-55話ー 聖女アニタ王都来訪
此の日城門前広場には、城門から、
黒龍騎士団と赤龍騎士団が左右に並び、
門前に、王国魔導士隊が並び、
そして、その後ろに国の重鎮が並んでその又後ろに
国王と王族が並んでいた。黒龍騎士団と赤竜騎士団の間には、
真っ赤な絨毯が敷かれて
国賓が通るのを今や遅しと待って居たのである。
王都の正門上空から、真っ赤な飛空艇が見え始めると、
集まった群衆から喝さいが沸き起こった。
ゆっくりと飛空艇が近ずくにつれ、
其の偉様が明らかに成って来た。
巨大な、真っ赤な風船部分、
そして、船の部分、荘厳な位に光沢を放つ
ワインレッドに輝く船体、船首の、煌めく純白の女神のレリーフ、
風船部分には、浮き彫りに成った
女神フレイヤの横顔のレリーフを右舷と左舷に飾り付けられている。
其れが、爽やかな春の陽光に反射して更に美しさを際立たせている。
究極の機能美は、最早、芸術作品と言って良い位に迄昇華して居た。
「お父様、お父様、聖女、アニタ様の飛空艇は古く、
今にも壊れそうな
木造船だと聞いて居たのですが、改修したのでしょうか?」
「良いな~羨ましな~欲しいな~んん?
そうだな、確か100年程前に
暗黒大陸の魔王に飛空艇を貰ったらしいのだが、
飛空艇自体は、何千年も前の物で、
失われたエルフの魔法技術がふんだんに使われて居るそうなのだが、
如何せん古くて、何度も改修の話は有ったそうなのだが、改修したら
どの様な悪影響が出るか分からないので
ずっと見送られて来たそうなのだが‥‥
カッコ良いな~わしも欲しいな~」
「貴方、そんな物欲しそうな顔をしてはいけません、
国家の首長として堂々として居なさい、良いですね、」
「あ~い、分かりました~」
「もう、本当にこんな所ばかりタカシ様に似て、貴方は・・・・
しっかりなさい!」
「は~い」
「は~お父様は、すっかりお母様のお尻に敷かれて居ますわ~」
やがて、飛空艇は、ゆっくりと着陸すると、
船体は地上より、1M程の所で浮いて居るのだが、
ラダーが降ろされて三人、船から降りて来た。
SFであれば、光のエレベーターとか、
船体が開いてとかに成るのだが、そんな物は無い、
カッコ悪くてもはしごで降りるのだ
よっこらしょっと三人が降りると、
船からロープで結んだ錫杖が、降ろされた。
二人其れを受け取ると、しゃん、しゃんと錫杖を鳴らし乍ら、
城門に向かって歩き出した。
前には、白銀の錫杖に眩いオパールアゲハとトパーズアゲハと
龍鱗の繊維で編まれた
純白の司教服と、真っ赤な枢機卿の羽織を身に着けたアニーが、
先導役に、後ろには、護衛のリニアが、
反りの入った龍の牙で作られた刀の大小を腰に履き、
船と同じ色の龍の鱗で作られた
フルプレートメイルに身を包んで付き従い、
真ん中には、リリー謹製の聖衣に身を包み、
長く美しい金髪には、オリハルコンで出来た
中央に賢者の石をあしらった、ティアラが輝いている。
手には、これも、オリハルコンで出来た
賢者の石をあしらった錫杖が清い
しゃん、しゃん、と言う音を出している。
やがて、三人は、黒龍騎士団と赤竜騎士団の間を進みだす。
真っ赤な絨毯の上をゆっくりと歩く三人に
群衆は割れんばかりの喝さいを送る。
地面が震えるほどの大喝采である。
如何に女神教が信仰されて居るのかが分かると言う物である
やがて、三人は城門前へ到着した。
王国魔導士隊が真ん中から左右に割れ、
其の後ろの、重鎮達も左右に割れると、
国王と王族達の姿が現れ、国王が前に進み出ると、
聖女アニタを先導して居た
枢機卿のアニーはアニタの前を開ける形で、左にそれる。
国王は、アニタの前で、片膝を付くと、
「教皇、アニタ、ボロネーゼ、コッサリア聖下、
良く、我が国へおいで下さりました。」
「ヨシュア王国、国王、ジョニー、アウグスト、ヨシュア陛下、
堅苦しい礼など不要、さあ、お立ち下さいな、」
そう、アニタは、国王よりも偉い立場なのだ。まあ、順番に言うと、
皇帝、天皇、教皇、は同格で其の下が国王と成る訳だ。
「はい、有難う御座います。此度は我が国の危機に際しての
援助の申し出、心より感謝申し上げます。」
「はい、何をおっしゃいます。私達は、同じ女神様を信仰する同胞、
困った事が有れば援助するのは、当然の事でございます、」
「ヨシュア王国、国王、ジョニー、アウグスト、ヨシュア様、
