chapter17 ②
(・・・あれ?ここ・・・、どこだろ・・)
眩しくて目を細めた先に、明るく輝く光。
廊下にお日様が当たっている。
(あ、あったかい)
気がつくと温かさを確かめようと、そこに移動していた。
そして、どこからか自分の名を呼ぶ優しい声。
この声を知ってるー、そんな気がした。
「・・・暖かい日だね」
「そうですね・・・」
顔を上げると、そこには深い皺が刻まれた老齢の男性。
優しく、嬉しそうに微笑んでいる。
その笑顔に何だか安心した。しかも何故だか懐かしい気さえしてきた。
(・・・・・・・)
・・・・そういえば私も、手を見たら深い皺がある。
つまり、私もおばーちゃんって事なの、かな・・・。
(気持ちいいな・・・)
思わず隣の男性に肩を預けた。
(そういえば、このおじいさん、どっかで見た、ような・・・気が・・・する)
・・・・・。
あれ、この香り・・・・。
この香りを知っている気がする。
あれ・・・?
そう、この香りは私が好きな、大好きなあの人の――・・・・。
うっすらと視界に入ってきたもの。
好きな人の肌。
うっすらと感じるもの。
好きな人の香り。
そして、温かさ。
「おはよう」
「!」
(・・・あ)
「お、おはよう・・ございます・・・・」
そこにいる愛しい人と目が合った。
私を見つめる瞳が優しくて、何ていうか、甘い・・・。
途端に思い出した。
何故ここで彼に話し掛けられているのか。
じわじわ襲う羞恥にいてもたってもいられず小さく俯く。彼の温かい肌に触れながら・・・。
「・・・体、辛くない?」
頭上から優しい言葉が注がれた。
「だ、大丈夫です・・・」
彼の腕が伸びて来たかと思うと頭を優しく撫でられた。
優しく、ゆっくり、髪を滑るその手は温かく心地良くて、乱れた鼓動が少しずつ戻ってくる。
彼の鼓動と同じ速度に・・・・。
「・・・和哉さん。いつ起きたんですか?」
「10分ぐらい前かな」
思わず目を見開いて、顔を上げた。
「え、ず、ずっと私の事、見てたんですか・・・?」
「うん。何か問題?」
さも当然といった笑顔で答える彼の顔を見て体が硬直した。
「寝顔、可愛かったなぁ。ずっと眺めててもよかったんだけど」
「っ」
言葉を失った私をゆっくり眺めた後、彼は小さく笑った。
それはまるで、私の反応が予想通りだと言わんばかりの勝ち誇ったような顔。
「和哉さん、私の反応楽しんでる・・・」
「そうかな?」
(・・・もうー・・・)
ただでさえ彼を直視出来るほどの余裕がないっていうのに・・・。
更なる彼の優しさで今にも心臓が破裂しそうに勢いづく。
「良い夢でも、みてた?」
「え?」
ふいに頬を優しく撫でられる。
「幸せそうな顔してたから」
「・・・どう、だったかな。もう忘れちゃった」
彼に反応を悟られないよう、自然に俯いて誤魔化す。
「なんだ残念。俺の夢でもみてたのかと思ったんだけど・・・」
「・・・・・・」
言葉の代わりのように肩が揺れる。当然顔を上げられる筈もなく・・・。
はは、そう頭上で小さく笑う声。
「やっぱり衣里って可愛い」
駄目だ・・・。
心臓がいくつあっても足りないぐらい、鼓動が激しくなってくる。
何ていうか。
元々、こういう優しさがあった人ではあったけど、何だか、更に磨き?がかかったような・・。
「・・・体、動かせそう?」
「え?」
「動かせそうなら、ごはん食べない?俺、今作るよ」
「あ、えっと多分、大丈夫・・。なので私も一緒に手伝います」
動かそうとした腕を、やんわりと掴まれた。
「こういう時はゆっくりしてていいんだよ」
彼の腕が伸びたかと思うと、傍にあったシャツを掴んでいた。
彼のと、私のと・・・。
「と言うか、無理しないで欲しいからさ。出来たら呼ぶね」
有無を言わさない程に微笑まれたかと思うと、素早くベッドからいなくなってしまった。
――残ったのは、私の前に置かれたシャツと、彼の香り・・・。
ゆっくりと、確かめるように手を動かした。
彼がいた場所はまだ仄かに温かい。私を優しい気持ちにさせてくれる愛しい人の温かさ。
途端に胸の奥から何ともいえない想いが溢れてくる。
(・・・・好き、なんだなぁ・・・・)
彼に触れられるのも、何もかも。
いつもと同じような気がするのに、いつもと違った特別な日に思える。
彼といる、彼がもたらしてくれた特別な日・・・。
大切にしたい。
彼を、この気持ちを、今日という日を・・・。
シャツを掴みながら、彼の香りを感じながら、少しだるい体を起こした。




