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第9話 ~赤髪のエルフ~

 中央の方に移って今日で3日ほどになるわけだが、アイゼンはフレンドが多いのでその付き合いもあって中央に移ってからは行動を共にしていない。ヴァンのほうは「おれ、ここの女性プレイヤーを網羅するぜ!」なんて言葉を最後に姿を見ていない。今日もおそらく大都市の中を歩き回っているのだろう。

 俺はというと、都市の行動をある程度把握した後は愛剣と共にモンスターを狩っていた。

 今のところ一度も死んでいないが、出現するモンスターは《始まりの街》周辺とは比べ物にならない強さを誇るのでピンチに陥った回数は極めて多い。おかげで回復系アイテムの消費が激しく、毎日のように買い足している。


「……ん?」


 いつもポーションを買っているプレイヤーの露店に足を運んでみると、仏頂面の女性アバターが片肘を着いていた。

 俺の記憶(といってもたった3日の分だけなのだが)が正しければ、いつもは《売り子》が店番をしていたはずだ。《売り子》というは、簡単に言えばプレイヤーがいないときにNPCのように店番をしてくれるシステムだ。同名のスキルを所持していなければ使えないらしいが。

 普段から仏頂面ってことはないだろうし、多分何かあったんだろうな。

 と、女性プレイヤーに対して思いもするが俺の立場は客。何もしていない客に苛立ちをぶつけるほど、彼女も愚かではないだろう。


「ったく、何なのよさっきの客……どうプレイしようがあたしの勝手でしょうが」


 小声でよく聞き取れなかったが、顔と雰囲気からして良いことを言っていないのは分かる。これは思っていた以上に機嫌が悪いかもしれない。

 何もしていないのに八つ当たりされるのは嫌だが、ここで売っているポーションはプレイヤーメイドだけあって、NPCの物よりわずかばかりだか効果が高い。回復アイテムの補充のためだけに他の店に行くのも面倒だし、八つ当たりされそうならさっさと買って立ち去ろう。


「大体初めて間もないんだから大した物がないのは普通でしょ。何でそれくらいも分からないわけ。どんんだけ自分中心の考え方してんのよ」

「あの……」

「ん?」


 俺の存在に気が付いたようで視線が重なる。

 尖った耳からして種族はエルフ。髪は肩甲骨ほどまで伸びており、色は鮮やかな赤色だ。こちらに向けられている瞳には、俺には全く関係ないはずの苛立ちが宿ったままで鋭さが見える。気が強そうな顔立ちをしていることもあって、内気な性格のプレイヤーはここで立ち去っていたかもしれない。

 ただ現実の顔をあまり変えず、またそのまま使っているのならば美人だと言わざるを得ない。スレンダーな体型も現実と大差がないのならば、何かしらのモデルをやっていても不思議ではないだろう。

 装備は革製の衣服が主体で、レアリティや性能から考えるとレベルは俺と大した差はないと思われる。俺と同様に最近ここに移ってきたのかもしれない。

 一瞬時間が止まったような間の後、女性プレイヤーは内心でやばいと思ったのか、みるみる仏頂面に変化が現れる。


「い、いらっしゃいま――っ!?」


 女性プレイヤーは相当焦ったらしく、足を露店にぶつけた。ゲーム内で痛覚はほぼないに等しい状態になっているので、厳密には痛みを感じているわけないのだが衝撃はある。反射的に悲鳴が出るのは仕方がないことだろう。

 一応良心から大丈夫かと声を掛けようと思ったが、恥ずかしそうに顔を赤らめつつもこちらに視線を向けてきたのでやめておいた。何となくだが、ここで気遣うと追撃になる気がしたのだ。女性プレイヤーは一度咳払いをすると、再度話し始める。


「いらっしゃいませ、本日は何をお求めでしょうか?」

「あぁ、ポーションを」

「ポーション……ですね」


 少しだけ表情に影が差した気がした。おそらくだが、理由はポーションと同様に売られているアクセサリーにあるのだろう。

 ここ数日この店に足を運んでいるが、アクセサリーが売れた気配はない。それどころか、客は俺くらいしかいないのでは? と思うほど人気がない。

 俺が予想するに、このプレイヤーはアクセサリーといった装備品をメインにしていて、ポーションはサブというかスキル上げで作っているのだろう。まあこの都市には俺のような新参者も多く居れば、ベテラン勢も同じくらい居る。見た限りアクセサリーの類のレベルは低そうだから、装備しても大した補正は掛からないだろう。

