chapter2
あれから2ヶ月が経過した。
毎週顔を出すわけにはいかなかったが、出来る限り、例の男性が来店していないか、さりげなく確認を続けていた。
が、その度に期待をするも空振りに終わり、何故だかがっかりする自分にとまどいを隠せないでいた。
「来店して頂いて非常に嬉しい限りですが、あまり無理はなさらないでくださいね」
ワインを注ぎながらマスターは苦笑いする。
「はは。大丈夫です・・」
自分も苦笑いで返答する。
さすがに最近はキツいので、今後は月イチかなー・・と、ぼんやり考えていた。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
体が硬直、した。
今一番、会わなくてはならない人が視界に入ったのだ。
どう声を掛けようか、どうお礼をしようか。
あれだけ散々、出会えるまでシミュレーションを重ねてきた、というのに、いざとなると腰が引けてしまった。
と言うか、力が抜けて体が動かない・・・。
(・・・ど、どうしよう!!)
男性は以前と同様に同じ席に腰を掛けた。
そして。
私は・・・。
思わず下を向いてしまった。
(うわ・・・、もう自分ってば最低だ!!・・・・どうしよう・・)
グラスを力一杯握り締めてしまった。
「彼女の事を覚えてらっしゃいますか?」
「・・・・え?ああ、もちろんですよ」
予期せぬ会話が耳に飛び込んだ。
顔を上げれば、少し苦笑いする、あの男性の、優しげな雰囲気を持つ人と視線が合った。
「あっ。あの!」
思わず立ち上がり、男性の傍へと少し近寄る。
「その説は本当に助かりました。ありがとうございました」
改めて頭を下げた。
どうやらマスターが気を遣って、男性に声を掛けてくれたようだ。
恥ずかしさもあったが、マスターに感謝でいっぱいだ。
「いやいや・・・。そんなにかしこまんないで。大したことしてないから」
男性は微笑んでくれた。
「あの。お礼に一杯奢らせてください!」
「えっ?!」
予想外な大きな返事が返ってくる。
でも気にせず、構わずに、いや、無理やり、というか、事を進ませた。
「どうお礼すればいいか考えたんですけど、これが一番かと思いまして・・」
「やっ。本当にいいから!気にしないでくれていいから」
そして、私は男性の意見を無視する事に決めた。
(もうこうなったら後は野となれ山となれ!だ)
「マスター、私につけてください!」
「はい。かしこまりました」
「えっと。これはどういう展開なのかな・・」
男性はとまどいを隠しきれないでいるようだ。
奥歯を噛みながら、拳を作った。
そして、男性に一礼し、自席の自分の荷物を取ると胸に抱えた。
「それじゃマスター、ごちそうさまでした!」
「はい。お気をつけて。またお待ちしてますね」
「おやすみなさい」
再度、男性にも一礼する。
何か話しかけようとしているようだったが、それをやり過ごし、扉を開けて外へと飛び出した。
(やった!出来た!!)
思わず小さなガッツポーズ。
初めてのおつかいが成功した子供のように興奮を感じずにはいられなかった。
(やれば出来るじゃない!)
興奮とアルコールの影響なのか全身を包む高揚感が心地よくてたまらない夜だった。