようか。僕もこう見えて何だかんだ忙しい身だからね、魔術を教えられない日は午前中に通達するよ」


「有難うございます」


 胡散臭いとは思っても、国に認められた最高峰の魔術師としての肩書がある人物だ。その人物が直々に魔術を教えてくれるのであれば、この機を逃す愚をおかすまい。

 懸念されるのは、寝ているシエラに相談をしていないことだ。ここにくる前に出会った老婆にも、騎士団に行くことを勧められたのもあるので、シエラが起きた時に合わせて説明しよう。


「うん! じゃあ僕からジェフにも伝えておくから、明日から授業を開始しようか」


 プロドリック卿は満面の笑顔を浮かべたまま、ふと何かに気が付いたように目線を壁へと向けた。彼が向けた視線を追って俺とエレノアも壁へと視線が流れた。


 そこには、こちらの世界に来てから初めて見る壁掛け時計? が掛けられていた。前世の時計に似てはいるが、時針と思わしき針以外は無いシンプルなものだ、ダイアルに描かれているのは何かのシンボルを文字にしたようなものが六方に描かれている。察するに龍を模した文字だろう――。


 こんな大発見を気付かなかったのは、部屋の至るところに怪しい道具や、発光する物体ばかりに意識を奪われ部屋の壁面にまで目が行き届かなかったからだ。


「あれは……、なんですか?」


 俺は、時計とおぼしき道具を指さしてプロドリック卿に何の道具が聞くことにした。予想が正しければそのまま時計なのだが。


「あれに興味を持ったかい? あれは『人工遺物』(アーティファクト)を解析して作られた、時空魔道式時辰儀(クロノメーター)だよ。一日であの針を一周するようになっているんだ。そうそう、『人工遺物』(アーティファクト)と言うのはね、大昔の戦争でとある大国が滅亡した跡地から発掘されたものだよ! 調査が非常に難しい場所でね、なかなかに入手が困難な代物なんだ」


 やはり、時計で合っているようだ……、この世界に来てから四季があり、冬至や夏至があることも分っていた。つまりはこの世界が恒星を公転する惑星であることの証明になる。四季があると言うことは、地球と同様に自転軸が傾いている事にもなる。

 それがどういう事かと言うと星の大きさは兎も角として、ちゃんとした星の上にいるということだ。ファンタジー世界によくある、天動説のような御盆の上に載った世界では無いということになる。環境も酷似した地球とは別の世界……。


 この世界が前世の世界に酷似している点については、意識して考えたことは無かったが、自然と受け入れられた。ちゃんと日数を数えて覚えているかと言われると難しいが、一年も大体三六五日ぐらいだった気がする。

 魔道式でも機械式でも、時計を作成するというのは、高度な天文学と数学が必要不可欠なはずだ。それだけの技術力や学術がこの世界には存在する証明に他ならない。


 それと、『人工遺物』(アーティファクト)なる物と、それが出土された国に付いては非常に興味がそそられる。これから時間はいくらでもあるので、プロドリック卿に今後いろいろと聞いてみよう。



 俺は時計や『人工遺物』(アーティファクト)の件に付いて色々と考えていて、黙り込んでいたようで、プロドリック卿が顔を覗き込んできた。


「ん? どうしたんだい難しい顔して。まぁ、君の年齢には難しすぎるお話だったかな?」


「師匠は説明が下手くそ……、お嬢様は聡明なお方だけど……、師匠の説明が駄目だから伝わらない」


 エレノアが無表情のままプロドリックを罵り、プロドリックは顔を若干引きつらせながらため息をついた。


「はぁ……、エレは相も変わらず辛辣だね。まぁそれはそうと、そろそろお昼ご飯の時間みたいだね。昼食を一緒にどうだい? 堅苦しい話は抜きに楽しもうじゃないか。それに、愛弟子の近状も詳しくききたいしね」


「あっ……、はい御願いします」


 思考を巡らせているため、生返事な受け答えになってしまったがプロドリック卿からの、昼食の誘いを受ける事にした。

 そろそろ、シエラも起きるだろうし昼食前にトイレでシエラに交代して、状況を説明しよう――。



◆◇◆



 その後、昼食前にシエラと交代し俺は夢の部屋に戻って来た。研究所を出る直前でシエラが覚醒したので、現状説明を軽くおこないトイレで交代をおこなった。座った状態から交代をおこなわないと、一瞬だけ意識が体から奪われた際に転ぶ危険が在るため、シエラと俺で交代時のルールを予め決めたのだ。


 昼食の際に俺とシエラの言動に差異が生じたため、プロドリック卿から体調が悪くなったのかと心配されたが、シエラは賢い子なので臨機応変に誤魔化してくれた。

 いまだにシエラの話し方を完全真似する事はできないが、声色や相槌などはそれなりに似ていると自負しているものの、時どき周囲を心配させることがある。


 三〇過ぎの中年一歩手前が必死に幼女の物まねをするなんて、前世でおこなえば社会的地位を揺るがしかねないが、逆に今は幼女の物まねをしないと、俺自身の存在が危ぶまれる事態になりかねない。

