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~72~ 王都攻略戦 ⑧

 



 ティアラはにこにこしながら、また言葉を口にせずにカラミナへと語りかけている。


 ――迷子のような、カラミナ......貴方達の目的は果たされた時何を得られるの?――


 ――増えて行く、死体と憎悪......ほら、見てごらんなさい、沢山の死者が手を引いているわ――



 と、ティアラが語りかけていると、突然カミナラがティアラの目の前に迫った。

 瞬きの間の一瞬にして。



 ヒュガッ――......ドオオオォオォンッ!!!



 カラミナは、一瞬にしてその熊と化している豪腕で殴り付けた。が、後ろの教徒二人が青く細い剣で、ティアラへの斬撃を防ぐ。


「まあ、別になんでもいいんだよなあ......殺せば終わりだ。 簡単な事だったぜ......ちょっと焦ったがよ」


 そう言うと、突進をするためにカミナラは後ろに飛び退き、距離をとった。



「思考を読み取る能力だろうが関係ねえよな。 冷静に考えたらよ......要は身体能力で、スピードとパワーで上回ればいいんだよなあ」



 ティアラは以前その薄ら笑いを止めない。


「ああ、うん......久しぶりの食事ね。 お母様、お姉様......ふふっ」


 独り言をぶつぶつと口にするティアラ。白い毛先が揺れる。



 ――貴方達は、私が指示するまで動かないでね――



 と、ティアラは後ろの四人の意識へ直接語りかけた。




 カミナラは熊のようなその体から、黒い影のようなモノを大量に伸ばしだす。ステラを襲ったときに使った能力。《影踏》


 これは相手の影に触れた時に効果が発動する。その効果とは、一定の距離から離れられなくすると言うシンプルなもの。


 影の動きは素早く動かすことは出来ず、ゆったりとしていて(のろ)いが、捕まってしまえばどうやっても逃げられない。



 しかし、ティアラはそれから逃れようとはしなかった。


 無防備にただぽつんと立っている。その真意はわからないが、カミナラは他に取るべき選択肢もない。影をぶつける。


 するとティアラは特に罠も仕掛けもあるわけではなく、意図も簡単に捕らえられた。



「......? これは、何かしら」



「こいつはなあ、つけられたやつはもう俺からは逃げられないんだよ。 さあ、どちらか死ぬまで遊ぼうぜ」



「いいわよ、遊びましょう」



 ティアラが腰の分厚い本を手に取り、パラパラと開く。


「さあ、おいで......カミナラ。 私が貴方を愛でてあげる」



「その余裕がいつまで続くのかなあーっと......」


 ドウッ!!!


 カミナラは地面を蹴り勢い良くティアラへと迫る。吹き飛ばされた床は砕け、石つぶてのように後ろの扉や窓ガラスを破壊する。



「――死ねッ!!」



 そして腕を振り下ろす瞬間。



 ティアラと目が合った。




 ――ああ、愛しい――




 ()だ、笑っていた。





 ドグシャアッ!!!!




 左肩から右脇腹にかけて、カミナラによって引き裂かれ、吹き飛ぶ二つと分かれたティアラ。

 内臓は天井のステンドグラスにビシャッと音をたてはりついた。


 上半身はパイプオルガンに突っ込み、その音色を奏でる。


 下半身は後ろにいた教徒を巻き添えに植えられていた花を瞬かせ壁へと激突。




「......あ?」




 唖然とするカミナラ。手に残る感触と返り血は彼女の死を証明するようにあった。



「......」




 死んだ......のか?ホントに?こんなにあっさりと?


 いや、周囲の教徒達が全く狼狽(うろた)えてねえ。奴は生きている......!


 しかし、二つのティアラはピクリとも動かない。それはそうだ。見るからに即死。これで動ければ、最早生者でも聖女でもない。ただの化物だ。

 が、けれど、カミナラは数多の戦闘経験により確信していた。


 あまりにも不自然な死に方。


 これで殺せるくらいなら、ティアラはもうとっくの昔に死んでいる。こいつを殺したい魔族は多いからな。






 さあて、何がおこる?





 ◇◆◇◆◇◆




 助けて



 助けて助けて助けて助けて




「お母さん! どこっ......どこにいるの」



 狂乱の中、我先にと避難する住民の群れに迷い混む子供。

 まだ小さいその体では、大人達に敵うわけもなく、突き飛ばされ転げる。


 しかし誰もそれを責められはしない。命より大切なものはない。

 命ある生物として在る以上、身を守ろうと人の命を差し出す事は十分な理由になる。


「あ......」


 倒れた体を起こすと、そこには十数匹の丸い蝙蝠がこちらを見ていた。

 誰かに囮にされた事は明らかだった。


 やつらの口には人の内臓、腕、食べかけのモノが見える。そして、その先頭。目の前にいる蝙蝠の口には人の頭が咥えられていて、生気の無い目玉がこちらを見ていた。



「......はっ、あ、あ」

 


 そう、次は君の番。そう言うかのように。



 グシャッ。咥えられていた頭が潰され、ゴクンと飲み込まれる。

 それに気を取られていた。後ろから迫る蝙蝠に気がつかなかった子供は頭をスッポリ口におさめられてしまった。



 お母さん......どこ





 ――グシャッ。






 ズルッ......





 あれ?と、思った。僕は今食べられたんだとわかった。けど、生きてる......?

 噛み千切られる事はなく、蝙蝠が頭から取れた。


 そこで目の当たりにした光景。蝙蝠達が地面から突き出ている、無数の黒い刃に串刺しになっていた。




「......大丈夫?」



 声のした方へ振り返ると、黒いコートを着た男の人がいた。地面へと黒い剣を突き立て、この蝙蝠達を貫いていた。



 子供は死の恐怖から解放され、安心感から涙が溢れだした。


「あ、うあああああん」


 泣き出す子供の頭を撫でる。少し戸惑いながら。



「怖かったよね。 ごめん......もっと早く来られたら良かった」


「......けれど、ここに居ればまた襲われるかもしれない。 あいつらはまだ沢山いるから。 安全な場所まで行こう......立てる?」


 溢れ出す涙を服の袖で拭い、頷く。


「......うん、大丈夫」


「よし、偉い。 じゃあ行くよ。 もしかしたらそこに君の家族もいるかもしれない......頑張ろう」


 その時、目の前に魔族が現れた。鎧で身体中を固めた大きなオーク。額に巨大な一本角を生やしている。

 手には鎖を絡めていて、血と臓物が絡み付いている。



「......人間。 ふ、俺は幸運だな。 はぐれた人間ほど楽に喰える物はない。 おい、お前らに選択肢をやろう。 おとなしく喰われるか、抵抗して苦しみながら喰われるか......さあ、えら」



 ――一閃。一瞬の目にも止まらぬ斬撃。


 ブシュウ......



 オークの頭はそれ以上言葉を口にする事は無かった。切られた首から吹き出る血液。

 このオークは人を十数人食していて、魔族の中でも力の大きな者だった。


 ドッ


 オークは力の入らなくなった首なしの体、膝から崩れ落ち、そのまま動かなくなった。



「ごめん、俺達、急いでるから」



 男の神速の斬撃。おそらくオークは来られたの事に全く気がついていないだろう。



 その子供は思った。


 まるで、ヒーローだ。死にそうに......殺されそうだった僕を助けてくれて、そして、すごく強い。すごい。

 この人はだれなんだろう。僕もこの人みたいに......。




「お、お兄ちゃんは......誰なの?」



 少し微笑んで男は答えた。




「俺は、王徒十二騎士 No.12 ノア。 ......さあ、行くよ」






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