-144話ー 天然痘
モモタロウ一行がローソン侯爵領の領都、
ローソニアに入った翌日。
「モモタロウ殿は御在宅か~!!」
モモタロウ達が朝ご飯を食べて居ると、
雷の様な凄く大きな声は母屋に迄届いたのだった。
「誰?」
「皆さ~?」皆
『ご主人様』
『バタイ、如何したの?
何か凄い声が此処迄届いたけど?』
『はい、ゴンザレス、ローソンと
仰る方がお見えに成って居りますが、
如何いたしましょう?』
門番当番の翼人族のバタイから念話が入って来た。
「ゴンザレスって誰?!」
と、シドニーさんが、おもむろに立ち上がって、
「お、お爺様~?!」
「ふむふむ、シドニーさん入って貰っても良い?」
「お爺様が来たと言う事は、私くしの存在はもうバレて居すね、
誤魔化して、モモタロウ様の立場が悪く成っても困りますので」
「うん、じゃあ屋敷に来て貰うよ?」
「はい、承知致しました。皆も其れで宜しいですね」
「侍女はい、姫様」侍女
ローソン家は帝国に吸収される前は地方の小国で有ったが、
王国であった。
ダンジョンからモンスターが溢れて滅びかけた所を、
初代女帝に救われ、食糧その他の支援とかも受けたのだった。
其れ以降は帝国に帰属して、
平和的に吸収合併されて侯爵と成ったのだ。
其の時の名残が、シドニーを姫様と呼ばせて居た。
其の影響で、帝国の大貴族の女子は姫様と呼ばれる事が多く、
男子は王子様と呼ばれたりするのだった。
『バタイ、シドニーさんのお爺ちゃんだそうだから、
失礼の無い様に御案内して呉れるかい?』
『はっ、承知致しました』
広い敷地なので、モモタロウはシドニーさんを連れて、
お迎えに門の所に向かうと、1頭の馬が駆けて来た。
馬はモモタロウの前まで進むと、
恰幅の良い壮年の男性が馬から降り立った。
そう、シドニーの祖父ゴンザレス、ローソン元侯爵だ。
「出迎えご苦労である」
「はい、御屋形様、全てご存じだったのですね」
「うむ、門番からローソン家の
家紋の入った馬車が入ったと報告を受けたのでな」
『バレバレでした~』
「お爺様申し訳御座いません。
此の様な無様な姿をお見せしてしまうとは、
お恥ずかしい次第で御座います」
「良い、今日は忍びじゃ・・・・・・・」
ゴンザレスはシドニーを抱き締めると、
オイオイと泣き出してしまい。
「孫や、辛い思いをさせたのう」
「むざむざ家臣を死なせて仕舞、申し訳御座いません。
家臣の御家族にも会わす顔が有りませんわ」
「うむ、公式には勘当しなければ成らない爺を許しておくれ」
「何を仰いますお爺様。家臣の手前当然の事ですわ。
家臣達の大切な家族を死なせて仕舞って、
私くしだけがおめおめと生きている等と、
申し訳無くて、穴が有ったら入りたい位で御座いますわ」
「しかし、お前、辛い思いをしただろうに」
「はい、大変な思いを致しましたが、
此処におられるモモタロウ様と、
其のご家族に助けて頂きましたわ。
皆さんお優しくて、
楽しい方ばかりで本当に救われました。」
「不自由等はしては居無いのか?」
「はい、毎日が新鮮な事ばかりで、とても楽しいですわ」
「そうかそうか、其れならば良い。
モモタロウ殿、感謝致す。」
「雪の中の立ち話もなんですので、屋敷にどうぞ」
「うむ、すまんな」
3人屋敷に戻り乍ら、
「御屋形様は朝食は取られましたか?」
「いや、夜が明けるのを待って城を出て来たのでな」
「じゃあ、一緒に朝食を取りましょう。
唯うちは使用人達も一緒にご飯を食べるので、
其れをお許しください」
「構わんよ、其々の家には決まり事が有る故にな、
其れに戦場では
兵達と共に食事を取るのは当たり前の事じゃしな」
「そう言って頂けると助かります」
屋敷の前に着くと、
