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夏休み少女と獅子舞の王様(Ado様 獅子舞トーク小説化)

作者: 夥狐 - Kako

Ado様の獅子舞トークからインスピレーションを頂いてファンタジー風小説を書いてみました。pixivにて本作以外のAdo様関連SSも書いています。よろしかったらそちらもみていただけたら嬉しいです。


※Ado様のトークに着想を得ていますが、この小説は夥狐の創作したフィクションであり、Ado様をはじめとした実在の人物・団体等とは一切関係ありません。従いましてこの小説がつまらなかったとしても、(当然ながら)Ado様のトークがつまらないということにはなりませんので許してください。お願いします。

 だいぶ日が傾いてきたとは言えまだまだ真夏の熱気が残る午後、郊外に広がる住宅街に祭りの喧騒が響く。


 街が住宅地として開発されるよりずっと昔から地域の鎮守であるこの神社では、今年も例年通り7月の最終日曜日に夏祭りが開かれていた。


 屋台の立ち並ぶ参道には、夏休みに突入したばかりの小中学生の姿も多く見える。


 そんな祭り会場の一角では、大勢の客の注目を集めながら獅子が舞っていた。


 二人のひょっとこが太鼓を打ち笛を吹いてお囃子を演奏する中、時に勇ましく、時にユーモラスに舞う獅子の胴幕の中には、その獅子頭と会話する女性の姿があった。


「くぁーっ! やっぱり真夏にこの中入るのは暑いっすねー」


 カッ。

 獅子頭が歯噛みする音が響く。


「仕方なかろう。辛抱せい」


「ねぇ、それはそうと獅子王様、お気付きでしたか? さっき本部テントで頂いた麦茶。あれ、薄っすいコーヒーでしたよ!」


 カカッ。


「…知るか。今の我は頭だけ。飲めるわけがなかろう」


 一人立の獅子舞。胴幕の中で交わされる会話は、しかし祭りの喧騒の中で観客の耳に届くことはない。


「いやー、それにしても大漁、大漁! 獅子王様、今日もお客さんいっぱいですね。これは旅する獅子舞師としての私の技能が、だいぶ向上してきた証拠じゃないですか?」


「何を言うか。客が多いのはお前の舞の力ではない。我のこの雄々しい獅子の姿と御利益に惹かれて集まってきているのだ。勘違いしてはいかんぞ」


「えー、そうですかねー。まあでもこの調子で噛んでいけば、バンバン徳もたまっちゃって、元の姿にもすぐ戻れるんじゃないですか?」


「だと良いのだがな。しかし客が多いと言っても、この中に自分の才を伸ばそうという努力ができる奴がどれだけ居るか。せっかく我が邪気を噛み破ってやったとしても、自ら努力しないような奴であれば噛み損であるからな」


「確かにもったいないですよねー。せっかく獅子王様が噛まれても、ダラダラ生きてまた邪気を引き寄せられちゃったんじゃ、獅子王様の徳につながりませんもんね」


「うむ。まったく面倒なことだ」


「まあまあ。元の姿に戻れるチャンスを頂けただけ有難いじゃないですか。それに、獅子王様の右腕たる不肖この猫女が居りますれば、徳なんてドバドバーっとすぐにたまっちゃいますよ! 大船に乗ったつもりでいてください!」


(……いつものことながら調子だけはいい奴だな)


