-64話ー 難民救済3
タイゼン元侯爵は、アレス王国における元勇者だ。
彼は、王家の血が流れる侯爵家の嫡男であった。
当然、武芸に優れている。そして、戦術にも才能を発揮していた。
彼は豪奢な金髪で有った事から、アレス王国民に、
少年の頃から、黄金の獅子将軍と謳われていた。
当然、彼を妬む貴族は履いて捨てる程いた。
特に軍事に関係する貴族からは、目の敵にされて居たのだが、
タイゼンは、若いのに豪胆で、
その様な小物は歯牙にも掛けていなかった。
完全無欠に思われたタイゼン侯爵・・・・
しかし、彼には、王族にとって、
失脚レベルの大きな欠陥を持って居た。
アレス王国は、人族至上主義の王国であった。そして、
タイゼンはケモナーだったのだ。
タイゼンが17歳の時、第三次ハレス王国侵攻作戦が行われた。
4年前の事である。彼を嫌う軍閥の裏工作の為に、
当時のタイゼン軍二千は王都守備に当てられ、
戦線に出る事が出来なかった。
貴族達は、恐れていた。
タイゼンが軍功を上げ自分達よりも出世する事を、
此のまま、出世すれば、軍務大臣に成るであろう才能を、
15歳の頃、初陣で、タイゼンは、旗本一千騎で、
精強で謳われた、ハレス王国軍一万の軍勢の中央突破を果たし、
右翼に多大な
損害を与えた。まあ、他の部隊が、負けた為に撤退するのだが、
追撃は避けられた。タイゼンの部隊がほぼ無傷で有ったのと、
ハレス王国軍の損害が大きかった為だが、
その損害を与えたのが、タイゼンであり、撤退の殿も務めたのだ。
それ以後彼は、勇者と呼ばれる様に成る。
別にタイゼンが勇者の称号を持って居る訳では無いのだ。
彼のカリスマであろう。そして、第三次ハレス王国侵攻作戦。
出世ばかりを目論むバカ貴族の遠征軍は、瓦解し、
何重にも張り巡らされた戦線は突破され、敗走を始めた。
其の追撃は、王都近郊にまで及んだ。
タイゼンは、こうなるであろうと、既に手を打って有り、
二千の内五百の兵を、二手に分けて、敵の背後に回らせて、
補給線を絶ったのだ。ハレス王国軍は、
アレス王国深く侵攻した為に、
補給線が延びてしまった。タイゼンはそこを突いて、
延びた補給線を分断した。浮足立ったハレス王国軍を又、
中央突破戦法で右翼、そして左翼と攻めて、敗走に追い込むと、
追撃戦を行って、敵の殿から、戦力を削って行たのだ。
ハレス王国軍は、戦線を立て直せずに自国にまで引いたが、
其処から、逆侵攻が始まってしまった。が、
浅い所でタイゼンは引き返し、国境線迄、軍を引いた。
又、引き分けとぎりぎり言える、状態に迄、何とか、
持って行く事が出来たのだ。
タイゼン軍はやがて王都へ帰還すると、
民衆から、大歓迎を受ける事に成った。
王城に戻る道で、彼は見た。
ぼろぼろの、麻で出来たワンピースを着た少女を、
一目惚れであった。タイゼンは、軍馬から飛び降りると、
「ゲンマ!デュラ!俺は用事が出来た。後は、頼む!」
「「タイゼン!王への挨拶は如何するつもりだ!」」
「おう!俺は怪我をした。
治療して、明日、参ると言って置いてくれ!」
「「分かった!」」
タイゼンは人をかき分けて、ぼろを纏った少女の前へ行くと、
少女の前で跪いた。
「俺の名は、タイゼン。君の名を教えてはくれないだろうか?」
「!・・・・はい、勇者様、私の名は、リステアと申します」
「リステアか、良い名だ。リステア」
「はい、」
「俺の妻に成ってくれないかい?」
「はい~?あの、私は、貧民街に住む獣人なのですが?」
そう、リステアの頭からは、幅の広い耳が垂れ下がっており、
スカートの裾からは、モフモフの尻尾が出て居た。
しかも、ごわごわの麻のワンピースの胸元からは、
深い谷間が垣間見えて、
彼女の装備の立派さをうかがい知る事が出来た。
タイゼンは、ケモナーである。
どんなに美しい、人族の貴族令嬢にも興味を示す事は無いが、
耳や、尻尾が見えると、人が変わるのだ。しかし、
此処は、アレス王国、人族至上主義の国である。当然、
獣人は差別されている。滅多に獣人を見かける事が無いのである。
其処に、獣人が居たのである。しかも、エロ・・・・可愛い少女、
一目惚れだった。王様に挨拶して居る場合では無いのである。
其の事がきっかけで、タイゼンは、
原始の森の守備に飛ばされる事に成るのだが、
本人は、全く気にして居ない。
それどころか大喜びで辺境の守備に就いた。
「此れで、リステアが貴族に虐められることが無いと・・・・」
・・・・・・・・
「タイゼン侯爵、難民キャンプに行く前に、
この家、建て替えましょう」
「・・・・へっ?・・・・」
庭の敷地は広い、学校の校庭位は有るんじゃ無いかな?
