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第三話 「聖女の企み」


「ねぇルシアン」


 ミレイユが、ふっと笑った。


 その表情は先程まで涙を浮かべていたとは思えないほど、どこか楽しげで。


「いいこと思いついたの」


 嫌な予感がした。


 いや、この場合は──“誰かにとっては災難な予感”か。


「フレイのことを知らないから、あんなこと言うのよ」


 ミレイユがゆっくりと立ち上がる。


 その目はどこかいたずらっぽく輝いていた。


「なら──」


 口元がにやりと歪む。


「見せつけてやろうじゃないの。フレイの凄さを」


 ……ああ。


 これは止められないやつだ。



 ミレイユはそのままフレイの元へと歩み寄ると、そっとしゃがみ込み目線を合わせた。


「フレイ、ママね、お願いがあるの」


「お願い?」


 フレイは首をかしげる。


「ちょーっとママのお仕事、手伝ってくれない?」


「お仕事?」


「そう。この王国全土を覆ってる結界、知ってるわよね?」


「うん」


「その結界ね、十年に一度、全土を浄化して強化し直してるの」


 さらりと言っているが、とんでもない規模の話だ。


「で、ちょうど来週がその日なのよ」


「うん」


「その浄化を──フレイにやってほしいの」


 思考が一瞬止まる。


 それは国家規模の大魔術だ。



「大聖堂で魔法をばーって広げるんだけどね?」


 ミレイユは両手を大きく広げてみせる。


「このくらい──って言いたいんだけど……」


 ぴたりと動きが止まった。


「……どのくらい?」


 フレイが首をかしげる。


「えっとね、その……すっごく広いの!」


 ──雑だ。


「王国ぜんぶだから!」


 それは知っている。


「でもねぇ……りっぽー……へーほー……めーとる?とか言われても、全然わかんなくて!」


「立方メートル」


「それそれ!もうほんと無理なのよあれ!」


 頭を抱えるミレイユ。

 どうやら本気で分かっていないらしい。


「どれくらい魔力が必要なのかも、どこまで広げればいいのかも、感覚だと出来るんだけど……ちゃんと説明しろって言われるともう全然だめで……」


 少しだけ困ったように笑う。


「とにかく!それをね、フレイにお願いしたいの」


 視線を合わせて、まっすぐに言った。


「ママと一緒にちゃちゃっとやってくれない?」



 フレイは、一瞬だけきょとんとして──


「……あはは」


 小さく笑った。


 さっきまでとは違う、柔らかい笑み。


「いーよ」


 迷いのない返事だった。



「ほんと!?ありがとうフレイ!」


 ミレイユが嬉しそうに抱きしめる。


 フレイも、少し照れくさそうにしながらそれを受け入れていた。


「フレイ、ママをしっかり手伝ってやるんだぞ」


 そう声をかけると、フレイはこくりと頷いた。



 ──なるほど。


 ミレイユの狙いがようやく見えた。


 ただ手伝わせるだけじゃない。


 この子の力を、“魅せる”つもりだ。


 それも──誰の目にも明らかな形で。


 フレイの知性と、ミレイユの魔術。


 その二つが重なった時──


 きっと、とんでもないことになる。


 そしてそれは──


 あの愚かな連中に、思い知らせるには充分すぎるだろう。


 ──だが。


 この時の俺は、まだ知らなかった。


 来週、大聖堂で起こる出来事が。


 “見せつける”どころの騒ぎでは済まないことを。


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