-87話ー ヤマダタカシ うんちに成る
ルビーに張り飛ばされ、
海の深場に迄吹き飛ばされたタカシが、
巨大な、海竜に飲み込まれた。
直ぐに、其の海竜を追ってサファイアが、
海に飛び込んだのだが・・・・
「う~ん、お腹が空いたのでシーサーペントを食べに来たのに、
一匹も居無いし~空を飛んで来たご飯を飲み込んだけど、
腹の足しにも成らないわね~場所を変えて、
シーサーペントでも探しましょうかね~」
海竜が沖に向かって泳ぎ出すと、
後ろの方から、凄まじい殺気が急速に近ずいてくる。
「何?此の殺気、やばい殺されるわ!」
海竜は、心臓を鷲掴みにされて、
握りつぶされる様な殺気に怯えて、
全速力で逃げ出した。
「タカシ君が、ボクの大事なタカシ君が、
初めて愛した人、タカシ君が、
海竜に食べられた・・・・ボクの油断だ!
海竜め!八つ裂きにしてくれる!!
ボクの責任だ。
何時でも守れると思って居た。ボクの責任だ。
早く助けなきゃ!助けなきゃ!助けなきゃ!
くそ、早い!くそっ!くそっ!くそっ!」
水中で翼を広げて、
空を舞う様に猛烈なスピードで追うサファイア。
しかし、水中では海竜の方が、
少しだけ有利だった。そう、
逃げに徹した海竜の逃げ足は速かった。
30メートルを超える巨大なワニの様な姿をした海竜には、
泳ぐ事に特化した大きな四枚のひれが有り、
其のひれで水をかくと、巨大な推力が生み出されて、
巨大な体はまるで弾丸の様に進んだ。
「怖いわ!殺される。逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!
怖い!怖い!怖い!」
広い海洋の中でも色んなモンスターに恐れられる海竜。
海洋最強と言う訳では無いにしろ、
食物連鎖の上位に位置して居る。
其の海洋の強者が必死で逃げて居る。
海洋で最速なのは、人魚であるが攻撃力は無い。
危険な海洋で生きて行く為に
手に入れた最強の武器がスピードであった。
其の人魚のスピードに近い速度で、海龍は逃げていた。
恐ろしい殺気に追われて、深場へと、深場へと、
大洋のプレートと、大陸プレートの狭間の深場、海溝へと向かって。
「リリー!リリー!返事して!キミ本体とアクセスが出来ないと、
地図と連動しての命の吸い上げが出来無い!
直接命を吸い上げるのには、
もっと近付かないと出来ないんだ。こいつ、早い!
少しづつ離されて行く、まずい!」
やがて海竜は、冷たく暗い海溝の底へ消えて行った。
サファイアも其の後を追って、海溝へと消えて行くのであった。
「うっぅうぅ~此処は何処?俺は誰?・・・・・・・・」
真っ暗であった。時折何かが体に当たるが、何か分からない。
「リリー、リリー返事して~此処は何処~?」
『ダーリン・・・・取り乱さないで、聞いて欲しいっス』
「えっ!うん分かった。出来るだけ取り乱さない様にする」
『じゃあ言いますけど、心をしっかりとして、聞いて欲しいっス』
只事では無い様だ。
「うん」
『ルビーに張り飛ばされた事は覚えて居るっスね』
「う、うん」
『其の後、海竜に食べられた事は?』
「何かそんな予感はしてたけど・・・・俺・・食べられたの?」
『・・・・はい・・・・』
「何か、そんな予感はしてたんだよね・・・・
リリー俺、取り乱して居無いよね、す、凄い?」
言葉とは裏腹に、うんちとおしっこを全開で、
どば~!っと漏らして居た。
『ヘタレのダーリンが、漏らす程度で頑張って居るのは、偉いっス。
頭が、ぱぁ~に成ってもおかしく無い状況っス』
「で、何で俺生きてんの?死んでるでしょ、普通?」
その場にへたり込んで、体育座りし乍ら、ガタガタ震えていると、
『海竜に齧られ無いで、一飲みにされたのが良かったっス。
流石に、竜に齧られると不味かったっス。
竜の牙は何物をも貫く鉾っス。私の結界シールドでも耐えられるか如何か
いや、良かったね!っス・・・・
で、今は海龍のお腹の中っス、結界シールドを張って居るので、
消化もされ無いし、呼吸も出来る訳っス
後はお腹の中を、歩いて、は無理っスけど匍匐前進で、
腸に向かって進んで、一刻も早く体の外へ出るっス!』
「いやいや、腸に向かってって、体の外へって、其れうんちだから、
思いっ切り、うんちだから・・・・リリー・・・・」
『何スか?』
「俺・・・・うんちに成っちゃうの?」
『この際諦めるしか、仕方ないっス、
匂いは付かない様にするっス』
「サファイアや、ルビーは助けてくれないの?」
『サファイアが、必死で追い掛けて居るっスけど、
追い付けないでしょう、
私が力を貸せば海竜を倒せるでしょうが、
私・・・・怒って居るっス!
