~85~ 紅い星に運ばれて ①
ナツメが妖霧で自分の分身を四人つくり、その中の一人が前に出る。
「さあーて、あと二人か......」
魔族二人が後ろのナツメ三人を注視する。おそらくこの前へと出たナツメは霧の分身......。
肩に角のある魔族は、ゆっくりと歩いてくるそのナツメを走り避け、後ろの三人へと攻撃を加える。
「おらあああああ!!!! 死ねよ! 死んであの世で兄さんに詫びろよおおおお!!!」
ナツメの分身はそれぞれ魔族の攻撃を回避した。しかし、その内一人へ狙いを定め、すぐさま一体をかき消した......こいつは、霧だったか!あと二人!と、その足で逃げた二人を追っていく。
コウモリ羽の魔族はその場から動こうとはせず、その戦いをじっと見ていた。
カインはそれを見ている。あの魔族が動いた時、ナツメは窮地に立たされる。
しかし、この時、予想外の展開がこの場を襲う。
「お、なんだ魔族か......んで、そっちは騎士兵か」
その声に裏切り者の騎士隊長が反応する。
「む、あ! お前たちは......! その様相、シンララ様の言っていたスラムの兵隊!?」
「ん? お前もシンララ様の配下か? ならば話しは早いな。 援護してやるよ......いくぜ、シン?」
百人近くいると思われるスラムの住民の中から、シンと呼ばれる男が出てきた。
その両手には剣を持ち、右には青い剣、左には赤い剣を握りしめていた。
衣服は血にまみれ目が虚ろで、ゆらゆらと揺れていた。
「......ああ、わかってるよ。 おっちゃん」
カインは直感的に理解する。あいつはヤバい。
と、言うか、この状況がヤバすぎる。魔族二人とスラムの兵隊百人......いくらナツメが強くても、この圧倒的に不利な状況では勝ち目が無い。
だが、もしかしたら......
そう言ったカインは手に印された光る数字を確認する。三十......今、二十九になった。
魔族の扱う魔法は、魔力を属性変換させ炎や氷と言った魔法を放つ事ができる。だが、それは単純にそれにより破壊力のある炎や氷を飛ばすだけだ。
だから、この手にある印は魔力はあれど魔族の魔法ではない。おそらく魔眼の力......そして能力は、爆発か。
何故かわからないけれど、構築式が見える。これは数字が減っていくにつれ、属性変換されていっているのがわかる。
そして、これを解く術がないことも......最初から人間爆弾として処理するつもりだったんだろう。
まあ、いい。いまとなっては......大丈夫だ。私はこの国を守る。
そのためには、この爆発を利用し、ナツメの霧を見破っているあのコウモリ羽の魔族を殺し、そしてスラムの兵隊をも巻き込み吹き飛ばす。
この数字の爆発はおそらく相当な威力だろう。これはオートでしかも爆発まで時間もかかるが、それが制約となり威力がとてつもないものになる仕組みのようだ。
さて......これはまあ、そもそも、うちの隊の上司である隊長のやらかしですからね。
うん、部下である私がキレイさっぱり片付けますか。まあ、犯した罪まではキレイさっぱりとはいかないですが......。
ヒュオッ――ガキィン!!!!
