-108話ー 奴隷購入と奇跡
俺達は遠い北街の、
帝都で一番大きな奴隷商に来ているのだが、
前の主に、途轍も無い虐待を受けて、両手と胸、片目、
女性の機能を欠損した女性を購入して、彼女の意見で、
20人の傷付いた獣人奴隷を買う事にした。
「此れは酷いな」
「はい、酷いですわね」
何とぼろの麻で出来た、
ワンピースを着た女性達全員、坊主にされ、
耳も切り取られ尻尾も無く、見える部分は傷だらけで、
頭や、腕、足、等には、包帯が巻かれて、血が滲んで居た。
「此れじゃあ血だらけのテルテル坊主じゃ無いか?」
鼻をそがれた娘、片目をくり抜かれた娘、
手のひらの無い娘なんかも、何人も、混じって居る。
「良く命を保って居られますわ、死んで居てもおかしく無いですわ」
「はい、獣人達は生命力が強いので、しかし、
モエー子爵も酷い事をする」
「そうですか、こんな酷い事をしたのはモエー子爵と言うのですか。
ぶっ・こ・ろ」
「モモちゃんが、手を汚す必要は御座いませんわ。
子爵風情が~!!我が家の恐ろしさを思い知らせてやりますわ」
「え~っ、だってエレン勘当されてんだろう?」
「ええ、だからお姉様に言い付けますわ。
我が家のメイドを傷付けたと」
「エレンの姉ちゃんそんなに怖いの?」
「私くしの30倍は恐ろしいですわ、
其れこそオーガ並みですわ」
「其れは怖いね、頭から丸齧りされそうだわ~」
「明日にでも手紙を書きますわ」
「でも店主も人が悪いですね~」
「何の事で御座いましょう?私は何も喋ってはおりませんよ、
唯の独り言で御座います」
「まあ、そう言う事にしときましょう・・・・
あれ?何か、下半身がお馬さんの人が?其れに、
下半身が蛇?蜘蛛の人も居るよ~」
「あ~彼女達はケンタウロス族の娘と、
ラミア族の娘と、アラクネ族の娘ですね、
大型の亜人獣人に成りますが、基本、
彼女達の様に、人頭の獣人には理性が有り、
亜人扱いと成って居ります。
彼女達大型種は、基本、
戦闘能力が高く警備として使われて居た様ですが」
「でも、ケンタウロスさん尻尾無いし、坊主だし、胸無いし~
ラミアさんも蛇の部分半分切られてるし、坊主だし、胸無いし~
アラクネさんも、足2本しか無いし、
坊主だし、蜘蛛のお尻半分無いし、胸無いし~」
「はい、変態子爵に全部切り取られて居ます。
彼女達全員、乳房と女性の機能も抉られて居ります。
どうも、変態は皆同じ事をする様で、全く理解出来ません」
此の後、全員と奴隷契約を結び、各人の契約書を貰った。
「あれ?奴隷の数が多いよ?22人居るよ?」
「そうで御座いますか、其れでは、仕方が有りませんので、
2人分はサービス致しましょう。1割引きですな」
「良いの?」
「構いません。お客様は一切値切る事も無く、又、
不良在庫である、彼女達を引き取って下さった。
今後共、お付き合いしたいもんですな、其の分、
彼女達を労ってやって頂きたい」
「其れは、お約束しましょう」
「では、地下室に参りましょうか」
「そうですね、じゃエレンは此処で待って居てくれる?」
「そう言う訳には参りませんわ。
