第2話 ~キャラ作成~
1年経った今でも人気が衰えない作品だけに何件か回らなければならないかもな。
そんな風に思っていたが、馴染みの店で無事に目的の物を入手することが出来た。最後のひとつだったことを考えると運が回ってきているとも取れる。まあだからといって調子を良くするようなお気楽な性格はしていないのだが。
「ただいま……って、誰もいないか」
うちの家族構成は父、母、俺の3人である。だが父親は現在単身赴任中であるため、普段は俺と母のふたりだけしかない……のだが、母も朝から晩まで働いているため、朝くらいしか顔を合わせない。
放任主義なところがある母ではあるのだが、眠そうにしながらもいつも弁当を作ってくれている。俺からすれば良い母親だ。
「……まずは」
いつもよりも早いが食事を取ることにしよう。
普段ならば母親の夜食も作るので自炊しているが、昨日から出張に出ている。帰ってくるのは確か日曜だったはずだ。今日と明日はインスタントで済ませてしまってもいいだろう。もしあとで腹が減ったら、まあそのときはそのときだ。
手早く食事を済ませた俺は風呂の沸かし始め、一度自室へと向かう。風呂が沸くまで約40分ほどかかるのだ。その間にやれることはやっておいたほうが賢明だろう。
「さてと……」
とりあえず……課題をやるか。
ブレハーをやりたい気持ちはあるが、課題をあとに回してしまうと後悔するような未来が見えてしまう。小学校のとき、夏休みの課題で苦労した経験があるだけに。
俺の職業は高校生で、金を払っているのは親。最低限度のやるべきことはきちんとやっておくべきだろう。そうすれば親からも教師からも何も言われずに済む。
とはいえ、休日ということで課題の量もそれなりに出ているわけで、風呂が沸くまでの時間で終わるはずもない。
「……もうそろそろ沸くか」
いったん風呂にでも入ってリフレッシュしよう。そんで課題を終わらせる勢いで9時くらいまでやって、ブレハーをしようかな。終わらなかった課題は明日終わらせれば、明後日ゲームばかりしていても母さんは何も言うまい。
……時は流れて9時過ぎ。
俺は予定したとおり、ブレハーを行うために《AWG》と呼ばれるVRゲームを行うためのヘッドギアを装着して顎下でハーネスをロックし、ベッドに横たわりながらシールドを降ろして目を閉じた。
正直に言って、今の鼓動は普段に比べて格段に早くなっている。課題をしているうちに1年前に抱いていた興奮を思い出したのだ。加えて、今の俺には1年前の俺にはなかった想いがある。
起動言語を口にすると、まぶた越しに見えていた光がさっと消えた。暗闇に包まれたかと思った直後、様々な色の光が弾けて、先に進んでいくかのような動きを見せる。それに伴って意識と感覚は現実世界から切り離されていった。
気が付いたときには、仮想の足が異世界に着いていた。といっても、ここまでまだアカウント情報の登録ステージだろう。ブレハーをやる前にもVRゲームをいくつかやっているだけに最初の流れというのは理解できる。
頭上にブレイブハート・オンラインというロゴが出現したかと思うと、目の前に半透明のキーボードが出現する。最初に求められたのは新規IDとパスワードの入力。これは今まで使ってきたものを流用できるので入力はすぐに終わる。
次の工程はプレイヤーネームの入力だった。VRMMOを行うのは初めてではないし、ゲームごとに名前を変えるタイプでもない俺はこれまでと同様に《Kaguhito》と入力。性別は言うまでもなく男性だ。
「んで……次はキャラの種族とクラスの選択か」
このゲームは基本的に人間、エルフ、獣人、ドワーフの4種族から選ぶことになる。プレミア限定版には、これに加えて竜人、悪魔、天使という3種族も選べるらしい。
だがうちは一般家庭であり、小遣いも多くはない。元々出荷本数の少ない限定版はそれだけ値段も高く、今でも一部では高額で取引されているという噂を聞いた。正直に言って、手の出しようがない……わけではないだろうが、出したいとは思わない。
「……まあ無難に人間かな」
ステータスのバランスとしても最も良いし……単純に自分の耳が尖がっていたり、獣耳が生えている姿に抵抗を覚えているのも理由だが。
他人のを見る分には何ともないが、自分がとなると違和感が半端ない。無愛想と言われる俺に獣耳なんかあったら……想像もしたくないな。エルフはまだ耳だからいいけど……魔法よりも物理派だからな俺。
さっさとクラス決めに移りたかったのだが、種族の次は容姿の決定をしなければならなかった。まあ当然といえば当然だと言える。種族によって耳が尖ったり、獣っぽくなったりするのだから。
「時間を掛けて違う自分を作る奴もいるんだろうが……」
容姿についてこれといって言われたことがない俺には、コンプレックスのようなものはないに等しい。表情を豊かにできるのならしたいところだが、これはどうにもならない部分だ。現実の自分に等しい容姿でいいだろう。
