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書籍版第1巻発売記念SS「ゴレス外伝:黒狼が吠え猛る時」

『NO FATIGUE ~24時間戦える男の転生譚~①』(オーバーラップノベルス)発売記念ショートショートです。

《略奪旅団》の異名を持つ傭兵団〈黒狼の牙〉団長ゴレスが主人公のため、残酷表現がございます。苦手な方はご注意ください。

 ――俺はゴレス。

 略奪旅団として悪名高い傭兵団〈黒狼の牙〉を率いる者だ。


 ドワーフの父と人間の母から生まれ、どちらの種族からも忌み嫌われてきた。


 身体は頑丈で武技にも長けていたが、血統を重視するドワーフは俺を兵団に加えようとはしなかった。


 かろうじて潜り込んだ人間の王国でも、ドワーフの血を引く俺は陰に日向に差別された。

 戦功をあげても横取りされ、それに文句を言うことすら許されなかった。


 頭にきた俺は、その人間の指揮官の頭を手斧でかち割って人間の街を逃げ出した。


 それからしばらくは、野盗の真似事をして飢えをしのいでいたが、そうするうちに俺の腕を慕う者たちが現れ始めた。


 最初は不気味に思い、利用されているようにも思った。


 が、彼らもまた、人間や他の種族から爪弾きにされた者たちだった。


 彼らの大部分は殺人だの強盗だの強姦だのといった重犯罪を犯していたが、俺にとってそんなことはどうでもいい。


 大義名分の下に人を殺せば英雄であり、ムカつく相手の頭をかち割ったら犯罪者だ。


 しかし、その2つに一体どれだけの差がある。


 多数決で殺していいかどうかを決めるのならば、俺のような半端者は真っ先に「殺していい」相手だと言われかねん。


 俺は、自分を殺そうとやってくる相手に慈悲を乞うような腰抜けじゃない。

 俺に向かって皆が死ねと言うのなら、俺もまた、皆に向かって言ってやる。

 死ね、と。



 俺は、盗賊やその一歩手前にある食い詰め者たちを糾合して、50年来の内戦が続くソノラートで傭兵団の旗を上げた。

 団のシンボルは、人間どもに忌み嫌われる黒狼だ。


 〈黒狼の牙〉は、その最初から、奪い、犯し、殺し、焼き尽くした。


 時には、雇い主にすら牙を剥いた。

 奴らは馬鹿だ。

 黒狼を、飼いならせると思っているのだから。


 まともな騎士などとっくの昔に死に絶え、丸腰になったソノラートの都市を攻め落とすのは簡単だった。

 雇った傭兵に奪われ、犯され、殺され、焼き滅ぼされた都市の領主どもは、凄まじい形相で「忠義を知らぬ野犬ふぜいが!」と噛み付いてくる。

 その間抜けさ加減には苦笑いすら浮かばない。

 守り手のいない都市に飢えた野犬を引き入れたのは自分だろうに。

 俺は領主の顔に唾を吐きつけて、部下に命じて首を落とさせた。


 もう少しまともな領主もいる。

 数少ない騎士や民兵をまとめあげ、傭兵団の手綱を取って、自らの防衛戦力をかさ上げしようとするタイプの領主だ。


 が、俺たちは黒狼だ。

 飢えた狼の群れは、いちばん強い者――群れのボスにしか従わない。


 俺はそういう時に、部下たちにこう言ってやる。

 この都市の金を奪い、女を犯し、歯向かう馬鹿を殺し、こじゃれた建物を焼き尽くすことを想像してみろ、と。


 部下たちは奮い立って俺のために働いてくれる。

 そして、俺に隠れて部下たちに仕官の道を囁いてきた領主の部下を喜んでぶち殺してくれる。

 後は、奪えるものを奪い尽くし、街を焼いて次の街へと赴くまでだ。


 