私くし、此れでも色々な修羅場を渡って居りますのよ
お気遣い無用ですわ」
「良いの?後悔するかもよ?」
「覚悟は出来て居ります事よ!」
「じゃあ、行きますか」
俺達は、事務の女性を含めて4人地下室に向かった。
階段を降りて鉄製の扉を開くと、予想して居た通り、
糞尿の何とも顔を顰めたく成る様な匂いが充満して居た。
「予想はして居たけれど、酷い匂いだな」
「なにぶん、死ぬのを待つ者ばかりを集めて居りますれば、
衛生に気を遣う必要も無く、其の分、
食事に金を回して居ります」
「此れは、奴隷商なりの気遣いなのでしょうね」
「申し訳御座いません」
エレンは鼻と、口を両手で押さえて涙目に成って居る。
地下室の中は薄暗く、冒険者ギルドの地下闘技場位の広さだろうか、
数十人の奴隷が鎖で繋がれる事も無く、
筵の上に横たわって居り、其処彼処で呻き声が聞こえる。
何人かは、既に死んでいる様だった。
「お客様、此方で御座います」
と奥の方へと案内されると、足元に手足が無く、
体中に包帯が巻かれて、
ミノムシの様に成った女性が横たわって居る。
「店主、此の娘は?」
「はい、此の娘は剣闘士最強で、人気の頂点になった為に、
食事にしびれ薬を盛られたそうで御座います。
其の後、戦いに駆り出されて、敗れ其のまま観客が見て居る前で、
蹂躙されて、バラバラにされて、此処へ参りました。
哀れな、剣闘士奴隷で御座います。
今は、安らかな死を待って居ります」
「酷い事をする。観客はそんな残虐な行為を喜ぶの?」
「はい、剣闘士の戦いは帝国では禁止されて居りますが、
名ばかりで、公然と地下で催されて居ります。
戦いは、賭けの対象で、血と残虐な行為を求める。
変態貴族の社交の場にすら成って居ります。
痛ましい事では有るのですが、
人間の本性なので御座いましょうか」
「反吐が出るね」
エレンも顔を顰めて居る。
其の女性は、少し此方に振り向くと動かなくなった。
「亡く成って仕舞った様ですね。女神よ如何か此の哀れな魂を、
お救い下さい」
店の主は、女性の死を悼んで祈りを捧げた。
『ダーリン・・・・』
『ああ、分かって居る』
「店主、其の女性を買い取らせては頂けないだろうか?
魔法研究の実験に使いたいのだが、如何だろう?」
「其れは構いませんが、既に死んで居るのですが?
宜しいのですか?」
「ああ、全く構わない、幾らだ?」
「料金は結構で御座います。ただ、研究に使った後には、
ちゃんと、埋葬してあげて欲しいのです」
「約束しよう、マッドサイエンティストのモモちゃんです。が」
「既に死んで居るのですが、奴隷契約は如何なさいますか?
銀貨1枚の料金に成りますが」
「して頂こう」
と、店主に銀貨1枚渡すと、其のまま奴隷契約魔法を掛けて、
契約書を事務の女性から受け取って俺に渡してくれた。
「しかし、死人と契約とはどんな研究なのか?」
「店主の想像に任せる」
「ほう、其れは、凄い研究ですな」
どんな想像をして居るのだろう?
俺は、魂が抜け落ちない内に、女性をストレージに仕舞った。
「ほう、アイテムボックス持ちで御座いますか?
