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~68~ 王都攻略戦 ④

 



 血煙が舞う、東地区の先。スラムにはもう人は居なかった。


 敵の戦力がとてつもなく高いことに、開戦後すぐに気がついたシンは、できるだけ多くのスラムに住む人をつれ、王都の

 外を目指した。


 向かうは、東の大門。そこから王都の外へとでられる。


「お、おい......王都の外なんて、でられねえだろ。 騎士が門番してるはず......それに、この時間だ。 外には魔物がいるぞ? シン、まてって」


 青い顔をしたシンが言った。


「いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()。 このままいれば確実に殺される......」


 まさか、ベルフェゴールの一団が襲ってくるとは......この町は終わりだ。あれらに対抗しうる戦力はこの町には無い。


 前世で大命四魔と戦った事がある。あれは人が戦って勝てるレベルの魔族ではない。


 早く門へと行かないと......道中に全滅する可能性も高い。早く、早く!



「あ? な、なんだ......?」


 スラムの住民が、民家の屋根に立つ人影を指差し言った。


 そこには、大きな体格の騎士がいた。あれは......王国騎士軍の!


「あんた! 騎士軍の兵か! 頼む、王都の外へ逃がしてくれないか? 頼む!」


 一人でこの百人余りの人数を、外まで先導するのは正直難しい。だが、彼の強力を得られれば......けれど、彼も任務中だろう。それが住民の保護ではなく、魔族の駆逐なら絶望的だ。


 すると気がついた。騎士がピクリとも動いていない事に。



 ――死んでるよ――



「......え、何か言った」



 何かが聞こえたような気がして、となりの男に聞いた。しかし何も言っていないと言う。

 いや、確かに......今、だれかが



 ズパッ



 となりの男は、見てるそばで頭が落ちた。ポロッと地面へと落下したそれは粉々に砕け散る。


 漂う冷気。砕けた頭とその体が氷ついているのに気がつく。


「これ、は......!!」


 攻撃されている!?けれど、俺は目をはなさなかった......攻撃速度が速すぎる!!


 辺りを見回すが、なんの人影も見当たらない。攻撃には魔法、おそらく冷気、氷魔法が使われている。

 と、言うことは魔族なのは間違いない。ならば魔力を発しているやつがどこかにいるはず。


 その時、おっちゃんが言う。


「シン......おまえはよ、スラムをどう思う?」



 ......は?なんの、話を......今してるんだ?


「あの俺達の住んでいたゴミ溜め......あそこはよ、この王都から出たいわば必要とされない、されなくなったものの集まりだ」


「......その話は、今必要なのか」


「必要さ。 俺はもと騎士軍の兵士だったんだよ......」


 兵士だった!?一度も聞いてない、そんな話は!は、初耳だ......。


 いや、違う......そうだ......そんなのは当たり前だ。俺は、この人の事を、知っている気になっていただけだ。

 何も知らなかった......そして、知ろうとも。


「軍も組織、その大きな組織には多くの人間がいて......今では、人も魔族も入り乱れたものになったが、昔は人のみだった」


「人間ってのはよ、本当に汚ねえんだよ」


「たくさん見てきた......ストレスの発散に部下を訓練と称し殴る男、その発散に弱い仲間をいじめるやつ。 そしてそれを受け逃げ場もなく死んで行くやつ」


「昇進を狙い他を落とすやつ。 はめるやつ、おとしいれるやつ......奪うやつ......」


「俺もある作戦で、戦場へと出された時に仲間が殺された。 その作戦には俺を疎ましく思っていた上の奴が一緒にいたんだが、仲間が殺された原因を押し付けられた。 仲間の死とその責を押し付けられ、俺は精神もなにもかも壊れ......スラムへと行き着いたのさ」


「あそこにはそんな奴らばっかりだ。 そこで生まれたお前みたいなの以外はな」


 この人は嘘を言わない......。


「ある日、黒いフードを着た魔族がきたんだ。 その魔族は俺らに言った。 仲間にならねえかと......いつかこの王都の内部で争いが起こる。 そこで戦果をあげればお前達を仲間として置いてやると」


「これは取引にみせた脅し、脅迫。 けれど、チャンスだと思った。 決して満足のいく暮らしではない......飢えで死に行くやつらも少なくない。 そいつらを救うチャンス......そして、あの騎士軍へと復讐するチャンスだとな」


 シンは思う。この国の歪み、きっとこれは至るところにある。人が人である以上......けれど


「言いたい事はわかったよ。 でも、そのために皆、住民を殺されてもいいって言うの?」


「ああ、そうだよ。 俺はこの住民より......スラムの仲間の方が、こいつらの幸せのほうが比にならないくらい大切だ」



 スラムの皆......俺もあそこで何年も暮らしてきた。だからわかる。俺もあの人達の優しさと愛情を受けてここまで育ってきた。

 そして、飢餓で苦しみ、住みか居場所も満足にないあの場所でどうにもならない思いを抱えて、日々を過ごしている事も。


 国に見放され放置されているスラム。社会に弾かれ居場所のない、奪われた人々。



 でも俺は......。



「おっちゃん、今死んだ人はおっちゃんが殺したの?」


「ああ。 こいつ......スラムに生まれた子供を何人か奴隷としして売りさばいていたからな。 だから裁いた」



「おっちゃん......でも、町の人達は()()()()()がたくさん死んでいるんだ! その人達は、どうするの......?」


「......なあ、もうわかれよシン。 人は全てを救えない。 見えないところで酷いことはいくらでもおこっているんだ。 この戦争だけの話じゃねえ......理解しろ。 そして俺達の、スラムの人間のために戦え。 お前は強い。 その強さでスラムの家族の命を救ってくれ......頼む!」


 おっちゃんは多分、事前にこの話をしなかったのは、俺の甘さと優しさを見越しての事だと思う。

 この土壇場、切迫した状況で俺の選択を制限しようとしているんだ。



 町の中央、大きな時計塔が炎にのまれ熱風がここまで及ぶ。



 空には巨大な蝙蝠(こうもり)の魔物が旋回している。



 王城の周囲には結界が張られているのが見えた。





 はあ......はあっ。




 俺はこの国の、王都の人達が好きだった。だから王徒十二騎士になった。

 そして戦い続けた。




 でも、どうしたらいい?



 スラムの人達を守るには、町の住民を殺さなければならない。



 ......いや、元々。そうだ、何を言ってるんだ?俺は。



 俺は、今まさに国の人々を見捨てて逃げようとしていたじゃないか。


 違う、そうだ......このスラムの人々が大切と判断したから、外に逃げようとしていたんだろ?


 なら、魔族に味方し戦ったほうが良い。そうだよ、どう見ても国王軍に勝ち目が無いのは明らかだ。


 なら......。




「シン......やらなきゃ大切な物は守れねえぞ」




 大切な、物。





 その時、シンの覚悟が決まった。






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