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シナジー  作者: 鵜野 花
30/62

chapter17 ②

(・・・あれ?ここ・・・、どこだろ・・)


眩しくて目を細めた先に、明るく輝く光。

廊下にお日様が当たっている。


(あ、あったかい)


気がつくと温かさを確かめようと、そこに移動していた。

そして、どこからか自分の名を呼ぶ優しい声。

この声を知ってるー、そんな気がした。


「・・・暖かい日だね」

「そうですね・・・」


顔を上げると、そこには深い皺が刻まれた老齢の男性。

優しく、嬉しそうに微笑んでいる。

その笑顔に何だか安心した。しかも何故だか懐かしい気さえしてきた。


(・・・・・・・)


・・・・そういえば私も、手を見たら深い皺がある。

つまり、私もおばーちゃんって事なの、かな・・・。


(気持ちいいな・・・)


思わず隣の男性に肩を預けた。


(そういえば、このおじいさん、どっかで見た、ような・・・気が・・・する)


・・・・・。

あれ、この香り・・・・。

この香りを知っている気がする。

あれ・・・?

そう、この香りは私が好きな、大好きなあの人の――・・・・。









うっすらと視界に入ってきたもの。

好きな人の肌。

うっすらと感じるもの。

好きな人の香り。

そして、温かさ。


「おはよう」

「!」

(・・・あ)


「お、おはよう・・ございます・・・・」


そこにいる愛しい人と目が合った。

私を見つめる瞳が優しくて、何ていうか、甘い・・・。

途端に思い出した。

何故ここで彼に話し掛けられているのか。

じわじわ襲う羞恥にいてもたってもいられず小さく俯く。彼の温かい肌に触れながら・・・。


「・・・体、辛くない?」

頭上から優しい言葉が注がれた。


「だ、大丈夫です・・・」

彼の腕が伸びて来たかと思うと頭を優しく撫でられた。

優しく、ゆっくり、髪を滑るその手は温かく心地良くて、乱れた鼓動が少しずつ戻ってくる。

彼の鼓動と同じ速度に・・・・。


「・・・和哉さん。いつ起きたんですか?」

「10分ぐらい前かな」

思わず目を見開いて、顔を上げた。


「え、ず、ずっと私の事、見てたんですか・・・?」

「うん。何か問題?」

さも当然といった笑顔で答える彼の顔を見て体が硬直した。


「寝顔、可愛かったなぁ。ずっと眺めててもよかったんだけど」

「っ」


言葉を失った私をゆっくり眺めた後、彼は小さく笑った。

それはまるで、私の反応が予想通りだと言わんばかりの勝ち誇ったような顔。


「和哉さん、私の反応楽しんでる・・・」

「そうかな?」


(・・・もうー・・・)


ただでさえ彼を直視出来るほどの余裕がないっていうのに・・・。

更なる彼の優しさで今にも心臓が破裂しそうに勢いづく。


「良い夢でも、みてた?」

「え?」

ふいに頬を優しく撫でられる。


「幸せそうな顔してたから」

「・・・どう、だったかな。もう忘れちゃった」

彼に反応を悟られないよう、自然に俯いて誤魔化す。


「なんだ残念。俺の夢でもみてたのかと思ったんだけど・・・」

「・・・・・・」


言葉の代わりのように肩が揺れる。当然顔を上げられる筈もなく・・・。

はは、そう頭上で小さく笑う声。


「やっぱり衣里って可愛い」


駄目だ・・・。

心臓がいくつあっても足りないぐらい、鼓動が激しくなってくる。

何ていうか。

元々、こういう優しさがあった人ではあったけど、何だか、更に磨き?がかかったような・・。


「・・・体、動かせそう?」

「え?」

「動かせそうなら、ごはん食べない?俺、今作るよ」

「あ、えっと多分、大丈夫・・。なので私も一緒に手伝います」

動かそうとした腕を、やんわりと掴まれた。


「こういう時はゆっくりしてていいんだよ」

彼の腕が伸びたかと思うと、傍にあったシャツを掴んでいた。

彼のと、私のと・・・。


「と言うか、無理しないで欲しいからさ。出来たら呼ぶね」


有無を言わさない程に微笑まれたかと思うと、素早くベッドからいなくなってしまった。

――残ったのは、私の前に置かれたシャツと、彼の香り・・・。

ゆっくりと、確かめるように手を動かした。

彼がいた場所はまだ仄かに温かい。私を優しい気持ちにさせてくれる愛しい人の温かさ。

途端に胸の奥から何ともいえない想いが溢れてくる。


(・・・・好き、なんだなぁ・・・・)


彼に触れられるのも、何もかも。

いつもと同じような気がするのに、いつもと違った特別な日に思える。

彼といる、彼がもたらしてくれた特別な日・・・。

大切にしたい。

彼を、この気持ちを、今日という日を・・・。


シャツを掴みながら、彼の香りを感じながら、少しだるい体を起こした。




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