坂道
あたしの町には急な坂道がある。そこを自転車で立ち漕ぎをして、息をきらしながら頂上を目指す。前輪がふらつくけど、足と手に力を入れてなんとか、バランスを保つ。
視界の隅にマンションが通りすぎればもう頂上だ。
視界が開けた。朝焼けから視線を下に移す。
海が見えた。それと同時に潮の香りが鼻につく。
自転車から降りて呼吸を整える。整えるのと同時に潮の香りが今度は鼻ではなく、口の中に入ってくる。
これを見にきたんだ、そう思ってまた自転車にまたがった。そして、今度は坂道を降っていく。
どんどんスピードが上がっていく。自転車のペダルから足を外して、あとはもう下り坂に身を任せればいい。
海に視線を合わせて、スピードをあげる。髪を風になびかせて、潮の香りを嗅ぎながらどんどんスピードをあげる。
このスピードなら、今のあたしならどこにでも行ける気がした。いや、むしろ、どこかへ行ってしまいたい気分だ。
景色が視界の隅ですごい勢いで入れかわっていく。
あたしは、風になるのだ。
世の中のしがらみなどを絶ち切ってあたしは、無色透明な風になる。だからあたしは、もうこの世にはいないのだ。
自転車のスピードはぐんぐんと上がっていく。足に力を入れる必要はない。
海が近づいてきた。
スピードがあがる。
ガタガタと音を鳴らす前カゴ。
あたしはもう風なのだ。
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