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-第21話- 王城の貴族

 ◆◇◆



 王都に到着した翌朝は、シビルと二人きりで朝食を取ることとなった。ジェフは早朝から公務があるらしく、仕事で城の方へ向かっていったので食堂にはいない。王都に付いたばかりなのに仕事に早速取りかからなくてはいけないと言うのは、いささか気の毒に思う。


 一家の主を見送った後は俺とシビルとエレノアの三人で食堂へと向かった。


 朝食に出されたのはベーコンのような燻製肉を焼いたものと、薄味スープに堅いパンだった。日本人として生きていた年月が長い身としては、お米とお味噌汁を頂きたいところだが、出された物に文句を言うほど野暮ではない。


 それに普段、朝食を食べる機会が少ないので内容は兎も角として、感謝してご相伴にあずからなければ罰があたる。

 なぜ、俺がシエラの代わりに朝食をとっているかと言うと、先日の夜はシエラが興奮しっぱなしでなかなか寝ようとしなかったからだ。


 そして、今朝エレノアに起こされたシエラは『セト~かわってぇ~』と、寝ぼけた声で頼まれたからだ。

 しょうがないとは思いつつも渋々、承諾してしまった。あまり甘やかすのは良いことでは無いのは分かっているが、可愛くお願いされたらどうにも断り辛く、仕方なく了承してしまったのだ……。


 眠気や倦怠感などの肉体に由来する症状は、結局は体をきちんと休めないと『夢の部屋』から交代したとしても、そのまま引きずる事になる。

 しかし、シエラの若い肉体は数時間の仮眠や休憩でも十分に整えられるので、体力的には大人に劣るものの、回復速度は驚異的だ。前世の三〇代だった肉体から比べたら羨ましい限りの回復速度だ。


 睡眠不足のシエラの肉体で、うつらうつらとする意識の状態で不意にハリのある声で尋ねられた。


「スープのお代わりはいかがでしょうか?」


「……もうお腹いっぱいなので、大丈夫です」


 朝から眩しい笑顔を見せる腕の太いギャルソンがお代わりを勧めてくれたが、脂っぽい朝食はシエラの若い体的には問題ないと思うが、精神的なものと味の好みもあり断ることにした。

 ちなみに、ギャルソンの名前はグルドさんと言うらしい。



「あら、もういいの?」


 と、シビルは小首を傾げながら聞いてきたが、俺は首を縦に振ってこたえた。


「お食事が終わった後は、お母さんも用事があるから暫くは戻ってこられないわよ。今日はエレと一緒にいてね」


 ジェフだけでは無く、シビルも貴族の女性として忙しいのだろう。シエラは起きた時に少し愚図りそうだが、聞き分けが良い子なのでその辺はきちっと説明すれば問題はないだろう。

 それに、夜まである程度は自由に城の中を散策ができるので、かえって都合がいい。


「はい! 良い子にしてます!」

「じゃあ、いくわね。 エレ、シエラの事を頼むわね」


 眩しい笑顔の圧倒的存在感のあるグルドさんの後ろで、気配を消していたエレノアが深くお辞儀をした。エレノアがいること自体に、言われるまで気づかなかった……。




 朝食が終ってシビルはそのまま館を出ていき、残された俺とエレノアはグルドさんの勧めで王城の中庭に赴くことになった。

 中庭は、ヴェルゴード領の屋敷の庭よりも広く、手入れも細かいところまで行き届いているのが見て受け取れた。

 花壇には色とりどりの花が植えられ、芝生も綺麗に切りそろえられている。春先の温かな日差しも相まって髪を撫でる風がとても心地よい。


 エレノアと二人で散歩した後に二人でベンチで休憩していた。散歩中もほぼ一言も喋らないエレノアだが、彼女が無口なのは慣れたもので沈黙事態は別に気まずいものでもなかった。

 そもそも女性と二人きりで出歩く経験自体少ない俺に、そんな高度なコミュニケーションが取れるはずもない。


 休憩中も二人で、ベンチに座ってただ呆けているだけだったのだが、エレノアの隣は妙な安心感と朝の眠気も相まって、うつらうつらと船をこいでいたようで、意識は徐々に遠のいた。




「――――。」


「……――。」


 誰かの声が聞こえる……。


 温かく優しい女性の声だ――。


「こんなところでお昼寝をしていたら、風を引いてしまうわよ?」


 ゆっくりと目を開けると、そこには白髪の老婆のドアップが飛び込んできた。


「あ……寝てしまって、それで……えっと?」


「ふふふ。今日は暖かいものね」


 起き上がり、周囲を確認したがエレノアがいつの間にかいなくなり、代わりにいかにも好々爺といった老婆がベンチの前で屈んで俺を見ていた。

 飾り気がない地味な紺色のロングドレスを纏い、長い白髪を後ろでひとくくりにしたどこにでも居そうな老婆だ。


「どちら様でしょうか?」


「私はこの城に努めている、ただの通りすがりの老婆よ。あたなはあまり見ない顔だけど、どこからきたのかしら?」


 満面の優しい笑みを浮かべる老婆は、高貴な雰囲気もないし城で務める従者だろうか?


