~94~ 紅い星に運ばれて ⑩
ギッ......ギギギギ
力なく伏すノアの体を、アーマインノが盾になりバルバトスをガードしていた。
「盾......この盾の紋様は、神王の......まさか」
心の奥で魔族の声が響く
――おい、お前の覚悟ってのはその程度なのかよ。お前、命かけるんだろ?起きろよ......そして、戦え――
!!
ノアは目を見開き、体を起こす。そうだ、俺はまだ死ねない......と。
前に視線を向けると、そこには大きな、しかし見覚えのある盾が守ってくれていた。
ああ、あれは......俺が、儀式で最初に発現させた盾......母さんの盾だったんだな。
俺をずっと、守ってくれていた。
俺は、たくさんの人に守られ、そして支えられ此処まできた......だから。
深淵刀を握りしめる。その想いを込めるように、己の魔力を流す。
ズギャッ!!
床に剣を突き刺し、ベルフェゴールの足元から大きな黒き魔力刃を出現させる。が、彼は後方へ飛び退きながら剣で弾きガードする。
「無駄だ。 諦めろ......お前には届かん。 その力量と想いでは......この俺にも、国、世界にも。 ここで眠れ」
「まだ、やれる......」
ふらつく体を気力、精神力で支える。そして、かつて自分が殺した女の声が聞こえた。
――大丈夫、前を見て。 必ず届く。 彼の想いも救ってみせて、ノア!――
ザッ!ベルフェゴールの元へ飛び込んでゆくノア。動きは遅く、ベルフェゴールには眠たくなるほどのスピードであったが、何かが......そう、違和感があった。
ギィイイイイン!!
バルバトスと深淵刀がその刃を合わせ、魔光を散らす。
――ノアの剣が......重い!?
「憎しみ......ベルフェゴール、俺は......ステラを殺したあんたを許さない。 でも」
ノアがベルフェゴールの目を見る。
「こんな想いを、ベルゴ......は、抱え続けていたんだね」
自分の体から何かが吸収されている事にベルフェゴール気がつく。そして、更にはノアの背後の剣が二本増えている事に。
紫と......碧色の、剣......!?
俺の体から何かを吸収しているのは、あの紫の剣か!魔力ではない......これは、一体俺の体から何が流れ出ているんだ?
神器・心映 《ヴァニラム》 紫の剣。相手の想いや記憶を特殊な妖力オーラへと変化させ吸収する。それにより、少しの間相手の心の動きや思考を読める。
他に、相手の記憶や想いを元に幻影を作ることも出来る。
ベルフェゴールがヴァニラムの能力に気を取られていると、ノアの握る深淵刀から無数の刃が発生した。
それは瞬く間にバルバトスに巻き付き、ベルフェゴールの体をも巻き込み身動きの取れない状態にする。
しかし、これで戦闘不能に出来るはずもない。少しの時間を作る事がノアの目的である。
バルバトスが赤いオーラを発生させ深淵刀の刃を破壊する。
そして、すぐにノアへと斬りかかるが、ノアが三人いる事に気がついた。
「!!!?」
しかし、ベルフェゴールも多くの能力者と戦ってきた。それが幻影の類い、または分身であるならノア本体の力には及ばない事に行き着く。
先ずは一人、と三人の内一人のノアへとバルバトスを斬り落とす。
しかし、振り上げた剣は落ちる事は無く、見れば碧い鞭により引っ張られていた。
発生元は、壁に刺さっている碧い剣。先ほどノアが更に顕現させた神器の一本だった。
神器・心映 《マギカリア》 今まで見た事のある神器へと姿を変えることが出来る。
ただし、その特殊能力までは再現できない。そして、かなりの神力を消費する。
「鞭!!! ――ハッ!!」
気がつけば、斬り掛かろうとしたノアから白い翼が生えていた。右手に深淵刀、左手には紫の剣、ヴァニラム。
ノアがヴァニラムをベルフェゴールの首目掛け、振り抜く。しかしベルフェゴールは間に合わないと判断し、バルバトスを手放す。
目の前を通りすぎるヴァニラムの紫の軌跡。その軌跡を追ってまたヴァニラムの巨大化した剣が現れた。
「なに!!?」
それはベルフェゴールの頭を直撃したが、ダメージはない幻影だった。しかし、ダメージは無いが、視界が奪われ......
致命的な隙が生じる。
ノアの右手の深淵刀が破壊されていたベルフェゴールの腹部へと刺さる。
それを手放し、背後に浮いている緋の剣、ユルゲニシュを握る。
もう片方の手にはベルフェゴールの視界が奪われた隙に引っ張り戻した、碧の剣、マギカリアを握る。
マギカリアを弓へと変形させる。
更に、その弓へと矢の代わりにユルゲニシュを装填。ベルフェゴールの腹部に刺さる深淵刀を狙う。
瞬間、ベルフェゴールから多量のオーラが吹き出る。視界の無い彼の出来る唯一の防御、魔力での身体強化。防御力の底上げ。
ノアは
ギギギギギギギギギギギッ――!!!!
――ドウッッッ!!!!!
その矢となったユルゲニシュを放った。
ズザァアアアアッ――
ドオオオオオオオオオンンンンンンン!!!!!
それはベルフェゴールの腹部にある深淵刀へと見事命中し、その瞬間に彼の放出していた魔力を糧に、ユルゲニシュは燃え上がり爆発しその魔力を吸収し深淵刀もまた魔力刃によりベルフェゴールの身体中を切り裂き突き出た。
まるで大砲でも撃たれたかのような破壊力。ベルフェゴールがいたところから先は全て吹き飛び、また、撃ったノアも後方へと吹き飛ばされた。
破壊力は凄まじく、城へとかけられていた結界を破壊し、暗黒の空がひび割れて、本来あるべきの星の輝く夜空が現れていた。
それは四人が野営地で見た美しい星空を思い出させるような、綺麗な星の川だった。
ガラッ......
ベルフェゴールが瓦礫を退かし、立ち上がる。
「ぐはっ......くっ、くく」
腹に大穴が空き、右腕が肩から消えていた。
「ノア......良いぞ。 お前は、やはり......ならば、ここで......悪くない、か」
ベルフェゴールはバルバトスを見つけ、それを手にする。
「まだ、まだだ......俺は、まだ戦える。 全ての魔族が俺の存在理由......お前には奪えない。 奪わせない!!」
ノアもふらふらと、立ち上がった。
「......あれで、まだ......生きているのか」
ノアの体は見た目は、ほぼ怪我もなく、ダメージも無いように見えるが、別の所に最も深刻な問題があった。
神力が底をつき、アーマインノの身体強化を二度も使用している事で、殆んど意識も朧気になり、本来すでに動けるはずのない体を、無理矢理に動かし戦闘を行っている事により、魂が砕け割れ始めていた。
「さて、ノア......今度は俺の、番だ......」
ベルフェゴールがバルバトスを地に突き刺し、片手をその柄に乗せた。
「バルバトス、第三解放......最終形態!」
バルバトスが刀身を赤く染める。
そして、大きな悪魔の笑い声が響いた。
キキキッ......キキキキキキキキキッ!!!!