 売れないのも仕方がない、と思った矢先、ふとあるアクセサリーが目に付いた。形状からしてネックレスのようだ。


「新しいの作ったんだ」

「え……」

「それ……昨日までなかったから」


 もっと明るく言葉数を多くして言えばいいのかもしれないが、あいにく俺は明るいか暗いかでいえば暗いに分類される身だ。無理難題は仰らないでもらいたい。まあ女性プレイヤーの顔には、特に気にした様子はないのだが。


「じゃあ、あんたが……いえ、あなたがポーション買ってくれてた」

「まあ……別にあんたでいいよ。ここはゲームの中だし、俺も言葉遣い良いほうじゃないから」

「そ、そう……じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわ」

「どうぞ。ところで、それ見せてもらってもいいか?」

「え、あぁうん」


 女性プレイヤーにネックレスを渡してもらって性能を見てみる。名前は《フェザーペンダント》。これは俺も知っているアクセサリーだが、彼女のものは多少デザインが違う。

 アイテムを生産する際に多少課金すればデザインを変更できる仕様だったと思うが、まさか今の段階からやっているとは……。売られているアクセサリーの数はそう多くはないが、それでも2桁は売られている。全てにデザインの変更をしたとなると、それなりの額になるのではなかろうか。まあ一般高校生の感覚からすればの話になるが。

 性能としてはデフォルトのものと同様、少し敏捷値に補正が掛かる程度。NPCの店の物よりは多少ばかり性能はいいが、まあスズメの涙と言える。

 とはいえ、俺の装備欄に空きがあり、なおかつ軽装スピード型の剣士だ。ペンダントの値段は俺からしても手頃であるし、買っておいても損はあるまい。

 他にもペンダントを手にしたときから『買ってくれるのかな』といった顔でずっと見られて、ここで冷やかすのも罪悪感が……という理由もあるのだが。まあここで大切なのは買うか買わないかだ。理由なんてどうでもいいだろう。


「これもらうよ」

「ほ、本当!?」

「あ、あぁ……」


 がっしりと手を握られ、輝いて見えるほど上機嫌な笑顔を向けられた俺は思わず身を引いてしまう。撫子はともかく、異性から触れられることに慣れていないのだ。目の前のプレイヤーの中身が男である可能性はゼロではないが、いちいちそこを考えていては疲れる。

 それにVRMMOは、基本的に客観的に自分を見ることができない。そのため性別を偽ってプレイする者は減少していると聞いた。可能性だけで言えば、目の前にいるプレイヤーも現実と同じ性別である可能性が高い。

 料金の支払いが完了すると、女性プレイヤーは顔を俯かせた。どうしたのか距離を詰めてみると……まあ簡単に言えば、売れたことを喜んでいるようだ。人のにやけ面を眺める趣味はないので、無論遠巻きに眺めることにしたが……素直に言おう。正直少し引いた。


「……あ、ちょっと」


 目的は終えたので足早に立ち去ろうと思ったのだが、店主に呼び止められてしまった。

 いったい何の用なのだろうか。他にも買えとでも言う気か。それとも買ったものを着けてみてほしいとでも言うつもりなのか。

 もしそうだとしたら……走って逃げよう。俺は爽太のような性格ではないので、あまりジロジロと見られるのは嫌だ。いや、実際のところはこっちを見ながらさっきのようなにやけ面を浮かべられるのが嫌なのだろう。


「あ、あんた……名前は?」

「……カグヒト」

「ふーん……あたしはフェルド」


 あっそう……別に聞いてないんだけど。

 そんな風に思ったが、まあこれからのことを考えると顔馴染みの店はあったほうがいいし、彼女がこれから有名な職人になる可能性もある。親しくしておいて損はないか。


「別に覚えなくてもいいけど……気が向いたらまた来なさいよね」


 これはどっちで取るべきだろうか。

 前者をメインに取るならば、あまり来なくてもいいということになる。しかし、後者がメインで素直に感情表現が出来ていない――世間で言うところのツンデレに該当するものだと考えると、足を運べというかここを利用しろという解釈ができる。


「あー……多分毎日のように来るかな」

「そ、そう。ま、好きにすれば」


 じゃあ、やっぱり他のところを利用するよ。

 なんて言ったらどういう反応をするのか気になりはしたが、さすがによく知りもしない相手をからかうような真似はできなかった。むやみに敵を作るのは愚かな行動だと思うからだ。

 最後に「また」とでも挨拶をしようかと思ったが、彼女のような性格の相手は慣れていないだけに先を予測するのが難しい。

 そのためフェルドのことが気になりはしたものの、俺はその場を離れるのだった。彼女の顔は何か言いたげだったのは、俺の気のせいだと思いたい。



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