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カミングアウト!恋もゲームも奮闘中!  作者: 拉麺
第1章 ロード中です しばらくお待ちください ―2012年3月17日―
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第5節 説明会① おねだり

 陸と睦の二人は【ブリッジ・オンラインセンタービル・埼T支部】にやってきていた。一階フロアーの休憩スペースで座って待機している。


 陸はここに来て以来、ずっと鼻高々だ。

 隣に目を向けると、睦が制服姿で腰掛けている。


「着替えるのが面倒」


 そう言って睦は私服に着替えずにやって来たのだった。

 制服姿の睦にみんなが、特に野郎共が萌えているのにちがいない。妹に注がれるいくつもの熱い視線に、陸は気付いていた。

 時々燃えるような視線が自分に向けられているのも感じている。きっと嫉妬にちがいない。


(役得だな)


 陸は自分が睦の兄として生を受けたことを心から感謝した。得意げに鼻を鳴らす。


「兄貴がそんなに興奮するほど【ブリファン】に興味を持ってくれるなんて、本当に嬉しいよ」


 にこっと、睦が微笑む。

 それは睦の勘違いだったが、訂正するなんて無粋なことをしない。可愛い妹の微笑みを愛でたくて、ついつい睦を熱く見つめてしまう。今にもぎゅっと抱きしめてしまいそうだ。


「でも、まだプレイできないのに、鼻息荒すぎじゃない?」


「これでも気が逸るのを抑えているんだぞ!」


 話が噛み合っていない二人である。


 そんなとき、父親が二人のところにやってくる。


「おい、二人とも。順番が回ってきたぞ」


 二人にそう知らせてくれたのだった。

 順番というのは説明会のである。広い会場で多くの人と一緒に説明を受けるのではなく、対人で懇切丁寧に説明を受けなければならないのだ。

 一階フロアーには多くのブースが設置されている。銀行の受付のようなものだ。


 三人は指定されたブースに向かった。

 その途中、睦が陸にある提案をする。


「ゴールデンウィークの間、兄貴のところで寝泊りしていい?」


 【ブリファン】の無料先行リリースはゴールデンウィークの4月28日から始まる。

 陸は一緒に寝起きするのは嫌ではなかったが、一応なぜか聞くことにした。


「どうしてだ? ここに通えばいいじゃないか」


「実家からここまで遠すぎだよ」


「……たしかにそうだな」


 この施設まで父親に車で連れてきてもらった道中を、陸は思い返す。その道中はスムーズだったが、到着までには結構な時間がかかったことを思い出した。

 そのことを考えると、この施設は実家から相当に離れたところにあるといえる。睦には大きな負担にちがいない。

 一方の自分はというと、下宿先の近所に施設があるようなので、不便はあまりなさそうだ。

 睦の提案は距離だけでなく、経済的な負担も考えてのことだろう。高校生の睦にとって、交通費もばかにできないにちがいない。しかし、陸の下宿先に行くのにも交通費は必要だし、決して安くないはずだった。


(どっちにしても金がかかるのは変わらないぞ)


 陸はそう思いながら睦を見た。

 すると、睦がクイックイッと首で父親の方を示しながらお願いという視線を投げかけてくる。

 どうやら父親に交通費をねだる気でいるようだ。その助けがほしいということなのだろう。

 父親は二人の様子に気づいていない。

 陸はそのお願いを引き受けてやることにした。

 ここで泊まりの提案を陸が了承すると、二人の間で話が済んでしまい、睦が父親におねだりしにくくなってしまう。この会話に父親も参加してもらう必要がありそうだ。

 陸はこの提案に対する判断を父親に伺うことにした。


「親父、かまわないか?」


「好きにしろ」


 父親はまるで考えなしのようである。

 いけ、と陸は睦に視線を投げる。


「さすがお父さん、ありがとう!」


 睦がとびっきりの笑顔で父親にお礼を言って、さらに抱きついた。

 父親は睦を溺愛しており、娘の笑顔に大変弱いことは本人以外の家族全員が知っていることである。あんな天使のような笑顔を前にしておねだりされたら、断れないにちがいない。

 睦はまるで思い出したかのように、困った顔をつくるのだった。


「でも私あまりお金持ってなかった。どうしよう」


 わざとらしいことこの上ないのだが、愛しい娘に迫られて正気でない父親はあっさりと睦の望むことを言ってしまう。


「それぐらい出してやる」


「そんな悪いよ」


 傍から見ると一応断る素振りもあざといのだが、当事者にはそう見えないようなのだから不思議だ。


「金の心配などするな。お父さんに任せなさい」


「本当!? ありがとう、お父さん!」


 言わされたことに気付かずに大層嬉しそうな顔をする父親を見ると、なんだか滑稽に思えて悲しい気持ちになってしまう陸であった。

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