「え、何かおっしゃいました?」


「何でもない。まあ、ともかく数だけ集めても不十分ということだ。やはり我のこの伯楽眼でギラリと光る人間を探さんとな……ム?」


「見つかりましたか?」


「あそこにいる少女の集団、一番後ろにいる娘だ」


「あー、あの娘ですか? うーん、あんまりギラリって感じはしませんけど。むしろなんだか空気と同化しようとしてるような……」


「だからお前の目は節穴なのだ。ほら、おあつらえ向きにジャンケンを始めたぞ。ここは我の確率操作の力の見せ所だな」




* * *




 参道に立ち並ぶ様々な屋台を覗きつつ、数人の少女が神社に向かって歩いてくる。


「うわ結構人いるねー」


「お祭りって感じだよねー」


「あー、りんご飴だ! ねえ、一緒に食べよ!」


「うん、可愛くておいしー! この飴部分とリンゴ部分のミスマッチがたまんないわ。……んっ! ちょと手についちゃった。うわー、べとべとぉー」


 小学生最後の夏休み、少女達は地元の神社で夏祭りを楽しんでいた。


「あ、ウェットティッシュ、あるよ。ゴミ袋もあるから、拭き終わったらちょうだい……」


 最後尾でウェットティッシュ係に徹している一人を除いては。


「あ、あっちゃん、ありがと」


「お、たこ焼きもある。焼きそばも。やっぱりお祭りって言ったら焼きそばだよね!」


「うん、焼きそばおいしー! お祭りで食べるとなんかおいしいよねー!」


「あんた、ちょっと口の周りに青ノリついてるよ!」


「あ、ウェットティッシュ、あるよ……」


「いやいや、お祭りと言ったら綿あめでしょ! 焼きそばは家で食べてもおいしいけど、綿あめはお祭りじゃなきゃおいしくないもん」


「うわっ! 綿あめがくっついちゃった! あー、べとべとぉー」


「あ、ウェットティッシュ、あるよ……」


 あっちゃんと呼ばれた少女はどことなくぎこちない様子を見せながらも、周りの少女達に合わせようと懸命に立ち振る舞っていた。


 しかし、その日の祭りに獅子王達が居合わせたことによって、あっちゃんの命運は定まってしまう。


「ねえねえ見て。獅子舞だって! こんな夏に獅子舞って珍しくない?」


「ほんとだ! 普通お正月とかじゃない?」


「そうだ、獅子舞に噛まれると頭が良くなるっていうよね。じゃあさ、ちょっとジャンケンで負けた人が噛まれに行くことにしない?」


「…………」


 あっちゃんは口を閉じ、可能な限り気配を消した。あたかも自らが空気であると主張するかのように。


「ほら、あっちゃんもこっち来て! ジャンケンしよ」


「……!!」


 しかし、あっちゃんのささやかな抵抗は、グループの少女の一言の前にもろくも崩れ去った。


「じゃあいくよ。さーいしょーはグー! じゃーんけーんポン!!」




* * *




「おおっ!! チョキ、チョキ、チョキ、チョキ、……パー! 獅子王様、さすがです!」


「フッ、決まったな」


「これであの娘の邪気を噛み破って御利益を授けられますね!」


「うむ。あの娘には何らかの才がある。そして何より、その才を研ぎ澄ます為の努力を成し遂げる、ギラリと光る力強さがある」


「これで獅子王様の徳も急上昇間違いなしですね!」


「うむ!」




* * *




「っ!!!……………ぁ……あぁ…………負けちゃっ……た…………」


「よっしゃ勝った!」


「ははっ! 一発だって!」


「よし、じゃああっちゃんだね。行ってらっしゃーい!」


 多くの少女達が囃し立てる中、グループの中心的な立場に位置しているだろう少女が、あっちゃんの様子がいつもと違っていることに気付いた。


「え、ちょっと、あっちゃん? 大丈夫? あんまり顔色が……」


「…………ぁ、うん、だぃ……じょうぶ……。ハハ、ハ…………。いってくるね…………」


 数分後、そこにはにぎやかなお祭りの雰囲気にまるで似つかわしくない、死んだような目をしながら獅子舞に噛まれる少女の姿があった。




* * *




「………………」


「獅子王様」


「………なんだ?」


「あのあっちゃんていう娘、大丈夫ですかね? なんだか完全に心が折れたような感じでしたけど」


「うむ」


「あーあ、グループの娘たちからも離れて一人で帰っちゃいましたよ。獅子王様に噛まれるのがそんなに嫌だったんですかね」


「そ、そういう言い方をするな!」


「ジャンケンに一発で負けさせたのもショックだったんじゃないですか? 心の準備的な」


「それは仕方あるまい! あれ以外にどうやってあの娘を噛まれに来させられたというのだ?」


「そうですけどー。でも良いんですか? あのまま放っといて。私ちょっと心配なんですけど」


「ええい、分かった分かった。おい!」


「「へい」」


 先程までお囃子を演奏していたひょっとこ達が獅子王のそばに寄る。


