男の心と身体の事情 ①
お久しぶりの更新でスミマセン!
R指定にどんな文章が引っ掛かるの分からないので
ムーン版ばかり更新しておりました。
これから、一か八かで更新します!
際どい文章は無いと思いますが、引っ掛かったらゴメンナサイ!
「で、急に泊まりに来た理由を聞かせてくれる?」
白いソファーには座らず、床の黒いラグの上に体育座りしている俺に光は缶ビールを渡しながら訊いた。
「…」
現在、俺は電車で2駅先の光のマンションに居る。
終電に乗る前に、光に連絡して転がり込んだのだ。
深夜にいきなり「泊めてくれ!」と言った俺を迎え入れてくれた光には、どんなに恥を晒そうとも、ちゃんと説明をしなければならない。
幼馴染み同士隠し事はしない!というルールが、俺と光の間にはあるからだ。
が、自分の仕出かしたことを思い出すと、どうしようもなく羞恥心に捕らわれて、顔に熱が溜まり泣きそうになる。
「佑ちゃん?」
光は二人で話すときは、俺を“祐ちゃん”と昔ながらの呼び名で呼ぶ。
中学を卒業する頃、さすがに高校に入ってまで人前での“ちゃん付け呼び”に抵抗があると俺が話してから、そういう使い分けになったのだが…。
俺としては、面倒だろうと思うその呼び方の使い分けは、光に取っては幼馴染みで親友である俺が特別だという意味があるらしい。
「親友なんて何人も出会えないからね。」
確かにそうだが…これをもし桐谷が聞いたら、また顔を青くしそうだ。
「祐ちゃん、大丈夫?」
俺は光の心配そうな視線から逃げるように顔を両手で覆い、下を向いて話し始めた。
「…た」
「た?」
「…勃っちゃったんだよ。」
「誰に対して?」
「…ゆ」
「由梨子さん?」
いきなり、光の口から由梨子さんの名前が出てきて、俺はソファーの上に飛び退いた。
「な、なななななな、なんで!?」
「…やっぱりかぁ…。」
俺は光から離れるようにソファーの端に寄ったが
光は程よい距離で俺の隣に座り、缶ビールを開けて一口飲んだ。
「や、やや、やっぱりかぁ…って!お前は何者だ!?本当に魔女の末裔じゃないのか!?お婆さん、イングランド人だし!」
「魔女の末裔?僕、どっちかといったら、魔法学校の先生みたいに髭を蓄えた魔法使いが御先祖様の方が良いんだけど?」
「お前が髭を生やしても似合わないように、例え御先祖が魔法使いだったとしても髭は生やしてなかったと俺は思うぞ?」
「そうかなぁ?…まぁその話しは後でじっくり掘り下げるとして…。」
「お前、後でって、まだこの話を膨らます気か?」
「なんか楽しそうじゃない?」
「…好きにしてくれ。」
「うん、そうする。…で、実はさ、ギリシャに行く前、健康診断を受けに病院に行ったんだけど、事務所が指定した病院が偶然にも由梨子さんが入院してた病院だったんだよね。」
「え?」
「診察終わってロビーで座ってたら、知らない人が声かけてきて…良く見たら由梨子さんで僕もビックリしたよ。」
「…お前、良く見ただけで由梨子さんだって良く分かったなぁ?俺が良く見ても、由梨子さんがどうか半信半疑だったのに。」
「由梨子さんね、左の瞼に小さなホクロがあるんだよ。普段は二重の奥に隠れちゃってるけどね。あとね、瞳の色は透き通ったブラウンでとても綺麗なんだよ。」
光の言葉に絶句する。
人間観察は光の趣味の一つだが、そこまで由梨子さんを細かく見ていたなんて驚きだ。
しかし次の瞬間、言い知れねモヤモヤした気持ちが胸の辺りに溜まり始めた。
「あ、もしかして祐ちゃん、嫉妬してる?」
無言で睨むと、光は吹き出して愉快そうに笑った。
「大丈夫だよ、祐ちゃんの由梨子さんに僕は恋愛的な興味がないから。取ったりしないよ。」
「…うっせーよ。」
光はソファーの背もたれにパタッと身体を預けると、微笑みを浮かべた。
「そっか…やっぱり由梨子さんのこと好きになったんだね、祐ちゃん。」
「やっぱりってなんだよ?いつも察し良すぎるだよ、光は…。昼間のことだって、なんであの一瞬見せた隙だけで、俺に好きな人が出来たってなんで分かるんだよ?」
「ん~、祐ちゃんとは長い付き合いだからね。だって僕ら、友達になってもう20年だよ?分からない方が可笑しいと思う。」
「それにしたってさぁ…お前の直感は人外過ぎる。」
「そう?まぁ…祐ちゃんの女の子の好みって、初恋から全然ブレないからね。性格は温厚で、いつも笑顔のなごみ系。外見は女の子らしい程度に髪の毛が短くて、目が二重で大きくて、ぽってりした唇の可愛い女の子。」
うっ…完全に覚えてやがるコイツ。
まぁ…お互いに初恋から歴代の彼女を知ってるから覚えていても不思議はないけど…。
「それに僕、由梨子さんが“ふくよかさん”だった時から、由梨子さんって祐ちゃんの好みだよなぁ~って思ってたんだよね。」
「は?」
「祐ちゃん、家政婦さんの条件として体型や年齢のことしか見てなかったから気付かなかったんだろうけど、最初っから由梨子さんは祐ちゃんが好きになる要素をちゃんと持ってて、知らず知らずに祐ちゃんは由梨子さんを選んでいたんだよ。」
「…」
完全に絶句だった。
恋愛対象の条件を避けていたハズが、最初から無意識に恋愛対象として由梨子さんを見てただって?
信じられないという顔をしていると、光は説明を始めた。
「人間って生き物は、特に男は自分が好ましいと思う要素を、知らず知らずに視覚で先ずは判断しているものなんだ。確かに祐ちゃんは、“ふくよかさん”だった由梨子さんを恋愛対象から外していたと思うけど、無意識下で安心を求める気持ちが、恋愛条件とリンクしてても不思議はないと思うよ。だって、安心出来ない相手と恋愛なんて、逆に考えれば無理だと思わない?」
「…」
「祐ちゃん、ちゃんと目から落ちた鱗は回収して帰ってね?」
固まっている俺に、またしょうもないことを光は言ってきた。
「目から鱗が落ちたのは認めるが、そんなものを回収できるシステムが何処にあるのか教えてくれ!」
「きっと、未来から青い猫型ロボットが持ってきてくれるかもよ?」
光のしょうもない話には、俺もしょうもない話で返す。
「その前に落ちた鱗をスカイフィッシュ辺りがエサにしてるかも知れないぞ?本当は何を食って生きてるのかは知らないが。」
「で、本題に戻るけど、なんで祐ちゃんのムスコが元気に起立しちゃったの?」
「…話せば長くなる。」
「前置きだって十分長かったし、今更いくら長くなっても構わないよ?どうせ僕、明日はoffだし。」
俺は深く息を吐いてから、朝の出来事から商店街での出来事までを軽く説明し、そして夕方マンションに帰ってからのことを話し始めた。