シンがカインへと斬りかかり、それを手持ちの槍で防ぐ。
けれど、爆発まで時間を稼がねば無駄死にです。あと十分程度か......長いな。
その時、嫌な気配を感じとり、カインが後方へと飛び退いた。すると立っていた場所、その足元には水溜まりが出来ていた。
「ちっ、あともう少しだったのに!」
スラムの一人、おっちゃんと呼ばれていた男がその額をペシンッと平手で叩く。
カインはその水溜まりに魔力と冷気が混じっている事に気がつく。あれは、氷......触れれば凍らされるのか。
他にも居るのか?能力持ちの兵隊が。
考えてる間も無く、距離を詰めてきたシンが目にも止まらぬ速度の剣撃を放つ。
シンは前世で幾戦もの死闘を潜り抜けてきた。その戦闘経験により近接戦闘では無類の強さを誇る。
が、そのシンですら、カインを仕留めることが難しかった。まるで動きを読まれているかのように、次々と対応される攻撃。
シンは戦闘開始、その初撃に感じてた。攻撃の受け方が上手すぎる......完全に威力を殺されていた。
こいつは、俺の動きの先が見えている......厄介だな。
......二等兵か、こんな戦争に巻き込まれて。いや、兵隊が戦争に巻き込まれるのなんて当たり前か。
悲しいのは裏切りと内乱。
こいつはこのままここで死に行く......この戦力差だ。もう、無理だ......けど、何故だ。
こいつには何かを感じる。
「......お前、名前は?」
「! ......私は、カイン二等兵だ」
「カイン......わかっているのか? この戦いに国王側が勝てる道筋は無い......無いんだよ。 魔族につかなければ死ぬだけだ。 今からでも遅くはない、こちらへこい」
「はあ? おい、シン! そいつを仲間にするのか! 信用できねえぞ! 俺らと違っていつ裏切るかもわからんそんな兵隊なんてよ」
カインはすぐに理解する。シンは仲間の為に魔族へとついている事、そして敵である自分を気遣う心の優しい男であることも。
シンの重心と体の力の入り具合。眼差し。その全てからカインは情報を得ていた。
この人は本当なら、魔族ではなく人側の......そうか。
けれど、意志の強いその眼差しからもわかる。この人はもう止まれない......それこそ、死によってこの世から消えるまでは。
あと、二分......頃合いか。
カインはコウモリ羽の魔族へと走り出した。そしてその肩目掛け、槍を投げ飛ばす。
ズギャッ!!!
「ぬぐ!!!?」
羽の生え際には鎧は無く、間接部分は肉体的に弱い。そこを狙い槍を当てた。
そして、刺さる槍を思い切り蹴り抜く。更に深く刺さるそれに、呻き声をあげた魔族は、反撃に出る。
しかしその動きを読んでいたカインは紙一重でかわし、スラムの兵隊達に紛れ込む。
それを捜すコウモリ羽の魔族とシン。
「ぐっ......どこだ! あいつは!」
「――はっ! マカナ兄さん、爆弾がもうすぐ爆発......」
その時、槍が体から抜かれた。抜いた男はカインだった。数字のある手を魔族へと向け、カインは言った。
「じゃあ、またあの世で」
ドゴォオオオオオオオオオオオオン!!!!!
近場の建物を全て吹き飛ばす程の破壊力。カインの周囲に居たスラムの人々は全滅し、コウモリ羽の魔族もその爆発を至近距離で受け、吹き飛んだ。
そして
「......ごはっ、ぐあ......」
「な、お前......」
ナツメが驚き眼を見開く。
カインが爆風により飛んできて、槍を肩角の魔族の腹へと突き刺していたのだ。
これ、で、私達の......部隊の魔族は、殺せた......私は、少しでも国を守れたはず。
カインはとてつもない爆発により下半身が無く、体が殆んど黒く焼け焦げていた。
あの爆発の瞬間、カインは数字のある手を切り落とし、コウモリ羽の魔族の後ろへと投げた。
それにより、魔力のある魔族を挟んだ事により、自身の体を保つ事が出来た。
そして、吹き飛ぶ方向を計算し、肩角の魔族へと槍を突き刺すことに成功した。
「......あんた、強いね」
ナツメの顔に笑みはなかったが、称賛の言葉を死の間際に聞いたカインの顔には笑みが浮かんだ。
「いいよ、私が、あんたの分まで......魔族をころしてやる。 そこで寝てて」
そう言うとナツメは走って行った。
怖いとか
なにも......もう、かんが 意識が
られ
あ
おかあ
さ
ごめ......
私、は
い......や
おれは
おか さん
に
なにも できな......
夜空が赤い。星が、流れている。
血にまみれた眼で見える景色。
紅い星......。
ああ
「......綺麗、だ」
「お前、凄いな。 これ、全部計算してやったのか......一人で」
ここでこの男を死なすには惜しい。そう男は思った。こいつなら、この絶望を乗り越えたこの男なら......この世界を変える事が出来るのでは無いかと。
俺にはもう、護るものは何も無くなってしまった......
スラムの皆も、愛しき妻も、かつての友も......
けれど、理解した。おれの力は、今日、この為にあったんだ。
俺の体と魂と記憶を使う。俺の意識は消え、存在は無くなるが、この培われた戦力は残るだろう。
お前に俺の命と体を渡す......転生。
《不死鳥の加護》
カインの体が紅い炎で燃え上がった。




