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カミングアウト!恋もゲームも奮闘中!  作者: 拉麺
閑話 桜舞えど春は来ず ―2012年4月某日―
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第1節 陸の悩み

 桜の花びらが舞っていた。


 4月になって、陸はかねての予定通りに中堅大学へ入学した。それと併せて実家を出て、大学近くのアパートでの一人暮らしを始めていた。


 どうでもいいことだが、中堅大学は学生の間でハチ公大と呼ばれている。


(東K渋Yの中堅だからハチ公……センスなさすぎだろ)


 誰が始めに言い出したのか知らないが、くだらなすぎることは間違いない。だが、その呼び名が学生の間で広まっていることを考えると、そのくだらなさが受けているのかもしれない。

 始めはそう呼ぶのを拒否していた陸であったが、何度も聞いているうちに「いけてるんじゃね?」なんて勘違いし始めるのだから人間とは不思議である。


(どうでもいいわ)


 本当にどうでもよい話だ。先に進もう。


 陸はアパートへの入居手続きと引越し作業を3月中に終わらせていたので、4月上旬は大学近所の探索や大学の部活やサークル見学、アルバイト探し、入学準備で慌しい毎日を送っていた。

 中旬になっていざ大学に通い始めると、忙しくも楽しい日々が始まった。入学に際する雑務を無事に終えると、昼は授業、夜はバイトに新入生歓迎コンパと目まぐるしい。おかげで睡眠不足の日が続いていた。


 充実した毎日を過ごしていた陸であったが、ひとつ不満があった。それは、いまだに女性とお近づきになれていないことだ。新生活のスタートと同時、異性を自宅に連れ込み、ギシアン、パンパフを満喫するつもりでいたのだが、いまだに童貞を捨てられずにいるのである。


「あら、わりとイケメンじゃない」


「いい体つきしているけれど、何かスポーツしていたの?」


「もしかして顔と身体に似合わず草食系?」


「多少オタク臭がするけれど、かまわないわ」


「お姉さんと火遊びしちゃう?」


 コンパの席で始めは女性にからかわれたり、多少言い寄られたりしていたので、決してもてないというわけではなさそうだった。


 高校時代もそうだった。女性とも気軽にしゃべれたし、接することもできたので、女性から興味を抱かれることは多くはなかったが、少なくもなかった。しかし、いつも最後の一線を越えることはなかったし、交際に発展することさえなかったのだった。


(まるで呪いのようだ)


 高校時代に続き、大学生になっても同じような展開に苦しんでいることに、陸もついつい弱音を吐いてしまう。


「俺の何がいけないのだ?」


 そんな悩みを新しく知り合った先輩や同級生に聞くのは、一度や二度ではない。

 だが、返ってくる答えは決まって同じようなものだ。


「あなたのストライクゾーンは狭すぎるのよ」


「加えて、それは俺たちにとって明らかにボールゾーンだ」


「せっかくの悪くない容姿も妙に偏った嗜好のせいで全部ご破算ね」


「理想はしょせん理想だ。そこに辿り着けはしないし、辿り着いてしまえば、もはやそれは理想ではない。というか、辿り着いちゃ絶対ダメ!」


 彼らにはどうやら陸の悩みの原因がわかるようなのだが、詳しく聞き出そうとしてもはぐらかされるばかりである。


 そんなある日、陸は特に親しくなった友人に懇願したのだった。


「俺は自分のことを女性なら何でもありの雑食だと思っていた。しかし、どうやら違うようだ。俺はいま混乱している。自分のことがよくわからないのだ。どうか人助けと思って、そのストライクゾーンやら偏った嗜好やら理想とやらを教えてくれ!」


 陸にとっては切実な悩みであった。

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