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シナジー  作者: 鵜野 花
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chapter4~和哉side~

chapter4の和哉sideです。冒頭と最後以外は会話が被っております。

またまた申し訳ないです。

お付き合い頂ければ幸いです・・・。

石渡(いしわたり)さんにしては、めずらしく仕事の上がりが早い一日だった。


「緊急事態だ」と、携帯で人を呼びつけるから、オフィスへと向かったが何て事はない。

久々に残業なしに帰宅出来るから、飲みに行くぞ、という何とも身勝手な理由だった。


「・・・・石渡さん。ふざけてるんすか?」

「お前なー。年に1・2度あるかないかの俺の定時上がりだぞ。これ程の緊急事態はないに等しいんだ。だからこそ、だ。行くぞ!」

「たまには真っ直ぐ帰ったらどうですか?奥さん待ってるんでしょ?」

「俺の可愛い奥さんはなー、子供を連れて癒しに行ってるんだ。邪魔しちゃ悪いだろ?」

「・・・・・つまり旅行に行ってるんすね・・」

「ほら、ゴタゴタ言ってねぇで行くぞ」

「結局強制じゃないっすかー・・」

「あ、みんな悪いな。お先にな」

そういうと編集部の、俺の元職場の面々が、一斉にお疲れ様でーす、と声を出した。


石渡さんはここで編集長をしている。

立場上、部下より先に帰るわけにはいかないが、それでも強制的に定時で上がらなければならない日もある。

それがつまり今日だ。

定時で上がれなくても、深夜だろうと何だろうと俺を呼びつけ、飲みに行くくせに、定時だからこそ行くぞ、というのは全くもって意味が分からない。

――まぁ、日頃から世話になってるし、色々相談に乗ってもらい助かっているのも事実だし、俺自身も家に帰っても一人だから、大して不都合がある訳ではないが・・。





◆◆◆


「・・和哉君、飲んでないんじゃないかね?」

「飲んでます。石渡さんが飲み過ぎなんですよ」


俺が石渡さんと飲むのは楽しいが、いまいち楽しめない理由がこれだ。

――つまり石渡さんは酒が弱い。

自覚あるくせに、一旦飲み始めるとすぐ忘れて飲み過ぎる。

そして帰りは、必ず俺が石渡さんを連れて帰るのが定番だ。


「しょうがねーな。河岸を変えるか・・」

「勝手に決めて即決しないでくださいよ」

「よし。久々に、モネに行くか」

「は?」

「久しく行ってねーからなぁ。マスター元気か?」

「まぁ・・・」

「なんだあ?その覇気のない返事は」

「っつか、もう充分飲んでるんすから帰りますよ」


あの店へ行ったら、彼女に遭遇するかもしれない、そう思うと気が気ではなかった。

俺一人しかいないんならいいが、このオッサンがいるとなると話は違ってくる。


「はぁ?かずやくーん、言ってる意味が分からないんですがあ?」

「はぁ?飲み過ぎの自覚のないオッサンの言ってる意味の方が分からないんですがぁ?」


すると石渡さんが立ち上がった。


「よーし。行くぞ!」

そういうと、伝票を手に持ちレジへと歩いて行ってしまう。

「・・・なにやってるんすかー・・」

ため息をつきながら後ろからついて行く。



「そういや、モネに行くの1年ぶりぐらいだなー」

「・・・そうですか?」

「前回行ったのは定時で上がった時かー」

「・・・・・・」

「和哉君。無視しないでよー」

「本当に行くつもりですか?」

「そうだよ。・・・なんだよ。そもそもあの店を紹介したのは俺だぞ。それなのに・・」

「あー、ハイハイ分かりました!行きましょう!行きましょう!!」

俺はもう半分どうでもよくなって投げやり気味になっていた。











「いらっしゃいませ」

「こんばんは」


石渡さんの腕を引っ張りながら、モネの扉を開けた。


「・・こ、こんばんは・・」

思わず慌てた。

「・・ああ。こんばんは・・・」

(マジか!本当に彼女がいたぞ!!)


かなりのヤバさ加減に、少々気持ちがグラついた。

「マスター。ひっさしぶりー」

石渡さんは俺の気持ちも知らずに、呑気にマスターに声を掛けた。


「石渡さん!ほらっ、周りに迷惑っ!」

「・・・あれ?今、女の子に声掛けられてたでしょ?なになに、知り合い?」

(げ。このオヤジ気がつきやがった!)

「ほらっ。ソファ席に行きますよ」


とりあえず無視させようと気を逸らせた。

石渡さんの腕を再度掴むと、するりとかわされてしまった。


「ねぇ。アイツと知り合い?」

「・・・えっ」

(マズイ!)

