ゴリマッチョメスガキ!!!!
「ふぅ」
とある放課後。
今日も俺は高校からの帰り道にある小さな公園のベンチに座り、スマホを手にした。
最近ハマっている『装獣戯画』というスマホゲーをプレイするためだ。
家だと中学生の妹がやたらと絡んできて、集中できないからな。
あと一戦勝てばランクが上がりそうなところまできているので、ここだけは落とせない。
よし、いくぞぉ……!
「あっはぁ♡ねえねえそこのおにいさん、こんな公園で一人でゲームしてるなんて、寂しいぼっちだね♡やあい、ざぁこ、ざぁこ♡」
「――!!」
その時だった。
幼い女の子の声が、俺の鼓膜を震わせた。
この神経を逆撫でする煽り口調――!
……俺はオタクだからわかる。
これは間違いなく――メスガキ!!
思わず顔を上げると、そこには――。
「――!?!?!?」
身長190センチ近くはある、筋骨隆々な女の子が仁王立ちしていたのである――。
えーーー!?!?!?
だが、キャラシールがベタベタ貼られている紫のランドセルを背負っているし、顔は小学生並みの童顔で、且つ黒髪のツインテールという、体型以外の部分は完全にメスガキそのもの――!
こ、これは――どっちだ????
メスガキ――なのか????
それにこの顔、どこかで見たことがあるような……?
「ぷぷぷー、何その顔、超ウケるぅ♡そんなんだからその歳でも彼女がいない、よわよわの童貞なんだよ♡」
「――!!」
やはりコイツはメスガキだ――!!
どれだけ見た目がゴリマッチョでも、魂は完全にメスガキそのもの――!!
しかもなんで俺が童貞なことも知ってるんだ!?(いや、確かに童貞っぽい容姿かもしれんが……)
――この時、俺の心に火が付いた。
オタクとして、このメスガキだけはわからせねばならぬ――!!
「ふうん? そこまで言うなら、一つ俺と勝負するかい? それで負けたほうは、罰ゲームで勝ったほうの言うことを何でも聞くってのは、どうだい?」
これぞわからせの王道展開――!
俺も『装獣戯画』の腕なら自信がある。
ゲーム勝負だったら、俺もこのゴリガキ(ゴリマッチョメスガキの略)をわからせられる――!
「あっはぁ♡おにいさん必死すぎぃ♡マジウケる♡いいよ、その話ノッてあげる♡――その代わり、勝負方法はこれね」
「……え?」
ゴリガキはどこからともなくアームレスリング台を取り出し、その上に自らの右腕を置いた。
――う、腕相撲……だと……!?
そんな……!!
普通こういうのって、ゲームとかで勝負するものじゃないのか……!?
腕相撲でのわからせなんて、聞いたことないぞ???
「あれあれ~? どうしたのかなおにいさん? まさか子どもの私から逃げたりしないよね? そしたら今度こそ本物のざこになっちゃうよ、おにいさん?♡」
「――!!」
クッ、このゴリガキがぁ……!!
「いいよ、それでいこう」
「あはは♡そうこなくっちゃ♡」
なあに、相手はあくまで子どもなんだ。
俺だって普段ゲームで指先の筋肉はそれなりに鍛えてるんだから、いい勝負ができるはず――!
「じゃあ、アタシがれでぃごーって言ったら、勝負開始ね♡」
「ああ、いつでもいいよ」
俺も台の上に右手を置いて、ゴリガキと手を握る。
「――!」
すると、あまりの威圧感に、背筋がブルリと震えた。
な、何だコイツ……!
俺の生物としての本能が、けたたましくアラートを出している。
――コイツは、ヤバい。
「れでぃ、ごー♡」
「クッ!!」
だが、今更逃げるわけにはいかない――!!
――俺は絶対に、このゴリガキをわからせるんだ!!
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
渾身の力を右手に込める。
すると――。
「…………なっ!?」
ゴリガキの腕は、まるで樹齢千年の大木の如く、ピクリとも動かなかった。
そ、そんな……!
「クッ! クソッ! クソオオオオ!!!」
「あはは♡やっぱりおにいさんよわよわじゃん♡ざぁこ♡ざぁこ♡よわよわおにいさん♡クリスマスはいつも一人でホームアローン観てる♡」
「うっ! くぅぅ……!」
こんな……!
こんなゴリガキに――!!
しかも、なんで俺がいつもクリスマスは一人でホームアローン観てることも知ってるんだよ……!!