益々、興味が湧きますな時間も止められるのでは?」
「好奇心は猫をも殺すと言いますよ」
「其れはそうで御座いました。申し訳御座いません、では此方に」
此処にも、体中包帯を巻かれた女性が、
丸く成って横たわって居た。
顔も全体ぐるぐる巻きで、鼻が有ったであろう部分に穴が開き、
呼吸して居る。目はくり抜かれたので有ろう、包帯が巻かれ隠れて居る。
両手は肘から先が無く、両足は膝から先が無い、乳房も無く、
股間に巻かれた包帯からも、血が滲んでいる。
体中傷だらけなのだろう、良く失血死し無い物である。
「此方が、先程の娘の姉で御座います。
前の主人が人豚と言っていたぶって居た様です」
「幾らだ?」
「はい、最早、死を待つだけで御座いますので・・・・
今迄の食事代、手当の費用を含めまして、金貨1枚で如何で御座いましょう?」
「構わない」
直ぐに、金貨1枚を渡すと、其のまま奴隷契約を行った。
「店主、他にも数人、実験用の奴隷を買いたいのですが、
見て回っても良いですか?」
「勿論で御座います。ご自由に見て回って下さい」
俺は、一人一人、奴隷を見て回った。
肌の色が茶色の女性の前に行くと、
「店主、この女性は?」
「ほ~お目が高い、此の者はダークエルフで、
先程の剣闘士と同様で地下闘技場での、5強の一人で御座いました」
「幾らだ」
「先程と同じ金貨1枚で宜しいですか?」
「買おう」
金貨1枚を渡すと奴隷契約をして呉れた。
ダークエルフの女性も片足が無く、両腕も落とされて、
乳房も無い。僅かに残った片目で虚ろに俺を眺めていた。
そして又、見て回って居ると、一人の女性の所へ行き、
「この女性は?」
「はい、此の者はウオーバニーと言う戦闘種族で御座います。
此の者も、剣闘士5強の一人です。凄い慧眼ですな」
「この様に成っても、滲み出る闘気は隠せないですからね」
「ほう、強者は強者を知るですな、
此の者も金貨1枚で御座います」
「宜しく頼む」
ウオーバニーも奴隷契約を済ませて、もう一人見つけた。
「この女性は?」
「はい此の者は、5強とまでは参りませんが、
かなりの強者で御座いました。翼人族の年若い娘ですが、
珍しい種族の為でしょうか、
新人戦で罠に嵌められて、此の様な姿に、
今は、切り取られて居りますが、
鳥の足爪と言う強力な武器を持って居りました。
空も飛べるので、期待されて居た様なのですが・・・・
後、数年は生き永らえて貰いたかった。
残念な事で御座います」
此の翼人族と言う少女は羽根は勿論の事、腕も、足も切り取られて居り、
乳房も無く、虚ろな、死んだ魚の目をして俺をぼ~っと、眺めていた。
「で、お値段は?」
「勿論、金貨1枚で」
「頂きましょう」
此の後、一通り全員を見て回り、回り終わると、
「今日は、此の位でかんべ・・・また次回。
良い情報が有りましたら、また教えて頂きたい」
階段を登り乍ら店主は、
「良い情報かどうかは分かりませんが、
10日後に帝都の奴隷の、オークションが有ります。
普段では、絶対手に入らない様な奴隷が出品されますので、
宜しければ、是非、その他に貴重な武器や、
魔法具なども出品されますので、是非お越し下さい」
とチケット貰った。
「オークションは、此の店の手前に有る劇場で行われますので」
「はい、時間が有ったら覗いて見ましょう」
「宜しくお願い致します。其れではお客様の馬車の荷台が、
汚れない様に、筵を引かせて頂いて居ります。
下働きの奴隷達は、包帯を巻き替えて馬車の前に集めて居ります。
地下の奴隷達も包帯を巻き替えましたら、直ぐに連れて参りますので、
暫し、お待ち頂けますか?」
「宜しく頼みます」
「では、裏庭へ参りましょう」
裏庭に行くと、とっぷりと日が落ちて、真っ暗ではあったが、
店員が、明り取りの為に篝火を焚いてくれていた。
下働きの獣人達は既に集まって居り、
馬車に乗るのを待って居た。
「皆、も少し待ってね、大怪我の人から乗せたいから」
獣人達は皆頷いて、待って居ると担架に乗せられた、
怪我人達が馬車に運び込まれた。其の後、重なる様に皆乗って、
出発準備が整った。
「其れでは店主、又来た時は頼む」
「はい、心よりお待ち申し上げて居ります」
と、俺達は裏口から、大通りへと出て行った。
可愛そうだけれど、ケンタウロスさんはデカいから歩きだ、
ラミアちゃんと、アラクネちゃんは、デカいけど、
歩けないので荷馬車に乗って居るが、ラミアちゃんは幌の上に、
アラクネちゃんは2本の足で、天上に張り付いて居る、器用だ。
大型の馬車だけれど人数が多過ぎた。すし詰め状態に成って居る。
「何とか馬車、動いたね~」
「満タンで重いと言っても、亜人は人と同じですからね、
この程度では馬はビクとも致しませんわ、車体も軽いし」
そう、馬車はかなり軽量化して居る。
しかし、俺達の馬車はまるで葬式の行列みたいに暗かった。
「さて、何処かで治療し無けりゃね」
「そうですわね、何処か人気のない路地に入りましょうか?
