-142話ー ローソン侯爵家 墓所
ローソニア城の門兵に来訪の意を継げて、
冒険者ギルドからの依頼書を見せると、
門兵の一人が城に向かって走って行った。
暫くすると、門兵が、
上品な格好をした紳士を連れて戻って来た。
「お待たせ致しました。
私はローソン侯爵家に仕える侍従のローマンと申します。
ローソン侯爵閣下に置かれましては、
我が娘の為に命を捧げた騎士達に報いる為にも、
侯爵家の墓所に遺体を安置する様にと申し付かりました。
ご案内致しますので、此方においで下さい」
モモタロウ達は、
馬に乗って先頭を行く侍従のローマンに案内されて、
箱馬車で、広大な敷地の北側にある墓所へと案内された。
直径6キロ程の城の敷地は広大で、
馬でないと移動が大変なのだ。
墓所は岩をくり抜いた地下に広がって居り、
地下1階が侯爵家の意向により
埋葬された者達の石棺が並んで居た。
そして、地下2階、3階が侯爵家の墓所に成るそうで、
侯爵の一族以外入る事は許されていないそうだ。
モモタロウ達は体育館2つ程の広さの地下1階に案内され、
半分位は既に埋まって居る遺体安置所にやって来た。
「ローマンさん広いですね、何処に安置しましょうか?」
「此方にお願い致します」
広いスペースを指定されたモモタロウは順不同で、
石棺を一つずつ丁寧に並べて行った。
「順番等は不明ですので、順不同ですが宜しいですか?」
「はい、お心遣い感謝致します。
此の者達は全て侯爵家の
頼子貴族達の子弟と成りますので、
その爵位によって順番に並べるのですが、
其れはこちらで行いますので、
しかし、見事な石棺ですな、
侯爵家の家紋迄彫ってあるのですね、
石棺を用意して移し替えようと思って居りましたが、
此れは必要無さそうで御座います」
「はい、シドニー様の依頼ですね」
ローマンは涙を流して、
「お嬢様に置かれましては、誠に残念で成りません。
代われるもので有りましたら代わって差し上げたい」
暫く墓所には静寂が続き、大きな足音が其れを掻き消した。
<ローマン!ローマンは居るか~!!>
「此れは、アルギニン侯爵閣下!」
十数人の騎士を引き連れて高級そうないで立ちの、
30代後半位と思われる紳士が現れた。
「お主達が
我が騎士達の亡骸を運んでくれたと言う冒険者か?」
「はい、私は冒険者のモモタロウと申します。
他の者達は立ち会ってくれたギルドのグランドマスターと、
私のパーティーメンバーで御座います」
「うむ、大儀であった!で、我が娘はいずこか?」
「はい、王都の私の屋敷に身を寄せて居られます」
「ふむ、屋敷とな、お主は貴族か?」
「いいえ、魔法学院に通う普通の学生で御座います」
「うむ、準貴族なのだな其れはまあ良い、
其れよりも、
君達が盗賊達を討ち果たしてくれたのだな感謝する。
我が娘が襲われた時の詳しい経緯が知りたい」
『流石は大貴族、既に情報を得て居る様だね』
「私達は帝都に有る魔法学院の生徒で、
ドサン湖の畔での合宿に向かって居ました。
その途中で偶々盗賊に襲われている
シドニーさん達を見付けて、
助けに向かったのですが、既に騎士達は死に絶えて居り、
女性達も・・・・・・・・。
盗賊達は全員成敗致しましたが」
「そうで有ったか、しかし、お主達は学生であろう?
盗賊達は外国の傭兵で、
120人居たそうでは無いか
我が騎士達は一矢を報いる事も無く、
全員殺されたと言うのにお前達、強すぎないか?」
「侯爵閣下、私は帝都の冒険者ギルド本部の
グランドマスターの、ペチカ、フィンと申します。
此のモモタロウ達、
約50名は帝都近郊の中級ダンジョンの、
ウォーマンティス攻防戦の英雄、しかも主力の12名は、
真ドラゴンスレイヤーの称号も持って居ます。
帝国最強の冒険者集団で有れば
盗賊120人の討伐も可能でしょう」
「ほう、グランドマスターをして最強と言わしめるか、
モモタロウよ知って居るか、
傭兵共は3人一組で一人を囲んで
タコ殴りにする必殺の戦法を取る。
我が騎士達もその戦法で敗れたのだと思って居るのだが、
其れを回避するには如何すれば良いか?」
「はい、囲まれる一人が
其れよりも強く成れば問題有りません。
私のパーティーは全員レベル40以上です」
「な、何と!殆ど人外では無いか!