元は畑であろう。家は平屋で小さいが、
其れにうちと同じ屋敷なら直ぐ出来るし。
「俺は土魔法が使えるのでね、此処が、ネズ湖方面の難民
救済作戦の司令部に成りますからね、取り敢えず皆さん、
敷地の外へ出て頂けますか?」
「はあ、其れは構わないですが・・・・」
俺は、飛空艇の艦長のバーバラさんに、
念話で、対岸の倉庫に行って、
物資を搬入してから、拠点に戻る様に指示した。
俺達は、一旦、護衛の兵を連れて、敷地の外へ出た。
≪クリエートパレス!≫
敷地内の建物がゆらゆらと揺れて、形を失って行く、
更に、にょきにょきとキノコの様に家が生えて来た。
俺の屋敷と同じ建て物だ。
現在使われて居た物は其のままの形で、
屋敷の中に置かれて居る。何もなかった庭には、
庭園と呼べるものが現れて、外壁が生えて来た。
最後に立派な門が生えて術はおわった。
皆は、大きく口を開けて、固まって居た。
「・・・・他言無用で・・・・」
「皆は、
はい・・・・墓に迄持って行きます・・・・」皆
「では、屋敷に入りましょう、」
「皆は、はい」皆
門をくぐると庭園に出た。外壁は、兵舎と一体式だ。
外壁の高さは、4Ⅿ、
3Ⅿの箱型の通路の上に1Ⅿの壁が乗って居る感じだ、
箱型の中が兵舎と成って居る。
この中に食堂、厨房、トイレが幾つも備え付けて有り
後、寝床は飛空艇と同じで、
格納式のベットで、此方は、三段ベットだ。
長い外周ずっと、
そんな造りで何人寝れるかは、分からない、たぶん、一杯。
庭園は、花壇だな、噴水は、手間が掛かるらしい。
屋敷に入ると、ホテルのフロントの様に成って居る。
まあ~居間だな、何か、家具も揃って居るし、
前回の、改善点なのだそうだ。
事前に必要な物は分かったので、備え付けて有るのだと、
例えば、各居室には、ベットとか、机に椅子、
クロークに本棚、等だね、
ベットや何かは此の世界、大きい棺桶に藁を詰めて、
シーツで覆った様な物であるが、
平民も貴族も王族も同じで、棺桶が、豪華に成るだけの様だ。
天蓋が付いたりね、だから、
フラントベットを付けたら大喜びして居た。
そして、タンス何かも無くて、大きな、長持ちなのである。
厨房は竈に水ガメ、メッチャ不潔でハエがぶんぶんしているのが、
此の世界での厨房なのだが、
備え付けの、システムキッチンを見て、
皆、顎が外れる位驚いていたし、
調理は火の魔石で、水は、水の魔石で、
上下水道完備なので、清潔だ。
トイレは普通、外でするか、尿瓶にして、溜まると窓から、
御免あそばせと、捨てるのだそうだ。街が臭いのはその為なのだが、
屋敷には、下水に流れる水洗式、タンクに水の魔石を入れて、
タンクの水が無くなると、魔石から、水が出る仕組みだ。
なお、上下水道は、クリエートパレスに組み込まれているらしい、
地下に作られて居るのだが、下水は、ネズ湖の下流域に、
上水道は、がなり離れた山岳地帯の泉から引いている、
川の水は生活排水が流れて居るので飲め無い。
飲める水を得ようとすると大変なのだ。
泉は高所に有るのでローマ水道で、その高低差を利用して、
加圧しているらしい、やたら魔力が大きい訳だ。
風呂は、王族か貴族しか入らないって言うか、入れない。
小さなバスタブに下働きの人が沸かしたお湯を
せっせと運ばなければ成らない。大変な手間である。
よっぽどの金持ちしか無理だろう。
屋敷の風呂は、広い、浴槽も10人浴槽である。此れも、
水の魔石と、火の魔石を使って居る。露天風呂も有るのだ。
壁にはモザイクで、描かれて居るのは勿論、富士山だ。
俺としても、風呂には、こだわりたい、日本人だしね、
一通り屋敷を案内すると、
「此の設備で有れば、客人が来ても対応出来るでしょう」
「その通りですが、王宮並み以上の設備で御座いますな、
いや、びっくりしました」
「いや~王宮は、もっと大きいですが、基本同じ造りにして居ますよ」
「ヤマダ様が王宮を?」
「・・・・他言無用で・・・・」
「・・・・・・はい・・」
此の後、屋敷に詰めている五人の兵を呼び、新しい装備を与えた。
主を護衛して居るのは、騎士だ。と言っても王国の正騎士では無く、
