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シナジー  作者: 鵜野 花
34/62

chapter18 ④ ※

「思ってた以上に良い子だな」


封筒の中から原稿を取り出すと、まるで天候の話でもするかのように、ごく自然に、世間話のように語り出してきた。


「可愛いしさ、礼儀正しいし、真面目だし。お前が言ってた以上じゃねぇか」

「・・・・・自分の彼女を褒められるって良い気分ですね」

「俺はいつだってお前の付き合う子は褒めてきたぞ。ただし、お前が真剣な時に限ってな!」


・・・・・まったく。

いつだって一言多いんだ、この人は・・・。


「しかもさ、いいもの見せてもらったしさ」

「は?」

「お前のあんな姿が見られるなんてな。なかなかおもしろいもの見せてもらった」


クックッと小さく笑う姿は明らかに俺を煽るような笑い。

――いかん、いかん、ここで挑発に乗ればまたこの人の思う壺だ。


「でも、まぁ、ああなるのは仕方ねぇよな」

「え?」

「なかなかああいう風に振舞える子っていねぇよ。分かってったって出来ることじゃねぇしな」

「・・・・・・・」


・・・・確かに。

だから、そこが俺が彼女を好きな理由でもある。

仄暗い、奥底で燻ってた部分を知ってたかのような、それでいて俺の良い部分を引っ張って、いつのまにか、最初からそんなものなかったように思わせてくれるんだから―。


「時々・・・・、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるんですよね。こっちが面食らうぐらい」

「ああ、なる程ね。だから夢中になるわけだ」

「何がですか?」

「・・・・・そうか。気づいてないあたりがまた凄いな」


――何だ、それ。

俺の全てをお見通しのような、その、知った顔・・・。


「はー・・・。相変わらず、石渡さんのそういう部分気持ち悪いっすね」

「お前なぁ、なんてこと言うんだよ」

「父親づらみたいで正直気分よくないんですよ」


自分の事に関して他人の方が知ってる、なんてよくあるパターンだ。

ましてや色恋沙汰なんて特にそうだろう。

・・・・・それでも他人に指摘されるのは、正直気分はあまりよくないってもんだ。


「彼女、お前の良いところきちんと褒めてたろ?」

気分転換に口にしたコーヒーが苦くて、思わずカップをテーブルに無造作に置いた。


「つまり、それだけ彼女はお前の事よく見てるって事だろ?」

「・・・・・・・」

「自分の事をちゃんと見てくれる子が目の前にいたら、そりゃ放したくなくなるわな・・」


――言葉が、出なかった。

こんな言葉を明確に提示されて何を反論できる?


と、言うより、今指摘された言葉に俺自身が雷を打たれたように動けなくなってしまった、という方が正確かもしれない―・・・・。


「良かったな」

「・・・・・え?」


優しげな声音に変わった人に視線を上げれば、何故だかそこには満足気に、それでいて安心したような笑顔があった。


(・・・・・・・)


そんな顔見せられたら何も言えない。いや、今口に出せば単なる薄っぺらい上辺だけのものになる。

じわじわと、自分の状況を把握させられる。「まさにこの人の言うとおりだろ?」と。

――まったく、この人という人は・・・・・。


「ははは」

「・・・・今度は何ですか」

「それにしてもお前があんなに慌てんのあれ以来だな。大学んの時のあの子、なんつったけな」

「止めてくださいよ。そんな大昔の話」


このオヤジは何年前の話を持ち出してくるつもりだ。


「まぁ、皆そんな風にみっともなく立ち回るもんなんだよ。それだけ真剣って事なんだ」

「・・・・・・確かに。石渡さんの結婚前のドタバタも相当なもんでしたもんね」

「うるせぇよ」


バツが悪そうに、でもそれでいて苦笑いを浮かべながら俺から視線をずらした。


「まぁ、ないとは思うけど、彼女の事、傷つけたらただじゃおかないよ?」

「・・・・・・だから、そういうところが父親づらだって言ってんですよ」

「俺と彼女だったら父親だっておかしくないでしょ?」


さも当然、といった笑顔を俺にみせる石渡さんを見ながら、一際大きくため息をついた。

年の事は俺が今一番気にしている悩ましい事の一つだ。

あまり触れないで欲しい・・。


「・・・・年は気にするなよ?」

「え?」

「あんまり気にすると彼女に感染(うつ)るぞ」

「・・・べ、別に、気にしてませんけど」


一瞬、押し黙って俺を見たかと思うと、石渡さんはすぐに視線を下に逸らした。

そう。

まるで俺のその発言が意外だ、とも言いたげに・・・。


「そうか。ならいいんだけど」


この時は大して気にも止めていなかった。

よくある話の一つだろう、ぐらいに。

そして、石渡さんのこの反応を予想外と鼻で笑えるぐらいに余裕のあるものだろう―と・・・。


「ま、仕事の話でも始めようか」

「・・・・・・ええ」


何かが、ハラリと落ちてきたように感じた。

それにあえて名前をつけるなら違和感、とでも言うんだろうか。

自覚がなかっただけに余計に性質が悪い。まさに後の祭りだ。

気づけなかった俺は盲目状態だったのか?それとも単なる大馬鹿なだけだったんだろうか。

事が起こってからでないと、人は気づけないものがあるんだと知ることになるんだから・・・。





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