~77~ 王都攻略戦 ⑬
王城の周囲を結界が覆う数分前、俺達はギリギリ侵入に成功した。
レジスタンス十五名。
「ヘンリー......」
俺の名を呼ぶ獣耳の娘、エルナ。その視線に言いたいことが見えた。
ああ、今この城の中には、おそらく王は居ない。
「じゃあこの結界は......なんのために」
後ろにいた俺の部下ナルミが、おそらく......と言い話し始める。
「以前、ベルフェゴールら魔族がこの国へ攻めこんできたとき、彼は何故か国側へ立ち戦った。 それ故にまた勝手に動かないよう彼対策の結界ではないかと思う」
「......それ、今日のこの内乱の仕込みだったんじゃないの」
エルナの言葉にナルミが頭を横にふる。
「あの戦いを私は間近で見ていた。 だからわかる。 ベルフェゴールは人間を本気で守っていたよ。 それに彼には人間を守る理由があったから......」
理由、俺も聞いたことがある。
「大切な、人間の恋人か......」
「そうだ。 彼がある人の娘に好意があったのは誰もが見てわかった。 まあ、当時はそれすら何かしらの策かと思われていたが......あの魔族との戦いで人を守ろうとする姿にそれが策でないことがわかったよ」
エルナが、ふんと鼻を鳴らした。
「そんなことは今どうでも良い。 ターゲット変更、ベルフェゴールだよね?」
ヒュンと斧の装備された槍を振るエルナ。
「......ああ、だが、俺らだけでベルフェゴールを殺せはしない。 とりあえず俺が十二騎士を見つけ何人か仲間に引き入れる。 本当なら一番戦闘力があるノアあたりが良かったが、連中の策略で国外へと出されているからな......お前らは城の外で見つからないように隠れていてくれ」
了解!とレジスタンスのメンバーそれぞれ声をあげる。
さて、城には基本十二騎士が一人か二人居るはず......誰が一番やりやすいかな。一番良いのはガルデア......最悪はフローラだな。あいつは多分、魔族側だ。
ヘンリーが城の中へと入る。すると気がつく......あれ?人がいねえ?
明かりも消えていた。外からは中明るく見えたが......?なんだこれは?
とりあえず誰か居ないか捜すか。
城内を捜し回るが一向に誰も見つからない。ふいに窓の外へと目を向けた時、この異常な城の理由がわかる。
「......この王城、異界に隔離されてるのか」
窓の外は果てしない闇が広がっていた。そうか、そりゃそうだよ。外から王の気配を感じねえわけだ。
これは本当にベルフェゴールを外に出させないって説あるかもな。外からの侵入が出来るのは、誰が入ってきてもベルフェゴールがいるから問題ないって事か。
もしだとしたらベルフェゴール隊長まじで信用ねえな。......いや、やったことがやったことだから当然っちゃあ当然かな。
ドオォオオオオオン!!
突然、城が揺れた。――上から?この魔力の揺らぎ......まさか。
ヘンリーは嫌な予感を共に王の間へと駆け出した。
◆◇◆◇◆◇
くくっ......この二重結界、城の外の物はマニアラか。この城自体にかけられているのは、マーリンか?
今更、俺がどう動こうとも何も起こらんさ。あの戦いでもそうだ......俺の力では何も変えられなかった。
ならばこの身をその宿命に委ね新たな時代への礎とするのみ。
ガコンッ
「......誰だ、お前は?」
王の間へと現れた、獣耳の女。頭髪が薄く青みがかった美しく艶のある白。
「僕はレジスタンスのエルナ。 あんたがベルフェゴール?」
「そうだ。 ......私を狩りに来たか?」
「ああ、僕は、お前は許さない......ここで殺す」
許さないと言ったときのその瞳。あいつにそっくりだ。ああ、会いたいな......この命、ここで消すのは忍びない。
しかし、私の望みには邪魔でしかない。
この先の、未来に待つ我々の幸福には要らぬものだ。
仕方ない......これは必要な犠牲だ。
殺そう。
エルナが槍を構える。斧のついた部分を下に垂らし、腰を低く構える。
――ガンディー、ハイム......僕に力を――
エルナが飛び掛かろうとその脚に力を込めた時、「遅い」と言う言葉が耳に届いたと同時に槍が掴まれていた。
なっ!!?
即座にエルナは槍の能力、結界を発動させベルフェゴールを槍から引き剥がそうとした、が、何食わぬ顔で槍を掴み続けている。
「なんとも......貧弱な結界だ。 この槍はお前の物では無いな? 適応していない」
ベキイッ!と槍が砕かれた。しかし、この時、エルナは怒りで槍が破壊されたことなど気にも止めていなかった。
「この槍は......お前の部下に殺された奴の槍だよ!!!」
瞬時に腰から抜いた、ツインダガーで斬りかかる。
顔を狙って振り抜いたそれをベルフェゴールは避けたが、エルナの言葉に一瞬動きが鈍る。
そこに蹴りが飛んでくる。片腕でガードしたが数メートル後方へと飛ばされた。獣人の脚力は凄まじく、ベルフェゴールの重い体を退かせた。
そうか、この娘も俺が蒔いた......争いの種。ならばこれを刈るのも俺の役目か。
恨みや怨念は奥底に押し込める事は出来るが、決して消えることはない。
ベルフェゴールは置いてあった大剣を手に取る。そして封印布を引き剥がす。
現れたのは異様な雰囲気を纏う、魔剣。バルバトス。
エルナはそれを見た瞬間、背筋に悪寒が走った。あれは......なんて血の臭いだ。
死がまとわりついているかのような......魂の塊にも似ている。
「行くぞ」
「はっ......」
ドオォオオオオオン!!!
王の間の壁が吹き飛び、隣に位置する寝室が丸見えになる。
ベッドや家具やらも破壊され、撒き散らされた。
エルナはベルフェゴールの動きが目追えなかった。とてつもない速さ。
今まで戦った敵達が赤子にも思えるような実力差。
エルナは先ほど聞いた、ベルフェゴールが人の味方をしたと言う話に確信を得た。
何故なら、これ程の力を持っているなら、その過去の襲撃で魔族がこの国を乗っとるのも容易だと思ったからだ。
「......お前も、王も......なぜ、人を犠牲にして平和を得ようとするんだ。 お前は、人を愛したんだろ? どうしてこんな事が出来るんだ!」
「......ああ、そうだ」
ベルフェゴールが頷く。
「お前も俺と同じだよ。 人は人、魔族は魔族......あいつはあいつだ。 お前のその失った人間に、代わりはいない。 違うか?」
クククッ。と笑うベルフェゴール。
「俺とお前は似た者同士だ。 だから分かる。 もうどうにもならないんだ......あいつも、お前の大切な人間も、この国もそしてこの世界も。 全て」
エルナはベルフェゴールの言葉を理解した。そうだ......この戦いに勝って、僕は何を得る?
何が戻ってくるんだ......なんの、ために。
あれ、僕は、なんの為に戦ってるの?
迷いの生じたその一瞬。
ベルフェゴールのバルバトスがエルナを襲った。