「じゃあそろそろ終わりにしてあげるね♡ほいっと♡」
「があああああああ!?!?」
ゴリガキに一瞬で、右手を台に叩きつけられた。
そのあまりのパワーに、アームレスリング台が真っ二つに割れた――。
いやホントに人間かコイツ????
「あっはぁ♡勝負はアタシの勝ちだねおにいさん♡負けたほうは何でも言うこと聞くんだよね? おにいさんには、何してもらおっかなぁ♡」
「クッ!」
何て屈辱だ……!
こんなゴリガキに……!
……だが、一度した約束を破るのは、オタクとしての――そして男としてのプライドが許さん!
「煮るなり焼くなり好きにしろよ! 何でもやってやるよッ!」
こうなりゃ自棄だ!
「……へえ♡ざこのクセにカッコイイこと言うじゃん♡♡」
「え?」
い、今、カッコイイって言ったか、コイツ?
「じゃあ次は、相撲で勝負ね♡」
「…………は?」
ゴリガキは今度は細長い俵を取り出し、それを腕の力だけで地面に円形に埋め込み、簡易的な土俵を一瞬で作ってしまった。
なっ!?
「つ、次は……って、俺の罰ゲームは?」
「だからこの相撲が、おにいさんへの罰ゲームだよ♡また負けるのが怖いって言うなら、逃げてもいいよ、バレンタインデーの日だけは誰よりも早く登校してる、よわよわおにいさん♡」
「――!」
こ、このゴリガキがぁ……!!
てかだから、なんで俺がバレンタインデーの日だけは誰よりも早く登校してること知ってるの???
俺のストーカーかコイツ???
「い、いいよ! いくらでもやってやるよ、相撲!!」
「あっはぁ♡そうこなくっちゃ♡」
むしろ相撲のほうが、腕相撲よりテクニックでどうにかできるような気が、しないでもない。
――これで今度こそこのゴリガキを、わからせてみせる……!!
「アタシがはっきおぉい♡って言ったらはじめね♡」
「ああ」
俺は上着を脱いで土俵の中に入り、腰を下ろした。
こうして改めてゴリガキと対峙すると、そのあまりのサイズ感に脳がバグりそうになる。
まるで熊を相手にしてるみたいだ(熊と戦った経験はないけど)。
「いくよ――はっきおぉい♡」
勝負は最初の、一瞬で決める――!!
「フンッ!」
「――!」
俺はゴリガキの眼前で、猫騙しを炸裂させた。
昔読んだ漫画の中で、非力な主人公が、これで屈強な男を倒したシーンがあったからな!
これで勝つる!(誤字にあらず)
「あっはぁ♡如何にもざこの思考って感じ♡」
「なっ!?」
が、ゴリガキは俺の渾身の猫騙しに微塵も怯まず、そのまま俺の腰のベルトをガッチリと掴んできたのである。
クッ、全然動けねぇ……!!
こ、こうなったら作戦変更だ!
このままがっぷり四つで組み合って、足払いで転ばせてやる!
「あはは♡そんなに鼻息荒くして小学生の身体に密着してきて、おにいさんただの変態じゃん♡」
「――!?」
た、確かに、男子高校生と女子小学生がくんずほぐれつしているというシチュエーションは、字面だけなら事案待ったなしだが、果たして傍からはコイツが小学生に見えるだろうか??
むしろ屈強なボディビルダーに、男子高校生がイジメられてるようにしか見えなくない??
……自分で言ってて悲しくなってきたが。
いや、今は勝負に集中だ!
「フンッ!」
俺はゴリガキの足に、自らの足をかけた。
「今、何かした?♡」
「っ!?」
が、ゴリガキの足は杭で地面に打ち付けられてるみたいに、ビクともしない。
そ、そんな……!!
こんなにもか……!!
こんなにも俺とゴリガキの間には、圧倒的な力の差が……!!
「ほらほら♡このままじゃまたおにいさん負けちゃうよ?♡」
「クッ!」
そのままズリズリと、徐々に俺の身体を押してくるゴリガキ。
これは所謂『電車道』――!
真っ直ぐに相手を土俵の外に押し出す様が、電車の走る道のようだからそう名付けられた相撲用語。
あくまで技ではなく、力で負けさせられたことを実感せざるを得ない、最も屈辱的な負け方だ……!
クソッ!
また俺はコイツに負けてしまうのか……!
――わからせられるのは、俺のほうだったのか。
「ざぁこ♡ざぁこ♡よわよわおにいさん♡誕生日はコンビニで自分で自分にケーキ買ってる♡」
「う、ううぅぅ……!!」
負けたくない……!!