「うむ、中々に立派なたた住まいじゃのう」
「恐れ入ります」
「しかし此処は例の悪霊屋敷では無かったか?」
「悪霊は既に退治しました」
「屋敷は?一朝一夕では屋敷は建たぬであろうに」
「まあ、土魔法で」
「土魔法?此れだけの物を建てると成ると、
千人の土魔法使いを使っても半年は掛かるのでは?」
「う~ん、正確な図面が有れば、土魔法で建てられますよ、
まあ、大きな魔力と日数が必要ですが」
「図面とは?」
「建物の設計図ですよ、其れも詳細な」
「おお、確か大工が作って居ったな、
完成するとこの様に成ると言う絵を見た事が有るな」
「そうして、少しずつ作って、
作り上げた物を魔法の袋に仕舞って有るのです」
「凄いな、どれだけ入る魔法の袋なのだ?」
「一杯?試した事が無いので分かりませんが」
「売る気は無いかね?」
「すいません」
「一生物の宝物じゃ、当然じゃな」
屋敷の玄関に入ると、全員が両側に並んで待ってくれて居た。
最前列に並んだ侍女さん達が、
「侍女御屋形様、お妃衣様を守れず申し訳御座いません。
どの様な罰もお受け致しますのでお申し付けください」侍女
「何を申す。此度は孫娘のシドニーに付き従って、
とんだとばっちりを受けさせてしまった。
皆、済まんのう」
「侍女何を仰います御屋形様、
不甲斐無い私達に勿体無いお言葉で御座います」侍女
「まあ、取り敢えず朝ご飯にしましょう。
皆で食べるのはオーケイだそうだからねっ、
侍女さん達は御屋形様の世話をし乍ら食べてねっ」
「侍女はい、承知致しました」侍女
ゴンザレスは2階の宴会場に案内されて、
朝ご飯の膳を出され、
「ほう美しいな、何時も此の様な食事を?」
「いえ、御屋形様、モモタロウ家では一日3食で、
3時にはおやつも出ますれば、
朝食は控えめで御座います」
「何と、此れで控えめか?」
「はい、お夕食は大変豪華絢爛で、
私共も初めての物も多く何より美味しくて、
天にも昇る気持ちに成ります」
「ほう?天にも昇る旨さとな」
「はい、今朝は一汁三菜、
味噌汁と言うスープに、御飯、
焼き魚は、ドサン湖で獲れました
エンペラーサーモンの塩焼きで御座います。
更には生食用の生卵と味付け海苔、
茶碗蒸しと成って居ります。
野菜サラダは半熟卵を上に乗せたシーザーサラダに、
特製ソースを掛けて居ります。
お漬物には今朝は沢庵が、出て居ります。
お茶は宇治産の緑茶で御座います。
食べるのには、
此のフォークとスプーンをお使いください」
と侍女さんは、卵を割り卵ご飯を作ると、
味付けのりを乗せて、
丁寧に食べ方をレクチャ-するのだった。
「ほう、ドサン湖のエンペラーサーモンに、
生食用の卵か、
此れは楽しみじゃな、
儂に付きっ切りではお前が食事出来まい、
後は自分でやるから、自分の席に戻りなさい」
「はい、承知致しました。
最後に食後のデザートが出ますので、
ゆっくりと食事をお楽しみくださいませ」
「うむ、大儀であった」
ゴンザレスは周りを見回して、
「モモタロウ殿、
皆食事をするのに棒を2本使って居るが、
一体何と言う道具なのか?」
「はい箸ですね、食事の時の万能道具ですね、
訓練しないと使えませんが、
ですので、フォークと、スプーンをお使いください」
「ふむ、手掴かみでは食べぬのじゃな」
「はい、熱い物も有りますし、衛生にも良いので」
「衛生?」
「はい、手掴かみが悪いとは思いませんが、
手に雑菌が付く事も多いので」
「雑菌?」
「病気の元と成る物ですね」
「黒死病もか?」
「当然そう成りますが、黒死病の主な原因は、
ネズミに付いたノミが原因でしょう。
黒死病に感染したネズミの血を吸ったノミが人を刺すと、
病原菌が人に伝染します。
そして病原菌が手に付き、素手で食事をすると感染しますね」
