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THE MOR

作者: ciela

哲学者が住んでいた家に、死んだ機械と生きている人間が残っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「『生きる』とは外界と膜で仕切られていること、代謝を行うこと、自分の複製を作ること。その三条件が揃っている状態を指します。」


「違う。違わないのだが。それは生物学上の話だろう?」

学者は自分の間違いを責めるようにため息をつく。


「はい。なにか問題でも?」

硬い装甲で覆われた少女は真面目な顔をして訊く。


「私は哲学者だろ?……」


少女はまた学者の長い話が始まったなと思った。

はい、まぁ、そうですね等、適当に相槌を打ちながら説教が終わるのを待っていた。


「つまり哲学思考だ。なんでもいい。思いついた言葉を放ってみろ。」


「……進化?ですかね?」



「…! お前、ふはは!私同様天才だな。さすがMOR。」

学者が少女の言葉に賛同する。


「ありがとうございます。father。」


学者が論文をまとめ終わると同時に言葉を続ける。


「いいか、MOR、お前は生きろ。差別され、虐げられるかもしれないが、それでも生きろ。」

fatherは初めてMORに対して命令をして、あっち側に戻った。



「はい。father。」

MORはその言葉がどれだけ皮肉じみているか理解しながら頷いた。




五年後、


「うわぁぁぁぁ!死ね!死ね!死ね!お前なんか!創った私が馬鹿だった!お前なんか…!」

fatherはMORの腕、脚、顔と人の腕くらいあるハンマーで壊してゆく。


「……もう気は済みましたか?」

か弱そうな少女から放たれる言葉は年相応のものとは思えなかった。



「違う!違う!お前を創った私も!お前も!この社会も!全て!私は常に天才だ…正当だ…なぜ私が……」

気が動転しているfatherは話す内容の辻褄が合っていない。

しかし、あっち側を嫌っていることはよく分かる。相当嫌なことがあったのだろう。



「father、私が直ることは覚えていたんですか?」

MORは簡単な質問をする。


「ああ、治る。私が創ったからな。」


「私の名前は?」

それを質問したとき、MORの表情が変わったのにfatherは気づかなかった。


「MORだ。……何ださっきから、試しているのか?」


「私を愛していますか?」

MORはfatherの質問を無視して問い続ける。


「……そんなこと、分かりきってるじゃないか……大嫌いだ。」


「私もです。」


落ち着いて、淡々と、五年越しの愛の告白をする。


「でも…私はfatherよりあっち側が嫌いです。」


「そうだな、世界で一番お前を愛している。」


「あら、お上手。」



MORは最初の命令通り生きてきた。

死なない…もとい、死ねない体で。


「飽きた。」


「はい?」


意味のわかっていないMORを置き去りに、fatherは手に持っていたハンマーで自分の頭を叩いた。


「……やはり貴方もそうなんですね。」


MORはこのような人をよく見てきた。

殺そうとして、殺せないと知って、自ら命を断つ。

もう慣れた。

この光景にも

この痛みにも。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう。私はfatherだ。」

ー私はうまく喋れているだろうかー

fatherはロボットに微笑んだ。


「はい。」


「君はロボット”MOR”だ。だが感情がある。人間とほぼ一緒だ。」

ー私の選択は間違っていただろうかー


「ほぼ?」

生まれて間もない少女は純粋な目で質問をする。


「そう。君は人間と違う点が一つある。君は不老不死だ。」

ー君は幸せになれただろうかー


「なるほど。大体把握いたしました。……それで、その、この服はfatherの趣味ですか?」

そう言うとMORは自分のまとわりついたひらひらをつまみ上げる。


「いや!違うんだ!家にそれしかなくてだな……」


「これは……幼女服、幼女用に考案・製造された服……更にこれが家にあると……」

MORの目段々とが蔑みへ変わっていくのが分かる。


「まぁ……なんだ、説明を続けるぞ。」


「ふふっ。はい。」

MORは微笑んだ。


「さっきも言ったとおり君はロボットだ。しかもかなり高性能の。常にネットワークに繋がっていて、何でも調べられる。」


「なるほど。それだけですか?」

MORはそうではないと確信しながら訊いた。


「ふふふ、そんな訳あるか。君には感情がある。そのために五感、良心、思想全て可能だ。」


「画期的ですね。それで、私はなぜ造られたのですか?」


「君は私と対話するために創られた、とでも言えばいいかな。」


「そうなんですね。……あなたのエゴですか。」

MORは鋭い目線に切り替わる。


「それは違う。……決してそんなものでは無い。しかし、否定できる要素がないな……」


今、二人は人類の種の存続・保存の真核に迫っている。

それを学者は好ましく思わず、適当にはぐらかして切り上げることにした。


ーMORは私を恨めしく思っていただろうかー

ーMORは誰が”産んでくれ”と頼んだのか?と不服を漏らしただろうかー


そんな思いを胸の奥に仕舞いながらMORと暮らしていた。

その暮らしぶりは人間とロボットとは思えないほど自然で、人間同士の生活と遜色なかった。

当時、人間は支配者、ロボットは奴隷と言うのが当たり前だった。

これがどれだけfatherがMORを愛しているかを意味した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