貴族が雇って居る私兵だ。
普通は、正騎士よりも弱いと言うのが当たり前なのだが、
主によっては、其処らへんの正騎士より、強かったりする。
正騎士は大体レベル20、戦闘レベルは、5と行った所であるが、
彼らは、レベル25、正騎士を凌駕する強さである。
彼らには、真っ白な、龍骨フルプレートメイルと、竜骨刀を手渡した。
彼らは、跪き、恭しく受け取ると、
右の拳を胸に当てる騎士の礼を返してきた。
騎士達は、又、目をキラキラさせて、キャーキャー言い乍ら、
その場で着替えている。五人中四人が、女性だったりする。
「うん、眼福、眼福、ではタイゼン侯爵、
難民キャンプに行きましょう」
「はっ!ヤマダ様、私の事は、配下ですので、
タイゼンと呼び捨てで呼んで下さらぬか?」
「じゃあ、タイゼンさんで、」
「はい、ではそれで我慢致しましょう」
あ~我慢するんだ~
タイゼンさんは、騎士の一人に先ぶれとして先に馬で走らせた後で、
人数分の馬を揃えて、出発した。ネズの街の南門で門番が俺達を見て、
最敬礼をして居た。顔パスの様だ。
門を出て、10分程行くと木で作られた柵が左手に現れた。此処から、
キャンプなのだろう。柵はずっと続いている。更に10分程行くと
門が見えて来た。さながら、前線に構える陣地って所だ。
門の上にはやぐらが組まれて、見張りと弓兵が警戒に当たっている。
門が左右に大きく開かれて、騎士達が、左右に並んでいる。
数千は居るだろうか、壮観だ。俺達が行くと全員、剣を抜き
捧げつつをした。壮観だ。
「此れが、軍隊なんだね~壮観ですわ~」
「此処には、私の軍が二千、ゲンマの軍が、千、デュラの軍が五百、
駐屯して居ります。ネズ湖に付いて、暫くして私の私財も無くなり、
軍を解散したので御座いますが・・・・」
タイゼンさんの目から光る物が・・・・
「良い部下をお持ちなのですね、」
「はい!」
「兵士達の俸給に付いては、お任せ下さい、王様より、
軍費を預かって居ります。兵糧についてもです。」
「な、なんと、そこまで・・・・」
タイゼンは、痩せて、頬のこけた兵士達を見やって、
天を仰いで、男泣きを始めた。月に向かって,
遠吠えするオオカミの如く、
其れを見た兵士達も膝を付いて皆、大声で泣いて居た。
その光景を見た俺はたまらず、
「タイゼンさん、俺の配下と成ったからには、衣、食、住に置いて
決して、不自由させないと、
女神フレイヤの名に置いて誓いましょう!」
と、誓うと、先程まで、太陽を隠していた雲の隙間から、太陽の光がもれて、
鐘の音が、鳴り響き、天使が舞って、祝福し始めた。
天使の羽根が飛び散りキラキラと輝いている。幻想的な光景だ。
此処に居る全ての兵士が、跪いて、天に祈って居た。
タイゼンさんは馬から降りると跪いて、俺に向かい、
「此のタイゼン、一命を持って、ヤマダ様にお仕え申し上げまする!」
片膝を付いて、臣下の礼をとった。すると、馬上に居た全員、
馬から降りて、タイゼンさんの左右に並ぶと、祈る様に手を組むと、
はは~っと頭を下げるのだった。
何か、マリーとエメルダも並んでいた?
「いやいや、フレイヤ様は豊穣の女神だけれど、
戦神でもあるんだよね~ケモナ~だし~愛人イノシシ人だし~
同好の士なんだよね~」
其れを呆然と見ていた兵士全員が、跪いて、はは~っと頭を下げるのだった。
俺は、念話で、
リリー、龍牙剣あげても良い?
ダーリン、猛烈に感動したっス~、何かもう感動したっス~
何でもしてあげたいっス~
じゃあ、あげるって事で、
俺は馬から降りると、タイゼンさん、ゲンマさん、デュラさんの前え行くと、
一人ずつに、龍牙魔剣と、竜牙小太刀を手渡して行った。
「此の魔剣は、神話級の装備に成ります。持って居るのは、王様と、
直近の配下だけです。俺の良き話し相手と成って下さい」
タイゼンさんには、爆炎、ゲンマさんには、轟雷、デュラさんには、
爆氷嵐、どれも、強力な、範囲攻撃魔法が入っている。
三人はそれぞれ、は、は~と、受け取ると、腰に差した。
「んん?三刀流?」
「さて、今日は、沢山魔力を使いそうだ。」
おれは、両頬を叩いて、気合を入れ直した。