その強さの秘訣は何なのだ?」
「私達はダンジョンで鍛えました。
秘訣はダンジョンで死なない様に戦い続ける事です」
「可能なのか?」
「優れたタンクと、回復術師が居れば」
「成程、数十万にも及ぶと言われている
ウォーマンティスの群れを、
蹴散らしたと言うのも、存外嘘では無いと言う事か」
又、大きな足音が聞こえると、
<アルギニン!アルギニンは来ているか~!!>
「御屋形様!」
「此れは父上、如何されました」
今度は60前後の中年の肩幅の広い軍人風の男性が現れた。
「お初にお目に掛ります。
私は冒険者のモモタロウと申します。
以後お見知りおきを」
「うむ、お前達が我が孫娘を救って呉れたのだな、
感謝するぞ!
ローマン、騎士達の顔を見たい石棺の蓋を開けよ」
「はっ!承知致しました!」
アルギニン侯爵に付き従って居た騎士達が
石棺の蓋を開けだした。
中年の紳士はその一人一人の顔を見乍ら、
「お前は、サザン騎士爵家の3男であったな、
ご苦労であった。
お前はオルレアン男爵家の次男か
お前もご苦労であったな。
・・・・・・・・」
物言わぬ騎士一人一人に声を掛けてねぎらって居た。
「此の者達は次代を担う若者ばかりじゃった。
強くこそ無いが、指揮能力に長けた者達じゃ、
今回の護衛に就けたのも、
帝都で花嫁を世話をするのが目的じゃったのじゃ、
・・・・残念である。
モモタロウよ、死者を丁寧に扱ってくれて有難う。
血で汚れた体を清めて、
我が家の紋章の入った布で包んで呉れたのだな、
可愛い孫娘ももう此の城に呼ぶことも叶わん。
頼子貴族にも申し訳無くて顔を合わせられんわ!
モモタロウよ、娘の事を何卒良しなにお願い致す」
「ご遺体は、シドニー様にお願いされた物です。
シドニーさんも騎士達の親御さんに
合わせる顔が無いと泣いて居られました」
「そうか、あの子は心根の優しい子であるからの~
不憫じゃ。
ローマン例の物をモモタロウ殿に」
「ははっ!」
ローマンは急いで馬の所へ行き戻って来た。
手には大きな袋を持って、
ローマンは其れをモモタロウに手渡すと、
「モモタロウ様此れは侯爵家からの報酬で御座います。
お納めください」
モモタロウは貰う言われも無いが断るいわれも無いので、
黙って受け取った。
「ローマン、我が孫娘のシドニーもお世話に成るのじゃ、
けちけちしないで、もう一つ持ってこんか!」
「ははっ!」
もう1度ローマンは馬の所まで走って行き、
大きな袋を持って来てモモタロウに手渡した。
「モモタロウ様シドニーお嬢様を
何卒宜しくお願い致します。」
こっちはシドニーさんに渡す為に受け取った。
2つの大きな袋をストレージに仕舞うと、
そろそろお暇をと、
「侯爵閣下、御屋形様、有難う御座いました。
ではそろそろお暇致します」
「モモタロウ殿、此の冬は如何過ごすのか?」
「はい、雪解け迄は此の領都に逗留する予定です」
「もし良ければだが、
廃坑の中にダンジョン化した所が有るのだが、
厳冬期に毎年魔物の討伐を行って居るのだが、
騎士達を鍛えては呉れぬだろうか?
礼は金貨100枚にはずむが如何か?」
「いや、此の冬は
ゆっくりとしようかと思って居りますので、すいません。」
「金貨200枚でも構わんぞ、
騎士達を鍛えてやってくれんか?」
「すいません。お金は充分に有りますので」
「そうか、気が変わったなら何時でも言って呉れぬか?」
「はい、お心遣い感謝致します。
私は学生の身で御座いますので、
勉学を優先せねば成りません」
「「うむそうじゃのう、気を付けて帰るのじゃぞ」」
「はい有難う御座います。では此れにて」
モモタロウ達は侯爵家の墓所を後にするのだった。
侯爵城を後にしたモモタロウ達は一路、
買ったばかりの屋敷へと向かった。
「ペチカさん、侯爵との会話はあれで良かった?」
「はい、充分及第点ですよ」
「そうですわね、私くしから見ても
良く受け答えが出来て居りましたわ」
「いや~やれやれですよ~じゃあ、
新しい屋敷に向かいましょう」
モモタロウ達が、屋敷に到着した時には既に日が傾いて居た。
モモタロウが急いで夕食の用意をしている間に、
エレン、カンウ、チョウヒ、ペチカさんは屋敷の探検だ。
何と言っても地上5階地下2階の豪華絢爛の和風旅館だ。
見て回るだけでも、一苦労なのだ。
「勢いで作っちゃったからね~
リリーは限度と言う物を知らないから~でも、
魔法って便利だよね~
屋敷の維持は如何すんだろ?」
『てへっ、後の事を考えて居たら
思った物を作れないっス!』
「だって~この屋敷を維持する事を考えると頭痛がするよ~」
『其れを考えるのがダーリンの仕事っス』
「はいはい、考えて置きますよ」
『宜しくっス、ダーリン愛して居るっス』
「うん、俺もリリーを愛して居るよ」
『ダーリン、何か作って欲しい物は無いっスか?