夜ですし、北街の人通りは余り有りませんしね」
昼間の店と店の間の行き止まりの路地を見付けて、
「此処で良いんじゃ無い?」
「そうですわね、うって付けですわね」
俺は、荷台の皆に向かって
「皆、此処で、一回降りて呉れるかい、
全員治療を施すから、
怪我人を路地の真ん中に運んでくれ」
荷台の獣人達は頷いた。
「皆さん、此れから見た事が無い様な奇跡を見る事に成るでしょう、
しかし其の事は決して口にしない様に、
貴方方のご主人様の命に関わる重大事です。
もし、誰かに聞かれたり、
拷問を受けても決して話さないように、
もし、喋りそうになった時は自害しなさい」
全員が静かに頷く、
「いやいや、そこ迄は流石に、
其の時は俺が逃げ出せば済む事だから、
皆、命は大切にするんですよ、良いですか?」
「御主人様、ご主人様が逃げ出さす様な事態になる事は、
下僕として、許される事では有りません。
其の時は私達一同、
一命を持って忠誠に殉じる事をお許し下さい」
皆、大きく頷いて居る。
「怖ぇ~よ、死んじゃったらお終いなんだから、ねっ、
死んじゃダメ、生きて忠節を尽くして下さい。良いですね!」
「な、何とお優しいお言葉!私の心に刻んで置きます!」
「いや、刻まなくて良いから、自分を大事にして~」
其の後、重傷者を中心に皆を集めてエレンを見張りに置き、
最後に、死んだ女性をそっと置いて、
「リリー範囲は、此の路地全体!」
『はいっス』
「リザレクション!」
路地全体が輝きだし、先ず死んだ女性が、ぶはっ!と、
息を吹き返し全員の体が輝き出して、
小さな傷から治り始めて、
砕けた骨が再生して行き、髪の毛が延びだして、
焼け爛れた肌が入れ替わり、目が再生されて、欠損した、
腕が、足が、キノコが生える様に生え、抉られた、
目が、柔らかい乳房が、
女性の機能が、優しい手のひらが、
繊細な指が、爪が、折られた歯が、
桃の様な可愛い尻が、美しい翼が、蜘蛛のお腹が、蛇の胴体が、
可愛い耳が、愛らしいしっぽが生えて来た。
ほんの5分ほどの奇跡、しかし、人生を失った皆にとって、
此れから送るであろう、
一生分に匹敵する奇跡を見た瞬間であった。
「目が、目が、目が~見えます~」
「耳が~生えた~ぴょん」
「ぴょん???まあ良い」
「おっぱいが、おっぱいが生えて来た。にゃあ」
「にゃあ?」
「私の丸い尻尾が生えて来た!うさ」
「うさ?」
俺はさっき迄死んで居た女性を抱きあげると、
「気分は如何ですか?」
「ええっ?さっき迄、河の傍に居たのですけれど?
私、死んだんじゃ?えっえ~生き返った~!?」
「ご主人様、今の術は?リザレクションでは無いですか?」
「うん」
「此の術は、伝説のコッサリア神国の聖女様しか?」
秘書、妹の唇を人差し指で押さえて、
「内緒でねっ」
と、ウインクした。