~90~ 紅い星に運ばれて ⑥
......追ってこない?
ユリウスとミミ、そして式神であるウルファとモンキャが中庭へと逃げのび、ミミの手当てをしている。
「諦めたのかな?」「キキッ、犬よぉ、お前あれが簡単に諦める感じに見えたのかよ? てか臭い嗅いだら?」
「!! まさか、君に言われるとは。 やっぱりバカってこういう状況に強いんだね。 ありがとう」
「ああん!? てめえ」
「やめーーい!!!(>_<)」
ユリウスが二人の喧嘩に割って入る。同時に顕現させるとこうなるから面倒なのだ。
本当に、こいつら三匹引き連れて鬼狩りしてたとかやべーな。すぐ喧嘩するんだもんな。
お姉さんストレスで酒乱になりそう......まあ、呑んでて寝てたんすけどね!(*´σー`)エヘヘ
「......どう、ウルファ?」
「え? あ、ああ。 なんかあれだね。 何と言っていいやら......シンララさん倒されたっぽい」
「「はあ!!!????」」
た、倒された!?嘘だろ!?あんな化物どうやって倒すんだよ......一体だれが?
「だ、誰が倒したんだ? 王が来たのか......つーか、あんなの王くらいしか倒せなくないか?」
「王じゃないよ。 多分これはねえ、王徒十二騎士の人だね。 No.12の人だね。 知らない臭いで、12は入れ替わったって聞いてるし」
「まじかよ、どんだけだよ。 鬼強じゃあねーかよ。 キキッ」
「とんでもねーやつも居たもんだな......とにかくあれが殺られたなら俺らがやることは一つだな。 このミミを何とかする」
「回復術師か回復魔術師のどちらかだね。 これまた奇跡がおこらなきゃ無理だね......探そう。 この城には居なさそうだから、とにかく城を出ないと」
「......あの」
「!?」
木々の影から現れた一人の男。その様相は医者のようだった。
「回復魔術師を探しているのかい? 僕は魔法医師なんだ。 良ければその人をみせて欲しい......」
「え、いや......ウルファ、人いるやんけ。 何で教えなかったの?」
「いや、僕の鼻にも引っ掛からなかったよ。 この人......多分、あの杖」
彼の持つ杖には蛇が巻き付いていた。
「そうか、だから! つーことは、お前がアスクレピオスの! 医療協会を脱走してこんなとこに何でいんだよ?」
アスクレピオスの座についたものは、特殊能力《星ノ影》により、周囲全てに及ぶ認識阻害の魔法を使うことができる。
ただし、その反面攻撃魔法などのダメージや害を与える魔法や行動は一切とれなくなる。
「僕は知人に呼ばれてね。 まさかこんな争乱の最中になるだなんて......ちなみにこの城からは出られないよ。 城に入ってただならぬ雰囲気に、ヤバイと思ってすぐ出ようとしたけれど、扉の外は闇が広がっていてどこにも行けなかった」
「出られねえの!? って、まあいいや、これは不幸中の幸い! 頼む、こいつ診てやってくれ!」
「わかった、ありがとう」
ミミ、死ぬなよ......あいつが残したもの。ちゃんと受けとれ。
僕は、アスクレピオス。生きていれば、必ず連れ戻す。
その両手が青白く光る。
杖から光る蛇が体に巻き付き、先代の魂がその体に宿る。
「さあ、帰ってこい」
◆◇◆◇◆◇
「......くっ、ぐぅう......はっ」
「ヘンリー、苦しいか? ......いや、苦しいに決まっている。 体が人ではない別の生物と変わっているのだ。 苦痛が無いわけがない」
ドガシャッ
ヘンリーは体にかかる負荷により、その場へと倒れこむ。
ま、まさか、これ程の負荷が......くそっ、俺の能力が剥がれ初めていやがる。
このままじゃ、もう俺は......完全に「魔樹」になっちまう......み、皆は、仲間はまだか!?
......
