~87~ 紅い星に運ばれて ③
ティアラの背後には、巨大な骸骨の化物がいる。それは花嫁のベールを被された白骨で織り成された幽霊のように見えた。
頭が三つあり、それぞれの目には碧炎が灯る。
《死神魂》
この能力は、神力の高い者を契約により死を持ってして、己の魂に死者の魂を縛り付けると言うもの。
ティアラの血族はその血による呪いで、代々この能力を引き継いできた。
彼女がそれを継ぐまでに蓄積された魂は実に、一千人。
そして、この力はその魂の内、三つまで固定することができ、固定された魂からは生前の能力を引き出せる。
母→《聖喰者》身体強化型の神器。神力により強化された顎で相手を食らう。食した相手の魔力の流れを視ることができ、それにより動きや心理状態を分析する事が可能になる。
姉→《血生舞》ベールの神器。神力により視認できない、強力な防御性能を誇るベールを纏う。破壊されると、ベールは無くなるが一度だけ死を超越する事ができる。
ヒィムナ(ティアラの親友)→《深層心与》本の神器。本を開くと微量の神力が花粉のように宙に漂い、それを吸い込んだ相手へ想いを伝える事が出来る。
本来、神器には特殊な能力はないが、ティアラ一族の蓄えた神力の濃密さと大きさがそれを発現させた。
......そろそろ、殺すか。もう遊べなさそうだし、片付けも大変だものね。
ノアは無事かしら。私はここからは出られないのだけれど、そろそろ使いを向かわせようかしら。
ティアラがノアの事で考え更けていると、カミナラの使役する魔神、コウキが動き出す。大きな羽をはためかせ、突風をおこす。
それにより、ティアラは視界を遮られる。
「!! ......悪あがき?」
再びカミナラへと視線を向けると、信じられない光景を目の当たりにした。
なんと......カミナラがコウキを喰らっていたのだ。
グシュッ!ぐちゃぐちゃ......ハグッ、ブシュッ。
これは、お母様と同じ......いや、違う。このコウモリの魔神が、住民を食べることで蓄えた魔力を吸収しているのか。
......しかもそれだけじゃない。
手足が再生している.....!これが彼の能力?
カミナラの能力は《支配者》。人や獣、魔獣、魔神を三体使役し、自由に操ることができる。
そして、その使役した者に貸した魔力は、還元させる事ができる。
その還元量は、貸付た日から一日単位で増え続け、貸付量×日数になる。
カミナラはコウキを使役してから、約二十年の時を経ていた。
ティアラが口をぽっかりと開け驚く。
「......す、すごいわ。 その魔力量......ふふ、まだ楽しませてくれるの? あなた、良いわ。 素敵な人」
「さっきからいってるじゃねえかよ......」
カミナラは一呼吸のを置き、フッと消えるようにして素早くティアラの懐へと入る。
ドガシャアッ!!!
ティアラの後ろにいた彼女の母親らしき頭蓋骨が、カミナラへと噛みつく。
しかし、高密度の魔力体になった彼の体毛は恐ろしく硬く、文字通り歯が立たない。
――!!
ブンッ――ズギャッ
熊のような豪腕に、再生時に長く変化していたのもあり、ティアラはかわしたつもりでも爪先が目にかかった。
目玉が潰れ、顔面の肌が剥きとられる......ブシュウウウ。
「あぐっ、あ......いひっ」
顔を手で覆うようにし、体を曲げる。その指の隙間からはまるまると見開いた目玉。そして、潰された方の目は空洞になっていて、赤々と血が滴り落ちていた。
「いったいじゃなああああい? ふひひっ、いひ」
その時、カミナラは気がついた。後ろの化物が消えている事に。
自分の背後におぞましい気配......頭へとかぶりつかせる。防御の薄い首を狙うため、ティアラはカミナラの後ろへと移動させていた。
しかし、それに遅れをとるカミナラではなかった。数秒差でティアラの頭上から、多量の紫色の汚泥とも言えるどろどろの液体が煙を出し、落ちてきた。
ティアラは避けられずにそれをまともに浴びてしまい、肉体が一瞬にして、とけだしぐずぐずの体になってしまう。
「ぶびっ、ぎががが、び、びどいごど、ずるのね......あづいあづいあづい!!!!」
ティアラは膝をつき、あたまを抱えてもだえる。悪臭を放ちながらその身を焼き、蒸発させていく。
その消化液を吐き出した蛇は、山のように大きく頭が複数ある。
「押し潰せ!!」
ドシャッ!!!!!
まるで、蟻でも踏み潰すかのように意図も簡単に、ティアラはその蛇、魔神、ジャキの体に押し潰されてしまった。
ジャキがそのばを退くと、もはや人ですらない何かと成ってしまったティアラがあった。
「死んだ......よな。 流石に」
――そうね。これでは生きてられないわ。ああ、私の体......どうしてくれるの?――
「......お前、マジで化物じゃねえかよ」
そのぐちゃぐちゃのどろどろになった物体が光を放ち、一瞬で人の体を形成する。
衣服は元には戻らないが、それ以外、ティアラの体は完璧に完全と再現された。
「びっくりしたわ。 まさか、後ろから蛇さんがくるだなんて......これは、楽しい。 私ね、この教会から出ることが出来ないの。 私だけじゃないわ。 お母様もお姉様も皆、この教会の中で生きて、そして死んだ......」
「だから、ありがとう。 これ程楽しいことは、久しぶりの事だわ......ふふっ」
無邪気に子供のような笑顔に、カミナラの表情は対象的に険しくなる。
いよいよ勝機が見えなくなってきたのだ。
彼女を殺す術が、みつからない。
どうすれば......あと一匹、最後の魔神をここに呼べば勝てるのか?
いいや、答えはノーだ。こいつのこの再生する能力をどうにかしないと、消耗戦の後俺がくたばる。
そして、その能力を解明し攻略方を見つけることが出来るのか?
それもノーだ。
こいつは、この教会から出られないと言った。ならば、このまま放置、監視が最善か......もしくは、結界、マニアラの能力で永久封印するか。
いずれにしろここにはもう用はねえ......他の仕事をするか。逃げよう。
しかし、ティアラはそれが全て視えていた。
ティアラの母の能力《聖喰者》。相手の肉体を食べることでその魔力の流れを見、相手の心理状態と次の動きを、先を視ることができる。
ああ
逃がさないわよ?
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
カミナラの足元から無数の人の白骨化した手が現れる。そしてそれは彼の体を絡めとるように掴みかかる。
「!!! くそっ」
――ねえ――
――もっと、遊んでよ――
気がつけば、ジャキの首が全て失くなっていた。




