-88話ー ヤマダタカシの海底散歩
~本当今俺は、真っ暗な海底を目を瞑って歩いて居る。
しかし、ちゃんと前は見えて居る。
と言うか、360度見えて居る。
不思議な感覚だ。瞼には足元から、遥か遠く迄、
マス目が凹凸の起伏を描いた様な景色が映っている。
小さな石迄も見えている状態だ。
目を開けている方が、意識が、
集中出来ずに、岩にけつまずいて危ないのだ。
目を明けても、どうせ、真っ暗だしね、
水の中なのだけれど、地上を歩くのと同じように歩けて居る。
リリーが俺に張ってくれて居る、結界シールドのお陰だ。
大きな泡に体が覆われて居る感じだ。直接地面を歩けて居る。
泳ぐ事も出来るのだそうだけれど、大きな海洋モンスターに、
丸のみされる危険が有るそうだ。もう、うんちには成りたくない!
そして、ステルス性も抜群で、電波や音波等も泡の様な。
結界シールドが吸収して居てくれるので、
真っ暗な海底のモンスターに、
感知される事も無く、明るくなっても、
光学迷彩が施されて居て見えないそうだ。
第5世代ステルス戦闘機並みだね、やったね、
武装して無いけど~
エルダードラゴン級の海竜でもい無ければ、
捕捉出来ないだろうって~
エルダードラゴンクラスに成ると、
魔力を捕捉出来るらしい、まあ頭も良いしね、
「リリーなんか~目の前が変で歩きにくいんだけど~
白黒だし、線が一杯だし~」
『ダーリン、諦めるっス。
センサーを映像化するのって、
大変なんスよ、面倒臭いんっスよ
其れに、うようよ居る、
海洋モンスターを避けながら進んで居るっス。
ダーリンも、うんちに成るのはもう嫌っスよね~
うだうだ言って無いで、キリキリ歩くっス、
ちんこ引っこ抜くっスよ!』
「うぅ~うぅ~御免なさい・・・・」
『分かれば良いっス』
「リリー・・・・まだ怒ってる~?」
『当たり前っス!大事なダーリンを死なせかけたっス
ルビーの金玉、蹴り上げたいっス!!』
「あの~、ルビーに金玉無いから、
其れと八つ当たりは止めてね」
『じゃあ、ダーリンの金玉、ルビーに付けて蹴り上げるっス!』
「お願い、其れは止めて、俺が死ぬ」
・・・・・・・・
「リリーもうだいぶ歩いたんだけど~
もう、へとへとなんだけど~お腹減ったよ~」
『そうっスね~もう、10時間程歩いたっスね~
先も長いし、安全マージン取れる岩場を見付けて、
夜営するっス~』
「やった~!何処かある?」
『暫く行った先に、大きな、岩が有るので、
其処で野営するっスよ』
数十メートル先の岩場に付くと、
土魔法で、岩に体がすっぽり入る位の穴を明けて、
中に入った。土魔法を使う時に目を開けたが、真っ暗で、
岩が有る事も分からなかった。リリーのセンサー凄げ~!
一息つくと、ママゾンで、
ペットボトルのコーヒーと、サンドイッチを買い、
食べてコーヒーを飲み乍ら、ボ~っと穴の外を見て居ると、
真っ暗な中、大きな青い光が、近付いて来た。
「何だろう?でっかい人魂みたいだな~」
人魂は、一旦右に移動すると、穴の前でプルプルと、
思わず、手を出そうとすると、
『ダメっスす!ダーリン、光に手を出してはいけ無いっス!』
「は、はい~!」
暫く、穴の前でプルプルして居た光が通り過ぎると、
俺の体位ある、大きな目が俺を睨んで、通り過ぎた。でかい!
