~95~ 闇夜の紅と星
ベルフェゴールのバルバトス、最終形態(第三解放)はそれまでのモノとは違い、「強化」する能力ではかった。
体の欠損部分を魔力で補い、ノアに破壊された腕を再現する。そして、その手には赤く光るラッパが握られていた。
ノアの意識は朧気で、それを視界には捉えていたがそれ以上に、夜空の星に目を奪われていた。
俺は......いや、僕は......あの頃から......
ビキッ!ビキビキ......がっ、は......
軋む魂の歪み。
ベルフェゴールがそのラッパを吹くと、その周囲に四人の赤き影が現れた。
その影はそれぞれに大剣を持ち、魔力はベルフェゴールと同等かそれ以上。
それもそのはず、彼らは魂。かつてのベルフェゴールの名を継ぎし魔族達、歴代の悪魔だった。
それぞれが切っ先をノアへと、大剣を構える。
......あの星のように綺麗な、彼女はもう
いない。
ノアがゆらりと、アーマインノを逆手に持ち、前へ出す。
「......ベルゴ、終わりにしよう」
「ノア、これで終わりだ......」
俺の魂は、これで砕ける。だけど、いい。これで、いい。
俺は今までに、魔族、人、多くを殺してきた。
だから、多くを救い......これで終わる。
光る純白の剣が、ノアの胸へと吸い込まれるように差し込まれる。
それと同時に、美しく幻想的な翼が現れる。
その翼の後ろ、四本の剣は円を描くようにくるくると回っていた。
ザッ――!!
ベルフェゴールがノアへと瞬く間に距離を詰め、剣を振り下ろした
翠の剣、ユグドラシル。
樹木のような結界が瞬時に張られ、それをガードする。しかし、背後から赤い影がまた大剣を横薙ぎに振り込む。
それをノアは体を捻らせ跳ぶ事で回避。真上からも影が剣を突き刺すように落ちてきたが、そのまま剣をくらう。
回転していたノアはその勢いを利用し、落ちてきた影の首を緋の剣、ユルゲニシュで斬り飛ばす。
ユルゲニシュの能力により、燃え上がる影。
着地と、同時にベルフェゴールがユグドラシルの結界を無理矢理に破壊。
ノアはそのまま頭を斬られかかったが、回避。カウンターに回し蹴りをベルフェゴールの腕へと当てる。が、その蹴りはバルバトスを手放させる為の攻撃だったが、ベルフェゴールは空いている手でノアの足は掴まれてしまう。
その刹那、ノアが片手に持っていた深淵刀を別の赤き影へと突き刺す。
そこから無数に現れた魔力刃がベルフェゴールの手へと向かい伸びてゆく。
ベルフェゴールは難なく、ノアの足を掴んだままバルバトスでその刃を斬り飛ばす。
が、それは紫の剣、ヴァニラムによる妖力の幻影だった。
「なッ!!?」
ベルフェゴールが気がついた時にはもう遅く、地中から伝って飛び出してきた深淵刀の魔力刃に、ノアを掴んでいた手を斬り裂かれる。
――ここだ!!
しかしノアもまた、死角から攻撃してきた赤き影に頭から背にかけ斬りさかれ、動きを止められた。
くっ......!今、ベルフェゴールに止めをさせる隙が出来たのに......阻止された......!!
バルバトスを手首の捻りで返し、ノアへと突きを繰り出す。
ノアにはそれを避ける時間は無く、またもや頭を貫かれ動け無かった。
しかし、残りの赤き影を翠の剣、ユグドラシルの結界により封じ込める事に成功していた。
――そこで、ノアの翼が散り始める。
再生した両眼で捉えた光景、それはベルフェゴールがバルバトスを全力で振り下ろそうとしている場面。
逃げな......
ガクガクと足が揺れ動かない。限界の遥か先、肉体の限界を超えて、魂の力と背負った無数の想いで動いていた体も、終わりを迎えた。
剣に流せる力ももう尽きた。
終わりか。
目を閉じ、ノアがその時を待っていると、温かな神力の息吹きを感じた。
それは懐かしくも、切なくなるような......愛情のようなものを思わせる、神力。
瞼の裏に映る想いは、かつて
僕を育て、愛し、その温もりの限りをそそいでくれた
その人が映る。
目を開けると、そこには白き盾が現れ、バルバトスの最期の咆哮とも言えるような渾身の一撃からノアを守っていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
「......アーマインノ......?」
微笑んだ顔が脳裏に過る。
まだ、まだ......あと、少しだけ。
宝王器・深淵刀を握る。
バルバトスのとてつもない魔力の衝撃により、辺りが崩壊し赤いエネルギーが飛び散る。
ノアは、ゆっくりと、足をベルフェゴールへと向かわせた。
軋む体に、今にも壊れそうな魂と、心。
それを支えていたのは、今までに出会い託された想いと愛情......。
決して、
俺だけじゃ、辿り着けなかったよ......
剣を持つ手に力を込める。......そこに、誰かの手がふわりと重なる。
ありがとう。
やがてアーマインノは全てのオーラを使い果たし、砕け散った。
そして、ノアはベルフェゴールの胸へと、王が生み出した神器・宝王器 《深淵刀》を突き刺した。
ノアへと覆い被さるようにベルフェゴールは、倒れこむ。
ノアはそれを抱きかかえる。
ノアはベルフェゴールの流す熱い血により、赤に染まる。
「......ノア。 くく......ぐふっ、ぐっ」
「ベルゴ......僕、は」
「良い。 何も言うな......あとは、お前の......進む道。 お前が決めろ......」
ベルフェゴールは指をさした。
その先にはバルバトスがあり、頷く。
「あれは、俺達の想いだ......お前に、託す......」
ベルフェゴールから魔力が抜け落ちて行く。天へと流れ出す赤い魔力。
まるで、星の流れる川へ溶けてゆくように。
「......ノア」
「なに」
振り絞るように、ノアの頭に手を乗せなでた。
「強く......なったな......」
ベルフェゴールはそうして息を引き取った。
「俺も、もうすぐ逝くよ......」
ズルッ
ドシャッ
体から血が抜ける。
そうだ。三回もアーマインノを使ったんだ。
体も一時的に修復された、だけか......
傷が開いていく
意識が......
あとは
もう大丈夫だ......
王も十二騎士も、皆、いる......
お、
れは
さよ......な、ら......
子供達の笑い声が、聞こえる。
幸せそうに、魔族も、人も暮らしている。
世界の平和はもたらされた。
誰かの手によって......そんな夢を見ていた。