 それでも健気に頑張っているのだから、誰かに褒めて欲しいぐらいだ。もっともシエラの影のような存在なのだから、俺を認知しているのはシエラしかいない訳で、褒めてくれる人物などいないのだ。


 ちなみに夢の部屋でシエラの前で幼女の物まねをしたら、悲しそうな顔で心配されてしまった。笑うでもなく罵るでもない、リアクションを取られた身としてはダメージは想像以上に大きかった。


 年端もいかない幼女に、ジョークをかまして悲しみ混じりの顔で、本気で心配される大人がこれほど哀れな物なのかと、客観的に考察して二度のダメージを負った。


 ――……もう絶対にシエラの前で物まねはしない。


『セト? なんかね……、今すごいセトから強い気持ちがつたわったけど、どうしたの?』


「何でもない……、大人ってのは時に大事な決断をしなければいけない時があるんだよ」


『ふーん? なにそれ~…… セト変なの~』


 子供の純真さと言うのは、時に大人の心を容赦なく打ち砕く矛となりうる。可愛らしい容姿に騙されて、下手を打てばやられるのはこちらだ。

 大人げが無いと思われるかもしれいが、シエラとずっと一緒にいて学んだことだ。


 そんなこんなで、シエラとプロドリック卿の昼食は無事に終わった。昼食は貴族専用の館では無く、王城内にある、食堂でおこなわれた。聞くところによると、王城内には食堂だけで十二部屋もあり、身分や用途によって使い分けがされているらしい。

 街から見た王城の巨大さで察してはいたが、敷地の広さも建物自体の高さもかなりあるので、城内で勤務している人間からはぐれれば、大人でも簡単に迷子になれそうだ。


 シエラの食事中に聞いていた内容で、広大な城の敷地内には騎士団用の宿舎や訓練施設から、地方貴族が訪れた時の館等の施設など、多岐にわたる施設が併設されている。

 魔導士の研究施設は王城内にはあるが、敷地内に大型の実験用施設もあるそうだ。ちなみに、プロドリック卿は城下町の貴族用の居住区画に屋敷を構えているのだとか。


 エレノアは二人の昼食中は給仕の仕事をしていたが、プロドリック卿が色々話を聞きたいとのことで、都度会話に参加していた。

 普段以上に会話をするエレノアと言うのは非常に新鮮であったのと同時に、屋敷で見せない表情を見るのはどこか寂しい気持ちになった。

 旧知の間柄だからこそ話せることもあるのだろう。いつか、屋敷でもあんな風に喋ってくれたら良いのにと思った。


 ――昼食もそんな調子で終了し、プロドリック卿は午後の仕事へと戻っていった。


◇◆◇



 昼間の内に向かう次の施設は、騎士団の練習場だ。朝方に老婆から勧められたことをシエラに伝えたところ、シエラがエレノアに催促して早速、騎士団へと向かうこととなった。

 行くと決まってからはシエラは、上機嫌でエレノアと手を引っ張りながら歩いていた。場所も分らないのに気持ちだけが前に進んでいる。


「場所しってるのか?」


 と俺が尋ねると、シエラは即答で『わかんない! けど早くいかなきゃ!』と、練習場が逃げるでもないのに、気持ちが前のめりな回答が返ってきた。


「なんでそんなに焦ってんだ?」


『だって~……セトばっかり、練習できてずるいもん~……、しぇーらがおうとにくるまで、練習できなかたんだもん』


 確かに、王都までの移動中は剣術の練習などはできるはずも無いので、俺がシエラと交代している時は、魔術の訓練の一つである瞑想をおこなっていた。

 傍らでエレノアが直接教えてくれる環境かにもあったので、俺はそんなに退屈はしていなかったのだが、馬車に飽きたシエラにとっては退屈な時間を強いられていた。


 活発で根は真面目なシエラにとっては、何もできない数日間というのは苦痛だったろう。


「まぁ、俺ばっかりってのは確かにな……、けどハシャギ過ぎて怪我とかしたら、お父さんに心配かけちゃうから注意するんだぞ」


『大丈夫だもーん!』


 俺が魔術を習い始め、毎日コツコツと鍛錬を重ね続けている成果もあるが、身体強化の魔術をシエラに使えば、大人に匹敵するほどの脚力や腕力をえられる。

 もともと運動神経とバランス感覚が優れているシエラに身体強化が加われば、ちょっとやそっとじゃ怪我などはしないが、小さい子供特有の危機管理能力の無さには心配が尽きない。本人が思っている以上に体に無理を掛けている場合もあるからだ。

 いまだにシエラがジェイラスとの剣術の鍛錬をした後は、全身の筋肉痛に悩まされるのだから、肉体をかなり酷使しているのがよく分かる。


 起きるたびに、全身の筋肉が悲鳴を上げた状態からスタートする日々がまた始まろうとしている……


 そんな事を考えながらスマートフォンの画面を眺めていると、どうやら騎士団の宿舎に到着したようだ――。


・クロノメーターは本来は航海で使用される、高精度な時計のことを指すそうです。緯度経度の計算を行 うためのものだとか。

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