何時でも作るっスよ~』
「今は無いよ、今度又頼むね~」
『はい、分かったっス』
晩御飯の支度が終わった頃に4人共帰って来た。
畳の大宴会場で座布団に座って晩御飯を食べ乍ら、
「モモちゃん、モモちゃんこの屋敷凄いですわ~
5階も有るんですのね、
登って降りるだけでも疲れてしまいましたわ」
「2階のお風呂が凄いよね~、
木の浴槽?20人位は楽に入れるよね~
其れに、
凄く大きい浴槽が有って100人位入れるんじゃ無いの?
でも深すぎない?其れと丸い噴水池みたいな浴槽、
真ん中からお湯が湧き出して居るよね、
寝乍ら入れる様な浴槽も有ったよ、
滝みたいにお湯が落ちて来て居る所もあったし凄いよね~」
「大きい浴槽は室内プールだね、
25メートルでお湯の温度は35度。
体温より少し低めだよ、
寝転ぶように出来て居るのはバブルバスだね、
お湯が落ちて来て居るのは、当たり湯だよ」
「ご主人様露天風呂が素晴らしいです。
広い岩風呂に、
屋根をあしらった湯船が憎い演出です。
壺湯も趣が有って良いですし、
一杯飲み乍ら入ったら最高でしょう!」
「うん、カンウはお酒が好きだからね、
バンバン飲んじゃってくれて良いですよ。
岩盤浴も気持ち良いよ~」
「ご主人様、私は薬湯とビリビリした湯船が、
何か癖に成りそうです。
其れと、あの熱い部屋、さうなが良いです」
「チョウヒは少しⅯ気質かな電気風呂が好きなんだね。
サウナは塩サウナだからお肌すべすべに成るよ~」
「「「「まあ~」」」」
「其れに温泉はリリーが地下300メートルで掘り当てた。
天然温泉だからね、かけ流しし放題の贅沢温泉だよ~」
「「「「おお~かけ流しって何か分からないけど~」」」」
「1階は玄関ホールとカウンター、ゲームコーナーに、
寛ぎスペースと、図書室だ。新設した道場へも其の儘行けるよ、
2階が大浴場と大宴会場だ。喫茶コーナーも有るよ、
3階から上が居室だ全室、畳敷きで温かみが有るんだよ、
5階、最上階が俺のプライベートスペースだね、
後、主力メンバーの部屋と、招待客用の部屋だね、
5階から1階迄の吹き抜けには鉄棒が6本有って、
緊急時には鉄棒を伝って一気に
1階に行ける様にしてあるんだよ」
「「「「おお~やんや、やんや」」」」
「明日は、朝から冒険者ギルドと住宅ギルドへ行って、
用事を済ませたら、皆を迎えに行こうか」
「「「「は~い了解しました~」」」」
「じゃあ、皆、ご飯を食べたら
先ずお風呂に入っておいで~」
「「「「は~い」」」」
モモタロウは4人がお風呂に入って居る間に、
酒盛りの準備を行い、
4人が出て来ると酒盛りを始めた。
「4人共時間が掛かったね、お風呂は楽しかった?」
「あの塩サウナ、モモちゃんが言った通り
お肌がすべすべに成りましたわ」
「私も、私も凄いわ、あんなに汗をかくなんて、
今迄無かった事だわ」
「塩は浸透圧が高いから、新陳代謝が活発に成るんですよ、
体にも凄く良いからお勧めですよ」
「「ちんちん代謝?ちん透圧?」」
「まあ、体に良さそうな事は分かりますね」
「「ぷーるが最高でした!」」
「チョウヒは犬かきばかりでは無いか」
「犬かきと違うし、ネコかきだし」
「うん楽しそうだね」
「「「「はい」」」」
「冬の間、飽きずに済みそうだね。
じゃあ俺も入って来るから4人共酒盛りを始めて居て」
「「「「は~い」」」」
モモタロウが風呂から出て来た時には、
4人とも酔っぱらって居り、
モモタロウもその中に混ざって、
あーだ、こーだと大いに盛り上がって
今夜も夜が更けて行った。