「ひょっとこども、あの娘が家に帰るまで、気付かれぬように見守っておけ」


「「へい」」


 ひょっとこ達はそう返事を返すと、人混みの中へと消えていった。




* * *




 グループの女子たちから離れたあっちゃんは、幽鬼の様な足取りで祭りの出口へと向かう。


 その時、物陰から様子を見守るひょっとこ達の目には、あっちゃんに近づいてくる新たな少女の姿が映っていた。


「あ、あっちゃん! 久しぶり! って言うか、数日ぶり?」


「あ……久しぶり」


「あっちゃんもお祭り来てたんだ。もう帰るの?」


「うん……」


「そうなんだ。私ももっと早く来たかったけどさー、ママが今日の分の宿題終わらせてからじゃないと行かせてくれなくて」


「そうなんだ。厳しいんだね」


「そうだよ! もう! りんご飴売り切れちゃってたらどうしてくれるのよって感じだよ」


「あ、りんご飴、好きなんだ」


「うんそう。やっぱさー、赤いしかわいいんだよねー。ひょっとしてあっちゃんもりんご飴好きなの? もう食べた?」


「あ、いや……」


「そうなんだ。ああ、もうこうしちゃいられないや。私、買いに行くね!」


「あ、もし良かったら、ウェットティッシュ使う? りんご飴食べると、結構手が汚れたりするし……」


「えっ、ありがとう。すごい、あっちゃんって気がきくんだね! 私もママからいつも『もっと気がきくようになりなさい』って言われるんだよねー。あっちゃんを見習わないとね」


「えっ、そんなこと……」


「ううん、あっちゃんすごいよ、尊敬するよ。じゃ、またね!」


「うん、また」


 ひょっとこ達の目には、その少女との遭遇により、あっちゃんが少しだけ自分を取り戻すことが出来たように見えた。




* * *




 日もほとんど落ち屋台の電灯が輝きだす頃、出し物の控えテントには三人と一頭の姿があった。


「戻ったか」


「大丈夫そうでした?」


「「へい」」


 ひょっとこ達は見守ってきたあっちゃんの様子を報告する。


「……そうか」


「へー、じゃあ途中で会ったその娘と別れてお家に帰った後にも、さっきのグループの一人の娘が謝りに来てくれてたみたいってことですか? 良かった。あっちゃんて案外友達に恵まれてたんだね。安心したー」


「フフ……。見込み通りだな。我には始めから分かっておったぞ。何せこの獅子王の眼には見えておったからな! ギラリとした光が!!」


「「「…………」」」


「……オホン。しかしまあ、何はともあれ今回あの娘を噛んでやることが出来た。我の力は因縁を無視して良い結果のみを得られるほど便利なものではないが、才あるものが努力した結果を、より実りあるものとする手伝いにはなる」


「そうですね」


「人の世界では “千里の馬はあれども一人の伯楽は無し” などと言われているらしいが、これでもうあの娘の才と努力が埋もれてしまうことはあるまい。あくまであの娘のこれからの精進次第ではあるが、数年もすれば目に見える結果も出てこよう」


「楽しみですね! それにしても獅子王様、あの娘すっごくギラリとしてたんでしょ? 将来どんなふうになるんですかね?」


「そうだな。よし、ひょっとこ! 今後我らが旅を再開した後も、この近くに寄った際などに折を見てあの娘の様子を確認しておけ。これからあの娘がどの様に成長していくのかが分かれば、今後の逸材探しの参考にもなるからな」


「「へい」」


「……そしてその結果がはっきりする頃には、あの娘には今日の出来事も人前で笑って話せるような懐かしい思い出となっておるに違いない」


「いやー、それはさすがにどうでしょうかね?」


 そんなやり取りをよそに、祭りは夜の賑わいを増していく。


「ほれ、そろそろ夕刻の獅子舞披露の時間ではないか? 準備を始めるぞ。」


「はーい、分かりました。獅子王様、次も逸材が見つかると良いですね!」


 獅子王達が控えテントを出ると、濃紺に染まった空の下、立ち並ぶ屋台が昼間とは違った輝きを放ち、祭の夜を楽しみに来た家族連れや恋人たちの興味を誘っていた。


「よしよし、夜になってもこの人出であれば、今日はまだまだいけそうだな。気を入れていくぞ」


「はい!」「「へい!」」


 祭りはまだ宵の口。獅子王達の逸材探しは続くのであった。


 なおこの日以降あっちゃんの周囲では、様子を確認に来たらしきひょっとこの姿がたびたび目撃されるようになったと言う。

 気付けば今日もまた……。





お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければご評価、ご感想などいただけますと嬉しくてたまりません。

何卒よろしくお願いします。

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