~76~ 王都攻略戦 ⑫ 神威
ノアが剣の柄を握ると、アランはすぐに離れた。
「ふひっ! カウンターはさせねえ」
ノアは気がつく。アランもまた数多の戦闘経験を経て、死線を越えてきた強者なのだと。
ノアが剣を抜く。美しい漆黒の刀身。黒剣、宝王器《深淵刀》王徒十二騎士となった時に与えられた武器で、その能力は魔力を吸収しそれを使い刃を形成する。
イダを救ったときに使っていたのもこの剣である。
アランは考える。
片腕が壊れ、全身を強く打ち付けられ、満身創痍......ゆっくりなぶるか。
あの腰にある三本の剣、手に持つ黒剣、どんな能力があるかわからねえからな。様子を見ながら......
ボゴウッ!!!
「がっ......!!!?」
突然地面からはえてきた黒い刃に突き刺され、アランはそのまま建物の壁へと叩きつけられた。そのままそれを破壊し、外へと飛ばされる。
アランは、腹部を貫通する黒い刃を掴み、横へと腹を裂く事により無理やり逃れる事に成功した。
しかし、突きの威力は凄まじく勢いは殺しきれずに反対の建物へと大きな音をたて突っ込んだ。
「......ぐふっ。 うぇい、いってえ......ひゃはっ」
今の攻撃、ノアの黒剣だな。一瞬だが、あの黒剣が地面に触れてる場所にひび割れが見えた......が、刃の出現が尋常じゃなく速く避けられなかった。
技の出がわかっても避けられない......ふひっ。
いいねえ、ノア。つええ!そうじゃなけりゃよ!俺を、俺の人生を狂わせたやつだ!
そう、殺しごたえねえと困るよな......。
ぐちゃぐちゃにして苦痛の色を塗りたくってやるよ。その彩りをのせて、美味しく戴いてやる。
はあ......はやく
喰いたい。
ザッ......ザッ。
「は?」
ノアが歩いてくると、アランはその姿に驚く。その体には先ほどの一連のやりとり、戦闘の押収による怪我が無かった。
腕は潰れていたはずが、何事もなかったかのように普通に在るし、体にもダメージがないように見えた。
「なんで、お前......」
「アラン、君は......」
対してノアもアランの体が今の攻撃により腹に出来た大きな傷が治っている事に、驚きそして理解する。
これは、魔力によるものじゃない......妖力による事故修復。
そうか、アラン......君は、もう人では無くなってしまったのか。
「おい、てめえ、なんて目で見てんだよ!」
ガギィン!!
アランの腕から大きなブレードがはえ、斬りかかる。それをノアは深淵刀でガードする。つばぜり合いのような形になり、アランはノアへ顔を近づけ睨み付ける。
「ふひっ、誰が俺をこんな風にしたと思ってるんだよ? あひひっ!」
アランの眼の色、この紫の瞳は妖怪の証。
「......どうして妖怪に......誰に何をされたんだ」
「はあ? 教えるかよ、あひひひひっ! 黙って喰われてろ!!」
ドガッ!!ノアは腹へと蹴りを受けたが、それに合わせ体を捻り威力を殺す。そして剣を滑らせ、アランの腕を斬り跳ねる。
「があっ!!」
噴き出す紫の血液。
ノアはアランに似た体質の人間を見たことがあった。あれは、一年前に、南部森林へと他国から侵入してきた魔族を掃討する任務にあたったときの事。
人の姿に魔力を宿し、とてつもない戦闘力を誇ったやつらがいた。
後に調べた結果、魔力を扱うことをしてはいたが、内包されていたのは妖力であった。鬼。彼らは元は人であったが、何かしらの要因で妖怪の鬼の体に変貌していたのだ。
妖怪であれば魔力を保有していても魔族にはならない。それを利用してるのか......一体誰がこんな事を。
そして、このアランはあの時の鬼と化した人とは違った。彼らは時間経過により力が弱まり、体が耐えられず壊れ死んだ。
対してアランは、彼らには無い凄まじい再生力を有している。
「ってえなあッ......!」
腕が再生した。この再生時に出ているのは妖力。紫のオーラ。
「......アラン、なぜここの人々を襲ったの? 君が恨んでいるのは俺だけだろ? 直接俺を狙えば良かっただろ」
「ははっ......だから、おめーを殺すために喰ってんじゃねえか! 俺は喰えば喰う程強くなるんだよ! ははっ......」
そうか、これは......アランのこの再生力は鬼の中でも戦闘力の突出した「喰人鬼」の力か!
ならアランは喰人鬼と人の合成、いや、勇者の血が作用してそれ以上の力を手に入れている!
ブンッ!ドゥッ――!!
凄まじいスピードの回し蹴り、それをノアは斬り落とそうと剣を前に出すと、蹴りの軌道が変化した。
――なっ!!?
回し蹴りが途中で突きへと変わり、ノアの頭を直撃した。が、ノアもその異常な反応速度により、瞬時に後方へ跳ぶことにより致命傷を避ける事が出来た。
追撃がくる。頭を掴みにかかるアラン。だが、ノアもそれを振り払う。次に蹴りがくる......それをガードするが、勢いは殺せず横の壁へと叩きつけられる。
そこにアランの拳が飛んでくる。紙一重で避ける。大きな音とひび割れる壁......しかしその壁から黒い刃が突きだす。
ノアが壁に叩きつけらた時に仕込んでいた深淵刀による、刃。
アランの顔面へと突き刺さり、ぶっ飛ぶ。
ドガァンと音をたて、店のカウンター奥に消える......が、そのまますぐに反撃が始まる。カウンターから飛び出し、ノアの周りを先ほどと同様にとてつもない速さで跳び回る。
ヒュオッ――ダッ! ド ドド ドド ドド ド!!!
ふひひっとアランの笑い声が微かに聞こえる。どんどん勢いの増す動きにノアの目が追い付かなくなる。
その時、死角から飛んできた――のはアランではなく、カウンターにあった椅子。おとり。
反対からアランが大きなブレードを展開しノアに斬りこんできた。
が、それも想定済み。
「燃えろ」
ノアは逆手に腰の一本の剣を抜き、カウンターに斬りつけた。
迸る黒く緋い炎。
アランの体は肩から脇腹にかけ斬られ、家具を巻き込み地面を転がる。
神器・心映 《ユルゲニシュ》 緋色の刀身を持つ、魔炎の剣。
「ぐがあああああ!!!! あちいいいいいい!!!!」
黒炎にまみれ燃え盛るアラン。
「その炎は魔力や妖力を喰らい燃え上がる。 アラン、君の魔力と妖力が無くなるまでその黒炎は消えない......」
「てめえ、くそがああああああ」
暴れ狂うアラン。ノアは深淵刀を構え、突きの態勢をとる。
アラン、すまない......けど、俺には大切な人がいる。ここで死ぬわけには、いかない!
ヒュ......ドガッ!!!!
アランの腹へと強烈な突きが炸裂した。建物の外へと壁ごと吹き飛ばされる。
近くにあった噴水や出店などを巻き込み粉砕し、民家の壁へとあたりようやく止まった。そして、今の突きによりアランの体内に深淵刀の魔力が蓄積されており、無数の刃となって突きだした。
ズガガガガガ!!!
「がぶっあっ......ぶあっ......が」
ドシャッ。
倒れるアラン。しかし魔力、妖力を莫大な量を内包していた為、その黒炎は止まない。
「......さよなら、アラン」
ノアは王城を目指しまた走り出した。
その時、遠くの大きな時計台が炎に包まれているのが見えた。
......ピクッ。




