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カミングアウト!恋もゲームも奮闘中!  作者: 拉麺
第1章 ロード中です しばらくお待ちください ―2012年3月17日―
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第3節 陸と睦の対談

「たしかVRって、始めはただのジョークだったんだよな」


「うん、知る人ぞ知るね」


「それが今や世界中の注目を集めるほどの大発明になったと」


「【ブリッジ】はホラ貝社、なんて言われてたのが懐かしくなるよ」


「センスないな」


「うるさい! そんなことよりも、始まりは10年4月1日。エイプリルフール。そのときはまだ無名だった【ブリッジ】のホームページ上。そんなところで突然、『VR技術の開発に成功しました』なんて発表されても誰にも相手にされないのは当然だよね。それもエイプリルフールでしょ。誰だってジョークだと思うよ」


「俺の情報はそこで止まっていたんだな。『いくらジョークでも、ゲーマー憧れの夢を汚すようなことは許せない!』と睦が怒り狂っていたのをよく覚えている」


「どうでもいいことは覚えているんだね」


「お褒めいただいてありがとう」


「褒めてないんだけれど……」


「今考えても、VRなんて絵空事だものな。当時なんて、完全にホラだと思われていたことだろう」


「そうだね。その年の6月に改めて【ブリッジ】がVR技術の開発成功を正式に発表したけれど、4月1日と同様にただホームページ上で発表しただけだから、あまり話題にならなかったの。それも、エイプリルフールのジョークをネタにした悪戯というのが大半の意見で、やっぱりほとんどの人がその発表を信じてなかったよ」


「でも結果としてそれはジョークでも何でもなく、真実だったわけだ」


「世間をからかった口コミ宣伝だったんだよ。一般メディアを一切使わずに自前のホームページ上でしかニュースしないなんて、本当に性質の悪い。おかげで悪戯と思ってた人たちは、その年の8月1日から始まったVR体験イベントに乗り遅れることになったの。もちろん私もね。今思い返しても、ゲーマーとしてこんなビッグイベントに乗り遅れるなんて、本当に悔しいよ」


「VR体験なんてあったのか」


「8月の一ヶ月の間、【ブリッジ】の本社ビルで毎日、VRの体験イベントを実施していたんだよ。6月の正式発表から募集を始めていたみたい」


「その当時多くの人が睦と同じように【ブリッジ】の言うことを信じていなかったんだろ? そんな怪しい募集に応じた人なんていたのか?」


「少なからずはいたみたい。おそらく興味本位だったろうけれど、そんな人たちでさえ応募したことを忘れてしまった人が大半だったそうだよ。おかげで、体験初日に参加した人は10人いるかいないかだったとか」


「1日ごとの枠は何人だったんだ?」


「えーと、たしか200人じゃなかったかな」


「なのに初日の参加者は約10人。【ブリッジ】は大層不安だったろうな」


「そうでもなかったみたい。むしろ『絶対に成功する』ってすごい自信を持ってたって、自称初日参加者がテレビでそう話しているのを聞いたよ」


「実際その通りになったわけだ」


「このVR体験で一気に【ブリッジ】が注目されるようになったの。初日の体験に衝撃を受けたゲーマーがネットと現実の両方で熱心に口コミして回って、それにゲーム好きな有名人も加わって噂はどんどん広まっていって、ゲーム雑誌も注目し始めて特集を組んだり、ついには半信半疑だった一般のメディアも話題にし始めたんだよ。相変わらず【ブリッジ】は宣伝らしい活動してないけれど、今や口コミだけで噂は世界中に広まっている有様だからね。当時、枠の数百倍の応募があったっていうんだから、口コミってすごいよね」


「とんでもない競争率だな。それに噂の拡散速度が半端ない」


「ある有名ゲーム雑誌で名物ライターの某さんは、狂信者って呼ばれてたよ。【ブリッジ】に頼まれたわけでもないのに、街頭でVRのすごさを熱狂的に語ったり、自腹で広告チラシを作って配ったり、知人縁者を無理やりVR体験に参加させようとしたり、カルト教団の信者に喩えられるようなとんでもない布教活動をしていたと聞いたことあるよ」


「なんか怖いな」


「その人ほどではないけれど、VR体験によって熱狂的な信者がたくさん現れたのは確かだよ。おかげでその年9月以降から相次ぐ色んな公表を真実として受け入れる下地が世間にでき始めたの。もうその頃には、多くの人が注目していし、それからは口コミと色んな公表によって現実味がどんどん増していったんだよ」


「もはや絵空事だと思っているのは、俺みたいなゲームにもネットにも疎い一般人だけというわけだ」


「そういうこと」


「VR体験って、どんな内容だったんだろうな」


「たしか【ブリファン】のチュートリアルの一部を体験しただけじゃなかったかな」


「それだけで人間がカルト信者並みになっちまったのか。どれだけすごい体験をしたんだ」


「そう考えると、【ブリファン】のリリースが待ち遠しくなるでしょ」


「期待するな、というのは無理な話だな。でも、どうやってプレイするんだ? 何か特別なハードウェアでも買う必要があるのか?」


「【ブリファン】は既存のネットインフラを用いずに、まったく新しいインフラを使うそうだよ。ちょっと面倒だけど、プレイするにはそれ専用の施設に行く必要があるの」


「つまり、ネットカフェみたいなVRゲーム専用の娯楽施設があるというわけか」


「その通り。昨年日本中がいろいろと大変だった影響でリリースが一年繰上げされちゃったけど、その間に【ブリッジ】はプレイ施設を当時の二倍に増設して、【ブリファン】の初期プレイ可能人口を倍増したんだよ。口コミ宣伝なんてせこいやり方したのもの、宣伝費を浮かせて設備や開発の莫大な投資に集中するためだったらしいよ。今やゲーマーの【ブリファン】への期待度は最高潮。海外の注目もあるから外国人旅行客の新しい観光スポットになるかもしれない、って期待もあるぐらいなんだよ」


「それはまたすごい話だな」


「少しでも【ブリファン】に興味もってもらえたら嬉しいな」


 講義は終わった。

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