「石渡さん!何やってるんすか。行きますよ」

「えっと・・知り合いと言うか・・。少々面識がある程度です・・」

「えっ?!ホント?じゃあ一緒に飲もうよ!」

(オーイ・・・。彼女も人が良すぎるぞ)


慌てながらも石渡さんの腕をやっと掴んだ。


「・・・ごめんなさいね。無視してくれて全然構わないから」

冷静さを保ちつつ、笑顔で話し掛けた。

「・・・えっと・・・私で・・良ければ・・」

(・・・・・・は?!)

「ほらっ。彼女もこう言ってる事だし。いいよな?」

「・・・・・分かりましたよ」


彼女はどういうつもりなんだろうか・・・・。

反応が予測できないコである事は理解していたが、まさかこういう反応をしてくるとは思ってもいなかった。

もちろん嫌ではないのだが、こんな酔っ払いなオッサンの相手などさせたくはなかった。


「で。いつから知り合いなんだ?」

着席早々、いきなりの確信を突いてくる。

「・・・別に知り合いって程じゃないって、さっき彼女が言いましたよね?聞いてました?」

「かずやくん、つめたーい・・」

「・・・・・・・・」

「あ、えと・・・、数ヶ月前にここの店で初めてお会いしました・・」


とりあえず出来るだけ彼女には迷惑をかけないよう俺から言った方がいいだろう。

そう思っていたが彼女から話始めてしまった・・・。


「へー・・。そうなんだ」

石渡さんはグラスに口をつけた。

と思うと、いきなり俺の方を見ながらニヤリとしてきた。


「で、お前からナンパしたんだ!」

「ちょっ。人聞き悪いこと言わないでくださいよ!」

「ち、違います!私は助けてもらったんです!」

「・・・・へっ?」


酷く間抜けな顔で石渡さんは彼女の方を見た。


「あー・・・」

(うわー・・、それ言っちゃいますか・・・)

「この店で絡まれてた時に助けてもらって・・」

「・・・助けた?コイツが・・?」

「?・・・ハイ・・・」


彼女は不思議そうに石渡さんを見た。

「ハハハハハ。マジか?へー。あーそう。へー」

突然、俺の肩を小突き始める。


「痛いですよ!」

「あー、悪い悪い。だってお前そういうキャラじゃないだろー。俺は今猛烈に感動してるんだよ!」

「よく言いますよ。全く・・」


何とも言えない気持ちになり、俺は思わずグラスに口をつける。

石渡さんは、彼女の方を見ながら笑った。


「こいつねー。来る者拒まずなんだけど、去る者は追わずな奴でさー。だから意外でびっくりしてんの!」

「余計な事言わなくていいからっ!」


石渡さんは、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。


「で、かずやくん!彼女は名前何て言うの?」

「・・・・いや・・ちょっと・・」

「・・・はっ?!まさか聞いてないって事はないよね?」

「いや、だからさっき知り合いって程じゃないって言いましたよね?」

「お前、今日名刺あるよな?」

「・・・は?」

「早く出して彼女に渡せ!あっ、良かったらついでに俺のもー・・」

「あんたのはいいから!」


なぜにそうなる?と思いつつ、グラスをテーブルに置くと俺はジャケットの胸ポケットから名刺を一枚取り出した。


「お前・・・なんでそんな所に名刺入れてんの?」

石渡さんの疑問は無視して、彼女に名刺を差し出した。


「で・・・お名前何て言うの?」

まじまじと名刺を見続ける彼女に、石渡さんがにっこりと話し掛けた。


「俺はちなみに石渡って言うの。コイツの元上司でーす」

「あ・・私は松本衣里っていいます」

「衣里ちゃんかー!可愛い名前だねー」


俺は嫌な予感がした・・。

石渡さんは彼女に必要以上に近づく。


「もっちろん名前以外も可愛いよー」

「オイ!オッサン!!何してんだよ」

思わず石渡さんの首を羽交い絞めにする。


「アー、ギブギブ!本気で苦しいってば!」

「いくら酔っててもやっていいことと悪いことの区別ぐらいつけてくださいよ。いい年して全く・・」

「・・・フフ」

「・・・何ですか?」

「和哉君。凄い感情がむき出しですよ」

「セクハラオヤジ。外に放り出すぞ」

「はいはーい。すみませんでしたー。ってなわけで俺はトイレねー」


そう言うと立ち上がり、石渡さんはトイレへと駆け込んで行った。

(全くあのオヤジは油断もスキもあったもんじゃない)

彼女にばれないように小さくため息をつき、俺は彼女を見る。


「ごめんね」

「えっ・・」

「石渡さん。あのエロオヤジのこと・・」

「・・あっ、いえ。大丈夫です」


そう言うと彼女は微笑んだ。

こういう場で、そういう笑顔が出来るって凄いコだな、と少し感心した。


「あの人・・・。仕事はめちゃくちゃ尊敬出来る人なんだけど」

気が付くと、今度は大きなため息が出てしまっていた。


「酒が入ると壊れるっていうか・・・。あんな風になっちゃって・・。なので本当は君を巻き込みたくなかったんだ。迷惑かけちゃうと思って」

「そんなこと・・。そんなことないです。今日、すごく楽しいです」

「本当?ならいいんだけど・・。ただ・・、君を助けた云々の話は俺的には非常に恥ずかしいっていうのもあってね・・」


思わず苦笑いすると彼女も釣られて笑ってくれた。


「あの・・・。私こそ図々しくお邪魔してしまったんじゃないかと不安でした」

(・・・・え)

