~91~ 紅い星に運ばれて ⑦
「ノア......遅かったな? お前のせいで奴が死んだぞ?」
「そうだね。 まあ、殺したのはあんただけど」
「くくっ、言うようになったな。 あのひよっこだったお前が......俺を敵と認識するやいなや、その態度と目付き......良い騎士になった」
「あんたが言ったんだ......強くなれと。 なれなければ、誰も......」
ノアが足に力を入れる。重心を右へ......ベルフェゴールは察知する。
右へ跳び、壁蹴りで左から斬り込む........
「守れないと!!!」
ドガッ!!!
しかし、それはフェイント。壁を蹴りそのまま斬りかかる。が、いともたやすくそれに対応するベルフェゴール。
その剣をバルバトスで叩き落とし、そのまま片足で押さえる。
バルバトスを斜めに斬り上げノアの頭を狙うが、超人的な反射速度ですでに顕現させていた神器・緋の剣、ユルゲニシュで当て流す。
しかし、そこに左脇腹へとベルフェゴールの蹴りが突き刺さった。
ドガシャア!!!
瓦礫の山へと突っ込むノア。
「......ってぇ、やっぱり、ベルフェゴールだね。 他のやつらとは格が違う......強い」
「ははっ、俺は七つの大罪だからな。 では、諦めるか?」
「まさか......だって、それでも俺のほうが強いからね」
多分、やれる。体術も呼吸をあわせればついていける。ただ、能力......どういう能力を持っている?
この数年で色々な能力を見てきて対応し、勝ってきた......だから多分やれるハズだけど。
あの武器、おそらくあれの能力がヤバイ。漂うオーラも普通じゃないし。
「......俺は、そういうセリフを吐いた奴を山ほど見てきた。 が、奴らは全て吐いた後直ぐにこの世から消えた。 お前は、どうかな?」
! 空気が変わった......本気になったか。
......防御、ユグドラシルが無いのがこれ程心細いとは、思わなかったな。
今までに会ったことの無い強者。防御剣が必須の相手なんて......想像もしていなかった。
ミスれば死ぬ。が、それでも、ミスらなければ勝てる。
「ノア、最後に言っておく事は......あるか?」
「......言っておく、事? 何だろう。 ありがとう?」
「くっくくく......本当に面白い奴だな、ははははは!!!!」
「ベルフェゴール......いや、ベルゴは?」
「ありがとう、だ!」
ガキィ――ン!!!!!
ドゥッ――!!!!!
二人の剣が当たり、魔力が風圧となり辺りに飛び散る。瓦礫や壊れた家具などが吹き飛び、つばぜり合いになる。
ガギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!
――ぐっ、お!!!
ギィン!
最初に退いたのは、ノア。力勝負では不利を悟り、飛び退く。それを追って休む暇を与えないベルフェゴール。
バルバトスをノアへと振り抜き破壊破壊破壊。
かわすたびにそこが吹き飛ばされ、城が様相がどんどん変わっていく。
ノアはまた壁を蹴り、ベルフェゴールの剣に深淵刀を当てる。しかし打ち勝てるはずもなく、弾き返される。
その力を活かし、今度は再び天井を蹴り、上から浴びせかける様に剣を振り下ろす。
今度は深淵刀だけでなく緋の剣、ユルゲニシュを交差させる。
流石のベルフェゴールも剣を叩き落とされた。その隙に、顔面を蹴り抜く。
一撃、二撃、三撃を加えた所で、足をとられる。そのまま壁へ叩きつけられるノア。
しかし、くるんと身を翻し掴まれている手を蹴り落とし、脱出。
間合いを取る。
「やれやれ。 ノア、お前、強くはなったが心はまだあの頃のままか......今の攻防、俺を殺そうとしていなかったな。 隙を作り、見ていたが......」
隙......いや、隙なんて見当たらなかったぞ。嘘でしょ?
「ノア、話をしようか。 お前は俺達、魔族が何故人間界を狙うのか知っているか?」
「領地の拡大でしょ......? 他の国々と同様に」
「そうだ。 しかしそれだけでは無い」
それだけでは無い?
「俺達は元々は人間だった」
......人間だった?