此度の援助の詳細を申し上げます」
大きな声で、目録を読み上げるアニー、
群衆から大きな喝采が沸き起こっている。
此れも、パホーマンスの一環なのだ。
その為にわざわざ丸一日を掛けて、
原始の森から、ゆっくりと、王都に向けて、飛んだ訳だ、
まあ、手っ取り早く支援するのであれば、
食堂を通して、マジックバックに
支援物資を詰め込んで行けば、
物の1時間で終わってしまうのだが、
支援の他に女神教徒の
支持を得ると言う大きな目的が有る訳だ。
大袈裟な位に演技もしなくてはならない訳だ、
此れも教皇の仕事の内なのである。
教皇達、王族達、重鎮達、魔道士達、
騎士達が王城に入ると、飛空艇は静かに
浮かび上がり、王宮農園の方に向かって、静かに飛び始めた。
残された群衆達は、今見た、荘厳な儀式を語り継いで行く事であろう。
王様達が会議室で今後の復興計画を、
支援使節団であるアニタ達に報告している間に
飛空艇から、支援物資を降ろして、王国側に引き渡されていた。
それらの作業が終わると、今度は、王国主催の晩餐会と成る。
此れには、ポチや、ブラウン達、料理人集団も、
手伝いに入っている。
晩餐会には、王国の主要メンバーが参加して
聖女アニタ達を歓待して居る。
船員達、まあ、彼女達も、
女神教の司祭なのだが、アニタお付きの直属の
世話係でもある。司祭服、彼女達の正装であるが、
に身を包んで、接待を受けている。
此方は、庭園でのバーベキューパーティーだ。
勿論飲酒OKだ。
「セリカ艦長此のお肉凄っごく美味しいですよ~」
「うん、凄く美味いよね~其れよか此のなまと言うエール?
冷えていて最高ののど越しじゃん、」
「はい、お肉に最高に合います~
此れで良い男が居たらサイコ~なんですけどね~」
「其れは言わない約束だろ~サニー副艦長~
私達も婚期を逃してはや6年、
もう、23だよ~おばちゃんと言われる年だよ~」
「ですよね~アニタ様の直属に成る為に
色々な修行を上位通過して
何とか、司祭に迄、駆け上がって、更に、
並み居るライバルに打ち勝って
やっと、此の地位に付けたと思ったら、
いつの間にか23に成っちゃってたんですから~」
「だよね~私も、子供の頃は、
子爵家の神童と迄言われて居たんだけどね~
中央に出て見ると神童で一杯だったんだよね~」
「セリカ艦長は神童って呼ばれて居たんですか~?
私は、男爵家の女神って呼ばれて居ましたよ~
私も中央に出てきたら女神が一杯いて
すっころんじゃいましたよ~」
「だな~血を吐く様な努力をして此処迄来たけれど、
アニー様や、リニア様には
遠く及ばなかったけどな、あの二人は凄いよね~」
「そうですね~溢れる才能に
努力の天才でも有りましたからね~納得ですよ~
いざと言う時に役立たずでしたけど~」
「だよね~凄い二人だよね~
いざと言う時に役立たずだったけど~
私達は、アニタ様のお側で仕えるために
一生を捧げたのだけれど、」
「結婚は無理でも、恋位はしてみたいですね~」
「そうだな~おばあちゃんに成る前に
燃える様な恋がしたいね~」
「したいですね~・・・・
セリカ艦長?何か音楽が聞こえて来ません?」
「うん?・・・・ああ、聞こえるね~
リュートじゃあ無いね~初めて聞く楽器だね~」
「はい、私はリュートを弾けますが、全く別物の楽器ですね~
あっ、・・・・殿方の歌声も聞こえますよ?」
「と、殿方?行って見るか?」
「当然!」
庭園の外れで、ヤマダタカシは、
リリーによる監禁・・・・もとい
療養も開けて、ベンチに腰かけて
ちょっとお高いギターの弾き語りをして居た。
まだ、真新しいギターからは、
アコースティックの独特の音を奏でながら
音楽レベル10の歌声を
春の午後の清々しい青空に響かせていた。
その歌声に誘われて、やって来たセリカと、
サニーは、少し離れた場所に陣取って
弾き語りを聞いていた。曲が終わると、
セリカは、タカシの前へ行くと、
「御免なさい、素敵な歌声が聞こえた物だから、
其れに誘われて来てしまったの、
私の名は、セリカ、飛空艇の艦長をして居ます。
決して怪しい者では有りませんわ、
もし宜しければお側で歌を聞かせてくれないかしら、」
「はい、此れはご丁寧に、
私は、新米冒険者のヤマダ、タカシと申します。
ご自由になさって頂いて構いませんよ、」
「冒険者さんですか?何故王宮に?
