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-第00話- プロローグ

 約五年かかった。俺が前世で、事故に逢い今にいたるまでにかかった期間だ。


 俺が目覚めたのは、いくえにも描かれた魔方陣や、難解な文字が刻まれたガラスの浴槽のなかだ。

 浴槽といってもここは、風呂場などではない。この部屋のもともとの用途は、子供部屋だったのだが今はこの場が、子供部屋だったと言われても誰にも信じてはもらえないだろう。


 まず、部屋のいたる箇所に浴槽と同じような魔方陣や文字が、細部にいたるまで美しく描かれており、それらは薄っすらと緑色に脈を打つように点滅をし、この部屋で悪魔召喚をする儀式がおこなわれていた!と言われても言い逃れができないほどの、異様さと美しさだ。


 ―――俺はそもそも悪魔では無い。


 正真正銘の人間(・・)だ。召喚されたのではなくこの部屋でたった今、完成したばかりの人間(・・)だ。

 生れてきたのではなく、創造された人体だからといって『人』ではないとは言わせない。


「心のありかたが、―――その生きかたや存在を具象化する。」と、この体を手に入れるきっかけになった、魔王が語っていた。


 俺はそんな思いを巡らせながら、完成したばかりの体を確認した。


 完成したての体は、赤ん坊ほど非力な肉体ではないが、幼さを隠すことのできない小ささだ。年齢はこの世界へと転生し、過ごした時間と同じぐらいの歳月、――五、六歳くらいの肉体だろう。

 髪の色は綺麗な銀髪で、自分の胸のあたりまで伸びた長髪を指ですくと、艶やかな手触りを感じることができる。


 俺は視線を上から下へと落とし、細く引き締まった肉体を確認していく過程で、決定的な欠陥を発見した。


 ――俺が製作者にオーダーした性別とは、まったく違うものになっていた。


 この件にかんしては、関係者各位を問い詰める必要性がでてきた。


 俺は、浴槽に満たされた赤く濁った液体からでて、まず一番最初に報告と御礼を言いたい人物がいる。その人物は、この世界にやってきた俺を最も身近で支えてくれ、最初に出会った人物だ。


 そして、今から語るのはそんな『小さな勇者』との出会から体を手に入れるまでを手始めに語ろうと思う。


 そう、五年前の事故を切っ掛けにした、あの日のことを――。



 

 ――きっとただの平凡な人生だったのだろう。


 他人にいわせれば、そんな回答が返ってくることは俺自身が最もわかっている。


 平均的な成績に、平凡な容姿。


 これといって、褒められるような特技もない。


 辺り障りのない事勿れ主義な性格で、慕われたり疎まれることもない。


 そんな生きかたを、前世で俺はしていた――


 俺が前世の世界で、暮らしていた場所は坂の多い地区だった。


 深い理由は特になく、会社への通勤に便利な物件を不動産屋が勧めてくれたので、立地条件と値段を理由に即決で借りた場所だ。


 ――その判断が、俺を死にいたらしめる理由の一つになるとは、まったく予想していなかった。


「うあっああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は今その坂を、壊れてきかなくなった自転車のブレーキを必死に握りながら、猛スピードでくだっている途中だ。そして俺の人生の旅路も、加速し制御を失った自転車と共に終了しようとしている。

 坂の終着点は、T字路の行き止まりになっており、行き止まりには車止めのポールによって道は塞がれている。


 ポール越しには、階段の頭が見える。


――――『ドッゴン!!』


 速度を殺すことなく、ポールに正面から衝突し体は宙へ放り投げられた。衝突の衝撃で、意識が飛びかけたがかろうじて俺は、意識を失うことはなかった。

 体は宙に舞い、その時間のなかで世界はゆっくりと回転し、やがて階段の踊り場が俺に向かって着実に死を運ぼうとしている――




『グシャ!』


 俺を襲った二度目の衝撃は、全身の骨を砕き、肉を裂き、眼のまえの光景を真っ赤に染めあげた。さらに、階段にはまだ続きがあり、俺の体は勢いをそのままに最下層へと落ちていった。

 止まったころには、すでに人の原型を留めていないと思わせるぐらいの大怪我を、負っていることは全身に広がる痛みが証明している。


「ガッはっ!!」


 全身をほとばしる激痛に、意識を失わなかったことが恨めしい。


 意識を失わなかった理由は、腕を頭へとあてがい頭部だけを守ったからだ。頭部からの痛みは、全身の痛みにくらべて軽いことから軽症かもしれないが、頭以外は裂傷に骨折に内蔵が破裂していることが容易に想像できる。


「じにだくない…だれが…だずげぇて…」


 俺は、絞り出すように声を出したが、周囲に人の気配はしない…


 だんだんと、寒気を感じ眠くなりだした…


 もう、このまま…


 おわって…


 しま…

10月14日 誤字修正致しました。

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