「どういう、意味? からかっているの?」
「ははっ、まあ、そうなるよな。 数百年前の話だ......かつてこの世界には人と、この星のエネルギーを扱いし《神人》と言う二つの人種しかいなかった頃」
ベルフェゴールは剣をおろし、語り出す。
「星のエネルギー、すなわち神力を扱う神人は、先導者とされ人々を導いてきた......そして、彼らは悪しき力に覆われた障気地帯、そこから生まれいずる魔獣を滅する事を長きに渡り生業としていたのだ」
「彼らは考えた。 どうすれば魔獣の被害を止めらるのか......」
数千もの白い着物の人間が集まる大聖堂。その内の一人の男が言う。
「駄目、ですね......やはり、魔獣は我々の結界を突破してきます。 もっと頑丈で強力な物を創らねば、被害は増すばかりです!」
「神王、どうすれば良いでしょうか」
神王と呼ばれた男は、その膝下まで伸ばしている白い髭を撫で口を開く。
「ふむ、世界各地、人々の死因はこの魔獣の被害が七割を占めておる。 早急に解決せんとならぬ問題ではあるが、そう言いながらも、もう五十年以上も何も手を打ててはおらん......どうしたものか」
五十年前、それは突然現れた。獣とはまた違う異様なそれは黒く赤いオーラを纏い、人類を襲った。
その獣達を魔力を纏いし獣、魔獣と言い人々を恐怖の底へと陥れた。
魔獣は、瞬く間に多くの命を奪い、人間と神人は住む場所をおわれる。
「これ以上、どこへ逃げれば良いのだ......このまま人類の住む場所は無くなってしまうのか」
悩み果てる神人達。その内の一人が言った。
「そういやあ、神王、魔力を操れる神人......いましたよね? 何故か生まれながらにあいつら魔獣と同じ力を持つ人間が......」
「おったが、それがどうした。 彼らは魔力を使い魔獣を倒してくれる......我々、神人の強き仲間。 お前のあの案は受け入れられぬぞ。 風の噂で聞いた」
神王はまた髭を撫で、静かに言う。
「彼らを魔獣の発生している地域、障気の濃い魔界へと調査に向かわせ原因を探らせる......そうして、魔獣の発生原因を突き止め対処する」
「......しってんなら話は早い。 それが一番現実的じゃないです?」
「魔界は恐ろしく魔力の濃い場所。 魔力に強い神力のあるわしらが数時間もおられぬ危険地帯じゃぞ......そんなところに彼らを向かわせるなど! いくら魔力に馴染みのある彼らでも体に起きる影響は計りしれん! その案は却下じゃ!」
「そう、ですよね」
まあ、わかってたから......いいけどな。ははっ。
その数年後、一部の神人と人間、魔力の扱える戦士達により世界的規模のあらたな組織が誕生する。
いつまでも先の見えない魔獣被害に、魔界を調査し対処すると言う一手に賛同する者が多くなり、それは多数派となっていた。
それに非協力的な者は、迫害され殺されたりもした。もはや強制的な物にまでなり、そして世界が分断される。
ノア達の時代から約百年前。
魔界へと魔力を扱えるもの達が多く入り、必ず原因を発見し魔獣の発生を止めると、誓い出発した。
そして彼らは魔獣の発生の秘密を知り、その情報を持ち帰った時それは起こった。
結界が張られていたのだ。
その結界は魔力を使い、しかも魔界へと入った人間達の力を吸収し発現していた。
彼らは騙されていたのだ。
入るときに契約の手形をとられたのだが、それはこの結界の発動条件が記載された魔紋。
「内から張る結界ってのは強力なんだよな。 あるかも知らん魔獣の対処方なんてのに期待するのもあれだしよ......やっぱり魔界には蓋しておこう。 あの人間たちは、魔力を魔界の障気から吸収する......そこから結界に魔力が流れ、半永久的に結界が張られる。 弱まってきたらまた人間投入だ」
素晴らしい策だろ?これで平和になった!
私は、世界の英雄だな。ははははっ!
「......嘘、だろ」
「結界って、どういう事だよ!? 俺達は......せっかく」
「おおおーい!! 開けてくれ!! 調査から帰ったぞ!!!」
結界の向こうには人はなく、彼らは薄々と......しかし理解したくない、し難い事実に行き着いていた。
そして、そこからまた数十年の時が経つ。
結界ごと魔界へと隔離された彼らの体は、その魔力許容量をこえ、やがて魔樹へと変化する。
人の体で無くなり始める自分たちに、その苦痛に絶望し自害する者も少なくなかった。
生き残りは魔獣との戦いに明け暮れ、そしてついに長い年月を経て、魔界の障気へ完全に適応する者が現れる。
それが後の魔族であった。
彼らは魔界に国や町をつくり、自分達を追いやった人間、神人への復讐を誓い、正常なる土地の奪還を目指した。
その最も古く、最初の魔族の一人が、後のベルフェゴールだった。




