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シナジー  作者: 鵜野 花
12/62

chapter8 ①

―――待ち合わせの10分前。

改札の、人通りの邪魔にならない場所に立った。

ここからなら改札からも見える位置だし、外の様子も確認出来る。


「・・・・ふう・・・」


思わず息が零れる。

案の定、今回もそわそわと落ち着かない。

考えてみると、モネ以外で彼に会うのは初めてだった。

しかも。

明るい太陽の下で彼に会うのも初めてだった。


と、眩しい光が視界に入り込む。

(良い天気になって良かった・・・)


「・・・・・・・」

太陽の下に行って温まろうか―。

少し暑い陽の光を感じれば、このどうしようもなくむずむずしてくる想いが少しでも軽くなるだろうか・・。

・・・・。

・・・・・どうしよう。

それより、もう一度お手洗いに行く?

――その瞬間、左肩に温かい手の感触を感じた。


「ひゃぁ・・」


声にならない声を挙げながらのけぞった。


「こ、こんにちは・・」

「こんにちは。ははっ、また驚かせちゃったかな・・」

そこにいたのは紛れもない中林さんだった。

(うわ・・また、私ってば・・・・)


「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて・・」

陽の光を浴びずとも、全身が熱くなってくるぐらいの硬直さを感じてきてしまった。


「また緊張してた?」

「いえっ!」

「ならいいけど」


彼に会う、そのものも緊張してなかったわけではないけど・・・。

(・・・・・・・)

――聞くべきこと、尋ねて確認すべき事があって、どうしようもなくむずむずしてきたのだ。


「・・・・あの」

「ん?」

「その・・・今回ご迷惑、でなかったですか?お休みの日に誘ってしまって・・」

「・・・・・・・何が?」

不思議そうな顔を浮かべながらも威圧的にならないように、彼は優しい声で尋ねてくる。


「あ、・・・えっと、奥さんにご迷惑でないかと・・」

「ぶっ」


何日も前からこのやり取りをシミュレーションして、緊張してない、と言いながらそわそわしていた原因を今、目の前で一蹴されそうになっている。

――多分、彼はそういう事で笑ったんじゃないとは思うが。

多分、多分!


「ハハハ。俺、独身だから。あれ、そんなこと気にしてた?」

「あ、えっと・・。もしそうだったら迷惑かなーって思いまして・・」

今のこのどうしようもない複雑な気持ちを誤魔化すように極めて明るく振舞った。


「そもそも迷惑だって思ってたら、この場にいないし断ってるから!」

「・・・はい」

「うーん・・。衣里ちゃんが真面目なのはもう理解してるし、気にするなって言っても益々気にするからとは思うけど、本当に迷惑とか、そういうの気にしないでいいからね」

「えと・・・、努力します・・」

「ハハ。そこは、ただ、うん、とか、はいでいいと思うよ」

「ふふ・・。はい・・」

お互い苦笑いを浮かべた。


彼は独身だった。

楓からキツく言い渡されていたミッションはとりあえずクリアした。

肩の荷が下りた気がして少しホっとする。

――と、同時に別の何かもホッとしたのを感じずにはいられなかった・・・。









「うわああ、すごーい!」


興奮して思わずその場で立ち上がる。

久しぶりに目の前で繰り広げられる光景に、ただただ興奮しかなかった。

チケットに記載されていた座席は内野席だったのだ。


「・・・・・あ」


周りの景色が視界に入ってきた。と、同時に横にいる彼の視線に気がつく。

自分の興奮ぶりに気がつき思わず恥ずかしくなる。

慌てて席へと腰を下ろした。


「ご、ごめんなさい。私ってばまた一人で興奮して・・・・」

「ううん、全然。気にしないで。こっちとしては楽しんでくれて良かったよ」


彼の事が気になってしまって試合どころではないだろう、などと軽く考えていたが甘かった。

はっきり言って彼以上に興奮して試合観戦に夢中になってしまっていた。

(・・・うわあっ、もう小学生みたいーーーー!!)

思わず俯いて身を硬くしてしまった。


「でも本当に野球好きなんだね」

「・・え?」

「お世辞で言う人いるからさ。野球見てた、とかって言う人」

「・・・・」

「あ、別にそれが悪いとかって言うんじゃなくて。ここまで楽しんでくれて俺としては良かったなー、と思ったから、ついね」

(もしかしてフォローしてくれた・・?)


「何だか子供みたいにはしゃいじゃってスミマセン・・・」

「だから、全然気にしてないから!ね?」

「・・はい」


彼の笑顔につられて私も笑顔になる。

考えたら今日はこんな事の繰り返しのような気がした。




◆◆◆


「久しぶりに見ることが出来て楽しかったです」

帰り支度を始めながら彼へ感謝を述べた。


「いえいえ」

「・・・えと、そのもしよろしければなんですが・・」

意を決してお腹に力を込める。


「今日のお礼に、ごはんをご馳走させてください!」


これは、多分、一番緊張する、そして最大級にそわそわさせていた課題。

楓からキツク言われていたミッションとは別に、私自身が決めていたミッションだった。

――彼はバッグを肩に掛けながら笑顔になった。


「あ~、本当にごめんね。実はこの後、仕事で出なくちゃいけなくて」

(え?!)

「すみません!時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」

「仕事あったのに無理に誘ってしまって・・」

「違う違う。仕事は野球の約束した後に決まったものだし。それに仕事って言っても単なる打ち合わせだから」

「・・・・・・・」


またここで私が謝罪の言葉を並べたら、彼はまた困惑してしまうに違いない。

ハイ、とだけ返答することにした。


「・・・で」

そういうと彼はジャケットのポケットに両手を突っ込んだ。


「改めて飯行くって事でいいかな?」

(・・・・・・・え)

「は、はい・・!」


予想外の彼の申し出に少し驚いた。

と同時に、神様は何て粋な計らいをするんだろう―、などと勝手に自分を盛り上げてしまう。


「じゃ、また詳細はメールでいいかな?」

「はい」

「それから・・」

彼は出口に向かう歩みを止めて私の方を見た。


「奢りじゃなくていいからね」

「・・あ、いえ、それじゃお礼にならないので・・」


(・・・・ん?あれ・・・、これ、前にも同じことを言ったような・・)


「・・なんか前にも同じようなことを言い合ってた気がするなぁ」

「あ、それ私も思いました」


お互い声を出して笑ってしまった。

―――同じ事を思っていたんだ・・・。


その事実が嬉しくて心の奥から温かいものが溢れてくるように感じられた。

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