まあ、細かい事は良いですわ、
サニー許可を頂きました。此方に来て、
一緒に歌を聞かせて頂きましょう」
「セリカ艦長、行動力凄っご~は~いご一緒しま~す」
二人は、タカシの対面に有る花壇の淵に腰を下ろした。
音楽レベル10の弾き語りを時間も忘れて、
うっとりとした面持ちで聞いて居る二人、
「はっ!私決めました!ヤマダタカシ様、私を恋人にして下さい、
此れでも私、聖女で、女教皇様の直属の部下です。
かなりの高給取りです。貴方を一生お世話する事が出来ます。
ダメなら友達からでも構いません!
今夜此処でお待ちして居ますのでお越し下さい、
そして、返事を聞かせて下さい良いですね、必ずですよ」
と言って、何も聞かずに立ち去ってしまった。
良いのか?此れで、
「あの~ヤマダタカシ様、申し訳ありません、
セリカ艦長の後で構いませんから、
その~私とも付き合って下さいね~
其れからタカシ様が来ない時はあの人の事ですので、
恐らくは、自害すると思われるので、
ダメでも来るだけは来て引導を渡してあげて下さいね~」
「え~!まじですか~君は~」
「私は、艦長の腰巾着、副艦長のサニーと申します。」
副艦長のサニーは、にっこり笑って、
「勿論、ダメな時は艦長の御供を致します。
艦長のかいしゃくをした後に、」
更に、にっこりとほほ笑んで去って行った。
俺は一人残されて、ぼ~然として居た。
リリーど、どうしよう~?
此のリア充め~爆発するっス~
もう、しゃあないっスからやっちゃいなさいっス~
ちょ・・・・やっちゃいなさいって、病み上がりだよ俺、
しかも二人だよ死んじゃったらどうするの?
大丈夫っスあっちの世界に逝く前に復活させてあげるっス~
彼女達が行く前にダーリンが逝く事を私は許さないっス~
私は女の味方っス~
あっちの世界ってどっち?何かちょっと、
意味分んないんですけど~・・・・
「せ、セリカ艦長~此処に居たんですか~
も~本当にびっくりしちゃいましたよ~
いきなり告るんだもの~どんな肉食系女子なんですか~
あんなこと言っちゃって大丈夫なんですか~?」
「わ、私が一番驚いて居ます。
ほら、まだ震えが止まりません。
少し酔っているとは言え・・・・
私にもあんなことを言う勇気が有ったのですね~
びっくりしました。
いきなり告るなんて・・・・断られたらどうしましょう?」
「其れは、無いんじゃ無いでしょうか~
こんなに良い女が最高の条件で告ったんですから、
おまけに、憧れのひも生活付きで~
更に得点でこんな男好きのする私も付いて来る訳だし~
絶対にゲット出来ますって~」
「ちょ、一寸待って、
こんな男好きのする私も付いて来る訳だしって、何?」
「えへへへへ~セリカ艦長に便乗して後で私とも付き合ってくれる様に
お願いして来ました~てへっ!」
「サ二~貴方ってば~も~なんて要領の良い・・・・」
「だって、セリカ艦長~この機会を逃したら
もうチャンスは無いと思ったんですもの~私も素敵な殿方と
あばんちゅーるを楽しみたいです~」
セリカは右手でこめかみを押さえ乍ら、
「其れはまあ、良いとしましょう、
ですがどうしましょう?胸がドキドキします~
心臓が口から飛び出してしまいそうですわ、」
「セリカ艦長こんな時は酔うに限ります。
行動も大胆に成ると言うし~」
サニー副艦長は何処からか、ウイスキーの瓶を持って来て、
グラスになみなみと次ぐと、
「さあ、セリカ艦長、ぐぃ~っと行っちゃってください、
ぐぃ~っと」
「そ、そうですね~では、」
此の世界には無い
強いアルコールのウイスキーを一気飲みした。
「こ、此れは凄っごく効きますね~
さ、さ、サニーも飲んで飲んで~ヒック!」
「は~い、では、ごっくごっく~ぷは~
こんな強いお酒は初めてです~
さ、さセリカ艦長~ご返杯です~うぃ~ヒック!」
で、此の二人は直ぐに酔いつぶれた・・・・
タカシは此の夜、春まだ寒い庭園の隅のベンチで丸く成って震えながら眠るのだった。