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第七話 「嵐のあとで」


 深く頭を下げる子供たち。


 その震える背中を前に、大聖堂は静かな空気に包まれていた。


 先ほどまでの緊張が、ゆっくりとほどけていく。


「……顔を上げて」


 フレイの穏やかな声が響く。


 恐る恐る顔を上げた子供たちの目には、まだ不安が残っていた。


「もういいよ。本当に、気にしてないから」


 そう言って、フレイは小さく笑った。


 その笑顔に、張り詰めていた空気がふっと緩む。


「……全く、あなたって子は」


 ミレイユが、呆れたように息を吐いた。


 だがその声は、どこか優しい。


「甘いわね。でも――」


 ふわりと、フレイの頭に手を乗せる。


「そんなフレイが私の誇りよ」


 その様子を見ていた子供たちは、再び深く頭を下げた。


 今度は、先ほどとは違う。


 恐怖ではなく、敬意と後悔からくるものだった。


 国王陛下が、静かに口を開かれる。


「よい」


 その一言で、場の視線が集まった。


「過ちは誰にでもある。だが、それを認め、正すことができるかどうか――それが何より重要である」


 厳しくも、どこか温かい声音。


「本日の出来事、しかと胸に刻むがよい」


 子供たちは、深く頷いた。



 その後、三家の当主たちも前に進み出て、深々と頭を下げた。


 もはや言い訳の余地はない。


 ただ、自らの至らなさを認めるしかなかった。


 ――一件落着、だな。


 そう思った、その時。


「ねぇ」


 場違いなほど軽やかな声が響いた。


 アイリーンだ。


「さっきから黙って聞いてたけど」


 にこり、と微笑む。


 だが目は笑っていない。


「子どもがやったこと、で済ませるつもりじゃないでしょうね?」


 空気が、再びピリつく。


「教育っていうのはね、家庭と環境で決まるのよ」


 ゆっくりと、言葉を選ぶように続ける。


「つまり――責任は、誰にあるのかしら?」


 三家の当主たちの顔色が、さらに悪くなる。


 逃げ場はない。


「……無論、我らの責任にございます」


 絞り出すような声。


 その言葉に、アイリーンは満足げに頷いた。


「よろしい」


 くるりと踵を返す。


「だったら、あとは“どうするか”ね」


 その背中が語るのは、それ以上は言わないという圧だった。


 国王陛下もまた、小さく頷く。


「後のことは、追って沙汰を下す」


 それで、この件は完全に幕を下ろした。


 大聖堂に、穏やかな空気が戻る。


 先ほどまでの嵐が嘘のように、静かで、澄んだ空気だった。


「……終わったね、パパ」


 メリアが、ほっとしたように言う。


「ああ。全部、な」


 そう答えながら、フレイの頭を軽く撫でた。


「よくやった」


「……うん」


 少し照れたように笑うフレイ。


 トールが元気よく声を上げる。


 場の空気が一気に和んだ。


「さて、と」


 俺は小さく息を吐く。


「帰るか」


 こうして俺たちは、大聖堂を後にした。


◇◇◇


 ――そして。


 屋敷に帰り着いた、その瞬間だった。


「ピーナッツバターがないじゃないのぉおおお!!」


 館中に響き渡る、絶叫。


「……」


 全員、固まる。


 振り返れば。


 ローブを脱ぎ捨て、キッチンへと突撃したミレイユの姿。


 先ほどまでの“聖女”は、どこにもない。


「……別人?」


 フレイがぽつりと呟く。


「さっきのかっこいいママは……幻覚?」


 メリアも、首を傾げる。


 ――いや。

 

どちらも、あいつだ。


「……はは」


 思わず、笑いがこぼれる。


 あの大聖堂での出来事も。


 この騒がしい日常も。


 どちらも紛れもなく、俺たちの現実だ。


 ミレイユはキッチンで何やら騒ぎながら、ぶつぶつと文句を言っている。


 フレイはそんな様子を見て苦笑し、


 メリアは楽しそうに笑い、


 トールは無邪気に手を叩いている。


 ――ああ。


 やっぱり、この家は騒がしい。


 だが、それがいい。


 俺は改めて、この愛すべき日常を守ろうと心に決めた。


 どんな騒動があろうとも。


 この笑い声が、絶えることのないように。


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