-89話ー 遭難者
ザザ~ン・・ザザ~ン・・・・ザザ~ン
180度見渡す限りの海と、180度見渡す限りの砂漠。
其の、海と砂漠の境界線。
日中、灼熱の地獄と化して居た砂漠も、赤く染まり、
太陽は、水平線に沈みかけていた。
海と、砂漠の境界線には、打ち寄せる波の音だけが、響いていた。
「・・・・・・・・。うっうぅ~」
『やっと目覚めたっスか・・・・』
「ふぅわ~あ~・・・・お早うリリー良く寝たわ~
どうも、丸一日、寝て居た様だね~ふぅわ~」
『丸一日じゃ無いっスよ、三日間眠りっぱなしっス』
「い~っ!そんなに寝て居たの~?」
『まあ、無理も無いっス~3ヵ月以上、海中を歩いたんスから、
疲れて当然っスね~真っ暗闇でしたし、
お疲れ様っス~今日、もう一晩此処で野営するっス。
そして明日、朝ごはん食べたら、移動しましょうか』
「三日も?良く無事で居られたね~日焼けは?」
『シールドは紫外線も防御するっス~
温度も最適の25度で調整して居たっス
其れに陸上は、海中程危険では無いっスからね、
まあ、ここらで気を付けるのは、
船幽霊と言うアンデットと、砂漠の掃除人と言われて居る、
サンドワームと、その亜種のシーワーム、
まあでっかいアオイソメみたいなやつっス、
後はジャイアントクラブに、皇帝ヤシガニと、キングヤドカリ、
グレートロブスターに、高級クラブってとこっス』
「高級クラブって・・・・何か高そう・・・・
ドンペイも一緒に付いて来そうな、凄っごく美味しいのかな?」
『皆、茹でるだけでも、大変美味しいのですが、
獲るのは大変難しいっス。
高級クラブは、滅多に人前には現れないし、
竜並の強さと言われていて、
人間では、ほぼ、獲る事は出来ないっスね、
市場に出せれば、大金持ち確定っス。
まあ、ストレージに一杯入って居るんスけど』
「・・・・ゴクリッ!今晩は其れを茹でて、食べよう」
『そうっスね、じゃあ、其れ用の大鍋を作るんで、
ジャイアントクラブにキングヤドカリ、皇帝ヤシガニに、
グレートロブスターも一緒に海水を使って、塩茹でにするっス』
「塩茹で、塩茹で~ばんざ~い!俺、カニ大好きなんだよね~
特にワタリガニ、美味しいよね~」
『あ~スーパーワタリガニが沢山有るっスよ~』
「まじですか~やった~!!楽しみ~早速お願いするよ~」
『オッケ~っス~では、先ずは、炉!』
「炉??って何?何か半壊した塔の様な?其れ何?
何で、ストレージにそんなカニの在庫あんの?」
『ア~其れは無人島で、サファイア達が狩ってくれて居るっスよ~
次に鍋っス~引っ繰り返ったらダーリン潰れるので、
注意するっスよ~』
「へっ?」
『ホイ、ど~ん!』
「ひょえ~!!でっかいんですけど~
五右衛門が100人位は、入れる位に、
でっかいんですけど~100人入っても、大丈び~」
『後は、海水を一旦ストレージに入れて、電子レンジで沸騰させて、
鍋にどばーっと入れるっス。火は森の木を炭にしたものを、
炉に放り込んで、準備完了っス~』
「準備の機材が、こんなにでっかいと言う事は・・・・」
『先ずは、一番小さいスーパーワタリガニを十匹
煮立った鍋に入れるっス~』
「一番小さいって、でかいよ~でかい、2メートルは有るよ~ワタリガニでしょ~
30センチ位だよね~大きくても、普通~どう見ても、
俺が食べると言うよりは、俺が食べられる方だよね~」
もう色々諦めて煮えるのを待つと、
スーパーワタリガニは、真っ赤に煮えた。
其れを、一旦ストレージに仕舞うと、
次にジャイアントクラブが二匹鍋に放り込まれた。
「ジャイアントクラブ、
でかいんですが~10メートルは有るんですが~」
『此れからのは、煮える迄時間も掛かるので、
スーパーワタリガニを、切り分けるので、
晩御飯にして下さいッス』
「は~い」