 俺が、悪神モヌゴェヌェスと出会った時のことを話そう。


 俺は珍しくへまをやって、周辺の領主どもの連合軍に包囲され、絶体絶命の危機にあった。

 いつも争ってばかりの領主どもが俺たちを討つために連合するなんざ、腹を抱えて笑いたいような事態だったが、状況はとんでもなく悪かった。


 怒りに燃える騎士たちの突撃で、歩兵を中心とする〈黒狼の牙〉の軍団は散々に荒らされた。

 馬上から槍で俺の部下を小突き回して遊んでる騎士までいやがった。

 そのさまは、まるで野犬を小突き回して何突きで死ぬかを賭ける最貧民の博打のようだった。


 俺は怒りに顔を赤くしながら部下たちに檄を飛ばし続けた。


 が、部下たちの動きはみるみる悪くなっていく。


 そこへ、ゴインという、俺のかわいがっていた副官がやってきた。


 耳打ちさせろと言ってきたゴインの言葉に従って、俺は大きく上体を傾けた。


 しかしそこで、俺の黒狼としての直感が働いた。


 あわてて身をのけぞらせた俺の眼前を、ゴインの手にしたナイフが切り裂いていく。

 その軌道は、紛れもなく俺の首を狙ったものだった。


 俺は問答無用でゴインの頭を掴み、地面へと叩きつけた。


 裏切り者は粛清した。

 そう思ったのだが、顔を上げた俺に突きつけられたのは、恐怖に震える槍、槍、槍……。


「てめぇら、俺を――」


 裏切るつもりか、と言い切るまもなく、槍が次々と突き出され、俺の身体を貫いていく。


 ――俺は死んだ。


 そう思って目をつむったが、いつまで経っても終わりの時がやってこない。


 俺は目を開けた。


 そこは、どこまでも続いていそうな真っ暗な空間だった。


 はじめ、俺は自分の目がおかしくなったのかと思ったが、違った。


 その闇の中には何かがいた。


 ――悪神モヌゴェヌェス。


 無学な俺も、さすがに名前くらいは聞いたことがある。


 姿が見えないにもかかわらず、そこにいるとしか思えない凝集した闇の固まりは、ゆっくりと俺に語りかけてくる。

 語りかけるというよりは、伝わってくるという感じだ。


 話は難しいことではなかった。


 俺の寿命をくれてやれば、力をくれるというのだ。


 俺は一も二もなくうなずいた。


 力がほしかった。


 誰にも負けない力が。


 誰も、俺を裏切るなんて考えることすらできないような、圧倒的な力が。


 俺はそうして得た力を使って、部下だった裏切り者どもを粛清し、そのまま、領主連合軍を半壊させて逃げ延びた。


 そうして、誰もやってこない、山中の安全な穴蔵を見つけてから、俺は人知れず嗚咽した。


 ゴイン、ガスパーニュ、ブンド、モブ、ハッサン、アスバル。


 おまえらだけは、俺の仲間だと思っていたのに。


 裏切られれば怒るものだと俺は思っていた。


 が、本当に信じていた者に裏切られると、怒りすら湧いてこないということを、俺はこの時初めて知った。


 あとに残ったのは途方もない虚無感と悲しみだった。


 俺は、


「悪神、悪神!」


 そう呼ばわって、さっき別れたばかりの悪神を呼び出そうとした。


 が、何か制約でもあるのか、どれだけ大声で叫んでも、悪神はやってはこなかった。


「――寿命を、もう20年くれてやる!

 だから、俺にもっと力を寄越せ!

 聞こえてるんだろう!」


 ごっそりと、身体から何かが抜き取られる感覚があった。

 そしてその代わりに、冷え冷えとした、しかし触ると灼熱のように熱い闇の塊が、俺の胸の中に現れたのがわかった。


 俺は穴蔵から飛び出した。

 穴蔵から見下ろす山の麓、山の狭間にあたる部分に、半壊した領主連合軍が陣を敷いている。

 俺は手にした槍に力を込めて、連合軍めがけて投げつけた。

 よくわからん魔力がしこたま乗せられた槍は、着弾するやいなや爆発し、連合軍の騎士どもを汚い肉の塊へと変えていた。


「殺してやる! 殺してやるぞおおおおおおっ!」


 喉から血を吐くほどに咆哮しながら、俺は山を駆け下る。



 ――それから一年。

 俺は再び結成した新生〈黒狼の牙〉とともに一世一代の賭けに打って出る。


 目標は、サンタマナ王国。

 力が全てを支配する、俺のための国を作るのだ。


 そして、その国を使って、他の国から奪い、犯し、殺し、焼き尽くす。


 悪神なんざ関係ない。

 俺が、そうしたいからそうするのだ。



 ――俺はゴレス。

 略奪旅団として悪名高い傭兵団〈黒狼の牙〉を率いる者だ。

書籍版第1巻、本日(7/25)発売です。

ウェブ版ともどもよろしくお願い致します。


15/7/25

天宮暁

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