今回も力の無い、ヘタレのダーリンを、
気付かわずに起きた事っス。今後も起きるでしょう。
次が助かるとは限らないっス。
だから、彼女達に与えた能力は其のままにして、
アクセスを絶ったっス!』
凄い、怒りの感情がリリーから伝わって来るのが分かった。
「リリーが、こんなに怒ったのは初めてだね、
で、俺は如何なるのだろう?」
『三日もすれば、お尻から出れますから
諦めて、うんちに成るっス』
・・・・・・・・。
「ですよね~俺は、ドラゴンから生まれるのね?
・・・・お尻から・・・・オスだったら嫌だな~」
『そんな、冗談が言える内は大丈夫っス!
さあ、きりきり、お尻に向かって進むッス~!』
「は~い。暗いな~狭いな~怖いな~」
・・・・・・・・
海竜は生まれて初めての上位者による、殺気におののき、
そのプレッシャーの為にパニック状態に陥り、
一目散に逃げていた。
「殺される。殺される。追い付かれたら間違い無く殺されるわ。
もっと引き離して、隠れないと何時かは捕まって殺されるわ。
もっと早く、もっと深く」
いつの間にか、海底に到達して居た。
恐ろしい殺気とはかなり、距離を取る事が出来た。
一直線に逃げて居た海竜は、此処で気配を殺してコースを外した。
速度は落とす事無く、海溝の溝の端に向かって進んで行った。
海溝の長さは千キロ以上に及ぶ為、
一度見失うと、殆ど発見は不可能に成る。
どれ位逃げたのであろうか?海龍は、
海溝の底に大きなくぼみを見つけた。
真っ暗な、光の届かない海底ではあるが、
海竜には、精度の高いセンサーが付いていて、
昼の様に暗い海底を見渡す事が出来た。クジラの様である。
「あそこなら、あの怖い者をやり過ごす事が出来るわ!
出来無かったら、私、死ぬわね、ええ~い!ままよ!」
海竜は海底に有る窪地に体を沈めると、岩に擬態して、
震え乍ら気配を無くして、
「忍法、私、岩に成っちゃった~の術」
真っ暗な其処に有る物は、ごつごつとした岩と、砂だけであった。
・・・・・・・・
其の頃、サファイアは、海竜を追い掛けていた。
「海竜の気配が消えて、かなり経つ。
リリーちゃんが居るのだから、
タカシ君が死ぬ事は無いでしょうけど、
此れは、ボク達の不手際だ。
きっと、タカシ君は怖がっているに違い無いよ、
今すぐにでも助け出したい。
でも、リリーちゃんとはアクセス出来ない。
きっと怒って居るんだろうね、そりゃそうだよね、
幾らタカシ君が優しいからと言って、許され無いよね、
死ぬかもしれないんだ。ルビーの奴め・・・・
一番悪いのは、こうなるかも知れないと、
分かって居たのに油断したボクだ。
御免なさいタカシ君。御免なさい。
必ず見つけて助けるからね、
タカシ君、怖い思いをさせて御免なさい
海竜は体が大きいんだ。必ず見つける!」
サファイアは暗く深い海溝に消えて行った。
・・・・・・・・
それから、どれ位の時間が経ったのであろう?
