~84~ 王都攻略戦 ⑳
「――あ、あの、私はなにをしたら!?」
その呼び掛けにナツメが声を荒げた。
「邪魔だから、来るな! そこにいろ!!」
ナツメに捕まえられた兵士は、カイン二等兵だった。
彼は住民を殺せもせず、町を逃げ回りこの手にある謎の数字(おそらく敵の能力だろう)をどうにか出来ないかと考えていた。
その時、同じ隊の仲間が母子の二人を殺そうとしているのを見かけた。
カイン二等兵は、まだ弱く実戦経験も少なく、心も弱くどうすることも出来ないとおもったが、見過ごせば後悔する事それだけは確かだと理解していた。
なのでカイン二等兵は思い切り体当たりをした。
吹き飛ばされる仲間だった兵士。奇襲が成功し、その母子に逃げろと促す。が、その兵士の仲間は他にもいた。
母は駆けつけた兵士に槍で突かれ即死。次に子供をその槍で貫こうとしたが、反射的に動いたカインによりそれは阻止された。
「おい、お前......状況わかってんのか」
「わかっ......てる」
「なぜ邪魔をする? お前は死にたいのか? ならば勝手に一人で死んでくれ! 俺らを巻き込むな」
巻き込むな?巻き込まれてるのは、この親子だろ?
なんでこんなにも非道になれるんだ......確かに死は怖い。けれど、それは兵士になった時に覚悟したはずだ。
国を、住民を守るための兵士が、人々を殺す......もはやこの戦いに正義や信念は無い。
「お前らは、人じゃない......! こんなことが許されるはずがない」
「確かにな......こんなことが許されるはずはない。 だが、同じ命だ! 俺らにも守る家族がいて、それは何よりも大切だ! こんなところで死ねないんだ! 死んでたまるか!!」
ピュ――ッ
ズルっと、兵士の首が斬られ、ずり落ちた。
「いやいや、勝手な事を言ってんじゃないよ......そんなのその母子に関係ないし、死ぬ理由にもならない。 まあ、あんたの死ぬ理由にはなったけどね」
見るとそこには、長い黒髪の美しい女が立っていた。手には血の滴る刀が握られていて、妖しく輝いていた。
「......な、なん......一太刀で、殺し......?」
「あんた達、何してるの? なんで国王騎士軍が住民殺して回ってるのさ......」
「そ、それは、我々の隊長が魔族と繋がっていたから......その命により、人を殺している者がいて」
「はあ? 逃げれば良いじゃん」
「こ、この手の数字を見て欲しいのです! これは少しずつ減ってきていて、おそらく魔族の能力でしょう......これがゼロになったとき、死に近しいなにかがおこるのかと。 それを解いて貰うために住民の首を皆求めてるのです......」
「なるほどね......そういうやり口は好かないな。 ......て言うか、お前は何でその子供を殺さないで逆に助けてたの?」
「私は、国民を守る国王騎士軍......住民を殺す事は出来ない。 国を守る騎士軍でありながら、国そのものである国民を殺して回るなんて......」
「自分が、死んでしまうかも知れないのに?」
「けれど、私は嫌なんです。 その先には破滅しかない」
破滅か......確かに、何とかしないとこれは国が滅ぶな。勝っても負けても。
国王騎士軍の信用は地に落ちるだろうから。
仕方ない......まあ、強そうだし。
「そいつらのいる場所、案内してよ。 私が殺してあげる」
「は、は? 無理ですよ! 化物みたいな魔族が四人もいるんです! 武装して! 殺されますよ、絶対!」
「大丈夫、殺せる」
鋭い目付きと、その体から妖艶に舞う魔力。美しいその容姿に見いられる。
「私、キラージャックって言うんだ」
――え?
そして、現在に至る。人には到底勝てないだろうと思わされた、あの武装した魔族四人の内二人を彼女は瞬殺した。
彼らの目の前にただ一人、歩いていき、彼女、ナツメの首が一刀両断された。ように見えたが、いつの間にか彼らの一人の死角へと回り込み逆に首を両断した。
首がはねられた彼女は、霧のように消えて無くなっていた。
そこからもう一人を殺すまでに実に数十秒。その死体となった魔族の頭を投げつけ、その隙にいつの間にかあらわれた霧の中へと消えた......と見せかけ本体は既に死角に潜んでいて、また一人消した。
霧により本体を作りすりかわる。本体がまだそこにいると騙され、そこに隙が生じる。
彼女は全て計算して敵を殺しているのだ。
「......くっ、私だって、この国の......騎士兵だぞ。 なにも出来ないなんて」
悔しさと、その状況とは裏腹にカインの頭は冷静だった。
魔族とナツメのハイレベルな戦闘を観察し、それを分析する。彼は国王騎士軍へと入り、戦闘経験が少ない事や周囲にレベルの高い戦闘を行う者がいない事で、その才能......能力を腐らせていた。
他の兵士や王都十二騎士等、王やベルフェゴール、ノア......様々な強者の中において、凌駕し勝るモノをただ一つ、カインは持っていた。
《天啓・真眼》
卓越した観察眼により、敵の動きのクセやパターンを瞬時に理解し、能力の仕組みや弱点を理解する分析力。それにより学習能力が飛躍的向上、戦闘能力が大幅に高まる。
......ナツメはあの魔族の中で、能力を持たない奴を優先的に処理をした。
それは魔力の流れで読めるんだ。能力持ちの魔力の揺らぎは、対峙した瞬間にいつでも発動出来るように、動きが高ぶる。
対して能力を持たないものは全身から強く魔力を発している......これは全身を魔力で強化して戦うしかないから。
だが、ナツメの動きにはクセがある。それはあえて見せているクセなのか、それとも......
ふっ......はは
凄い......凄い!ナツメもあの魔族も、恐ろしく強い!
もっと、もっと見ていたい!この高レベルな押収を、戦闘の技術を!騙しあいとその能力......もう少しで、私は!
ギャキッン――!!!
ブンッ
ゴッ――!!!
「ふっ、おっと......! ははっ、いいね! そこに転がってる二人とは大違い! 強いねあんたら二人は」
肩から大きな角を生やした魔族は、その表情に怒りを浮かべながら、叫ぶ。
「てめえええええ!!! よくもガルド兄さんとベリナ兄さんを!!!! 絶対に許さねえぞおおお!!!」
もう一人の背にコウモリのような羽を生やしている魔族は、静かな声でナツメへと怒りを吐き出す。
「貴様、このような非道......楽には殺さない......後悔しながら死ね」
カインはこの時点で、先の展開を読んでいた。
これは、実力的にはナツメが圧倒的に上......だけど、おそらく私の考えが正しければ、ナツメはあと五分もしない内に窮地に立たされるだろう。
ならば......。




