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シナジー  作者: 鵜野 花
19/62

chapter12 ① ※

「フフフ。やっぱり、もうこの時期は夜は寒いですねぇ・・」


ほんのり顔を赤らめた彼女の顔が見えたかと思うと、そのままよろめき始めた。


「あっ」

「と、危ない」


フラついた彼女の腰に手を添えた。

反動で俺の胸に頭が少し埋まる。






この前のお礼も兼ねて、彼女を食事に誘ったのだが、案の定、というか、予想通りに、まずは謝罪から始まった。

彼女らしい、というか、何ていうか・・・。


謝ってもらうような事態は何一つないし、むしろ感謝している事を伝えた。

本当に嫌だと思っていたら、こうやって会う筈がない事も・・・・。


が、彼女は終始、緊張しているようだった。

それこそ初めて会った頃のように・・・・。






「大丈夫?」

「・・・・・・」

「衣里ちゃん?」

「フフ。中林さんって、良い匂いー・・」

「結構酔ってるね。水買ってこようか?」


俺より酒が強い(と思う)彼女が酔っ払った、という、まさかの事態に少々あせる。

食事を終えたら伝えよう―、あらかじめそう考えていたからだ。


「・・・レモン?ううん、オレンジ・・かなぁ・・」


彼女は俺から離れようとせず、そのまま寄り掛かったままだ。

・・・・・何ていうか。

俺としては、どうするべきなんだろうか。

嬉しそうに楽しそうに笑みを浮かべながら喋り続ける彼女を邪険になんて扱えるわけでもなく・・・。

この状況に苦笑いしか浮かんでこなかった。


「あっ、そうだ。みかんの匂いだー」

「・・・はは。オレンジとかならまだしも、みかんはちょっとねー・・」

そう呟くと彼女は上目遣いで反論してきた。


「・・・みかんの匂いじゃないんですかぁ?」

(う・・・)


その顔は反則だ。

酔っ払っている彼女は、おそらく隠れた本音なんだろう。

多分だが、これではシラフに戻っても半分は覚えてない可能性が高い。

シラフの状態では真面目さが災いして何も言えないし、例え酔っ払ってて本音が出ていたとしても手を出すわけにいかない。


「まぁ、みかんみたいなもんかなー・・・。ベルガモットっていう果物らしいんだけど・・」

「わぁ、やっぱりー。そうなんじゃないかと思ってましたー」


一段と嬉しそうな声を出しながら、俺から離れたが、まだ当然のようによろめいている。

すかさず、彼女の手を掴んだ。


「・・・あ、ごめんなさ・・・」

「大丈夫?危ないからこうしてるよ。いい?」

「はい」

彼女の手を握って再び歩き始める。


「中林さん、いつも良い匂いだなーって思ってましたー」

「・・・そう?」

「私、男の人の香水って苦手です。でも中林さんのはいい匂いなので好きです」


(・・・・・・)


俺の中で猛烈な葛藤が生まれた。

どうにかしたい気持ちと、どうにも出来ない気持ちと、強烈に理性がグラついてくる。

彼女が俺を好きだと言ったわけではない。無論俺も言った事はない。

――まさか40にもなって、お友達以上恋人未満にさせられるとは思ってもいなかったな・・・。


「ありがとう・・・。嫌だって言われるよりは気分いいね」

そう答えるのが精一杯だった。


「中林さんの手って、あったかいですねぇ」

小さな手が離すまいとするかのように力を込めてくる。


「そう?アルコールのせいじゃないかな・・」

「何だか安心してきます」


思わず彼女を見つめてしまう。

・・・・・彼女にとって俺は「安心」の対象なのか。

そうだった。

彼女は真面目なコだったな・・。


「・・・ずっとこうしてたいなぁー」

腕に、俺自身に、少しずつ体を預け始めてくる。


「・・・大丈夫?」

「少し、こうしてて、いいです・・か・・・」

「やっぱり水買ってきた方がいいんじゃない?」

「・・・だい、じょう、ぶ・・・・」

「衣里ちゃん、家帰れる?」

「・・・・う・・ん・・・」


ヤバイ・・・。

これはイカンだろう。

彼女の足取りがいよいよ危なくなってきた。


「衣里ちゃん、自分の住所言える?」

「・・・・じゅ・・しょ・・」


このまま一人で帰すのは非常に危険だな。

そう考えていると、とうとう歩みが止まってしまう。


「・・わか・・なくなっちゃ・・・」

泣きそうな顔を知られまいとするかのように、顔を俯かせ始める。


「あー。いいよ。分かった。大丈夫だから・・」

そう言って彼女の頭に手を乗せると、そのまま俺の胸に体を預けてきた。


「・・・・・・・」


分かってる。

どうするべきなのか、答えは分かっている。

が。

それを口にすると理性が保てるのか、はっきり言って自信がなかった。


「・・・・・じゃ、俺の家に来る?」

「うん・・行く・・」


気がつくと俺は彼女を抱き締めていた。

朦朧とした答えの中で、俺の家に行く、という答えだけが、ハッキリとした彼女の意思のように思えたのだ。




「衣里ちゃん?」

「・・・・・・・」

「大丈夫?」

「・・・・・・・」

「衣里ちゃん?」


どれくらい時間がたったのだろうか。

彼女の背中を支えながら、その温もりを感じ続ける事しか出来ずにいた。


俺の問い掛けに反応しない彼女の顔をそっと持ち上げる。

――そこには安心したような、穏やかな、彼女の寝顔が、あった・・・・。


「はーーーーーー」


深い深い、大きなため息が無意識に漏れ出てしまう。


(全く何の精神修行だよ・・・)


安心しきった彼女の顔が、じわじわと襲ってくるように感じられた。

その「安心」を裏切ってはいけないんだ、と―・・・。


彼女の腕を取ると、自分の背中に回す。

彼女の温かさを背中に感じると、微かに寝息が聞こえたような気がした。




何度かよろめきながら、やっとの思いで自宅へ辿り着く頃、あまりな疲労困憊で思考も何もあったもんじゃ

なかった。

決して彼女が重い、という事ではなく、自分の理性を試されてるような居心地の悪さを感じたからだ。


出来るだけ静かにベッドに彼女を寝かせると、そのまま素早く毛布をかぶせた。


冷蔵庫から水を取り出すと、一気に飲み干した。

そのままソファへ体を沈ませると何もする気になれず、深い深い眠りに落ちていった。

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