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シナジー  作者: 鵜野 花
18/62

chapter11 ※

「オイってば」

急に肩を小突かれ、我に返った。


「あ、すみません。お疲れ様です」

「大丈夫か?ぼんやりしてるなんて中林らしくねぇな・・」

石渡(いしわたり)さんは苦笑いしながら俺の前の席に腰を掛けた。


「・・・ホント、すんません。失礼しました。今日はちょっと暑くて・・」

「まぁ、確かに10月だってのに今日は暑いよな。それよかお前、ここんところ体調悪かったんじゃないのか?大丈夫か?」


ああ、そういえばそんな時もあった・・・。

あの時は、力量も図れず突っ走って情けないと愚痴る俺を、彼女は叱り飛ばしてくれたっけ。


「大丈夫ですよ」

「まぁ、確かに。前に会ったよりは随分顔色いいしな。しかも、さ・・・」

石渡さんは腕を組むと意味ありげにニヤリと笑った。


「何だか仕事方面は調子良さそうだもんな、お前・・・」

「え?・・・そう、ですか・・・」

「ああ、この前の特集、よく出来てたって社内でちょっとした話題になったんだよ」

「本当ですか?・・・うわ・・・それはマジで嬉しいっすね」


彼女と会ったあの後、冷静に自分を振り返れるようになれた。

てっきり愚痴をこぼした事態に呆れられるかと思ったが、むしろ俺のその考えを叱り飛ばされる、という予想外な展開に俺自身がとまどいを隠せず一瞬慌てた。

しかも彼女のあのパワーは、俺の胸のわだかまりを、あっという間に消し去ったのだ。

ただ、真面目で大人しいだけの人ではないと思い知るに至ったと同時に、彼女の奥深さも知るに至った。


――女性に叱られる、なんて何年ぶりだろう・・・。

妙に安心感も得た不思議な日だった。


あの日以来、気がつくと彼女の事ばかり考えるようになった。

こういう気持ちになるのは何年ぶりだろうか。

つまり。

俺は・・・・・。


「お前、何か変わったよな」

「え?」

「何ていうか・・・。本当の意味で柔らかくなったよな。前は柔らかいふり、みたいなところがあったけど、今はフリじゃなくて、本当にそう見える」

「・・フリって・・。何か酷い言われようっすね」

苦笑いで答えたが、これが石渡さん流の褒め言葉だという事は承知している。


「彼女の影響だったりしてな」

「そんな事ないですよ。何言ってるんですか・・・」

「おお」

そう言うと、石渡さんは身を乗り出してきた。

「俺、誰だとは言ってねぇぞ。そうかそうか、お前自身に自覚あるんだな」


(このオヤジは毎回毎回、カマかけてきやがって・・・・)


動揺を抑えつつ、軽い笑顔にしたつもりでいたが、相当ぎこちない顔になっていたのだろう。

石渡さんは益々ニヤニヤと誇らしげな笑顔を続けている。

「・・・・・・」

思わず、その視線から目を逸らした。


「まぁ、勿論これ以上は何も言うつもりねぇよ。お前の事だから何かあれば言ってくるだろうし。ふざけてるようにも見えないし。それに・・・・」

先程の笑顔から一転、真面目な顔へと表情を変えた。


「お前見てたら分かるからな。良いか悪いかぐらい」

(・・・・・・・)


何だか見透かされた気が、した。

俺の彼女に対する気持ち、彼女は本気になるに値する人だという事。

そして何より、俺自身が彼女に対して真剣だという事。


「う、打ち合わせ始めましょう」

「ああ、そうだな」

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