「私は、ヴェルゴート子爵の娘のシエラ ヴェルゴードです」


「あらあら、じゃあ昨日来たばかりなのね。ちゃんと自分の名前が言えて偉いわね」


 老婆は、ドレスのポケットから小さな金平糖ぐらいの大きさの鼈甲色の飴玉を渡し、微笑みながら頭をなでてきた。

 前世での小さい頃に、父の田舎の御婆ちゃんの家に行ったのを思い出した。飴玉を渡して、頭を撫でるのはどんな世界でも同じなんだろう。


「そういえば、ここにもう一人いませんでしたか?」


「んー? 私が来た時にはここにはあなたしかいなかったわよ?」


 居眠りをしてからどれぐらいの時間が経ったかは不明だし、エレノアがどこに行ったのかも分からない。しばらくすればエレノアも戻ってくると思うのでとりあえず待機することにする。


「有難うございます。従者の者が戻ってくるまで、私はここで待たせていただきます」


「小さいのに偉いわねぇ~! ふふふ。それにしても貴女は変わっているわね」


 老婆は俺の頭を撫でながら、俺の事を変わっていると言った。シエラの見た目で変わっている事なんて無いと思うが。


「どこか、変なところでもありましたか?」


「体とオドがチグハグなのよねぇ? 私も長く生きて来たけど、貴女みたいな子は初めて見たわ」


 オドが見えているってことか? いまいち話の内容が分からない。


「えっと……、それはつまりどういった?」


「そんなに気にすることではないと思うのだけれど、オドの大きさと体の年齢が合っていないと言えばいいのかしれね? 不思議な事もあるものね」


 確かに、オドは魂みたいなもので俺の年齢は三〇代だった。シエラの年齢は今は五歳児なのだから確かにチグハグだ。

 しかし、この老婆はどうやらオドを確認する方法があり、その性質までわかるようだ。あまり変な返答をすると、俺の存在もばれてしまうしここは上手く言いつくろおう。


「どうしてですかね? 私にもよくわかりませんが、魔術の練習をしてるからですかね?」


「まぁ! こんなに小さいのに魔術の練習をしているのね! 偉いわねぇ~! じゃあ将来は魔術師を目指すのかしら?」


 またしても頭を撫でられながら、老婆は上機嫌のまま笑顔を絶やさない。それに、将来に関しては俺だけならば魔術師を目指してもいいが、将来はシエラがしたいことをやらせてあげたい。


「いえ、将来は父の後を継ぎたいと考えています。それに剣術も習っておりますので」


「それは立派ねぇ! じゃあ時間があったら近衛騎士団の訓練場に行くといいわ。貴族の子供達の剣術指南もおこなっているから! 第一師団長を務めているフリッグを訪ねるといいわ」


「はい! こんどお伺いしてみます!」


 王都にきて、シエラの剣術の練習は一時中断するかと思ったが、指南役と練習場所があればシエラの練習も中段する必要はなさそうだ。

 シエラはまだ夢の中で寝ているようなので、後で伝えておこう。


「それじゃあ、私は用事があるからこれで失礼するわね。女の子が外でお昼寝は危ないから注意しなさい。次から気を付けるのよ。城の敷地内なら大丈夫だけど、もしもの事があってからでは遅いから」


「はい……、すいませんでした」


 老婆は、うんうんと頷きまた頭を撫でてから、そのまま去っていった。



 それから、老婆の姿が見えなくなってから直ぐにエレノアも戻って来た。


「――……お嬢様……、お待たせ致しました……」


「どこ行ってたの?」


 エレノアは目線を王城へと向け、そして呟いた。


「私が魔術を習った方のところに……」


「へぇ~、じゃあエレの師匠ってこと?」


「はい……、ただあの方は……」


 エレノアに魔術を教えた人物に何か問題があるのだろうか? 俺の魔術の師匠はエレノアなので、一度挨拶だけでもしておきたい。


「エレの御師匠様なら一度あってみたいな! 凄い魔導士なんでしょ? それなら会ってみたいな!


「はい……畏まりました」


 エレノアの返事は少し歯切れが悪かったが、承諾してくれたのでエレノアの師匠の元へと向かう事にした。

 向かった先は王城の中にある、宮廷魔術師団の研究室だそうだ。


 ヴェルゴード一家が城に来る前に、事前にこの国の国家体制を勉強していたのだが、基本的には『アガル王』を最高位とした、ピラミッド型の社会構造になっている。この辺の社会構造は、前世の地球でもありがちな社会構造だった。

 また、国王から下の身分はは大きく三つに分類されている。第一身分が王族と上級貴族と上級聖職者がほとんどだ。第二身分は中級以下の貴族達や大商人や中級聖職者になる。第三以下の身分は平民や国政や地方政治に関わらないような人達だ。

 ヴェルゴード家は中級貴族に属する立場にあるため、第二身分と言う事になる。


 貴族階級に関しては、上から公、侯、伯、子、男と一代限りの爵位で騎士と準男爵がある。各爵位の中でも純男爵と騎士爵は領地を持たない。他に領地を持たない貴族は世襲制の五等爵でも、王城で働く法衣貴族は例外だ。彼らは王都で政治経済文化を回す役割を担っている。

 五等爵の制度は地球の西洋文化と同じような感じだったので、爵位の名前の翻訳にあまり困る事はなかった。

 騎士は領地を持った地方貴族や王城で働く各分野の高位の爵位もちが人数制限性で、任意で爵位を与える権限をもっている。我が家のジェイ爺ことジェイラスも騎士の爵位を持った貴族らしい。

 準男爵の身分を持つ者は、公爵か侯爵が民間の富豪や商人を推薦し、王城で政治家として働かせるための制度だ。騎士との違いは、推薦後に王の最終決定が無ければ授爵できない点にあった。

 騎士は国家公務員のような立ち位置で、準男爵は政治家のような立ち位置にあるようだ。


 今から向かう、宮廷魔術師団や近衛騎士団は騎士爵をもっており、魔術師団は文科省で騎士団は防衛省のような役割を持っていると考えれば理解しやすかった。



 そうこうしている間に、宮廷魔術師団の研究室までついた――。

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