コイツにだけは負けたくない……!!!
あと、別にいいじゃないかッ!!
誕生日にコンビニで自分で自分にケーキ買ってもッ!!!
――誰もくれないんだから。
「クマー」
「「っ!?」」
その時だった。
突如謎の鳴き声がしたので振り返ると、そこには――。
「クマー」
「っ????」
ゴリガキを更に一回りデカくしたような、巨大な二足歩行の熊がこちらを睨んでいたのである。
えーーー!?!?!?
何故こんな街中に熊が????
あと熊って「クマー」って鳴くの????
あれってアスキーアートの中だけの設定じゃなかったんだ????
「あっはぁ♡最近人里に下りてくる熊が問題になってるからねぇ。この子もその一環かな」
いやここは千葉県だけど????
千葉県には野生の熊っていないんじゃなかったっけ????
あと、なんでゴリガキはこんなに冷静なの????
――クッ。
「に、逃げてッ!」
「――! おにいさん」
俺はゴリガキの身体から離れ、熊の前に両手を広げて対峙した。
いくらゴリガキが強くても、流石に熊には勝てない。
――だったらここは年上の俺が、命に代えてもゴリガキを守護らねばならぬ。
「あ」
この瞬間、突如俺の中に数年前の記憶が蘇った――。
そうだ――あれは俺がまだ、中学生の頃の話だ。
『ワン! ワン! ワン!』
『うえぇぇん』
『――!』
学校からの帰り道、黒髪ツインテールの幼い女の子が、大きな犬に吠えられて泣いている現場に遭遇した。
犬にはリードが付いているが、飼い主らしき人は見当たらない。
散歩の最中に、逃走してしまったのかもしれない。
――この瞬間、俺の心に火が付いた。
オタクとして――そして一人の男として、この幼い女の子のことは、絶対に守護らねばならぬ。
『コラァッ!!』
『――!』
俺は両手を広げて女の子の前に立ち、鬼のような形相で犬を睨みつけた。
『クゥ、クゥン』
すると俺のあまりの気迫に気圧されたのか、犬はスゴスゴと逃げて行ったのだった。
ふ、ふぅ……、何とかなったか。
『大丈夫? 怪我はなかったかい?』
俺はしゃがんで女の子と目線を合わせ、なるべく心配させないように、優しい声で訊く。
『う、うん、大丈夫! ありがとう、おにいさん!』
『そう、それならよかった』
こうして落ち着いて見てみると、まるでお人形みたいに可愛い女の子だった。
『お礼に次会ったら、今度はアタシがおにいさんのことを守ってあげるね!』
『あはは、楽しみにしてるよ』
こんな幼い子に守られるのは、それはそれで情けないけど。
『じゃあおにいさん、またねー』
『うん、バイバイ』
女の子はブンブン手を振りながら、元気に去って行った――。
「クマー」
「っ!」
熊の鳴き声で、一気に現実に引き戻された。
やはり犬と熊では、あまりにも状況が違い過ぎた。
犬の時のように熊が俺の気迫に気圧されて逃げるなんてことはなく、熊はその文字通りのぶっとい熊手を、俺に振り下ろしてきた。
――あ、わりい、おれ死んだ。
「――まったく、ざこのクセに強がっちゃって♡♡」
「クマー!?!?」
「っ!?!?」
その時だった。
目にも止まらぬ速さでゴリガキが俺の前に立ったかと思うと、神速の掌底を熊の鳩尾にブチ込んだのである。
えーーー!?!?!?
「ク、クマァ……」
ズズンという地響きを上げながら、熊はその巨体を地面に沈めたのだった。
こ、このゴリガキ……強過ぎる!!
「……でも、自分の身を顧みずに誰かを助けちゃうところ、やっぱおにいさんは変わってないね♡♡」
「――!?」
ゴ、ゴリガキ……!?
まさか君は、あの時の――!
「さあ熊さん、大人しく山に帰ろうね♡」
「ク、クマァ……」
ゴリガキは米俵みたいにヒョイと熊の巨体を担ぐと、そのままズンズンと歩き出した。
「あ、ありがとうッ!」
「――!」
俺はそんなゴリガキの背中に、精一杯のお礼を言う。
「でも、次はまた、俺が君のことを守ってみせるからッ!」
「……あはは♡♡♡期待しないで待ってるよ、よわよわおにいさん♡♡♡」
ブンブン手を振りながら去って行くゴリガキを見送りながら、今後はゲームだけでなく、筋トレも頑張ろうと、心に誓った。
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