「リリー、何有れ?」
『巨大アンコウっスね~こんな、深い所にも居るんスね~
生存競争が激しいんスかね~』
「深いってどの位?100メートル?」
『此処は、大陸プレートと海洋プレートの境、海溝に成って居るっス、
其の海溝の深場で、水深はまあ、8、876メートル当たりっス』
「俺ペッチャンコ?何で、素で歩けてんの?徒歩だし」
『其れが、ドラゴンパンチにも耐えられる、結界シールドっス~
ネコパンチじゃ無いっスよ~』
「テレビで見た事有るけど、8,000メートルって、
ほぼ、生き物がいなかった様な?・・・・」
『流石は、海洋モンスターって所っス、
凶悪な生物がうようよ居るっスね~
海に人族が進出、出来ない筈っス』
「あっ、人魂に気持悪い魚が・・・・あっ、食べられた」
『こんな深海でも、弱肉強食なんスね~』
「いや、食べられた魚、でかかったんですけど~」
『そうっスね~あのアンコウ12メートルは有るんじゃ無いっスか~?』
「でか過ぎね?」
『そんな事は無いっス、もっと巨大で恐ろしいモンスターは、
山の様に、ゴロゴロいるっスよ~』
とか、言って居る内にアンコウの人魂が消えた。
「アンコウ消えたんだけど~」
『そうっスね~キラー、ホエールに食べられたっスね~』
「・・・・・・・・
怖ぇ~、怖ぇ~よ~暗いよ~怖ぇよ~え~ん!!」
又、うんちとおしっこを漏らしてしまった。
恐ろしい、世界に放り込まれた事を痛感するタカシだった。
・・・・・・・・。
どれ位の日にちが経ったのだろうか?
今日も俺は目を瞑り、黙々と歩き続けていた。
「ひぃ~ん、暗いよ~怖いよ~疲れたよ~お腹減ったよ~」
『さっき昼ごはん食べたばかりじゃ無いっスか~!
グダグダ言って無いでキリキリ歩くっス!
何時まで経っても陸に辿り着けないっスよ!』
「って言っても~もう、何日歩いて居るのさ?
ずっと歩き詰めでもう疲れちゃったよ~!ねえ、リリー」
『何スか?』
「食堂か、銭湯のドアからこっそり拠点抜けて、原始の森に出ちゃダメ?」
『ダメっス!眷属の娘達が気付かない筈無いっス、
ダーリンは海竜のお腹の中で叫んだ事もう忘れたんスか?』
「勿論、忘れちゃないけどさ~だって、辛いんだもん!」
『辛いんだもん、じゃあ無いっス~!』
「ひぃ~ん、狭いよ~暗いよ~怖いよ~ぎゃ~何か巻き付いた~
ちくしょう!其れも此れもみんな、ルビーのせいだ~誰も助けに来てくれ無いし~
分かったよ!もう出て行ってやる。家出してやる!
二度と家になんか帰るもんか!
サファイアも絶対守るって、言ってたくせに~!
他の皆も、見て居るだけで、
何時も大変な思いをするのは俺なんだ!
もう、怖いの嫌なんだよ~誰か助けてよ~御免なさい。
皆が、俺を大事に思って居てくれて居る事は、
本当は、分かって居るんだよ~
だから怖いけど、
ずっと我慢して居たんだ。生まれて来て本当に御免なさい。
でも、もう無理!怖いの嫌なんだよ~」
『ひぃ~ひぃ~ウェ~ンって、回虫に巻き付かれて、
泣いて居たのは誰なんスか~
ダーリンの右手を乗っ取って、ぶん殴ったら、』
「・・・・殴ったね・・・・
おかんにも殴られた事無いのに~其れもぐうで~」
『何てネタぶっ込んで来たのは、一体、誰なんスか!』
・・・・・・・・。
「御免なさい。キリキリ歩きます」
『素直にそう言えば良いっス。私も、皆には思う所が有るっス。
だから、今回の無責任な家出にも協力して居るっス。
皆、ヘタレなダーリンに自分の期待を乗せ過ぎっス。
ダーリンはバカだから、何時も期待に応えようとして、
ヘタレなのに・・・・
遂に押し潰されてしまったっス。
だから、だからね、此れから経験を積んで、
厚みの有る人を目指すっス。
幸い、ダーリンは、ヘタレだけど、
良き人に成る才能が有ると、私は思って居るっス。
急がなくて良いっス。ゆっくりと、経験を積んで行くっス。
そして其の後に、皆の事を思うのであれば、
戻ると言う選択肢も出るっス。
皆には私達が居なくても、やって行けるだけの、
能力と、方向性を与えて有るっス。
皆、きっと、ダーリンの思いを継承してくれるっス~』
「・・・・うん・・・・俺、頑張る・・・・リリー」
『何スか?』
「有難う・・・・愛してる・・・・」
『・・・・うん・・・・』
・・・・・・・・。
『もう少し歩いたら、
今日は早いっスけど、夜営するっス』
「えっ、良いの?」
『もう10日、こんな日が続いているっス。
精神的にも体力的にも、かなり疲れて居る様なので、
一旦、長めに休憩を挟むッス。
移動の方は順調っスから』
「はあ、有難いわ~体より、心が疲れてんだよ~
結界シールド内は空気や、
温度なんかにも気を使ってくれているから、
凄く、楽なんだけど、
如何せん真っ暗な中での移動だからね、
其れに何より、おっかないんだよね~外からは、
見えないって分かって居るんだけど、
怖い物は、怖いんだよ~
目には見えないけど、音は聞こえるんだよね~常に、
何かの音がしてるし、一体何の音?」
『其れは、聞かない方が、良いっスね!』
「・・・・はい・・・・」
『私も甘いっスね、もう少しスパルタでも良いんスけど・・・・
ついつい、甘やかしちゃいます。何時も女は弱いっスね
惚れた弱みっス、何かあったら何とかしましょうっス』
「・・・・うん・・・・」
!!