「何と、黒死病は、魔法や魔法薬で完治する事は出来るが、
金の無い者に取っては天然痘に並ぶ不治の病じゃ。
如何すれば防げるのじゃろうか?天然痘は?」
「黒死病に付いては、ネズミが原因ですので、
人に無害なネコやヘビが有効ですね、
ネズミにとって天敵ですからね、
天然痘は風土病なので無くす手段は有りませんね、
予防する方法は有りますが」
「どの様な?」
「馬の中には馬痘と言う天然痘に近い病気が有るのですが、
其れを牛にうつします。
するとその牛は牛痘と言う天然痘と成ります。
血を抜いて、遠心分離器に掛けると、血清が取れます。
其れを被験者に注射する事で、弱い天然痘をうつします。
天然痘は1度感染すると2度と掛からないと言う特性が有るので、
弱毒性の天然痘にあえて掛る事で2度と掛からない様にする訳です」
「人の天然痘ではダメなのか?そしてそんな事が出来るのか?」
「人が掛かった天然痘は他の動物にはうつりません。
機材が必要に成りますけれどね」
「遠心分離機とは?」
「そう、其の遠心分離機を作らないと話に成りません。
試験官に血を入れて高速で回転させる事で、
血餅から、血清を分離させます」
「血餅って?」
「血を抜いて30分室温で放置、血液が凝固するのを待ちます。
放置後、4度位の温度で1分間に3000回転の速度で、
15分間分離します。
すると、血液が分離されて底に血餅が溜まります。
血餅を取り出してから
更に1分間に10000回転で15分間分離して、
其の上澄みが血清と成ります。
これ等を行うのに、遠心分離機と、血餅を取り除く道具と、
上澄みの血清を回収する道具が必要と成ります」
「其の道具とは作れるのか?」
「恐らくは大丈夫でしょう。『何でそんなに食い付くの?』」
「モモよ其れは誠か!!」
「はい、『今度はちっぱい師匠が食い付いた~』
しかしちっぱい師匠、回復魔法や魔法薬が有るのに何で?」
「ちっぱい言う、バカ者~梅毒、黒死病、
天然痘は世界3大業病じゃ!
お前は治せるのじゃろうが、
普通のヒールやポーションでは治せん!
天然痘は特に風土病で死亡率も高い。
恐ろしい病気なのじゃ。
この3大業病を治せる様なヒーラーは
此の世界だけでも10人居るか如何かじゃ
魔法薬でも特に優れた
ポーションかハイポーションしか無いのじゃ、
最近モモタロウ印のポーションが
出回って居るが品切れの状態じゃしのう
帝国内だけでも毎年数十万の帝国民が死んで居る。
世界規模で言えば数百万人以上が死んでいるであろう。
其れを予防出来るとか本当に恐ろしい奴じゃ」
「えっ、そんなに死んで居るの~モモちゃんビックリだ~
直ぐに対策しないと~」
「モモタロウ殿対策出来るのか?
もしかして君はヒーラーなのか?其れも業病が治せる程の?」
「まあ、大抵は治せると思いますが」
「然らば是非に一番下の孫娘を見ては呉れぬだろうか?」
「はい~?」
「教会の治癒師のお陰で命は保って居るが、
明日をも知れぬ・・・・
祖父としてお願いする。孫娘を助けて欲しい」
「えっ!!ソフィアが、な、何と言う事でしょう。
モモ様私くしからもお願い致します。妹をお救い下さい」
「はい、了解しました~今直ぐに行きますので、
馬だと遅いですね~で空を飛んで行きますが良いですか?」
「其れは構わんが、空には飛行モンスター用の結界が張られて居るぞ」
「どの位の高さなら大丈夫ですか?」
「100メートル程じゃと思うがドーム状に張られて居る」
「じゃあ皆そんな事なんで、すぐに帰って来るから、
其のまま朝ご飯を食べといて~
あっ、俺と御屋形様の分残して置いてね」
「皆いってらっしゃ~い」皆
「モモ様、妹をお願い致します」
「シドニーさん任して置いて!