『ダーリン、ここ等で獲れるスーパーワタリガニ等は、
人を襲って食べる事が多いので、時折、
お腹の中から、人間の死体が、出る事が有るっス』
俺は口に入れて居た、カニの身をだらだら~っとこぼした。
『此れは、無人島で獲れたカニなので、大丈夫っスよ~』
「そんなこと言われたら、食べれ無いじゃん~
リリーやめてよね~」
『いや、ちょっとからかって見たく成ったっス~
直ぐに反応を、返えしてくれるのが、
嬉しくって、つい虐めたく成るっス~』
「リリー、勘弁してよ~俺、ビビりなんだからさ~」
『御免っス~一杯有るから、じゃんじゃん食べるっス~』
「は~い、ムシャ、ムシャムシャ・・・・
美っ味~マジ、美っ味~」
スーパーワタリガニは、塩茹でしただけの物であったが、
でかいのに、大味と言う事も無く、凄く美味かった。
「こんなに美味けりゃ、オアシスの街に辿り着けたら、
料理屋や、宿屋、何か期待出来るんじゃね?」
『残念っス~クラブ類のモンスターは、
集団で襲ってくるし、凶暴で食欲旺盛なので、
狩りに行ったら、逆に狩られるのが落ちっスね~
余程、高位の冒険者グループか、
軍隊で無いと対処出来ないッス
其れに、直ぐに痛むので、
中々市場には出ない超高級食材っス、
時間を止める様な、
マジックバッグなんて、レア中のレアっスからね~
普通は狩ったら、直ぐに冷凍して大急ぎで、
大きな街に持って居くっス。
王族なり貴族なり豪商なりが、クラブが狩れる近くの街まで、出向いて、
高位冒険者グループが、狩って来た冷凍ガニが届くのを待つッス。
そこ迄してやっと、冷凍ガニが食べられるって言う感じっス。
冷凍なので、味は新鮮な物に比べてかなり落ちるのですが、
其れでも大変美味いので、大金に物を言わせて、
こんな辺境に迄来る、金持ちが後を絶たないっス。
っと、さあさあ、カニ味噌も食べるっス。
ほっぺが落ちる位に美味しいっス~こんな新鮮な物は、
王侯貴族でも食べる事は出来ないッス。
おっ、ジャイアントクラブが煮えたっス~
次は、キングヤドカリっス~』
「キングヤドカリもデカいわ~5メートは、有るんですけど~
うっわ~カニ味噌も美味ぇ~コクが凄いわ、コクが」
当然だけれど、塩茹でにしたカニがデカ過ぎるので、
リリーは其の身だけを出して呉れている。
『ヤドカリは石焼きにしても、美味しいんっスけど、
石が無いので、茹でるっス』
「何か、凄い絵図らだよね~ゾウを丸ごと煮て居る感じだよな~
リリー、何でこの世界の獣やモンスターこんなにデカいの?」
『前にも言った事が有る様に、基本的には獣やモンスターに、
寿命が無い事っス。狩れる者が居なければ、
幾らでも大きく成れる訳っスね、
其れと、潤沢な魔素っスね、
獣は大きく成るにつれて、次第に周りの魔素を体に貯めて、
魔物、モンスターに成る訳っスが、
そうして居る内に固有の魔法が、身に付いて行くっス、
幾らでも大きく成れる魔法を身に付ける訳っス。
生物が生きて行く為の一つの答えが、此処には有るっス。
他にも、沢山の子孫を残して行くと言うのも、
此れも又一つの答えっス。
その他にも有る訳っスが、
それらの多様な生命戦略が微妙なバランスで、
成り立って居るっス。
此の世界も地球より、
2割程度、大きいってのも有るんスけどね』
「うん、成程分らん。分からないけど、
寿命が無くて、魔素が濃いので、でかく成る事は、分かった」
『まあ、ダーリンの脳みそで、其れだけでも分かったと言う事で、
良しとするっス、キングヤドカリが煮えたっス。
次は、皇帝ヤシガニっス~』
「ウッハ~美味かった~お腹ポンポンだよ~
皇帝ヤシガニもでかいね~10メートルは有るんじゃね?」
『次のグレートロブスターは、5メートル越えっス』
「何それ?東平チャンポン祭り?南海の大血糖値のエボラ?