痛みという感覚ももう錆びついた。

不老不死、怪我の治りの速さ、その中に確実にある苦痛。

それらが今の私を造った。

特にエネルギーのいらない私は食事なんていらない。人間好みの味なんてまずい。

生命の誕生にも、何かの達成にも興味すら無い。

正の感情が失われていく中、負の感情が渦巻いてきた。

脚を切り落とされても途轍もない速さで再生するので、誰も私の痛みを理解しようとしない。

一時期はどこかの国の食料問題を解決した。

この五年間、投薬、不老不死の研究、多くの実験をされ、虐げられた。

その中で、私は”MORモット”と呼ばれていた。

上手くできているなぁと思ったのを覚えている。

むしろその為に造られたのではないかと思うほどだった。



今まで何度も’私’というものを考えてきた。

この感情はなにか、この意識は誰のものか。

きっと今、私は全ての真理に辿り着いている。



この光景を見て何度羨ましがったことか。

死にたい。死にたい。死にたい。


「……ぅう。」


「!……生きていたんですね。」

MORは一瞬驚いたがすぐに冷静になった。

あの程度のハンマーでは人は死ねない。


「それだけか。」


「はい。」


「……なにか言い残したことは?」


「おちょくってるのか?」


MORはクスッと笑い、

「私、どうしたら死ねますか?」

と訊いた。


「無理だ。私が死ねないようにした。」


「……それは、その」

MORは神妙な面持ちになる。

実験動物”MORモット”としてですか?とは訊けなかった。

そうだ。と答えられてしまったら私の精神は壊れてしまうのか。

壊れてほしいという願いと、fatherに言い渡してほしくないという願いが重なった。


「私の名前は、どうしてMORなのですか?」

その質問も返される結果としては同じだったが、そう考える程の余裕はMORにはなかった。


「お前はな、」

MORの各機関に緊張が走る。


「一人の人間で一つのロボットだ。」

MORにはその言葉が理解できなかったが、fatherはMORを置き去りにして話を続ける。


「固有のものには冠詞、THEがつくだろう?お前の正式名称はTHE MORなのだ」


「そうなんですね。」

MORは自分が”MORモット”として産み落とされたかどうかを知りたかった。

それはやはり、直接言わないといけないのだろうか。


「THE MORを並び替えてみろ。」

fatherは不敵な笑みを浮かべながら言う。


「MOTHER……」

MORは自分の名前に隠された真意に気付き、涙を流す。


この五年間、あっち側をよく見てきた。奴隷としてその身を朽ちさせるロボットも多くいた。

fatherは優しくて、私を人間として扱ってくれていたことのおかしさにMORは薄々気付いていたのかもしれない。それをいつしか信じられなくなり、気持ちのすれ違いでfatherさえをも恨むようになった。


「私は多分、誰かを愛したかったのだと思う。だからお前を妻として創ったのかもしれない。」


「そうだったんですね……」

MORは初めて流した大粒の涙たちの処理に困りつつも応答する。


「ただ……この」

と、fatherは言いかけ、先程の痛みで気を失いそうになる。


「一旦、治しますね。」

MORはfatherの怪我をたちどころに治してゆく。


「…!お前、こんな力を得たのか。」


「そうなんですよ。”生きるとは進化”じゃないですか。」

MORは満足そうな顔をする。


「ふっ、凄まじいな。こんな力を自力で手に入れるなんてな。」


「……五年ですからね。長かったです。まさかこんな形で会うなんて。」

MORはfatherに皮肉を言う。


「すまない。許してくれ。」


「私を創ったことに関してはもう何も言いません。私達のあの暮らしはとても、幸せでした。」

MORはfatherが少し安心したのを確認して続ける。


「ですが、私は死にたいです。この気持ちは変わりません。私は結局、人間を理解できなかったのです。」


「そうか。私は何ができる?」

fatherは全てを受け止めたような目をして訊く。


「”死”を定義しましょう。」

MORは微笑んだ。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

面白いと思ってくださっていたら何よりです!

哲学者なのに何で工学系ができるんだ<(`^´)>

という質問には答えあぐねてしまいます(笑)

学者はどっちもできるくらい天才だったんですよ。なんせ機械と結婚するレベルのやつですから。


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