いや、薄々わかっていたさ。あいつらがこれ程待っても来ないのは......そう、裏切る奴なんて一人もいねえ。
殺されたか、他の戦いに巻き込まれているか。
ゲームオーバーって、やつか。
だが。
「くっ! ぐおおおおおあ!!!!」
「もう、やめろ......お前の戦いは終わったのだ」
樹木と化したその右手で、魔力を流し込んだ槍を振り抜く。その威力に辺りにあるものは全て粉々になる。ただ一つを除いては。
ギィイイイイン!!!
いともたやすく受けきられる槍。完全に見切られている。それはそうだろう、戦い始めた時よりもヘンリーの体は魔族化が進み、魔樹となり動きが固くなってきている。
た、頼むよ、俺の体......まだ、まだなんだ!
まだ守らないといけないものが......
「ああああああ!!!!」
槍を辺りに振り回す。壁を、天井を抉り破壊するが、ベルフェゴールにはかすり傷すら与えることは出来ない。
「見るに耐えんな」
ギキキキキキキッ!
悪魔の声が響く。
ボンッ!!
ヘンリーの槍を持つ腕が吹き飛ばされた。
「もう、休め」
ベルフェゴールはその大剣、バルバトスを横薙ぎに振り抜く。狙いはヘンリーの首。
全てに苦しみ足掻くヘンリーに眠りをもたらす。
それが、十二騎士隊長としての、ヘンリーの戦友としての最後の......
ダメ!!!
剣が振られた瞬間、ヘンリーとベルフェゴールの間へとエルナが割って入る。
エルナの首がヘンリーのかわりに宙へと舞った
と、思われたがその剣は紙一重でピタリと止まっていた。
足下にベルフェゴールが視線を落とす。そこには、エルナの持っていた斧が付いた壊れた槍。それを伝いヘンリーの体から這わせた樹木が、ベルフェゴールの体へと到達していた。
「あ、あぶね......しんでも死にきれねーよ......」
ヘンリーの能力でベルフェゴールの動きが止まっていた。が、それも数秒。
「......見事だ。 が、これで終わりだ」
ヘンリーの能力が切れ、再びベルフェゴールがそのバルバトスを振り上げる。
エルナとヘンリー、二人を纏めて消し去るつもりだ。それはベルフェゴールなりの優しさだろうか。
ヘンリーが言葉をもらす。
「ま......」
「間に合っ......たな」
ドガシャア――ンン!!!!
壁をぶち抜き現れたそれは、漆黒の剣をバルバトスへと当てベルフェゴールの胸を蹴り飛ばした。
「ごめん、遅くなった」
「ははっ......いんや。 ばっちぐーだぜ......」
ヘンリーの体を見て顔を歪めるノア。
「す、すまねえ、おじさんもう......だから、あと......頼むわ」
ノアは精一杯の、悲しみや辛さを押し込めた、精一杯の笑みをヘンリーへと向けた。
「......わかった。 あとは任せて」
一歩、前へ進む。
ヘンリーの想いを心へ乗せて。
「ヘンリー! ヘンリー! 嫌だ! 何で......私が、私が。 ごめん、ごめんなさい」
おいおい......んな、泣くなよ。
「エルナ......大丈夫だ。 お前のこと、だれもせめねえよ......多分、みんな同じだ......」
「ありがとな......お前の笑顔好き......なんだ......見送っ......」
エルナは、ヘンリーの想いを受ける。ヘンリーが笑い、エルナを見つめ、エルナはそれに答えるように笑顔を、涙にまみれた笑顔を浮かべた。
ああ、ありがとよ......
終わった。多分、あとは大丈夫だ。
ノアならやれる。あいつは恐ろしく強く、優しい......ベルフェゴールもきっと。
目がだんだん見えなくなってきた......
エルナ
その時、エルナがぼやける
あ......お前
エルナの姿は、かつて愛した娘の姿となっていた。その後ろには、同じく愛してやまなかった妻もいる。
ははっ......おれは、おまえらを......すまねえ。ずっと言いたかったんだよ、すまねえ、救えなくて......
――お父さん。 そんな事、ないよ――
......え
――頑張ったね、お父さん――
ああ、頑張ったぜ。
そうしてヘンリーは笑顔を浮かべ、エルナの腕の中で眠り逝った。