「もう、何日たったかしら?もう大丈夫じゃないかしら、
便秘も治ったし~快便、快便~
お腹すいちゃったわね~
何処か場所を変えて、シーサーペントでも、
食べに行こうかしらね~いや、本当に怖かったわ、
あれ、何だったんでしょうね~
リバイアサン様みたいな威圧感だったわ~
あ~怖い、怖い・・・・?」
海底の窪みから抜けて、
暫く行った所で海竜がゆっくり振り向くと、
真っ暗闇の中に赤い光が二つ。
「み~つ~けた~」
・・・・・・・・
此処無人島の浜辺では、
ルビーが体育座りをして、海を眺めていた。
「ルビー様、お食事を食べて下さい」
「ん、有難う、でもいい・・・・」
「もう、10日も此処に座ったままでは無いですか、
幾ら何でも体を壊してしまいます」
「ん~俺、ドラゴンだから、大丈夫、大丈夫・・・・」
と又、海をボ~っと眺めるのだった。
「さて困りましたね、分割リリー様の話ですと、
自分達が存在して居るし、
小分けされて居る能力にも影響が出て居無いので、
タカシ様が、御存命であるのは間違い無いそうですが、
元祖リリー様とのアクセスが切れて居るのだそうで、繋がりません。
元祖リリー様がかなり、
お怒りに成って居るのだそうですね」
「はいマリー、私の分割リリー様のお話ですと、
アクセスが切れる前に、
もう頭に来たっス、やってられないっスと言って、
元祖リリー様のアクセスが途絶えたそうです」
「エメルダ、タカシ様はヘタレですので、
何年か分かりませんが、
根性が付く迄は、戻ってこないかもって、
分割リリー様が、仰って居ました」
「何年かで、根性が付くのでしょうか?」
「・・・・難しいかも知れませんね」
「「・・・・・・・・」」
「うおぉ~ん!!俺が悪いんだ~俺のせいだ!御免~!
御免よ~タカシ~戻って来ておくれよ~!うおぉ~ん!!
何でもするからよ~帰って来ておくれ~うおぉ~ん!!」
「其の話は本当だねルビー!」
「「「サファイア!!(様!!)タカシは?(様は?)」」」
「いや、残念だけど、海竜を見つけた時には・・・・
時間が経ち過ぎて居て、腹を裂いて内臓も裂いたんだけれど、
もう、何も残って居無くって、既に排泄されて居たみたいだよ、
あちこち探したんだけれど、深い海の底で暗いし・・・・
リリーちゃんにもアクセスしようとしたんだけど、
凄く怒って居るみたいで、出来なくて、
深い海が凄く長くて、海竜を見つけるのにも凄く時間が掛かって、
何匹も海竜を殺して回ったんだけど
タカシ君を襲った海竜じゃ無くて、
やっと見つけたら、もう中には、居なかったんだ」
「「・・・・・・・・排泄って・・・・」」
「ルビー分かって居ると思うけれど、
今回の一件での、君の責任は大きい。勿論、
油断したボクの責任も、
君以上に大きいと思うけれど・・・・
だからルビー、君に罰を与える!
タカシ君を見つけ出して謝って、
帰って来るように説得して来て!
タカシ君は知って居る通り、ヘタレだ。
今回、想像を絶する様な経験をして、凄く怯えて居ると思う。
そりゃそうだよね、いきなりドラゴンに食べられたんだから、
ボクがタカシ君の立場だったら、
意識を保てないだろうね、うんちに成ったんだから、
でも、タカシ君にはリリーちゃんが付いて居るから、
必ず持ち直してくれて居ると思う。
何年掛かっても良い・・・・
ボクはタカシ君と幸せに成りたいし、
他の娘達にも幸せに成って欲しいんだ。家族だからね、
此処は、ボクが命を懸けて守るから、守り続けるから、
タカシ君を連れて帰って来て。
其れ迄はルビー、帰って来るな!良いかい、もう一度言うよ、
ルビー君は、タカシ君を連れて帰って来る迄は、
此処に、帰って来る事を、ボクは許さない!」
「うぅぅうう・・・・うわ~ん!!うわ~ん!!
御免よ~御免よ~御免よ~サファイア~!
か、必ず、連れ戻して見せるよ~!」
暫く泣き続けるとぱっと泣き止み、
「行って来る!!」
それだけ言うと、
ルビーは砂漠に向かって飛び出して行った。
其の頃タカシは、
「リリー、暗いよ~怖いよ~暗いよ~うんち塗れだよ~
ひぃ~ひぃ~ひぃ~」
と、海溝の最深部で、ごそごそと蠢いていた。