「それはない。断じてないから安心して」

そういうと彼女は安心したように笑った。

(うわ・・)

「ってなわけで、あのオッサンが帰ってくると更にヤバイ事になるから今日はこの辺で帰った方がいいと思われるんだ」

「・・・あ。そう・・・ですね。そろそろ終電も心配なので・・じゃあ・・」

「ごめんね。慌ただしくて・・」

「いえ。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

「俺の方こそ。嫌な思いさせちゃってごめんね」


彼女は心底驚いたように首を横に振る。


「あ、じゃあお勘定を・・」

「ああ、いい。それはあのオッサンが払うから。心配しないで」

出来るだけ彼女を強張らせないように優しい口調で諭した。

「それじゃ、お言葉に甘えて。ありがとうございます・・」

「いえいえ」

「あ、あの・・」

「・・・ん?」


ためらうような心配するような顔つきだ。

まだ何か心配事でも・・?


「・・・またここで、この店で会えますか?」

(・・・・・はっ?!)


いかん、面食らってては彼女に迷惑だ。


「・・・そうだね。絶対的な約束は出来ないけど、また来るよ」

「私は来月末にここに来ます!」

(?!)

――それは俺に会いたいっていう意味なのか?


「分かった。考えておくよ」

「ありがとうございます!・・・それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみ。あ、遅いから気をつけてね」

「はい」


彼女は満面の笑み、だった。

その笑顔に俺自身がとまどいを覚えた。

しかも何してんだと言われそうだが、心の底から震えたのだ。

(すっげぇドキドキしてんだけど・・・俺・・・・)

彼女はマスターに挨拶をすると夜の闇へと消えていく。


「あれー?!衣里ちゃんはー?」

間抜けな声が、俺を現実へと連れ戻す。

「帰りましたよ」

石渡さんは、すかさず俺の隣へと座る。

「・・あ、そう」

意外に冷めた反応で少々驚いた。


「・・・彼女かわいいな」

「それ、どういう意味で言ってます?事と次第によっては聞き捨てならないんですけど・・」

「あのな。50過ぎのオッサンの一般論として聞き流せないかねー」

「今の石渡さんからは、冷静さがないので聞き流せないですねー」


そう言うと、石渡さんはフっと笑った。


「珍しいな」

「何がですか?」

「いつもだと、この手の話は無視するか、聞き流すくせに。ヤケに絡むじゃん」

「!」

(こんのオヤジ・・・。酔っ払ってるから、大人しくしてれば・・!)

「まぁ、俺が言わずとも、自分自身が分かってればそれでいいんだけどねー」

「マスター。俺に同じの、もう一杯くれますか?」

「かしこまりました」

「あのね。そこは無視しないでくれるかな?」


横目でチラっと石渡さんを見やってから、またすぐ視線を戻した。


「・・・もう5年だろ?そろそろいいんじゃねぇの?」

「年数とか関係あるんですか?」

マスターが運んできてくれた酒をグイっと煽った。

「悪い事したわけでもあるまいし。何でそんなに頑ななんだろうねぇ。ま、そこがお前の良い所でもあるけど、さ・・」

優しい声音を出しつつ、煙草に火を点けた。

「俺はいいと思うんだけどねぇ」

ゆっくりと、煙を吐き出しながら呟かれた。

「・・・・そういうんじゃないですよ」

石渡さんの暴走気味な妄想に思わずフっと鼻で笑ってしまった。

「そういえば彼女って年幾つだ?」

「・・・・知りません」

「聞けよー。全くお前って馬鹿な奴だなー」

「女性に年聞いてどーすんですか?」

「あのな。ストレートに聞けって言ってんじゃないんだよ。聞いた上で年関係ないって態度とるんだよ。分かったか?」


俺は呆れた。

それじゃ単なるナンパじゃないか、と突っ込みたくなったが、相手は酔っ払いのオッサンだ。

言うだけ無駄というものだ。


「そうか、そうか。じゃ今日は俺の講義で決まりだな」

「・・・・は?」

「幸い明日は土曜だからな。よーし!」

「よーしじゃないですよ。それ飲んだら帰りますよ」

「安心しろ。閉店時間になったらお前の家で講義してやりゃあ!」

「いっそのこと勝手に一人で野宿でもしててくださいよ」

「いやん。かずやくん今日はナイフのように冷たーい!」

「・・・・・・・」


また毎度のように馬鹿なやり取りで夜も更けていった。

もちろん家での講義は却下。そして、いつものように石渡さんをタクシーで送る羽目になってしまった。




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