ゴチラは?ねえ?ねえ?」
『何、訳の分からない事言って居るんスか~
グレートロブスターは、海洋性モンスターで海竜並みの強さで、
人族では全く相手に成らないっス。
正に、超レア食材っス。幻の高級食材と言われて居るっス。
そんなグレートロブスターにも天敵は居るっス。
クラーケンなんかの大型のタコやイカの良い餌っス~』
晩ご飯も食べ終わり、食休みし乍ら、グレートロブスターを、
塩茹でして、5メートルは有る高級クラブを塩茹でしてから、
水平線に浮かぶ月を見乍ら静かに眠りに就くのだった・・・・・・・・
翌朝、早速高級クラブを食べた。
「昨夜のスーパーワタリガニも、凄く美味かった。が、
此れは、次元が違う。上品で濃厚で更に甘みがある。
美味い!!・・・・」
ただひたすら、黙々と食べ続けた。
『そうでしょう、そうでしょう。
ささ、次はカニ味噌っス~ほっぺを落とすが良いっス~』
「美味~い!!」
ただひたすら食べて居た。
何時の間にか食べ切ってしまい暫くボー然として居た。
「此れが、カニの完成形なのか完成系なのか!美味かった」
『此れ以上食べたら、歩くのに支障をきたすっス。
又、お昼ご飯の時迄、楽しみに待つッス』
「はい!凄く楽しみ~」
『そしたら、出発するっス』
「は~い」
海パンから、冒険者用の装備に着替えて、
迷彩柄のポンチョは、足が付きそうなので、
竜の羽根の皮膜で作ったローブをリリーに作って貰い、
魔法使いの様相にし、目立たない出立にしてから、
此の場を後にして、出発したが、
幾ら歩いても景色が全く変わらない。行けども行けども、
180度の海と、180度の砂漠が続いて居る。
海沿いの砂浜を、延々と歩き続けて居る。
時折遠くにキングヤドカリや、1メートル位の、ジャンボ浜ガニが、
見える位である。俺は結界シールドのお陰で、
姿や気配を消して居るので、すんなりと進んで居る。
内陸側の、砂漠地帯を通らないのは、サンドワームが危険な為である。
俺自身は、気配を消して居るのだが、
サンドワームは、砂の中を自由に泳いで居る。
たまたま、地上に顔を出したサンドワームに出合い頭に、
食べられ無い様にだ。其れほどに砂漠地帯のサンドワームは多い、
と言っても、テリトリーの中だけの話だが、
砂漠地帯にそんなに多くのサンドワームが居たのでは、
到底、通り抜ける事は出来ない。
テリトリーと言う狭い範囲に罠を張って、
獲物が来るのを待ち受けて居るのだ。
当然道案内が居れば、その危険は少なくなる。
がしかし俺にはそんな、道案内は居ない。
近くなら、リリーが警戒してくれて居るのだけれど、
如何せん地下に居るモンスターなので、感知しにくいのである。
其れに浜辺の方が、まだ歩きやすいと言う事も有る。
『ダーリン、少し内陸側に逸れて行くっス此の先、
暫くシーワームのテリトリーっス。
幾つも罠が張られて居るので、迂回するっス』
「は~い、了解~」
てな感じで進んで居る。
一週間程、こんな感じで、距離を稼いで居たら、
『ダーリン』
「ほい、な~に?」
『3キロ程先に、人が倒れて居るっス』
「えっ、死んでんの?嫌だな~埋葬してあげないとダメだね~」
『いえ、死んではいなさそうっス。
死に掛けっスね~まだ、息は有るっスね』
「じゃあ助けないとね、でもど~せ、又王女様とか~
海神様のお姫様とか~そんなパタ~ンなんだろうね~
嫌だな~気持ち悪いな~と、思ったんだ」
『お姫様は兎も角、若い女性っスね』
「やっぱりね、もうお腹一杯なんだけどね~
旅人の仁義だし、助けないとね~」
『折角ダーリンと二人旅で、楽しんで居たのに、
何か面倒臭いっスね~』
「じゃあ、スルーする?誰も見て無いし、透明だし」
『じゃあ、そうしましょうかっス~』
俺が、行き倒れに成って居る、
灰色のローブを纏った女の子の傍迄行くと、
『ダーリン、此の娘海水を飲んだ様っス。
酷い脱水症状を引き起こして居るっス。其れに、
肩をシーワームに齧られて居るっスね~
肉が削げて、雑菌に大分感染して居るっスね~
文字通りの虫の息っス』
「バカだね~海水なんか飲んだら一発で、
脱水症状に成るのは、当たり前じゃん。
じゃあ離れ際に、ヒールと水筒置いて行くかね?」
『まあ、其れで助かるでしょうっス』
「じゃあそお言う事で」
俺が離れ様とすると、がっしと、足首を掴まれて、
「水~み~ず~を下せ~ご主人様~」
「ん~やっぱり、こうなるんだよね~」