『ダーリン!今すぐに、あの岩場に隠れるっス!』
!!
「はいっ!」
『忍法、私岩に成っちゃったと、唱えるっス!』
「へっ?」
『良いから早く!!』
「忍法!私岩に成っちゃった!」
俺の感覚が、暗く冷たく、硬い岩の様に、
辺りの様子が、だんだんぼけて行く・・・・
ああ、意識が、真っ暗に成って行く。
・・・・・・・・。
『もう大丈夫っス、ダーリン目覚めるっス』
何か、頬っぺにキスされたような感覚が、
ああ、リリーのお早うのキスか・・・・
「んん・・・・ふぅわ~お早うリリーああ、良く寝たわ~」
『ダーリン、お早うっス~良く眠れた様っスね~
うん、体の疲れも抜けて居るっスね、
じゃあ、朝ご飯を食べて、陸地に向かって出発するっス!』
「は~い」
俺は、ママゾンでおにぎり、緑茶と、コーヒーを購入すると、
目を瞑ったまま、食べ始めて・・・・
「あれ?・・・・昨日は、何か?・・・・
そうだ、忍法、私、岩に成っちゃったって唱えて、
そしたら、意識が、真っ暗に成って・・・・
其のまま、寝ちゃったのか?
あれは、何だったの?何であんな呪文唱えたの?」
『ああ、あの呪文ね、此の間海竜に、食べられたじゃ無いっスか~
あの時、海竜がサファイアをまく為に、其の魔法を使ったんっス
まあ、岩に同化する原始魔法っスね~
でも、効果抜群で、見事にサファイアをまいたんスよ、
神竜様を見事にね、其れを真似たんすよ~
いや~危なかったっス、
ぶっつけ本番っスよ~うまく言って良かったっス』
「ん?何かやばい相手が来たの?」
『やばいの何のって、リバイアサンが来たっス、
超やばかったっス~本当、如何しようかって思ったっス~
ダーリンが、岩に成った所で反対側の岩に、
ストレージに有った15メートル級の邪竜を出したッス
上手く、漏れてる魔力を其の邪竜のだと、思い込んだみたいで、
邪竜を一飲みにして、帰って行ったっス。
ホント、やばかったっス。
見つかったら、一巻の終わりだったっス』
「15メートルの邪竜、一飲みって・・・・
ふ~ん、其のリバイアさんって、誰?女神様?邪神様?仏様?」
『いや、神には至って居無いっス。
でも、サファイアや、ルビーに凄く近い存在っスね~
海洋を守護する竜っスね~其の中の一人っス』
「リバイアさんて、偉いんだね~」
『・・・・・・・・?・・・・リバイアサンっス』
「えっ、だから、リバイアさんでしょ?」
『えっ、だったら、リバイアサンさん』
「リバイアサン、さん?」
『やっと、話が通じたっス~』
・・・・・・・・。
タカシが、海竜に食べられてから、3ヵ月後、
月の光に照らされている波間から、一人の人族が、
海岸に歩いて上がって来た。
やがて、其の人族は、浜辺に倒れ込んで、
大いびきをかき乍ら眠りこけるのであった。
3ヵ月に及ぶ長い海底の旅を終えた瞬間であった。