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シナジー  作者: 鵜野 花
21/62

chapter13 ①

彼専用にしている携帯電話のメロディが流れた。


てっきり、いつものようにメールだろうと思い、構わず夕飯の後片付けを続けていると、メール以上のメロディが続き、それが電話だと気づくのに大分かかってしまった。


「嘘・・・・」


濡れていた手を慌ててタオルで拭った後、テーブルの上に置いてあった携帯電話を手に取る。

――思わず深呼吸一つ・・・。


「・・・もしもし」

『あ、衣里ちゃん?俺、中林です。今、大丈夫かな?もし時間なければ改めるけど・・・』

「大丈夫ですよ」

『良かった。・・・あのね、ちょっとお願いしたい事があるんだけど・・』




例の酔っ払ったあの日以降も、彼とは変わらず連絡は続いている。

が、考えてみると、こうやって電話で喋るのは初めての事かもしれない・・。




「・・え?ドライブ・・です、か?」

『うん。今度、ドライブデートの特集記事書かなくちゃいけないんだ。さすがにデートコースを一人で周るのは気が引けて、さ。で、もし良ければ、なんだけど、衣里ちゃんも一緒に付き合ってくれれば助かるんだけど。どう、かな?』


(・・・中林さんって、そういう記事も書くのか。大変だなぁ)


彼の話に頷きつつ、自分が誘われている、という事実を把握するまで思いの外、時間がかかってしまった。


『あ、勿論、車は俺が出すから。指定する所まで迎えに行くし・・』

「えっ?わ、私と、ですか?」

『うん。どうかな?』

今更な反応を示した私に、彼は少し可笑しそうに再度尋ねてくる。


「あ、えっと・・、土日ですか・・?」

『希望する日に合わせるよ。欲を言うと年内に書き終えて提出したいってのはあるけど・・』


(そっか、もう年末なんだ・・・)


「わ、分かりました。来週の土曜日で構わないでしょうか?」

『うん、来週ね。じゃあ、また近くなったらメールする。本当に助かったよ、どうもありがとう』

「いえ。私でお役に立てれば・・」


ふう、と小さい溜息をもらしながら、テーブルの上に携帯電話を静かに置いた。

彼に会えて嬉しい。が、中途半端な状態で会う事に胸中は複雑だ。


――これは仕事の一環だ・・・。


そう、この前、酔っ払って迷惑を掛けてしまったのだ。これが私のせめてもの誠意。

彼の役に立ちたいのは山々なのだから・・・。




◆◆◆



「晴れて良かったですね」

「ほんと、助かったよ。雨の日は想定してない記事だからね」


デジカメで写真を撮り終えると、彼は苦笑いしながら私の方へと顔を向けた。

彼の肩越しに見える夕日が眩しくて、思わず身を屈めてしまった。


「それにしても衣里ちゃん、寒くない?平気?」

「大丈夫ですよ」

「寒かったら言って。車ん中に防寒グッズとか色々あるから・・」

「ありがとうございます・・・」


彼に連れて来られたのは横浜、だった。

あらかじめ決められている場所を決められた通りに進んで行く、と言うデートとは名ばかりの行程。

仕事なのだから当たり前ではあるが・・。


「よし、これ、で、終了っと!衣里ちゃん、今日は本当にありがとう。お陰で助かりました!」

そう言うと、彼は小さく頭を下げて来た。


「あ、いえっ。そんな風に言わないでください。この前、酔ってご迷惑をお掛けしてしまったし、せめてものお詫びです」

「・・・・お詫び、か」

小さく呟く彼の顔は、諦めのような、困惑したような、そんな笑顔だった。


「・・・・あ、の・・・」

チクリと刺されるような痛みに襲われて、震えてしまいそうな声を誤魔化すように小さな声で尋ねた。


「さて、これで終わり。こっからは自由!・・・・衣里ちゃんはどこか行きたいところある?」

「・・・・・・・・」


何事もなかったように、いつもの笑顔で振舞う彼に何も言う事が出来なかった。







「――あ、ごめん。パーキング寄っていい?」

「はい。私もちょっと寄りたいです」


どこへ寄りたいと尋ねられても、あらかた回ってしまい、思いつく場所が浮かばなかった。

と言うより、動揺を隠すことに精一杯だった、という方が正確かもしれない。

彼の夕飯を摂ろうという提案に快く返事をしつつ、せっかくだからと夜景を見て回った。






「すみません。お待たせしてしまって・・」

「ううん、迷わなかった?」

「大丈夫です」


車に戻ると、寒いだろうに中には入らず外で待っている彼の姿が目に入った。

しかもいつもと変わらない笑顔。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「?・・中林さん?どうかしましたか?」

「あの、さ・・・」

「はい」


お互い車に乗り込んだ後、彼は前方を向いたまま動かずにいた。

少し険しい顔・・・。


「衣里ちゃんてさ、何でいまだに敬語なの?」

「えっ?」


険しい顔から一転させ、彼はいつもの笑顔で尋ねてくる。

あまりに予想外な質問に、一瞬我を忘れた。


「気を遣ってるんなら、その必要ないからさ。もう知り合って1年以上たってるし」


そうは言われても・・・。

彼とは恋人でもないし長年の友人、というわけでもない。

つまり曖昧で、この関係を何と呼んだらいいか分からない中で、彼には敬語でしか対応が出来ない。

それを変える、というのは、つまり。

私が彼に全てを打ち明ける、という事を意味するわけで・・・。


――こんな風にしか考えられない自分の思考が恨めしい・・・。


「・・・・・・・」

「・・・ごめん。別に困らせたくて言ったわけじゃないから」




短くて申し訳ありません・・・。

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