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~92~ 紅い星に運ばれて ⑧

 



 ベルフェゴールは静かに語る。


 それが世界の真実であると、人や神人の罪であると。



「ノア、お前にはわかるだろう? 虐げられる悲しみとその痛みが......」



 ノアの心を揺さぶる。今まで信じてきたものが覆り、倒してきた者こそが、被害者達なのだと......ベルフェゴールの語る話が真実ならば......



「俺達は、悪だ......」



「ノア。 お前は、違う......同じく神人にその命の形を歪められたお前は、お前だけは我々魔族と同じだ。 どうだ、ノア? 我々と共に戦わないか?」



 ......魔族と?俺が?



「真の敵は神人だ。 この地下に居る者や大聖堂の聖女......そして、かの大国に拠点を持ちその悪の限りを尽くしている神王の血筋......そいつらを根絶やしにし、皆が平和に暮らせる世界にしないか?」


「無理だ。 ベルフェゴール、あんた達は人をたくさん殺した。 それはもう無理だ......勿論、俺も」


「ならば何故戦う? お前は何の為に戦い続けているのだ?」



 ......俺は



 俺の大切なモノの為に。世界よりも。




「気持ちはわかった。 けれど、どうにもならない事はある......あんたの台詞だ。 退いてくれ、ベルフェゴール」



「気持ちがわかる? 我々のこの恐ろしく長い戦いを、わかる? いいや、違う......俺はお前ならばわかると思ったが、とんだ勘違いだったようだ。 理解できるならばそのような、言葉はでまいよ......で、あれば」




 ベルフェゴールの体から凄まじい量の魔力が迸る。


 揺らめく黒く赤きオーラ。




 彼の魔力は今まで見た誰よりも濃く、力強く、大きく、そして悲しそうだった。





「話し合いは無駄。 ならば殺すまで。 俺は七つの大罪、怠惰のベルフェゴール......お前の敵だ」



 ベルフェゴールは、バチバチと電撃のような赤い魔力が迸るバルバトスを差し向ける。


 やがてその魔力が、彼の背に集まり翼を模した。


 細く長い、四枚の羽。鳥類のそれではなく、どちらかと言えば昆虫のような見た目をしている。


 バルバトス第二解放。



「さあ、我らが同胞......魔族達のため、此処で死んでもらうぞ......ノア」



 その瞬間、ノアの視界からベルフェゴールは消えた。


 神速の反射速度を持つノアですら置き去りにした彼は、ノアをあえて狙わなかった。





 ――え?




 予想だにしないスピードに思考すらついていかず、ワンテンポ遅れて死角に気を回す。

 明らかな死を意識し、そちらを見る




 振り向くとそこには、




 ブシュウッ......!!




 ステラがノアを庇い、ベルフェゴールの剣を受け止めていた。大量の紅を撒き散らし。



 ボタボタボタ......。



「あっ......ノア......ごぽっ」



 口から血を流し、それでもまだ立てているのは奇跡だった。その奇跡を起こしたのは、ノアの剣であり届けに来た剣、ユグドラシル。

 そして、もう片方の手に持つは紅きダガー。愛しき人の姉から貰った美しい短剣だった。


 それが無ければ、ノアはステラごと斬り殺されていた。


「な、なん......ステラ、何で......ここに!?」


 彼女を抱きかかえるノア。手には温かな彼女の赤い命の雫。



「えへへ......私、だって、いつまで、も......守られてるばかりでは、ない、のだわ......」



 嘘だ!!!!!



「これ......ノアの、剣、でしょう......?」


 手渡された、翠色の剣。ユグドラシル。


 ノアは言葉を発する事が出来ない。この事態に心と頭がついて行かなかった。



 しかし




 はっ、はっ......駄目だ




 冷静になれ。こんな事......今までだって



 そうだ、任務で行った紛争地域。



 目の前で子供が魔法砲撃で吹き飛ばされ(違う......)襲撃してきた盗賊団に市民が俺たちが居ない隙に皆殺し(そうじゃないよ)それにヘンリーだって


 泣いていた。きっとまだ生きていたかった......それと同じで(駄目だよ)俺は(僕は)彼女の死は仕方の無い事だと(思えないよ......)



 頭の中が白く霞んでいく。受け止められない現実に。




 声がする。誰かの叫び声だけが、僕の耳へと入ってくる。





 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!




 ノアの体から黒い魔力が放出され出した。



 あの海の町のそれを遥かに凌駕する魔力の渦。





「来たか!! そうだ、それがお前だ!! お前は魔族になり俺達の王となるのだ!!! お前にはその力と器がある......!!! こい、ノア! お前の力を俺と戦うことで示せ!!!」



 その漆黒の魔力はノアの体を覆い、やがてかつての狼のような姿に成り果てる。




 ――バチッ




 その時、白雷がノアの体に走った。













 暗い部屋。



 うずくまる子供が一人。





「もう......疲れた。 一番、大切なものすら......守れないなんて」



「ノア?」




 え?


 振り向くと、幼い魔族の女の子が立っていた。





「ノア! 駄目なのだわ。 また沢山人を殺すつもり?」



「......ステラ。 うん、もう良いんだ。 だって、僕は君が居ないと......だから、皆壊して僕も死ぬ」



 死ぬ。それはノアの中で決まった事だった。ステラを想い生きていた。

 それが失われた今、生きている意味などなかった。




 が、ステラは優しく微笑みながら言う。





「ノア、私ね......わかったんだ」



 俯く顔を上げステラを見あげるノア。



「......わかった?」



「ノアが強い理由。 大切な人のためなら強くなれる、それがわかったの」



「だからッ!!!」


 怒鳴るノア。感情の捌け口が見つからずに、殴り付けるようにステラへと言葉をぶつける。



「......強くなったはずだった。 沢山頑張った。 でも、これだ。 僕はベルゴの足下にも及ばない。 僕の強さなんて、ちっぽけで、意味なんてなかった......君を失った。 意味、なかったんだよォッ!!!!」



 涙を溢すノア。


 それを優しく撫でる。




「ノア、私の愛する人」



 ノアの頭を抱き寄せるステラ。




「わかったのだわ。 ノアが望むのなら、ずっと一緒にいましょう。 でも、一つお願いがある......」



「なに?」




「皆を守って。 貴方は、私の勇者が......カッコいい所みせて」




 僕は......






 出来ないよ。






 聞き覚えのある、懐かしい女の声がする。




 今、がんばらないで......いつ頑張るの?




 聞き覚えのある、懐かしい魔族の声が聞こえた。




 お前は強い......扉を開けろ......死にたいんだろ?全てを使って、戦えよ......。






「ああ、わかった......」





 ノアの体から魔力が離れていく。狼の姿は霧散し、ステラを抱いたノアが現れた。

 彼が静かに言う。




「最期に......」




 ベルフェゴールが言葉を口に出せずにいた。それは、ついさっきまで対峙していたノアとはまるで別人であったから。




 これは......ノアなのか?









「ステラ......お前の勇者として、この国を......俺が」




「ベルフェゴール、お前を殺す」












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