VRMMOが発売されてから数年が経過している現在、AWGには色んなVRMMOをプレイする人のことを考えて、他のゲームのアバターをそのまま再現できる機能が搭載されている。そのため、俺は過去に行っていたデータのアバターを流用することにした。
余談になるが、この機能は今のところどのゲームでも行えるわけではない。同じ会社が出しているゲームのみ利用できる機能だ。
ロードが完了すると同時に、目の前に現実の自分と同じ姿のアバターが出現する。変わっている点と言えば、瞳の色が赤くなっているくらいのものだろう。無論、種族が人間ということもあってオプションのようなものは何もない。
「次はクラスか……前から思っていたことだが結構多いよな」
目の前に表示されている一覧には、戦士や魔術師といったスタンダードなものから、錬金術師や魔物使いといった専門的な職業がずらりと表示されている。
クラスの数を減らして種族を増やしてもよかったのではないか、とも思ったりするのだが、発売されてから今まで人気が落ちていないことを考えると、バランスは良いのかもしれない。まあ種族やクラスが被ったところで、見た目まで同じということは何かを参考していない限りありえないのだから、当然かとしれないが。それに
「最初に選べるクラスはひとつ……でもあとからサブクラスとして2つ追加できるんだったよな」
組み合わせを考えるだけでも……やっぱりやめておこう。組み合わせの数を出したところで、その大半は俺にとっては無意味なものだ。自分がこれから行うであろうスタイルに合わせて決めるだけでいい。
やる理由はあれだけど、やるからにはちゃんと楽しまないとな。楽しんでないのに話題として会話するのは、多分俺には無理だろうし。ムードメーカーなんかにはなれない性格しているのは自覚しているから。
「……まったく、色々ありすぎだろ。物理だけで考えても結構あるぞ」
1年前の俺ならともかく、今の俺では抜け落ちている知識が大いにある。スタンダードなものの特長は覚えていても、専門職の得手不得手は曖昧だ。
……あとで変更はできるんだ。最初は基本に忠実に行こうじゃないか。
そう思った俺は、フィジカル系のステータスをまんべんなく補える《戦士》を選択した。初めてVRMMOをプレイする新人が選択しそうなものだが、経験者が選択しても何も問題あるまい。楽しむのはもちろんだが、俺の真の目的は雨宮との話題を作ることなのだから。
「これで始められる……と思ったが、スキルまで決めるのか」
前にやっていたのは初期装備は小振りの剣に革製の衣類って感じだったけど……最低でも武器スキルを選択しろって書いてあるな。つまり、選んだ系統の武器を所持した状態で始められるってことか。
ありがたい、と思いもするが、その分の初期の与えられるであろう所持金から引かれている気がする。まあ人によっては買い物の時間を減らせるわけであり、多少所持金が変わったところで影響は微々たるもののはず。気にすることはないだろう。
初めてプレイする――レベル1のプレイヤーに与えられるスキルスロットは2つ。俺のおぼろけな記憶が正しければ、レベル5で1つ増加し、レベル10でまた増加。その後はレベルが10上がるごとに増加していったはずだ。
「……まあ後のことはそのときに考えるとして、今は目の前のことに集中だな」
目の前に表示されるスキルの数は、クラス以上に膨大な量だ。優柔不断な人間ならば、アバターを作るだけ1日が終わるのではないかとさえ思う。
1年前の俺ならばここで時間を割いてしまった可能性は大いにあるが、人間で戦士という基本的な選択をした今の俺は、ここも愛用者が多いであろう《片手用直剣》を選択した。
俺が行っている組み合わせは、プロモーション動画くらいしか……いや、そこにすらないのかもしれない。そんな思いが脳裏を過ぎったが、俺は俺なのだ。俺らしく楽しめばそれでいい。もうひとつは……あとで決めるか。スキルを何にするか迷うのも楽しい時間なんだし。
そのように割り切って進むと、次に衣服を決めろということになった。色違いによって選択肢は多く見えるが、デザイン自体は多くない。それに装備は時間と共に変わるものだ。ここに時間を掛ける意味もないと思った俺は、シンプルなデザインの黒色を選択して先に進んだ。
すると、ようやく全ての工程が終わったようで今までに決めてきた情報が一覧表で表示された。やっぱりこうしようかな……、という思いのなかった俺はOKボタンを押す。確認のメッセージが表示されたので、再度OKボタンを押した。
全ての初期設定の終了、幸運を祈りますというアナウンスが流れたかと思うと、俺の体が光に包み込む。この光が収束したときには、俺はブレハーの世界に降り立っていることだろう。