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~69~ 王都攻略戦 ⑤

 



 魔族が王都に進軍してから約一時間が経とうとしている。



「よし、もう十分だろ。 行くぞ、王城......ベルフェゴール様の所へ!」


 魔族の中にはこの国での今の暮らしを手放したくない者も多かった。

 彼らは人と交わり暮らすことで、その距離を縮めた。結果、人に愛情を覚える事になり、本来の故郷である魔界の同胞も大切だが、今の家族や友人へと人に天秤が傾く事になった。


 それが幸か不幸か、彼らの道を歪めて行く。



「俺らの思いはきっと届くさ。 ベルフェゴール様もああはいっておられたが、民の思いを組むよき魔族の長だ......」


「それにあのお方だって、この国で長い時間を人と共にしたのだ。 しっかりと話をすれば、きっとその矛をおさめてくださるはず」


 魔族達がぞろぞろと王城へと向かう。人と魔族、なんら変わらない思いを、大切だと言う気持ちを......訴えかけよう。この皆で!


 集まり団結した魔族達はおよそ千。この大人数が集まって同じ思いを皆持っていると言う事が、ベルフェゴールの考えを変えられると思う一つの理由になっていた。

 そして、この魔族の中には魔界にいた頃、名を馳せていた戦闘力の高い者が数百人いる事も、後ろ楯のような自信となり、彼らの心と想いをより強くしていた。




「おお、凄い。 なんだよこんなに集まってよー! パーティー会場はこっちじゃねえぞー。 回れ右だ」



 王城へと続く道中には、黒フードの魔族が一人立っていた。王城へはあと少し。しかし、その魔族のすぐ後ろには薄い赤色の壁がある。

 遠目からも見えていたがおそらく結界。



「結界使い......貴方は、マニアラ様ですね」


 マニアラはうんうん、そーだよと頷く。


「我々はベルフェゴール様と御会いしたく来ました。 伝える事があるのです。 どうかそこを通して頂けませんか?」


 ほうほう、と大袈裟な身ぶり手振りで答えるマニアラ。


「なんだよ、それ。 俺が伝えてやるから、言ってみろよ」


 マニアラは有名な魔族だった。ベルフェゴールの右腕で、その戦闘力は魔界で上位に位置する。

 そしてその思想は魔族第一主義。トップのベルフェゴールに次ぐ強さの、大命四魔の中でも二番目の能力を誇る。


 この結界が張られていることを知った時にはこのマニアラとの戦いは避けては通れない。皆、そう思っていた。


 タイミングだ......タイミングが大事だ。皆で一斉に殺しにかかればいくらマニアラと言えど倒せなくはないだろう。


 そう思い、リーダーの魔族が合図をしようと口を開いた時、マニアラが言った。



「あーあー! わかったよ。 お前らここに来た目的くらいよー。 俺もよ無駄な血は流したくねえんだよ。 同胞である魔族なら尚更なあ......だからゲームしようぜ」


 ? ゲーム?


「俺の結界は維持しておくための条件があるんだよ。 ルールがな。 その一つが結界のそばから離れないこと。 そしてもう一つは誰かに触られないこと......ほんの少し、指の一本でも触られると、この結界は消えて無くなるのさ」


 マニアラは手を差しのべ言う。


「鬼ごっこをしよう。 誰かひとりでも、俺に触れられれば結界がとける。 お前らの会いたがっているベルフェゴールの元へ行けるぜ? 伝えたい事があるんだろう?」


 と、その時魔族の一人が結界自体に攻撃を仕掛けた。その男は魔界時代かなりの実力者で、それ故にこの結界であれば壊せるかもしれないと判断した。


「オオオオオアッ!!!」


 ブン!!!ドシャアッ!!!!


 攻撃を受けた結界は、伸縮性のあるゴムのように力を吸収し、伸びただけで壊せなかった。

 そしてその瞬間、結界からは人の腕のようなものが幾つも出て来て攻撃を加えた者を結界の壁の中へと引きずりこんだ。


 壁の向こうではなく、壁の中へ。ブシャアッ!と言う水の吹き出すような音と共に、一瞬にして体を分解され溶け、血とも肉ともわからない黒くどろどろとしたモノへと成り果てた。そして結界に取り込まれ、その一部となる。



 魔族達は唖然とする。この結界は力ずくでは破壊できない......。


「いやいや、ばかかよ。 なんではなし聞き終わるまえにいくんだよ......こまったちゃんだねえ。 まあ、そんな感じで、結界は力ずくじゃ壊せねえからな」


「でも、俺に触れるだけでこの結界がとけるんだぜ? 鬼ごっこ、やる価値はあるんじゃねえか?」



 一度だけ......ほんの少しでも、触れられれば。



 この時マニアラはあえて簡単な事のように、遊びのように彼らに説明をした。


 ただ触れるだけ。息の根をとめる、強力な攻撃を加える......戦闘が始まれば実力差に、早々に諦める者も多いだろう。

 しかし触れるだけなら、この大人数ならもしかしたら、指先でもかするだけで......そのわずかな希望を残す事で、全員を逃がさないように、逃げられないようにした。



 ――(おまえらみたいなのは出てくる事はわかってたよ。 まあ、しかたねえさ......俺ら魔族だって心がある。 だがな、大命四魔は魔族の長ベルフェゴールの配下であり、同胞全てを救わねばならねえ......後々の火種、反乱分子はここで全て消す。 いや、俺の結界の一部にして魔族を守り続ける力にしてやるよ! お前らの想いと共になあ)――



 まずは三人、動きを見ただけでわかるレベルの「力」を持つ魔族が出てきた。コンビネーションで撹乱し、死角から手を伸ばす。

 しかしその手届く事はなく、宙を舞った。



「ぐあっああああー!!!」


 ぶしゅう!という噴水のように出てくる鮮血と叫び。


 それに気を取られている他二人を直ぐに切り裂く。


 マニアラの脚にはブレードが装着されている。片足をあげ、ゆらゆらとした動きで、その黒い血にまみれた、剣のついている足先を下へと垂らす。


「......さあ、もっとこいよ。 この人数だ。 死ぬ気で一斉にくれば誰かしら触れらるんじゃねえか? お前ら......伝えたい想い、あるんだろ? みせてみろよ、その想いをよ......お前らは魔族だろ? 根性みせてみろよ」


 ぽいぽいっと、今切り殺した死体を結界へと投げ、吸収させる。



 両の脚に装備されているブレードは特殊で、蹴りと共に伸びる刀身がその斬撃の威力を格段に上昇させていた。

 体術に長けているマニアラの体にただ触れるだけ、それは簡単そうに聞こえるがとてつもなく難易度の高い事であり、いまいる魔族達では到底叶うことのない目標であった。


 しかし、彼らは止まらないし止まれない。愛する家族、友人、人々との思い出と生活がその心を突き動かす。




 勝ち目のない、鬼ごっこが始まった。





 ズシャッ――ブシュウ......。





 ギャアア......!!! ああああ!!! うおおおお、ぐぎっ!!








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