じゃあ御屋形様行きましょうか?」
「うむ、良しなに」
モモタロウと、ゴンザレス、ローソンは表に出ると、
其のまま城迄飛んで行った。約10分の飛行時間であった。
城の正面入り口の前に降り立つと、門兵達が集まって来た。
「あっ、門兵さん今日は~
『寒いわ、爺さん暴れるわで大変だった~』」
「儂じゃ!今すぐ門を明けよ!誰か馬を持て!」
「門兵はは~っ!」門兵
二人は門を通されると、別の兵士が馬を2頭連れて来た。
「モモタロウ殿乗馬は?」
「乗れません!」
「ふむ、では御免!」
モモタロウを馬に乗せると、其の後ろにひらりと、
ゴンザレス、ローソンは馬に跨ると走り出した。
城の門を抜けて城を回り込むと、
雪に埋もれた豪奢な宮殿が現れて、
馬は宮殿の端の方に有る離れの一つの入り口に止まると、
二人は馬から降りて離れの中に入って居っいた。
「此の離れが孫娘の、ソフィアの屋敷じゃ、
使用人は、感染の恐れが有るので、お付きの侍女と、
教会のヒーラーだけと成って居る」
「はい、部屋へ急ぎましょう」
「うむ」
2人は直ぐに2階へと上がって行くと、
豪華な観音開きのドアを開けて中に入った。
中には、侍女が1人と、ヒーラーらしき人が5人、
掛かりきりで、治療している様だ。代表者らしき人物が、
「此れは御屋形様、交代でお妃衣様の体温が上がり過ぎない様に、
交代でヒールと一緒に熱さましの魔法を掛けて居りますが、
何時迄続けられるか・・・・・・・・」
「うむ、ご苦労であったな、
お前達の時間稼ぎが役に立った。礼を言うぞ」
「勿体ないお言葉で御座います。で、其方の少年は?」
「うむ、帝都で活躍中のヒーラーじゃ、
では、モモタロウ殿お願い致す」
「はい、承知致しました。<ヒール!>『実はハイヒール』」
豪華なベットの中には高熱で
汗をかいて苦しそうにして居る少女が1人、
確かに天然痘の症状が出て居る。可愛い顔が台無しなので、
ハイヒールで、後が残らない様にしてある。
少女は薄ぼんやりと輝き出すと、
苦しそうににして居た表情は穏やかに成り、
顔や、腕、胸元に出て居た発疹も消えて行った。
やがて、少女が意識を取り戻すと、
「お爺様、私くし、生きて戻れましたのね。
もうダメかと思って居りました」
「うん、うん、もう大丈夫じゃ、
安心してゆっくりと休みなさい」
「かなり汗をかいた様ですね」
すると侍女が、
「はい、もう3日も熱を出したままですので、
寝巻の方は変えて居りますが」
「ふむふむ、でもベットは藁ですよね」
「はい」
「虫が入り込むといけませんから、此れに変えて下さい」
と、モモタロウはストレージからキングサイズのベットと、
低反発のマットレスに枕、羽毛の掛布団を出した。
勿論少女なので、可愛いピンク色だ。
驚いている周りの者達を、ゴンザレス、ローソンは
少女をお姫様抱っこをし乍ら
「済まぬがベットの置き換えを頼む」
5人のヒラー達が急いで重い天蓋付きのベットを動かすと、
其処にモモタロウが出したベットと入れ替えて、
直ぐに侍女が、用意して有ったシーツを敷き、お嬢様を寝かして、
掛け布団を掛けた。
「まあ、可愛い毛布ですね」
「いいえ、此れは羽根布団と言います。
軽くて暖かいので、ゆっくりと休めますよ」
「本当、凄く軽いですわ、有難う御座います」
「はいでは、ゆっくりと休んで、
体力を取り戻しましょうね」
少女は少し恥ずかしそうにはにかむと、
大きく頷いて目を閉じるのであった。
「ささ殿方達は部屋から出て下さいまし」
「男連中は~い」男連中
「あっ、お姉さんもこっちに来て」
「あ、はい何でしょう?]
モモタロウは全員を廊下に呼び出すと、
ストレージから、アルコール消毒液を取り出して、
「此れは消毒液です。皆、肘から先に塗って置いて下さい。
其れと、この液を布に沁み込ませて、
お嬢様が触れた所を除菌して下さい。
今迄使って居たベッドですが、シーツは熱湯消毒をして、
藁は全て燃やして下さいね、
そして、掃除した後は此の消毒液で、
良く消毒をして下さい。
お嬢様はもう発症はし無いでしょうけれど、
目が覚めたら全身消毒をして下さい。
着て居た服も皆熱湯消毒をする様に
其れと部屋の窓を開けて、
空気も入れ替える事良いですか?」
「はい、承知致しました。先生」
「そして、貴方方の身に何か起こった時は
直ぐに連絡する事、良いですね」
そしてモモタロウと、ゴンザレス、ローソンは帰って行った。
因みに、ゴンザレスさんの部屋によって、
ベッド一式を置いて行く事に成ったのだが、
又モモタロウ達は門の所まで行くと、空を飛んで帰って行った。
「さ、さむ~」